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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
140/621

140:30-5-D2

「まあ、見えた以上は仕方がない。作るか」

 作れるのなら作ってしまうべきだ。

 俺はそう判断すると、腕を軽く回して錬金の為に心身を整えようとする。


「ま、待ってください。マスター!」

「ん?」

 が、その前にシアが俺の腕を掴んで止めてくる。

 その顔は見るからに青ざめている。


「本気ですか?本気でこの場でレア度:(プレイヤー)(メイド)のアイテムを作る気なんですか?」

「ああ、そうだけど?」

 俺は何でもないという感じに返事をしたが、シアの表情は更に悪くなる。

 一体どうしたというのだろうか?


「マスター、本当にこの場でしなくちゃいけない物なんですか?」

「たぶん駄目だな。時間が経ったり、場所が変わったりしたら、上手くいかなくなると思う」

 直感的な物であるが、これについてはほぼ間違いない。

 場所も、時間も、今だから良いのだ。


「携帯錬金炉を使うんですよね」

「そうだな。と言うより、携帯錬金炉を使わないといけない」

 そしてそれは使う器具についても言える。

 他に道具がないから、携帯錬金炉を使うのではない。

 俺が作った、この携帯錬金炉を使わなければいけないのだ。


「失敗した時のリスクは……分かってますよね」

「まあ、死に戻りに加えて、素材と携帯錬金炉をロストするだろうな。いや、場合によっては装備品の破損もあり得るか」

「その上でやると?」

「ああ、その上でやる」

 勿論リスクはある。

 だが、仕様外の事をしているのだから、相応のリスクがあるのは当然なのだ。

 だから、リスクは躊躇う理由にはならない。


「……。はぁ……分かりました。補助の魔法は掛けておきますので、頑張ってくださいね。あ、私は端の方に行っておきます」

「いつもありがとうな。シア」

 シアは長い沈黙の後に溜め息を一度吐く。

 そして、俺に『癒しをもたらせ』と『大地の恩寵をその身に』の魔法を掛けると、部屋の端の方に移動。

 その場に座り込む。

 うん、あれだけ離れているなら大丈夫か。


「じゃ、始めますかね」

 では、準備が整ったところで錬金を始めるとしよう。


「まずはアイテムを入れましてっと」

 俺はプレンイーターの胃袋が入ったリジェネウッドボックスと回復力溢れる鉄の鋳塊を携帯錬金炉の中に入れる。

 すると、直ぐに何かが溶けるような音と共に、嫌な感じの煙が上がり始める。

 どうやら、今回の錬金はあまり長引かせない方がいいらしい。


「ふんっ!」

 なので俺は躊躇いなく左腕を携帯錬金炉と言う名の壺の中に突っ込むと、腕防具と俺の左腕の表皮が溶けるような感触を覚えつつ魔力を放出。

 錬金するのに必要なだけの量の魔力を注ぎ込む。


「……」

 そして魔力を注ぎ込み終わったところで、俺は左腕を突っ込んだまま一瞬だけ瞑目。

 心と素材の状態を確かめる。


「錬金術師ゾッタの名において告げる」

 俺は炉の中で魔力を放出しながら腕を動かす。

 するとそれだけ腕の痛みは増すが、所詮は痛いだけだ。

 強化を重ねた俺の回復力と酸によるダメージは釣り合っていて、俺のHPは全く動いていないのだから問題はない。


「木の器、鉄の器、形も性質も異なれど、適す形を得れば内々に物宿せる物よ。木と金、属すもの違い、相反する間柄ではある物よ」

 さあ、ここからだ。


「汝らは確かに違う物である。だがどちらも大地にて生まれ、大地にて育まれる物であり、一つとなれば大いなる力を得る物である」

 携帯錬金炉の中でリジェネウッドボックスと回復力溢れる鉄の鋳塊だけが蠢く。

 それもただ蠢くのではなく、酸と携帯錬金炉の中にある液体の影響なのだろうか、その姿は帯状になっている。


「故に我は汝らに求める。交わり、重なり、手を取り、縁を紡ぎて一つとなる事を。線を織りて面を成し、面を繋ぎて箱となる事を」

 俺は魔力の放出と手の動きによって帯状になったそれらを動かしていく。

 それもただ動かすのではなく、炉の中にあるもう一つのそれを内側に収めるように。


「そして二重に重なりし生命保つ力によって封じる事を願う。欲がまま皆々喰らう底なしの穴を。形あるものを形無きものへと変え、飢え続ける貪欲なる獣を」

 閉じ込められる事に気づいたのだろう。

 プレンイーターの胃袋が暴れ出す。

 だがもう遅い。

 プレンイーターの胃袋が携帯錬金炉の液と俺の魔力をたらふく食っている間に準備は整っている。


「暴れるな!」

 鉄と木と魔力の帯がプレンイーターの胃袋を締め上げる。

 そして箱の内張りの革のように広げながら貼り付けていく。


「貪欲なる獣よ。我は敢えて汝を御さず、飢えたままとしよう。その上で我が身我が腸と化せ。内にもなく外にもない狭間に在れ」

 立方体の物質が少しずつ出来上がっていく。

 見た目は穏やかに、けれど箱の中では獣が暴れ狂い、携帯錬金炉の液に酸を混ぜる事で俺の腕を焼きつつ。

 だが何の問題もない。


「認めよ。改めよ。従えよ。静まれ。鎮まれ。調べ調和させ形を成せ。皆喰らい、癒され、飢え、境界に在りて皆々貪り続ける喰らいの箱として再び生まれいづれ」

 重要なのはこのアイテムを造り上げる事なのだから。


「さあ、我が前に汝が姿を顕せ」

 だから俺は痛みを無視して、壺の中に出来上がったそれを掴み上げると、名を与える。


「奇箱・普喰(あまねくらい)

 見た目は鉄と木が複雑に入り混じった、けれど中身は取り込んだ物を全て食べて溶かしてしまう魔性の箱に。

久しぶりのPM錬金です

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