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「それが今回マスターが造ったアイテムですか」
「ああ、奇箱・普喰だ」
俺はシアの言葉に応えつつ、奇箱・普喰の説明文を表示させる。
△△△△△
奇箱・普喰
レア度:PM
種別:容器
容量:∞(種別:素材限定)
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
それはCommonではなくSoleである。
木と鉄が入り混じってできた奇妙な箱。
中に入れたものは消滅し、この箱の耐久度を回復するエネルギーへと変換され、余れば所有者を癒す力として放出される。
意思はないが、本能として腹が減れば、飢えを満たそうとする。
容器の中に入っている物は容器含めて一つの物として扱われる。
なお、種別:容器のアイテムは錬金レベル/10(小数点以下切り上げ)の個数しか持てない。
※廃棄、売却、譲渡のいずれも不可
※デスペナルティの対象にならない
▽▽▽▽▽
「……」
「ん?」
で、説明文を見たシアが不意に固まる。
一体どうしたというのだろうか?
【ゾッタの錬金レベルが17に上昇した。錬金ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「ああ、先に上げておくか」
シアが戻るまでしばらく時間がかかりそうなので、俺はインフォに従ってステータスを上昇させる。
これで武器類も15であるし、次は防具類だな。
△△△△△
ゾッタ レベル11/17
戦闘ステータス
肉体-生命力16・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力20+4+3・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10+1・地属性10+6・光属性7・闇属性10
分類-武器類15・防具類13・装飾品13・助道具13・撃道具13・素材類15
▽▽▽▽▽
「な、な、なんて物を作っているんですか!マスター!?」
あ、シアが戻ってきた。
じゃあ、会話再開だな。
「なんて物と言われてもなぁ……俺は作れるから作っただけだし」
「作れるから作っただけって……これどう考えても地雷アイテムと言うか、呪われたアイテムですよ……」
「そうか?」
「そうですって……廃棄、売却、譲渡不可で、しかもデスペナルティの対象外って事は、錬金術の素材にする以外の処分方法がないじゃないですか……」
「ああ、言われてみれば確かにそうだな」
シアはそう言うが、他にも処分方法が無いわけではない。
なにせ説明文を見る限りでは勝手に耐久度を減らしていくのだ。
となれば、素材を一切持たずに数日待っていれば、勝手に壊れているだろう。
まあ、壊す気はないが。
「でもまあ、有益な部分もあるし大丈夫じゃないか?」
「有益って……」
俺はインベントリから適当に使わない素材……道中で回収した石ころを取りだすと、箱に近づけてみる。
すると箱に触れるかどうかという所で鉄と木の入り混じった表面の一部が動き、奥が見えない直径数センチメートル程度の黒い穴が現れる。
で、その穴の中に石ころの一端が入った瞬間、大きさも形も無視するように吸い込まれてしまった。
「ふむ、石ころ一つで耐久度が25も増えるのか。案外燃費が良いな」
「ああもう、これだからマスターは……」
再び奇箱・普喰の説明文を見てみると、耐久度が125/100になっていた。
説明文の内容から察するに、耐久度が100以上ある時は俺の回復力を増す効果が現れ、耐久度が100を切ると効果が無くなる。
そして具体的な数字は分からないが、耐久度が一定のラインを下回ると、勝手にインベントリ内の素材を食べて耐久度を回復するのだろう。
うん、そう言う仕様だと分かっているのなら問題はない。
適当に採取ポイントでアイテムを採取して、食わせておけばいいのだから。
「……」
「って、マスター?どうしたんです?急に真剣な顔をして」
ただまあ、一つ解せない点がある。
俺は奇箱・普喰を作る時に、何でも食べてしまうように作ったはずである。
それなのに出来上がったのは種別:素材のアイテムしか食えない物。
これは一体どういう事だろうか?
「普通に考えれば干渉された……ってところか?」
「干渉……ですか?」
「ああ、ちょっと引っかかる点があるからな」
「?」
普通に考えればGMの干渉だろう。
いつ行われたかは分からないが、あのGMならば俺の持っているアイテムの効果を調整するぐらいは何でもないはずだ。
そしてそれならば納得も行く。
「ま、ゲームバランスの都合だろうな」
『AIOライト』にはレア度:PMと言う、普通には無い効果を持ったアイテムを作れるシステムと言うか、括りがある。
だが、その括りが許容するのは、あくまでもゲームを進行するうえで問題のない仕様に限られたものであるはず。
あらゆる敵を一撃で倒せてしまったり、何処にでも自由自在に移動できるようになってしまったり、どんな素材でも好きに入手できるようになってしまったりと言った、チートとしか言いようのないアイテムまで許容したりはしないだろう。
「えーと、つまりは……?」
「とりあえず成功しておめでとうで良いんじゃないか」
だから奇箱・普喰にも干渉が……いや、調整が入って、種別:素材のアイテムしか食べれなくされているのだろう。
「そうなんですか?」
「そうなんです」
まあ、ユーザーとしてはありがたい話ではあるな。
その気になれば強制的に失敗させることだって、あの悪魔になら出来たはずだしな。
「とりあえず、奇箱・普喰の耐久度の減り具合だけ見れたら、今日はもう寝るとしよう。明日はこのダンジョンの対策だしな」
「はい、分かりました」
なお、奇箱・普喰らいの耐久度の減りは、案外早かった。
どうやら耐久度が100以上あると、効果が発揮される代わりに耐久度の減りも早くなるという仕様であるらしい。
まったく、食いしん坊な箱である。