138:30-3
【AIOライト 30日目 13:42 (1/6・晴れ) 右角山】
「ようやく……ですかね?」
「そうなるな」
プレンイーターを倒してから四時間。
俺とシアはようやく目標とした山の麓にまで来ていた。
なお、レア度:2の鉄鉱石については、既に十分数が集まっているので、今晩の寝床を確保した後にでも強化を行う予定である。
「やっぱり、特別な山っぽいな」
「周りとは完全に切り離されていますもんね」
さて、俺たちが辿り着いた山だが、明らかに他の山とは違う感じだった。
まず、シアの言うとおり、他の山とは尾根が全く繋がっておらず、周囲を山に囲まれてはいるが、この山自体は独立峰のようになっていた。
そして疎らに生えている樹だが、他の山に生えている木と比べると微妙に紅葉している感じだった。
うん、色んな面から見て特別だな。
「よし、それじゃあ、良さそうな自動生成ダンジョンを探しつつ、登り始めるか」
「はい、マスター」
と言うわけで、俺とシアはゆっくりと山を昇り始めた。
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【AIOライト 30日目 15:02 (1/6・晴れ) 右角山】
「ふうむ、当たりって感じのするダンジョンはあまりないな」
「ですねぇ」
さて、山を登り始めてからおよそ一時間。
攻略するのに良さそうな自動生成ダンジョンはまだ見つかっていない。
ただ、周囲に居るプレイヤーの数は確実に増えて来ている。
うん、彼らの目的も俺たちと同じはずなので、良さそうなダンジョンが見つかって、腕に問題が無いのなら、組むのも手だろう。
「ん?」
「どうしました?マスター」
と、此処で俺の目に妙な物が見えてくる。
「いや、赤い線……いや、紐か?とにかくそんな物が見えるんだが……」
「赤い紐ですか?」
それは血のように赤い紐で、道を横切るように張られている。
「んー……私には見えませんけど?」
「そうなのか?」
「はい」
が、どうやらシアにはそれが見えていないらしい。
そして周囲をよく見れば、他のプレイヤーたちも紐を気にしている様子はないし、普通にすり抜けてしまてもいる。
どうやら実体を有さない特殊な紐で、見えているのは俺だけであるらしい。
うーん、今更な話だけど、俺って霊感とかは無かったと思うんだけどなぁ……。
相変わらず訳が分からない。
「ふうむ……ああなるほど、出元はあそこか」
まあ、それはそれとしてだ。
見えるのならそれを有効活用しよう。
と言うわけで、俺は紐の出元を見てみる。
すると紐の出元は山道脇の地面にあり、そこには金属製の楔のような物が突き刺さっていた。
で、楔は片側が地面に埋まっていて、地面に埋まっていない方には輪っかのような物が付いており、二本の紐が輪っかに結び付けられている。
「楔……ですよね。どうしてこんな物が?」
「さあ?でもまあ、何かあるんだろうな」
そう、二本だ。
片方は俺たちが来た方向へ、もう片方は山の奥へと繋がっている。
この感じだと、山の周囲をぐるりと赤い紐が囲っている感じなのかもしれないな。
「とりあえず紐の向こう側で自動生成ダンジョンを見つけたら、少し扉自体を調べてみてもいいかもな」
「分かりました。少し気をつけてみます」
この先は注意するべき、俺はそう判断すると、赤い紐を越えて、山の上の方へと向かって行った。
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【AIOライト 30日目 17:23 (1/6・晴れ) 右角山】
「さて、今度のはどうだろうな」
山を登り始めて二時間半。
そろそろ陽も暮れるので、攻略するダンジョンもだが、今晩の寝床も探したい所である。
と言うわけで、手近な白磁の扉に俺は近づく。
【ゾッタは『誘引する岩の洞窟』を発見した】
「『誘引する岩の洞窟』……」
誘引する……特性:デコイだったかな?
効果は相手の注意を惹き付ける、とかだったか?
うーん、掲示板で名前と一応の効果は知っていても、俺自身は初めて見るからよく分からないな。
【『誘引する岩の洞窟』 レア度:2 階層:4 残り時間71:59:59】
難易度は……俺とシアだけだと厳しいが、素材を回収するだけなら問題なしか。
岩の洞窟なら寝床としては問題ないな。
うん、普通に入るか。
「シア……って、何やっているんだ?」
と、此処で俺はシアが白磁の扉の裏手側に回って、何かをしているのを見つける。
「マスター、ここを」
「これは……楔か?」
気になった俺がシアの隣に行くと、シアが白磁の扉と地面の境界になっている場所を指差す。
するとそこには地面の中に赤い紐を潜らせた金属製の楔が突き刺さっていた。
これは……当たりと言う事だろうか?
「とりあえず掲示板に上げておくか」
「あ、それじゃあ、写真撮っておきます」
「頼む」
いや、当たりかは攻略してみなければ分からない。
が、このダンジョンが普通でない事は確かだろう。
と言うわけで、俺はシアの撮った写真を載せる形で掲示板に書き込んでおく。
勿論、意味があるかは分からないとも書きこんでおくが。
「これでよし、と。じゃ、入るぞ」
「はい」
まあ、全ては中に入ってから。
俺はそう考えつつ、白磁の扉に触れ、『誘引する岩の洞窟』に進入した。
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