145:31-4-D7
【AIOライト 31日目 15:34 (新月・晴れ) 『誘引する岩の洞窟』】
「撃破っと」
「どうにか倒す事が出来ましたね」
「だな」
デコイテンタクルを倒した後も、俺とシアは休憩を挟みつつ、倒せそうな敵を狙って倒し続けていた。
うん、敵が基本的にノンアクティブで、かならず不意討ちに出来るというのは本当に大きい。
新月様々である。
「さて、剥ぎ取りはっと」
と言うわけで、殆ど難なく倒せたデコイキャタピラとデコイコクーンからアイテムを剥ぎ取る。
剥ぎ取れたアイテムは……デコイキャタピラの皮とデコイコクーンの糸か。
どちらも使い道はありそうだな。
【ゾッタの戦闘レベルが13に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「と、レベルアップか」
「おめでとうございます。マスター」
と、ここで二人きりで半日近く戦闘してきた成果だろう。
俺の戦闘レベルが上昇する。
△△△△△
ゾッタ レベル13/17
戦闘ステータス
肉体-生命力18・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力20+4+3・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10+1・地属性10+6・光属性7・闇属性10
分類-武器類15・防具類13・装飾品13・助道具13・撃道具13・素材類15
▽▽▽▽▽
「ふうむ……」
さて、今回のレベルアップで生命力18、回復力27と合わせて考えれば、敵の攻撃を耐える事については問題ないだろう。
そして数字は見れないが、シアも何かしらの形で成長はしているはずである。
が、ボスを二人で相手に出来るかと考えると……厳しい気がする。
「そろそろ撤退するか」
「消費も進んできてますもんね」
「それもあるが、二人でボスと戦うのはちょっと厳しいしな。誰かと合流したい」
「ああなるほど」
うん、ここは撤退するべきだな。
アイテムも経験値も十分に稼げているし、外に出て適当なパーティに加えてもらうか、そうでなければ一度街に帰ってもいいかもしれない。
と言うわけで、俺とシアは出口に向かって移動を始める。
「それにしてもあのデコイテンタクルはどうして赤マーカーになっていたんでしょうね?」
「うーん、それなぁ……」
さて、帰り道の話題として出てくるのは、今日の戦闘で唯一モンスター側から襲ってきたデコイテンタクルについてだ。
「考えられるパターンは……まあ、普通に行けば二つだな」
「二つ……ですか」
俺は指を二本立て、シアに見せる。
まあ、普通でなければ三つに増えるが、とりあえずは二つだ。
「一つはデコイテンタクルの感知範囲が異様に広かった場合」
「ああ、他のモンスターが戦っているのに気づいて乱入してきた感じですね」
「そう言う事だな」
『AIOライト』の仕様上、プレイヤーとモンスターが戦闘をしていると、種類によっては戦闘に乱入してくることがある。
デコイテンタクルと言うか、テンタクル種の情報が少ないので、テンタクル種がそう言うモンスターなのかは分からないが。
で、本音を言えば、これが一番あって欲しいパターンではある。
「もう一つは他のパーティが手を出してアクティブ化した後、全滅するか、逃げ出すかして、フリーになったデコイテンタクルが徘徊していたパターン」
「それって……」
「無いとは言えないだろう」
俺の言葉にシアは少し悲しそうな顔をする。
まあ、基本的にアレから逃げられるとは思えないしな。
このパターンならまず手を出したプレイヤーのパーティは壊滅しているだろう。
だが、壊滅しているならまだいい。
壊滅しているなら、そのパーティのメンバーは街に死に戻っていて、これ以上俺たちに対して何かがある可能性はないのだから。
「でも、それだとちょっと悲しいですね」
「ま、こればかりは仕方がないさ」
問題は壊滅していなかった場合。
その場合はこれから脱出するまでの間に、またアクティブ化したモンスターが襲ってくる可能性がある。
そして、それが何度も続くのであるならば……。
「ボソッ(最悪MPKまで有り得るのが厄介な所だな)」
「マスター?」
「いや、何でもない」
MPK……わざとモンスターを怒らせて、それを他のプレイヤーに擦り付けることによるPKを画策しているプレイヤーがいる可能性まで考慮するべきだろう。
PKにメリットが無いように、MPKにもメリットが無いから、やる奴なんてまず居ないはずだが。
が、やる奴はやるのだ。
周囲の状況も、情勢も、デメリットすらも気にせずに、己の技術と情熱の全てをかけて。
そしてそんな奴に限って、その為だけに腕を磨いているから、GMも手を出さない可能性が高いという……うん、面倒くさいな。
「と、出口だな」
「あ、本当ですね」
そうこうしている間に俺たちは出口に辿り着く。
どうやら俺の心配は杞憂に終わったらしい。
「周囲に人は……居ませんね」
「だな」
俺たちは出口から一度外に出ると、周囲に他のプレイヤーが居ない事を確認。
その後は軽く近くの探索もしてみたが、どうにも時間が時間なので、他のプレイヤーたちもダンジョンに潜っていて、フィールドには居ないようだった。
「どうしましょうか?」
「んー」
今から街に帰ろうとしても、寝床すら探せない内に日が暮れてしまうだろう。
姿が見えない以上、パーティに加えてもらうのも不可能。
「今日は適当なダンジョンで寝て、明日になったら街に帰る。で、いいかもな」
「分かりました」
今日はもう寝床探しに専念するべき。
俺はそう判断すると、適当な自動生成ダンジョンを探す事にしたのだった。
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【AIOライト 31日目 23:57 (新月・晴れ) 『草殺しの岩の船』】
「……」
夜。
俺は何故だか日付が変わる直前に目を覚ましていた。
「ムニャムニャ……」
隣ではシアが健やかな寝息を立てている。
「明日は街に帰らないとな」
周囲に変化はない。
なので俺は再び眠ろうとした。
だが俺が眠ろうとするよりも早く。
「は?」
視界が歪みだした。