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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
148/621

148:32-3-R3

【2021年 8月 1日 13:27(日曜日・晴れ) 日本】


「どうぞー」

 昼過ぎ、流動食以前の白湯に近いものだけ食べた俺の病室のドアがノックされる。

 海月さんだろうか?

 いや、たぶんだけど違うな。

 あの人からの返信には、夕方ごろにまた会おうと書いてあったし。

 となるとだ。


「ああ、良かった。ちゃんと起きていたのね。粟太」

「母さん」

 やっぱり俺の母か。


「いやー、驚いたわよ。朝になって急に貴方が起きたって連絡が来たんだもの」

「起きたと言っても一時的な物だぞ。日付が変わったらまた中に行くことになる」

「知ってるわ。海月さんから聞いたし」

 母さんは俺のベッドに近づくと、近くに置かれている椅子に座る。

 体調に……変わりは無さそうだな。

 まあ、予想は出来ていたけど。

 息子一人が倒れたぐらいでへこたれる人じゃないし、一月も経っているしな。


「それにしても中に行く……ね。行かされるじゃない辺り、中は結構居心地がいいみたいね」

「……。まあ、否定はしない」

 中の居心地が良い、か。

 否定はしない。

 むしろ事実として居心地は良いだろう。

 シアが居る事もそうだが、それ以外にも色々と楽しい事があるしな。


「ま、無茶でない程度に好きにやりなさい。もう子供じゃないんだし。そもそもとして、貴方は私が何かを言ったところで聞く子でもないしね。ただ無茶はしないようにね。どうにもこのゲームには怪しいところがあるから」

「怪しいところ?」

 怪しいところは……まあ、腐るほどあるか。

 むしろ怪しくない所が無いな。

 そもそもゲームの基礎からして未知の技術が使われているし。


「理由は分からないけれど、一部のプレイヤーの身体に突然切り傷が出来たり、火傷が生じたりしているのよ」

「ふむ?」

「で、特に貴方はその症状が激しくてね。最初の頃は不安で不安で仕方が無かったわ。左腕はもう元に戻らないって言われるぐらいボロボロだし、一度は心臓が止まりかけた事もあったのよ。あの時は海月さんが居なかったらどうなっていた事か」

「……」

 左腕に心臓か。

 心当たりは……まあ、腐るほどあるな。

 最新の傷が一昨日の夜についているなら確定だ。


「まあ、今では先生も含めて慣れたわ。貴方はそう言う患者だってね」

「それはまた申し訳……」

「どうせ心にも思っていないだろうから、謝らなくていいわよ」

 あ、はい、バレバレですか。


「幸いにして、入院費はこの事件の元凶であるイヴ・リブラ社長が使ってくれと用意してくれたお金があるし、海月さんの計らいで二十四時間の監視体制付きの個室もある。現実でのサポート面は完璧と言っていいわ」

「へー」

 うーん、何と言うか話を聞けば聞くほど、海月さんには頭が上がらなくなるな。

 一度は命も救われているみたいだし、夕方に会ったら礼を言っておこうか。


「だからね粟太。もう一度言うけれど、無茶でない程度には好きにやりなさい。帰る場所は用意しておくから。で、現実は構わず突き進んで、ゲームをクリアして帰ってきなさい。私から言えるのはこれだけよ」

「ん、分かった」

 帰ってきなさい、か。

 嬉しい言葉ではあるな。

 尤も、ただクリアするだけでは、俺にとっては負けと一緒なのだけれど。


「後貴方に聞いておくべき事は……そうね。従兄弟の糸子ちゃんの事なのだけれど」

「ああ、それなら大丈夫。フレンド登録はしてあるから」

「そうなの?なら大丈夫そうね。巻き込まれたって聞いた時には貴方以上に心配したけれど、連絡が取れるなら安心だわ」

 やっぱり糸子の話は出てきたか。

 まあ当然だよな。

 リアルでは割と猫被ってたし、心配されるのは普通だろう。

 ただこれだけは言っておくか。


「いや、たぶんだけど。俺の助けは必要ないよ」

「そうなの?」

「ああ、こっちよりもイキイキとしているし、仲間もいるみたいだからな。何か起きても勝手に切り抜けると思う」

「あらそうなの」

 本音を言えばヒャッハーしていると言いたいところだが、流石にそれは辞めておこう。

 事が終わった後に色々と言われそうだ。


「えーと、他には……後援会の岸道さんの事は今は話してもしょうがないし、海月さんの事も話すような事はないし……」

「大学は?」

「休学扱いになっているから大丈夫よ。休学中の学費についても件の所から出ているわ」

「なるほど」

 大学の方は少しだけ気になっていたのだが、問題ないらしい。

 まあ、問題がないなら、それに越したことはないな。


「うーん、悪いけれど話す事はもう無いわね」

「そっか。じゃ、面会終わりでいいんじゃないかな。たぶんだけど、また機会はあるだろうし」

「そうね、そうしましょうか。じゃ、またね。粟太」

 そう言うと母さんは立ち上がり、病室の外に出ていく。

 うんまあ、また会う機会はあるだろう。

 今回と同じで、一日だけになりそうな気はするけれど。


「さてとだ」

『マスターって昔から無茶をしてきた感じなんですね』

「それは……否定しない」

 母さんが出て行ったところで、スマホからシアの声が響き出す。


「それにしても悪かったな。紹介できなくて」

『いえ、海月さんから止められていましたから』

 母さんがいる間シアが喋らなかったのは、単純に海月さんからこれ以上この件について知る人間を増やさないようにするためだ。

 なので、海月さん曰く、今後は俺が起きている時の担当はシアの声を聴いてしまった医師と看護師に限るとの事だった。

 うん、どうやら、俺以上に海月さんはあの件について警戒しているらしい。

 まあ、俺でも不味いと分かる事柄に対して、俺よりも世間に詳しい人がそう判断したならば従うまでだが。


「さて、後は海月さんとの話がどうなるかだな」

『はい』

 さて、その海月さんが来るまでもう数時間。

 適当に時間を潰していますかね。

10/15誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 連絡事項しか遣り取りしない親子関係が気になります。 我が子がこの様な状況で目を覚ました割に、反応がドライ過ぎかなと。 親に成らなければ分かりにくいかも知れませんが。
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