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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
146/621

146:32-1-R1

【AIOライト 32日目 00:00 (1/6・晴れ) 『草殺しの岩の船』】

【2021年 8月 1日 00:00(日曜日・晴れ) 日本】


「何が起き……うぐっ?」

 視界が歪み、重力が歪み、シアに向かって伸ばした手がぼやけ……


「はっ!?」

 気が付けば俺は両手両足を真っ直ぐ伸ばした体勢で、右腕には点滴の管を、左腕には全体を覆うように包帯を、胸には各種計測器を付けられ、柔らかいベッドに仰向けに寝ている状態になっていた。


「何が起きて……」

 俺の感覚は告げている。

 ここは『AIOライト』の世界ではなく、現実である、と。


「うっ……体が重い……」

 だが同時に見えてはいけないもの……ゲーム内ではほぼ常に表示されていたステータスのバーが、視界の左上隅に見えてしまっている。


「まずは何が起きたのかを把握しないとな……」

 俺は体をどうにかして起こすと、筋肉が衰えてゲーム内の物に比べると多少細くなった腕を動かして、ステータスのバーに触ろうとする。


「ちっ、そう言う事か」

 ステータスのバーには難なく触れた。

 そしてメニュー画面を開くと、直ぐに一つのメッセージが自動展開される。

 そこにはこう書かれていた。


『『AIOライト』メンテナンスのお知らせ』


 と。


「はぁ……本当にやってくれる……」

 俺は一応メッセージの内容を確認する。


・メンテナンスの日時は8月1日00:00~8月2日00:00まで

・メンテナンス終了後は最後に寄った街などの基本的に安全なエリアに飛ばされる

・メンテナンス中は耐久度の減少は起こらない

・メンテナンス中はログイン状態を維持したまま、ゲーム外に排出、メンテナンス終了後はゲーム内へ強制的に引き込まれる

※制裁中のプレイヤーはメンテナンス中でもゲーム外に排出されません


 とまあ、重要なのはこの辺りまでか。

 メンテナンスの内容についてはバグ取り、バランス調整、不具合の修正、新規要素のアップデート、細かいUIの修正となっているが、詳しい内容までは明かされていないようだし、気にするだけ無駄だろう。


「メッセージは……一応送っておくか」

 俺はメッセージ機能が生きているのかを確かめるべく、フレンドリストに載っている面々にメッセージを送ってみる。

 すると殆ど全員から直ぐに返事が返ってくる。

 内容からして、どうやら全員こちら側に居るらしい。

 そして掲示板の機能も生きているようだ。

 既に混乱が始まっている。


「後はインベントリのアイテムに……シアか」

 続けて俺はインベントリの画面を表示する。

 が、インベントリは一切の操作が出来ないようになっており、ホムンクルスの召喚も出来ないようになっていた。

 当然か、シアもアイテムも『AIOライト』内の存在だ。

 特別な何かも無く、現実に持ち出せるはずがない。

 そうでなくともゲーム内のアイテムを現実に持ち出せるなんて非常識な現象が起こせるとは思えないしな。

 あのGM(ゲームマスター)でなければ、だが。


「……」

 と、そうやって状況を確認している間に、部屋の外が慌ただしくなってくる。

 どうやら、病院側も対応を始めたらしい。

 まあ、病院に相応しくない程度に慌ただしいのは仕方がない事ではあるな。

 この病院が何処の物で、何人が入院しているのかは分からないが、深夜に突然、今まで眠り続けていたプレイヤーたちが一斉に目覚めたのだから。

 むしろ、当然の反応とすら言えるだろう。


「来たか」

 と、此処で俺が居る部屋……個室にドアをノックする音が響いてくる。

 どうやらこの部屋にも確認の人員が来たらしい。


「どうぞ」

「や、失礼。藤守粟太君」

 久しぶりに聞いた俺の現実での名前を呼びながら入ってきたのは、少し水色がかった黒髪にスーツを着た、三十代前半ぐらいの男性。

 ただ何となくだが、この男性からはブレと言うか違和感のような物を感じる。

 具体的にと問われても答える事は出来ないが。


「貴方は?」

「私の名前は海月(ウミツキ)(シラセ)と言う。たまたま当直でこの病院に居た下っ端役人さ」

 海月さんはそう言うと、俺のベッドの横に置かれている椅子に腰かける。

 そして海月さんと共に入ってきた看護士さんたちが、慌ただしく俺の健康状態を確認していく。


「なるほど。それで海月さんは俺に何の御用で?」

「この病院に収容されている500名のプレイヤーの中で、君が一番落ち着いている感じだったからね。情報を伺いに来たのさ」

「ふむ、こちら側の質問は?」

「勿論受け付けるとも。さ、情報交換といこうか」

「分かりました」

 やがて看護師さんたちは何処か安心した様子で部屋の外に出ていく。

 どうやら俺の身体には特に異常らしい異常はなかったようだ。

 まあ、身体が細くなった以外で、ゲームを始める前からの変化と言えば……左腕の包帯ぐらいか。

 何でこんな物が巻かれているんだろうな?


「ではまず初めにこちらの情報を出そうか」

 そう言うと海月さんは俺が巻き込まれた事件……『AIOライト』集団昏睡事件の現在の状態について語ってくれた。

 尤も、それは簡単に纏めてしまえば、犯人であろうイヴリーブラ社社長のイヴ・リブラは行方知らずだが、巻き込まれた五万人以上のプレイヤーの安全は確保されている。

 と言う極々単純なものでしかなかったが。


「で、君の方はどうなんだい?藤守君」

「そうですね……」

 そして俺も軽くだが語る事にした。

 『AIOライト』と言うゲームの中で何が起きているのかを。

 尤も、こちらの情報も簡単に纏めてしまえば、錬金術によってアイテムを作り、モンスターと戦い、賢者の石作成を目指しているぐらいだが。


「なるほどねぇ……賢者の石か。うん、情報感謝するよ。じゃ、私はこれで失礼。何か有ったら、この電話番号かアドレスに連絡してくれ」

「ええ、こちらこそ情報ありがとうございました」

 そうして海月さんは去って行った。

 入ってきた時よりも幾らか緊張した面持ちで。

暫くは現実パートです(今話含めて四話分)


10/14誤字訂正

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