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【AIOライト 28日目 06:32 (半月・雨) 始まりの街・ヒタイ】
「予定通りの雨だな」
装備を更新した翌日。
七の倍数の日であるため、本日も昨日に引き続き雨である。
「で、シア。調子はどうだ?」
「うーん……」
さて、今日どうするのかはシアの調子次第なのだが、この様子から察するに、昨日から続くグルグルあるいはモヤモヤは解消には至っていないらしい。
それでも顔色と言うか、気配からして少しずつ解決には近づいているようだが。
「その、何と言えばいいんでしょうか。後一歩、何かが足りない感じです」
「何かが足りない……か」
「すみません、マスター。ご迷惑をおかけしてしまって」
「そこは気にしなくても大丈夫だ」
だが後一歩が足りない、か。
となると……考えられるのは二つだな。
一つは単純にその発想に行きつけていないだけ。
これならば時間さえかければ、何時かは辿り着くだろう。
もう一つは、シアの知識にその後一歩を満たすための知識が存在していない場合。
こちらの場合は、その知識を何処からか得られなければ、何時までも解決はしないだろう。
「うーん、シアは何処か行きたい所とかあるか?」
「行きたい所……ですか?」
「ああ、街中に限定しての話だけどな」
「えと、いいんですか?」
「問題なし。何が切っ掛けになるかは俺にも分からないけどな」
うん、それなら俺の役目は気分転換と新たな知識や経験の教示、その両方を兼ねられる何かをする事だな。
で、その何かは街の外ではなく中だ。
シアの経験上、街の外についてはそれなりに行っていて知識もあるはずだが、街の中についてはあまり知識がないはずだからな。
特にプレイヤーしか知らないであろう情報については、俺の普段を考えると、殆ど持っていないと思うし。
「それでしたら、一つ行きたい所があるのですけれど……」
と言うわけで、俺はシアから行きたい場所の情報を貰うと、その場所へと二人で出かけるのだった。
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【AIOライト 28日目 07:52 (半月・雨) 始まりの街・ヒタイ】
「えーと、この辺りでいいんだよな」
「はい、そのはずです」
さて、今更ながらに始まりの街・ヒタイと漁村ハナサキの中にある各種建物について少し説明をしておこう。
これらの建物は大きさも外観も実にさまざまであるが、とある点に注目して分類してしまえば、たったの三種類に分けられてしまう。
「この建物は……入れないな」
「こっちは別ギルドの支部みたいですね」
それは、入れるかどうか。
無数にある建物の中には、外見だけの実際には入れない建物、錬金術師ギルドの支部のように条件を満たした者だけが入れる建物、誰でも入れる一種の集会場のような建物の三種類だ。
そして俺とシアの二人は、現在ヒタイ中心にある広場から少し離れた路地で、誰でも入れる建物を探していた。
と言うのもだ。
「この辺りで間違いないんだよな」
「はい、間違いないはずです。ギニョルはこの辺りにあると言っていましたから」
シアの探しているプレイヤー……グランギニョルの服装の設計図を描いたボンピュクスが、この辺りにある誰でも入れる建物で店を開いているらしいからだ。
「ふうむ……」
それにしても設計図か。
掲示板で少し調べてみたが、俺の想像以上に有用なアイテムであるらしいな。
単純に見た目にこだわりたいプレイヤーにとって、見た目を自由に変えられるのが良いと言うだけではない。
形が変わらないと言う事は、装備を更新し、材質が変わっても重量や可動域が変わらないという事であり、今までの装備とさほど変わらない感覚で操れるという事でもある。
そのため、その有用性に気づき始めた一部のプレイヤーの間では、優れた設計図を描けるプレイヤーは下手な生産専門よりも重要度が高いとして、軽い囲い込みのようなものも始まっているようだった。
「もう、誰かに囲われてしまったとかでしょうか……」
「まあ、グランギニョルの服を見る限り、腕は確かそうだしな。折り合いさえつけば囲われていてもおかしくはないが……」
まあ囲い込みが行われていると言っても、『AIOライト』はあのGMが管理しているゲームだからな。
プレイヤー同士できちんと折り合いがついているなら何も言わないが、プレイヤー間では解決できないような問題が起きた時には容赦がない。
職人が嫌がっているのに無理やり設計図を描かせたり、取引を勝手に制限した時にはあの制裁用NPCが出動する事もあるようだ。
掲示板でも既にマナーの悪い連中が何人か晒されていた。
「あ、マスター。あの建物……」
「ああ、それっぽいな」
と、此処で俺とシアの前で、複数人のプレイヤーが建物から出てくる。
彼らの服装は様々だが、どれもシステムによる自動生成で造られたとは思えないような統一感があった。
そして、何となくだが彼らの所属は一人一人違うような気がした。
「入れ……ますね」
「だな」
俺とシアはプレイヤーたちが出てきた建物のドアを少しだけ引いてみる。
すると扉は難なく動いた。
やはりここで当たりらしい。
「よし、入るか」
「はい」
此処で間違いない。
そんな視線を込めつつ俺とシアは一度頷き合うと、建物の中に入った。