131:28-6
「ふんっ!」
「おらぁ!」
初撃はほぼ同時だった。
ほぼ同時だったが、武器の差でストーカー長男の攻撃の方が早く俺に届いて、剣の刃が俺の胸を切りつけると共に俺のHPを10%程減らしてくる。
そして、俺の攻撃はストーカー長男の肩に当たり、HPを15%程減らす。
つまり、真正面から単純に殴り合うなら、俺に軍配は上がる事になる。
「ぬんっ!」
「ちぃっ!」
それはストーカー長男も分かっているのだろう。
返す刃で放った俺の攻撃をストーカー長男は盾で防ぎ、被ダメージを半分以下に抑えてくる。
「喰らいな!」
「ちっ……」
そして斧を振って隙を晒した俺の身体を、ストーカー長男の剣が再び通り抜けてくる。
ダメージは……先程からほぼ変化なしか。
「正面からだと五分五分と言う所か」
「ああ!?逃げるんじゃねえよ!」
二回打ち合ったところで俺は一度後ろに跳び、十分な距離を取ったところで再び武器を構える。
さて、今の攻防で多少は相手の実力が見えたな。
真正面からやりあった場合はどちらに軍配が上がってもおかしくない。
ストーカー長男が俺の攻撃を防げた回数が多ければ、俺の方が不利になるし、防げなければその逆になるという事。
つまり、勝てるとは限らない。
「逃げる?そう言う事は俺のHPを見てから言え」
「っつ!?自動回復!?」
だから俺は俺の持ち味を……元々鍛えてある回復力を、シアの魔法によって強化する事によって得られる圧倒的な回復力を生かす方針で戦う事にする。
「さ、急がないとそちらが不利になっていくだけだぞ」
つまり、適当に殴っては退き、HPを自然回復させ、その様子を相手に見せつける事で積極的に攻めなければと思わせる。
「この三下がぁ!」
「ふはは……」
ストーカー長男が俺に向かって再び切りかかってくる。
そして相手の攻撃に合わせてこちらも攻撃し、お互いのHPを削り合う。
で、それを数度繰り返す。
「くそっ、三下の分際で面倒くせえ……」
「どうした?攻撃の手を緩めたら、それだけ俺とのHP差は開いていくぞ」
俺のHPは残り60%ほど、対するストーカー長男のHPは40%ほど。
仮面で見えないだろうが、それでも雰囲気として馬鹿にしているのが伝わるだろうと考えて俺は笑みを浮かべる。
周囲の観衆は……だいぶ湧いてきているな。
まるで見世物みたいだが、まあ、悪くはない。
「ああそうかい。でもなぁ、こっちにだって狙いぐらいはあるんだよ」
「ほう……」
ストーカー長男はだいぶ焦れているが、それでもまだ勝ち筋は失っていないらしい。
その口元は微妙に歪んでいる。
この状況での逆転の道筋となると……盤外を利用するような手段を除けば、状態異常かクリティカルか仕込み武器あるいはあの剣への起動文付与だな。
で、ストーカー長男がやろうとしていた事を考えると……アレが出てくる可能性が高いか。
「さあ、後悔させてやるよ!」
「出来るものならやってみろ」
ストーカー長男が再び切りかかってくる。
対する俺も、ストーカー長男の振りに合わせて反撃できるように構える。
「おらぁ!」
「ふんっ!」
お互いの攻撃が決まり、HPが削れる。
「っつ!?」
「ひはっ」
そして同時に感じる。
ストーカー長男に斬られた部分が激しく痛むのを、それこそただ斬られただけではなく、傷口の上を短刀で細かく何度も傷つけているような痛みを感じる。
「ヒハハハハハッ!」
ストーカー長男の笑い声と同時に視界の左上隅に表示された状態異常の名称はペイン。
激痛を与える状態異常。
「ぐっ……」
「ざまあみやがれ!」
やはり持っていたかと言うのが受けた第一印象だ。
脅しに使うには便利な状態異常だしな。
そして同時に呆れもする。
「余裕ぶっているからこういう事になるんだよ!三下が!!」
「ゾッタ君!?」
「……」
ストーカー長男のペインは薄っぺらくて弱い、ソフトプラティプスから受けたペインと比べたら天と地ほどの差がある。
この程度の痛みで人を止められ、脅せると思っているならあまりにもお粗末という物だ。
「さあ、トドメを……」
まあそれでも切り札には違いないのだろう。
観衆の一部が甲高い叫び声を上げる中、剣を天高く振り上げるストーカー長男の顔は愉悦に染まっている。
「さむごぉ!?」
なので俺はストーカー長男の口の部分を左手で掴んで歪ませてやった。
「全く……」
「!?」
そして痛みを無視するように、仮面の上からでも分かるように笑みを浮かべつつ、斧を振り上げる。
「俺も舐められたもんだな。この程度で俺を止められるとでも?」
「ば、ばぎゃ……」
特性:バーサークが発動して俺の装備から赤いオーラが生じる。
「ふんっ!」
「あがあぁ!?」
「「「!?」」」
「「「キャア!?」」」
俺は全力でストーカー長男の顔面に斧を叩き込み、ストーカー六兄弟の残りが居る方に向けて吹き飛ばす。
「な、何で……」
ストーカー長男のHPはまだ残っている。
だから一歩、また一歩とストーカー六兄弟の残りに囲まれて怯えているストーカー長男に向けてゆっくりと近づいていく。
「何でペインが……」
「ひ、ひえっ……」
「ば、化け物……」
「嘘だろ……」
「な、何なんだよ……」
「あ、あ、あ……」
ストーカー六兄弟の次男以下とホムンクルスたちが俺に手を出す事は出来ない。
これは一対一の決闘で、彼らは決闘に参加していないからだ。
尤も、ホムンクルスたちは決闘に参加していても、はっきりと命じられない限りは、助けたりしないだろうが。
「ひあっ、来るなあぁ!」
「ふん」
ストーカー長男が破れかぶれといった様子で倒れた状態のまま剣を振るう。
が、そんな適当な攻撃が俺に決まるはずもなく、俺は左手の短剣で難なく剣を弾き飛ばす。
さて、これで武器は無くなった。
「た、助け……あぐっ!?」
だから俺は余裕を持って長男の近くに立つと、武器を拾おうともせずにただ逃げ出そうとする長男の首を掴んで引き摺り倒す。
で、その上に馬乗りとなって、先程ストーカー長男がやろうとしていたように斧を構える。
つまり、斧を両手で持って天高く掲げ、口元には笑みを浮かべ、最大限の殺意を刃に乗せる。
「さようならだ。ストーカー長男」
「ひあああああああぁぁぁぁぁ!?」
そして俺はストーカー長男の顔面に向かって斧を振り下ろし、ストーカー長男の身体から赤い燐光が大量に噴き出した。
狂い斧に状態異常でドヤってはいけない