128:28-3
「質問1、俺たちはただ着ていればいいんだよな」
「せや、行動なんかを制限するつもりはない。むしろ、アタイらの為にも攻略は積極的にしてもらいたいぐらいや」
「服の事を聞かれたら?」
「その時は出来ればアタイらの事を教えて欲しい。まあ、こっちも無理にとは言わんな」
俺の質問を予想していたのだろう。
ボンピュクスさんは淀みなくスラスラと答える。
しかしまあ、行動を制限する気がない理由は……服飾向上委員会の目的に面倒な連中から生産専門のプレイヤーを保護する目的が含まれているからだろうな。
そんな目的を含んでいるのに自分たちが行動を制限するような真似をしてしまったら、ブーメランでしかないもんな。
「質問2、こっちに定期的に顔を出したりする必要は?」
「義務は無い。けれど飽きや流行り、その他色々な理由で服は変えたくなるやろうし、結局は定期的に顔を出すんとちゃう?」
「ふむ」
顔を出す義務はないか。
まあ、ボンピュクスさんの言うとおり、デザインを変えたくなったら顔を出す事になるし、此処はあまり気にする事でもないか。
「質問3、お金関係はどうする?」
「んー……ゾッタ君とアンブロシアちゃんの宣伝効果を考えたら、むしろアタイらの方が払った方がええぐらいな気もするけど……」
俺はボンピュクスさんの言葉に非難するような視線を向ける。
そして、その視線に気づいたのだろう。
ボンピュクスさんは肩を軽く竦める。
「まあ、そうやね。なあなあで済ませると後々面倒な事になるやろうし、初回はお試しの意味も兼ねて無料にしておくけど、二回目以降は売っている職人との交渉次第。んで、基本的には他のプレイヤーと同じ値段って事にしておこうか」
「そうだな、その方がこちらとしても気が楽で済む」
タダより高いものはない。
安易な値引きはトラブルを生む。
情報交換についてもそうだが、やはり公正公平な取引の方が、最終的な面倒は少なくて済むだろう。
と言うわけで、初回については広めてほしいというボンピュクスさんの頼み事を優先する為に無償で受けるが、二回目以降は素直に払うとしよう。
まあ、二回目以降はきっとシアの分だけになるだろうが。
「質問4です。本当にマスターと私を宣伝塔にしていいんですか?」
と、ここでシアが口を挟んでくる。
だがまあ、よくよく考えてみたら当然の質問か。
シアはともかく俺は『狂い斧』呼ばわりだもんなぁ……誠に遺憾な事に。
で、そんな『狂い斧』が宣伝したら……マイナスの効果しかなさそうな気がする。
「心配しなくても大丈夫や。ウチの顧客の何人かからゾッタ君の実態は聞いているし、アタイらと協力関係にある七茶同盟だってゾッタ君の情報は持っとる。勘違いするのは……まあ、一部の本当の問題児ぐらいやな」
「問題児ですか……?」
「そ、問題児や。GMコールをして、GMから注意を喰らっても一時的にしか退かないような面倒な連中や。ま、この話についてはこれぐらいにしておこう。噂をすれば何とやらで来ても困るしな」
何だか妙に実感が籠った感じにボンピュクスさんは話している。
いや、もしかしたら実際にそう言うのに遭遇しているのかもしれないな。
まったく、面倒な輩が居る者だ。
そしてこの発言から……まあ、ボンピュクスさんの強かさが見えるな。
なにせそう言う問題児が相手でも『狂い斧』の名前なら多少は脅しとして効くはずだからだ。
服飾向上委員会に手を出せば、『狂い斧』が報復に来るぞと言う脅しがだ。
ま、とやかくは言わないでおこう。
俺が勝手に思っているだけだし、現実にそんな事をやる事態になるとは思えないしな。
「じゃあ最後の質問。この服が具体的にどんなデザインなのか説明してもらっていいか?」
「構わへんで。その為の個室やからな。なんだったら、この場で携帯錬金炉を使ってデザイン変更しても構わないで。いや、宣伝効果を考えたら、そっちの方がいいかもしれへんな」
「ほう……」
「……」
俺もボンピュクスさんも微妙に黒い笑みを浮かべる。
だが目的が一致しているおかげなのか、嫌な感じはしないな。
実に素晴らしい事だ。
なお、シアが何処か呆れた様子なのは……気にしないでおくか。
「じゃ、契約成立で、デザインの方を説明しようか」
「ああ、よろしく頼む」
「えーと、よろしくお願いします」
と言うわけで、俺は携帯錬金炉を取りだすと、ボンピュクスさんの指導の下、この場でシアと俺の服のデザイン変更を行う事にしたのだった。
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【AIOライト 28日目 14:25 (半月・雨) 始まりの街・ヒタイ】
「これは……想像以上やな」
「……ふぅ」
デザイン変更の錬金は確かに難易度は低かったが、中々に時間はかかった。
まあ、装飾品の枠にあるプレンウッドリングと俺の頭防具である『狂戦士の鬼人の王』の仮面以外は全ての防具と装飾品で、染料による色の調整と設計図によるデザインの変更をしたからな。
これぐらいかかるのは仕方がない。
そして、俺たちの前に立っているシアを見れば、それだけ時間をかけた成果はあったと言えるだろう。
「えーと、似合っているでしょうか……?」
今のシアの服装は、構造的にはそこまで特別な服装ではない。
普通の長袖のシャツにロングのスカート、腕輪、バレッタ、それに雨具を兼ねたフード付きのコートだ。
白を主体とした露出の少ないその服装は、見るものに清楚なイメージを与える事だろう。
そしてここまでならば、染料を使うだけなので俺だけでも出来たことだろう。
「似合ってる。とても似合ってる」
「いやー、デザイナー冥利に尽きるわ」
注目すべき点にしてボンピュクスさんの実力が良く出ているのは装飾の面だ。
植物をモチーフとした装飾は、甲殻を変形させて作られた金具、染色によって染め抜かれた部位、袖口のレースなど、実に様々な形で施されている。
これらの装飾は全体の雰囲気を損なわないどころか引き立てるようになっており、着用者には可憐であると同時に植物の持つ力強さも与えていた。
「ありがとうございます」
総評するならば?
元々可愛くて、綺麗で、美しかったシアの魅力がさらに高まった。
おしゃれは足し算では無くかけ算なのだと教えられた気分である。
ああ、これだけでも今日ここに来てよかった。
本心から俺はそう思えた。