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「ふんっ!」
「フリッ!?」
俺の斧がデコイバタフライの胴体に当たり、大きく吹き飛ばすと同時にHPを10%ほど削る。
「マスター、状態異常が!」
だがデコイバタフライもただ吹き飛ばされた訳ではない。
吹き飛ばされる瞬間に翅から鱗粉を放ち、俺に対しての何かしらの状態異常を与えていたようだ。
シアが叫ぶと同時に、視界の左上隅にデコイと言う名前の状態異常が表示されている。
「いや待て!?これは……」
そう、状態異常だ。
通常とは異なる状態にあると言う意味では確かに今の俺は状態異常ではある。
だがこれは本当に状態異常なのか?
身体の調子が悪くなった感じはしない。
むしろ、少しいいぐらいでもある。
「フリイィ!」
と、ここでデコイバタフライが俺に向かって突っ込んでくる。
俺の後ろに居るシアの事など目に入っていないという勢いで。
「フリィ!」
「なるほどそう言う事か」
デコイバタフライの体当たりを短剣で受けつつ、その動きから俺はデコイの効果を悟る。
状態異常デコイは、見方によっては状態支援と呼ぶべきものだ。
その効果はヘイトの上昇。
敵に自分の事を優先的に対処しなければと思わせる力を持っている。
「シア!自分に攻撃が向くと思わずに攻撃を仕掛けろ!」
「は、はい!『ブート』!」
つまり、防御の薄い前衛の攻撃役や後衛にかかれば厄介な状態異常ではあるが、俺のような耐久力に自信のある者にとってはかかればかかるだけ便利な状態異常と言う事になる。
「フリィ!?」
「こっちを向かない?」
「だろうな」
なにせ守るべき後衛に攻撃が及ぶ可能性が一気に下がるのだから。
これほどいい状態異常も早々無い。
「よし、一気に攻め落とすぞ!」
「はい!」
こうなればもう話は簡単だった。
ひたすら俺が攻撃を仕掛け続け、デコイバタフライのHPを削りつつ、その鱗粉でデコイ状態になり続ける。
そして、そんな俺を回復しつつ、襲われる心配もなくゆっくりと狙いをつけたシアが魔法による遠距離攻撃を行う。
「フリイィ……」
「マスター!二体目が!」
「分かってる!」
途中でデコイコクーンが羽化し、デコイバタフライになって戦列に加わっても大勢に変化はなかった。
数字と特性、両面からの装備品の更新と僅かではあるがレベルアップによって上昇した分、それにシアの魔法が加わった今の俺の守りをデコイバタフライが突破する事は出来なかった。
そうして暫く戦い続けた結果。
「おらぁ!」
「『ブート』!」
「「フリィ……」」
俺とシアの攻撃によってデコイバタフライは落ちた。
こちらの被害は軽微と言うか、殆どHPもMPも減っていない。
どうやら高まった回復力によって戦闘中にもかなりの速さで回復していたらしい。
まあ、良い話ではあるな。
「ふぅ、やっぱり火力が低い相手とは相性がいいな」
「マスターの回復力を上回れませんからね」
さて、無事に撃破できたところで剥ぎ取りである。
と言うわけで、俺はデコイバタフライ二体の身体を剥ぎ取り用ナイフで突く。
その結果として、こんなアイテムが手に入った。
△△△△△
デコイバタフライの翅
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:デコイ(人目を惹き、目立ちやすい)
デコイバタフライの大きな翅。
鱗粉の付いた翅は芸術品としての評価も高いが、取り扱いには注意が必要になる。
▽▽▽▽▽
△△△△△
デコイバタフライの眼
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:デコイ(人目を惹き、目立ちやすい)
デコイバタフライのつぶらな瞳。
昆虫らしく複眼となっており、周囲の物を全て同時に見れる。
▽▽▽▽▽
「ふうむ……」
翅に複眼か。さて、何に使うべきだろうな?
まあ、思いついたらでいいか。
【ゾッタの戦闘レベルが12に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「おっと」
「レベルアップですか」
「ああ」
と、ここで戦闘レベルが久々に上がったので、俺は生命力を上昇させる。
△△△△△
ゾッタ レベル12/17
戦闘ステータス
肉体-生命力17・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力20+4+3・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10+1・地属性10+6・光属性7・闇属性10
分類-武器類15・防具類13・装飾品13・助道具13・撃道具13・素材類15
▽▽▽▽▽
「これでよし……と」
これで生命力は17。
それなりには上がって来たな。
「よし、それじゃあ次のモンスターを……」
戦闘後の処理も終わった俺は、次の倒しやすそうなモンスターを探そうと思って、シアの方を振り返る。
「……」
「マスター?」
そして見つけてしまう。
「………………ヌタァ」
何故か頭上のマーカーを緑から赤へと変えた、デコイテンタクルLv.15がこちらの方へとゆっくり向かって来ているのを。
「シア!逃げるぞ!」
「えっ!?あっ、はい!ひうっ!?」
俺は即座にシアの手を引き、駆け出す。
シアも背後にデコイテンタクルが近づいて来ていたことに今気づいたのか、悲鳴を上げつつも駆け出す。
「ヌタアァ……」
するとデコイテンタクルもこちらに気づかれた事を察したのだろう。
先程までよりも素早く、音を立てる事も構わずに無数の触手をうねらせてこちらに迫ってくる。
と言うか速い!?
あんな外見のくせにこっちよりも走るのが速い!?
クソ、こうなればだ。
「シアッ!絶対に前に出るなよ!!」
「は、はい!!」
「ヌタアアァァァ」
やり合うしかない。
この存在自体が限りなくアウトに近い文字通りのモンスターと。
10/11誤字訂正