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AIOライト  作者: 栗木下
2章:漁村ハナサキ
116/621

116:26-3

【AIOライト 26日目 11:53 (5/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】


「ふぅ」

「回復しましたね」

「だな」

 さて、無事にMPは回復した。

 これで後は普通の空の器と回復力溢れる刻の雫を錬金し、携帯錬金炉を作成するだけである。

 と言うわけで、一度俺は二つのアイテムを取り出し、普通に見てみる。


「見た目は特に変な感じはしませんね」

「だな。極々普通の赤い壺に、青い水って感じだ」

 普通の空の器の見た目は極々普通の赤い壺だ。

 よく見れば潮の花由来そうな白い粒が見えているが、それぐらいである。

 回復力溢れる刻の雫の見た目はもっと普通だ。

 プレングラスボトルに入った、ただの青い水と言う感じである。

 素材である回復力溢れる種子の姿は全くないし、見た目だけでは携帯錬金炉の素材になるような特別なアイテムとは思えない。


「マスター、一応聞いておきますが例の繋がりと言うのは……」

「この状態でも見えてないな。まあ、造れないだろうな」

「そうですか、それは良かったです。その……一度見ただけですが、アレは明らかに無茶でしたから」

「……」

 シアは心底安心したようにそう言う。

 その姿に俺は微妙に心苦しいものを感じるが……うんまあ、また作ることになったら、その時はちゃんと謝っておこう。


「あー、とりあえず始めるわ」

「はい、後ろで控えてます」

 さて、何時までも観察していても仕方がないので、錬金を始めるとしよう。


「まずは投入してっと」

 俺は普通の空の器と回復力溢れる刻の雫を錬金鍋の中に投入する。

 操作の設定はない。

 当然と言えば当然だが、何が出来るかは完全に固定であるらしい。


「続けて魔力を注ぎましてっと」

 続けて俺は魔力を注ぎ込む。

 MPの消費量は……最大MPの75%。

 やはり全快にしておいて正解だったか。


『これから表示される文章を打ちこんでください』

「さあ来い」

 問題はここからである。

 と言うわけで、俺は集中力を高め、真剣な顔つきで身構える。


『H1t0meha worldWo Seetena1 sHecaiwo miTeilun0Ha BreinDAl yUeni 2ImotoMelunarava ZoothuwoSGL sokoNido0rgaaLu』

