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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
127/621

127:28-2

「いらっしゃいませー」

「「……」」

 建物の中はまるで異世界だった。

 外見は普通の石造りの建物だったのに、中は様々な小物や壁紙によって綺麗に彩られ、全体的にファンシーな感じになっていた。

 ああうん、これだけでもこの場の準備をしたプレイヤーの腕と言うか、センスの良さが窺えるな。

 凄く女性プレイヤーに合いそうな感じがある。


「えーと……」

「初めての方ですね。お名前は?」

「ゾッタです。で、こっちはアンブロシア」

 さて、そんな建物であるため、当然ながら中に居るのはほぼ女性プレイヤーのみであり、俺を含めた数少ない男性プレイヤーは何処か肩身が狭そうにしていた。


「ゾッタ……『巌の開拓者(ノーム)』のゾッタ様ですか?」

「あ、ああ、名前被りが無いならそれで合っていると思う」

 俺は受付の女性プレイヤーに話しかけつつ、建物の中を改めて観察する。

 雰囲気や客層については言うまでもない。

 それ以外だと……どうやらここは錬金術師ギルドで出店の許可を取って来る事で、店を開ける共有スペースの一種であるらしい。

 錬金術師ギルドの職員や制裁用NPCによる警備の姿が見える。

 こんな表からは分かりづらい場所で店を開いている理由は……雨天対策に囲い込み対策、それに集まる人を限るためと言うのもありそうか。

 とにかくこの中なら、揉め事関係は気にしなくて良さそうだな。

 揉め事になったら、容赦なく制裁だ。


「ゾッタ?」

「『狂い斧』……」

「本当に……」

「しょ、少々お待ちくださいませ!」

 周囲からの視線が俺に集まる。

 どうやら『狂い斧』と言う不名誉な称号はこの場でも有効であるらしい。


「それじゃあ隣のが……」

「本当にホムンクルスなんだ……」

「凄く綺麗……」

 そしてシアにも視線が集まる。

 こちらは……まあ、妥当だな。

 シアの美しさと可愛さならば、同性だって惹き付けて止まないはずなのだから。

 これは純然たる事実だ。


「あの、マスター。何だか居心地が……」

「安心しろ。俺もだ……」

 ただ、敵意は無くとも、こう好奇の視線を向けられ続けるのは愉快ではない。

 なので出来れば状況の好転を求めたい所ではある。

 求めたい所ではあるが……もう暫くかかりそうだな。

 受付さんは店の奥へと行ったままだし。


「お、お待たせしました!どうぞこちらへ!」

 そうして待つこと数分。

 俺たちは受付さんに連れられて、何故か店の奥へと連れて行かれる事となった。

 うーん、予約も何もしていないんだが……どうしてこうなった?

 まあ、付いて行けば、どうしてこうなったかは分かるか。


「ここでお座りになって、お待ちください」

「分かった」

 連れていかれた店の奥には?

 明らかに交渉用と思しきテーブルと椅子が三脚ほど置かれていた。

 なので、俺とシアは静かに椅子に座る。


「やあやあ、待たせたね」

 で、椅子に座った直後に、俺たちが入ってきたのと同じ扉から、金髪に青い目をした、素人である俺の目から見てもセンスが良いと思える服を着た女性プレイヤーが入ってくる。


「グランギニョルちゃんから聞いてからずっと待ってたんよ」

「えーと?」

「と、自己紹介がまだやったね。アタイの名前はボンピュクス。この非公式ギルド、服飾向上委員会の会長や。よろしくなー」

「よ、よろしくです」

「は、はい」

 女性プレイヤー改めボンピュクスさんはそう言うと、朗らかに笑う。

 何処の物か分からない方言はともかく、その笑っている感じからして、悪い人では無さそうである。

 いやまあ、グランギニョルの知り合いである時点で、その可能性はかなり低いのだが。


「じゃ、早速やけど用件の方を聞こうか。ま、ウチに来る理由なんて一つしかないやろうけどな」

「そりゃあなぁ」

「ははは……」

 と言うわけで、俺たちは早速話をする事にする。

 こちらの目的は言うまでもなく、シアの防具に使う分の設計図を購入する事である。

 で、それに対してボンピュクスさんが出してきた提案は二つ。


「なるほどな。そう言う事なら……まあ、普通に行くなら、一式のタイプの設計図があるから、それを購入して錬金すればええ。携帯錬金炉を作れるレベルのプレイヤーやったら、例え月齢が半月でも判定無しで変形できるしな」

「なるほど」

 一つ目の提案は何の捻りも無く普通に購入する事。

 まあ、俺としてはそれでも構わない。

 そう言うセンスのある人から、着こなし方についてのレクチャーも受けれるらしいしな。


「けどアタイとしてはこっちをオススメしたい所やな」

 そう言うとボンピュクスさんは複数枚の紙を俺たちの前に出す。

 描かれているのは……服の図面と出来上がりがどうなるかを示した物。

 つまりこの紙は設計図か。


「これはどういう事ですか?」

「簡単に言ってしまえば、服飾向上委員会の宣伝に協力して欲しいんや」

 そう言うとボンピュクスさんは服飾向上委員会について簡単に説明してくれる。

 で、その説明を俺たちに関係する部分だけざっとまとめてしまうならば……


・服飾向上委員会は『AIOライト』内の服飾のレベルを高めることによってプレイヤーのやる気を引き出し、攻略に寄与する非公式ギルドである

・服飾向上委員会はプレイヤー一人一人に相応しい衣装を提供したいと考えている

・だが、服飾向上委員会の知名度はまだまだ低く、前線のプレイヤーは殆どが知らない


 との事だった。

 なお、彼らはGM(ゲームマスター)の服飾センスについては悪いとは思っていない、むしろいいと思っているらしいが、同時に万人受けするように無難な出来になってしまっている、とも感じているとの事。

 まあ、ここら辺の話は俺に関わりのない事だ。


「と言うわけで、掲示板でも有名かつトッププレイヤーとして前線の人間と触れ合う機会の多いゾッタ君とアンブロシアちゃんの二人に服飾向上委員会について宣伝してもらいたいんよ!」

 それよりも今問題なのは……ボンピュクスさんの提案を受けるかどうか。

 この一点についてだろう。


「ふうむ……」

「えーと……」

 そして俺はしばらく悩み……幾つか質問をする事にした。

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