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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
135/621

135:29-2

【AIOライト 29日目 09:15 (2/6・晴れ) 東の丘陵】


「流石に遠いですねぇ……」

「だなぁ……」

 東の大門を出発してから早二時間半。

 俺とシアの二人は東の丘陵をひたすら北上していた。

 北上していたが……未だに東の丘陵からマップの名前は変わっていない。


「まあ、分かっていた事ではあったんだけどな」

「修理結晶をマスターらしくないぐらいには持って来てましたもんね」

 まあ、当然の話だ。

 準備の時間と歩いている時間の暇な時にちょっと掲示板を見てみたのだが、双角があるとされる山岳地帯に入るのに、場所と道が分かっていても半日はかかると書いてあったのだから。

 手馴れたプレイヤーでも半日かかるというのなら、初めて行く俺たちは山岳地帯に入るだけでも一日かかると思った方が妥当だろう。


「今回は長期戦になるのが見えているしな」

「移動に二日。ダンジョン攻略に一日。でしたっけ」

「ああ、それぐらいはかかると思っている」

 そして山岳地帯に入るだけでもそれなのだ。

 山岳地帯に入って、双角に該当する山を見つける事、その山を登って自動生成ダンジョンを攻略する事、最後に双角の主を倒す事、それらを考えたら、三日は確実にかかるだろう。


「まあ、それでも携帯錬金炉がある今なら、三日間街に帰らなくても何とかはなる」

「一番の問題である食事の問題は途中で素材さえ回収出来れば作れますもんね」

「修理についても、最悪作り直しで対応する手もあるしな」

 だが以前ならともかく、携帯錬金炉がある今なら、三日間の行動は不可能ではない。

 食事も修理も自作の携帯錬金炉なら出先で行えるのだから。

 まあ、食事はともかく修理については、出来れば修理結晶だけで済ませたいところだが。

 造り直しだと、作った素材次第で性能低下や、その後に響くような欠陥を抱える事になったりもするからな。


「……。それにしても、変化が無くて退屈ですね」

「……。まあ、敵は弱くて張り合いがないし、採取もせずに見知った風景の場所をただ歩いているだけだしな」

 暇なのは……仕方がない。

 東の丘陵って何度か来てるから、目新しいものも無いしな。

 で、こういう時に高速移動手段の一つでもあれば違うのだけれど……現状だと高速移動手段になるのは一部の魔物型ホムンクルスに乗るぐらいか?

 掲示板でも話を聞かない辺り、何かしらの問題があるのだろうけど。


「まあ、地道に歩くしかないな」

「ですねー」

 いずれにしても無い物ねだりだ。

 と言うわけで、俺たちは地道に歩き続けるのだった。



----------



【AIOライト 29日目 17:42 (2/6・晴れ) 右角山】


「おっ、名前が変わった」

 ひたすら歩く事ほぼ半日。

 もうすぐ日が落ちようかという頃、マップの名称が東の丘陵から右角山に変化する。


「右角山……ですか。でも周りは……」

「うんまあ、そうだな」

 俺とシアは改めて周囲を見る。

 俺たちがやってきた南側は今まで通りの丘陵地帯だ。

 西側は北の湿地があるので当然だが、丘陵と沼地が混ざり合って広がっている。

 東側は丘陵と言うか山と言うか、どうにも微妙な感じの段差が続いている。

 そして北側は……疎らに木が生えた尾根が連なり、複数の山頂が見えている。


「ああいやでも、それっぽいのはあるな」

「それっぽいのと言うと……アレですか?」

「ああ、アレだ。アレだけ周りから独立してる」

 だがよく見てみれば、北の山の中には尾根が切れ、独立峰のようになっている山が一つだけある。

 そして何となくだが、その山だけは丸まったような感じになっている。

 この大地を羊の頭と仮定するならば、その角は丸まっているはず。

 そう考えると、あれこそが右角山なのではないかと思う。


「ま、何にしても今日はもう動かないでおこう。適当な自動生成ダンジョンを探すぞ」

「はい、マスター」

 まあ、判明した所で行けるのは早くても明日の午後だな。

 夜に山の中を移動するとか考えたくもないし。

 と言うわけで、俺とシアは今日の休憩場所としてレア度:2の『不定殺しの森の図書館』に入った。



----------



【AIOライト 29日目 17:56 (2/6・晴れ) 『不定殺しの森の図書館』】



「うん、此処なら良さそうだな」

「扉も開いた形跡なしです」

 『不定殺しの森の図書館』は休憩場所としては的確な感じだった。

 湿った場所もないし、暑くもなければ寒くもない。

 蔦が絡まった本棚が倒れて来る事も無さそうだし、一夜を明かすには十分過ぎる環境と言えるだろう。


「よし、それじゃあ、適当に食事を摂ったら寝るか」

「ですね」

 と言うわけで、俺はシアが普通の薬草とプレンシープの肉で作ってくれたハーブ焼きを食べて満腹度を回復する。

 ああ、きっと香辛料に近い薬草のがあったんだろうな。

 肉の旨味にスパイスが利いていて、とても美味しい。


「あ、マスター。今回は寝袋代わりの布を用意してありますから安心してくださいね」

「えっ」

 と、そうやって肉の旨味を味わっていたら、とんでもない発言がシアから聞こえてきた。

 そして振り向けば、シアの両手には人一人がくるまるのには十分な大きさの布が二枚、握られていた。


「……。どうしてそんな物を?」

「毎回マスターを下にするわけにはいきませんから」

「……。布の出所は?」

「ボンピュクスさんに頼んだら、端材をくれましたので、それを錬金しました」

「……。何時そんな物を?」

「昨日マスターが眠ってからです」

「……。容量は?」

「素材分類なので、リジェネウッドボックスに入ります」

 俺は思わずシアに対して幾つもの質問をしていた。


「……」

「……」

 そして一通り質問したところで固まってしまう。


「マスター、普通に、それぞれで、寝ましょうか」

「はい……」

 反論する余地などなかった。

 うんまあ、こうなったらもう仕方がないよね。

 仕方がないよね……シクシク。

 俺は微妙に涙目になりつつ、布にくるまって眠り始めた。

 ああ、布で寒さは防げてるはずなのに寒いなぁ……。

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