「……」

 難しい。

 かなり難しい。

 打てるか打てないかで言えば打てるが、油断しているとあっという間に持って行かれそうでもある。

 そして集中しているからこそ思ってしまう。

 この表示されているメッセージに一体どんな意味があるのだろうかと。

 まあ、考えても仕方がない。

 俺は俺に出来る事をやるだけ。

 メッセージに何か意味があるのであれば、その解読は解読したい人に任せればいい。


「よし、打ちこみ終わり」

 やがてキーボードの打ち込みが終わる。

 後は反応待ちだ。


「お疲れ様です」

 半透明のウィンドウから錬金鍋に向かって光が放たれる。

 そして光が飛び込むたびに鍋の中で反応が進み、その余波として雷が飛び、炎が吹き上がり、風と共に砂が舞い、溢れ出た冷気によって空中に煌めく何かが生み出される。


「打ちこみが長かっただけに、やっぱり反応にも時間がかかるな」

「そうですね。いつもの倍以上はかかってる感じです」

 七色の光が曲線を描きながら飛びだしては、黒い球体が火の粉のように飛び散って虚空に消える。

 花が咲いては散り、鍋の中の水が揺れて渦を巻く。

 やがて鍋の水が減り始めると同時に小さな芽のような物が水面から顔を出し……、


「っつ!?」

「マスター!?」

 一瞬だけ俺は芽の中に見た。


「今の……は」

 無限の暗闇の中を漂う羊の頭を。

 失った左の目の分の視界を、七つある右の目で庇っている羊の頭を。

 こちらに向けて激しい憎悪の視線を向けてくる羊の頭を。

 鳴き声を上げられぬようにと口を縫い合わされた羊の頭を。


「マスター!?大丈夫ですか!?マスター!」

 シアが俺の体を激しく揺さぶってくる。


「あ、ああ、大丈夫だ。大丈夫だから落ち着いてくれ」

 だから俺は大丈夫だと返す。

 今、見てしまった物を忘れるように努めつつ。


「ほ、本当ですか?顔が真っ青ですよ……」

「ああ、大丈夫だ……」

 アレは拙い。

 アレはまだ知ってはいけない何かだ。

 だから今はまだ誰にも何も言ってはいけない。

 言えば……詰む。

 名の繋がりから辿られて詰まされる。

 だから語ってはいけない。

 絶対に。


「それよりも出来上がった物を確認しよう」

「は、はい……」

 俺は錬金鍋の中身を見る。

 するとそこには、芽のような物は既になく、代わりに中に透明な液体が入った茶色の壺が置かれていた。

 どうやら、無事に出来上がったらしい。

 と言うわけで、俺は詳細を確認する。



△△△△△

携帯錬金炉

レア度:2

種別:道具-調合

耐久度:100/100

特性:リジェネ(回復力を強化する)


携帯可能な錬金術の道具。

これさえあれば、非戦闘時にはどこでも錬金術によってアイテムを作り出す事が出来る。

自作したものであれば、製作可能な物の種類にも、耐久値の回復にも制限はかからない。

※デスペナルティの対象にならない

※入手者以外の所持不可能

※特殊インベントリ格納可

▽▽▽▽▽



「特殊インベントリ格納可……ああ、持ち物の枠を圧迫しないのか」

 詳細を確認した俺は携帯錬金炉をインベントリに収めてみる。

 すると通常のインベントリではなく、別の枠に収納され、通常のインベントリの容量は減っていなかった。

 うん、デスペナの対象外であること含めて、別枠になっているのは素直にありがたい仕様だな。

 常に一枠消費するつもりであっただけに本当に嬉しい。


「えーと、おめでとうございます。マスター」

「ああ、ありがとうな。シア」

 さて、これで俺たちの行動範囲は大きく広がる事になる。

 なにせ食料問題も、装備品の耐久値不足も、消費アイテムの不足も材料さえ入手できれば、現地で補う事が可能になるのだから。


「さて、明日からは忙しくなるかもな。だからこれからもよろしく頼むな。シア」

「は、はい」

 まず目指すべきは装備の強化。

 そして、その後はだいぶ昔に届いた気もしてしまうが、あのメッセージ……『汝、賢者の石を欲する者よ。賢者の石が欲しいならば、双角登り、千変万化する迷宮を抜け、碧玉の板に潜む双角の主を下し、汝が技を以って胴への鍵を手にせよ。胴の中心、かつて栄華を極めし都に汝が欲する者の手掛かりはある』の解明に挑むべきだろうな。

 きっと、それが物語を進める鍵になるはずだから。


■■■■■


【AIOライト 26日目 23:45 (5/6・晴れ) ???】


「あー、あー、チェクチェク。マイクチェック。よし、問題なし」


「『AIOライト』開始から丸26日になります。では、現在の状況について口頭にて記録を行います」


「現在の戦闘レベルトップは16。装備、アイテムの調達を完全に後方支援に頼る事によって、実現したようです。つまりは完全な戦闘特化です」


「現在の錬金レベルトップは17。こちらも完全な錬金特化です。素材の調達は全て他のプレイヤーに任せ、自身は錬金術師(アルケミスト)ギルドの部屋に籠っています」


「似たような事例は多数あり。どうやら、錬金と戦闘を完全に分けることによって効率的に攻略を行う事が出来るという判断をしたプレイヤーが多数発生したようです」


「これらのプレイヤーについては放置で。システム上、彼らは必ず詰まる事になりますので」


「現在の総合レベルトップは10/14の24。例の要注意プレイヤーです。レア度:(プレイヤー)(メイド)ホムンクルス作成による経験値稼ぎが大きいようです」


「要注意プレイヤーのフォロワーは未発生。ですが、発生の兆しはあります」


「アルカナボスは0、1、2、3、の四体の起動を確認。現在は待機状態に入り、プレイヤーを待ち構えています」


「では、今回の記録は終わります」

ようやく完成です

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― 新着の感想 ―
[一言] 待機状態とか不穏だなー
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