144:31-3-D6
「ヌタァ!」
「ふっ!」
デコイテンタクルが触手の一本を突き出してくる。
なので俺は左手の短剣を振るい、触手を切り払って退けさせる。
「ヌタアァ!」
「はっ!」
続けて二本目の触手を、先程よりも素早く突き出してくる。
対する俺は右手の斧を横に振るって、先程と同じように切り払う。
「ヌッタアアァァ!」
「喰らうかよ!」
そして本命なのだろう。
タイミングをずらすように一瞬の間を置いた後、今までで一番速く触手を突き出してくる。
それを見た俺は勢いよく足を振り上げ、触手の先端を蹴り上げることによって軌道を逸らす。
「ヌ……」
「んで……こっちのが速い!」
「ヌタァ!?」
で、振り上げた足を踏み込みの足とする事でデコイテンタクルに接近。
右手の斧を全力で振り下ろし、叩き込み、吹き飛ばしてやる。
「ヌタァ……」
「ふぅ……」
今の一連のやり取りでデコイテンタクルに与えたダメージは10%程。
俺が受けたダメージも10%程。
が、同じダメージなら問題はない。
回復力は俺の方が上で、この程度のダメージならば時間が経てば治るのだから。
「体液にはデコイ効果有りか」
なお、状態異常デコイは時間的にデコイバタフライから受けた分は切れているのに、普通に継続している。
なので、恐らくだが、デコイテンタクルの体液にそう言う効果があると考えるべきなのだろう。
「ヌ……」
「!」
デコイテンタクルが再び触手を伸ばそうとする。
ただし、その目標は俺ではなく、俺の後方……シアに向かってだった。
「何してんだごらぁ!」
「ヌタアァ!?」
反射的に俺は特性:バーサークを発動した上で斧を叩き込み、デコイテンタクルを吹き飛ばしていた。
そして全身が見える距離を保った上で、込めれるだけの殺意を込めて睨み付ける。
「お前が触れていいのは俺だけだよ。糞触手が」
「ヌ、ヌタァ……」
俺はシアの方を見て、無事なのを確かめると、軽く力を抜き、武器を何時でもどんな形でも振れるように構えつつ、デコイテンタクルに一歩ずつ近づく。
そして近づきつつ考える。
今の動きからして、デコイテンタクルはヘイトを無視した行動をとる可能性がある、となればシアの安全のためには急いで仕留める必要がありそうだ、と。
「ヌッタァ!」
「む!?」
「マスター!」
と、ここでデコイテンタクルが素早く全ての触手を伸ばし、俺の四肢と首に絡み付け、絞めつけてくる。
そして絞めつけられている為だろう。
俺のHPが少しずつ減り始める。
なるほど、俺の動きを封じて、確実に仕留めるつもりか。
「舐めるなよ糞触手」
「マ、マスター!?」
「ヌタ!?」
俺は絞められた状態のまま前進する。
そして触手の中心部に向かって短剣の刃を向け、デコイテンタクルの抵抗を真正面から受けつつゆっくり左腕を伸ばしていく。
「さあ、覚悟してもらおうか」
短剣の切っ先が触手の中心部に刺さる。
するとダメージを受けた痛みがあったのか、デコイテンタクルの俺の左腕を引かせようとする力がさらに強くなる。
「滅多討ちにしてやるよ」
だが俺の左腕を抑えるために力を回しているためだろう。
右腕の拘束が僅かに緩んでいた。
「おらぁ!」
「!?」
だから俺は右手の斧を叩きつける。
「おらぁ!!」
「ヌ……」
そして斧の衝撃で全身の拘束が緩んだタイミングで、短剣の持ち方を順手から逆手に変え、触手の中心部に突き立てる。
「おらららららああぁ!」
「ヌタアアァァァ!?」
俺は右手の斧を何度も叩きつける。
それもただ叩きつけるのではなく、左手の短剣を支えのようにし、相手の身体を抉るように細かく動かしながら叩きつける。
叩きつけて、叩きつけて、叩き続けて相手の反応が無くなるまで攻撃を続けてやる。
自分へのダメージなど気にしない。
それはシアに任せればいい。
ただただ俺は相手を潰す事だけに専念する。
「すぅ……おらぁ!」
「ヌタアアァァ……」
そうして何十度か叩いていると、やがてデコイテンタクルのHPが底を突いたのか、数度痙攣した後に動かなくなる。
それと共に、俺の身体に絡み付いていた触手たちも力を無くして落ちていく。
「ふぅ、倒したか」
「お、お疲れ様です。マスター」
「おう、シアも援護ありがとうな」
「い、いえ」
どうやら倒したらしい。
と言うわけで、俺は即座に剥ぎ取り用ナイフを勢いよく触手の中心部に突き立ててやる。
多少荒っぽいかもしれないが、相手は触手だ、エロモンスターだ、自重など要らない。
「おし、剥げた」
アイテムが剥げ、デコイテンタクルの死体が消えてなくなる。
うん、これで安心できるな。
よく分からん生き物だと、倒したと思っていたら、実は生きていたパターンは普通にありそうだし。
「さて、剥げたのはっと」
俺は剥げたアイテムの詳細を確認する。
△△△△△
デコイテンタクルの艶皮
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:デコイ(人目を惹き、目立ちやすい)
デコイテンタクルの触手を覆っている鮮やかな色の皮。
皮ではあるが筋肉でもあるらしく、電気を流すと奇妙に波打つ。
テンタクル種のイメージから、評価は低め。
▽▽▽▽▽
「ふむ」
まあ、悪くは無さそうである。
特性抜きにしてもシアの装備には使いたくないが。
「それにしてもマスター。どうしてあんなに私とデコイテンタクルの接触を嫌ったんですか?」
「あー、秘密だ。シアにはちょっと早い。だから気にするな」
「はあ、マスターがそう言うなら、これ以上は気にしませんが」
「ああ、それでいい」
シアが本当に分からないという表情で聞いてくる。
だが、デコイテンタクルと言うか触手のアッチ方面の話については黙っておく。
アレは……うん、特殊性癖には変わりないからな。
知らないなら知らないでいい。
「よーし、回復したら次行くぞ」
「あ、はい」
と言うわけで、俺はシアを連れて次の獲物を探し始めたのだった。
悲しいですが、特殊性癖に分類されるのは事実です。
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