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AIOライト  作者: 栗木下
2章:漁村ハナサキ
108/621

108:23-1

【AIOライト 23日目 07:27 (4/6・晴れ) 北の湿地】


「こりゃあ凄い……」

「本当ですね……」

 翌日。

 俺とシアは普通の適水粉をそれぞれ4個ずつ、プレンホワイトフラワロッドをシアに持たせて、北の湿地にやってきていた。

 で、今は北の大門近くの『巌の開拓者(ノーム)』の支部をギルドポータルに登録し、北の大門から外に出た所だった。


「と言うか、これを対策なしで進むのは無理だな」

「そうですね。ただただ無謀だと思います」

 さて、北の湿地だが……まあ、だいたいは事前情報通りだ。

 大門の周り半径50メートルぐらいは短い草の生えた普通の地面。

 そしてその先は、日によって深さが変わっているとしか思えない(あし)系の植物の生えた沼地と、迷路のような複雑さを伴って沼地を区切る泥の道がひたすらに続き、沼の中などから突然モンスターが襲い掛かってくると言う、初期から行けるマップの中では特にいやらしいマップである。

 なお、当然と言えば当然だがプレイヤーの数は他のマップに比べて段違いに少ない。


「じゃ、まずは『スィム』を少し試してみるか」

「分かりました。では、『スィム』」

 シアが起動文を唱えると同時に、俺の足の辺りに水色の光が舞う。

 さて、これでどうなるだろうな?

 沼地の深さは浅いところならば足首より少し上程度らしいが、深いところだと肩まで浸かったりするらしいからな。

 油断は出来ない。


「じゃ、入ってみる」

「はい、お気をつけて」

 俺は沼地の中に入ってみる。

 深さは……膝上ぐらいか。

 多少の冷たさは感じるが、雨に打たれている時のような危険さは感じない。

 そして歩くのも、多少は歩みが遅くなっている感じはするが、足を止めて戦う事ぐらいは出来そうだった。

 どうやら、きちんと『スィム』の効果によって水場で活動する能力を得られているらしい。

 後はこの効果がどれぐらい残るかだが……。


「「……」」

 俺は沼地の中を、シアは俺の横に走っている泥の道を、何時『スィム』の効果が切れてもいいようにゆっくりと歩いていく。


「と、切れたか」

「大丈夫ですか?」

「ちょっと待ってくれ」

 と、十分程歩いたところで『スィム』の効果が切れたらしい。

 一気に足取りが重くなり、沼の冷たさが足に伝わってくるようになる。

 なので俺は沼から上がり、自分の状態を確かめる。


「どうやら問題は無さそうだ」

 脚装備に泥は付いていない。

 どうやらここはゲーム的な仕様でもって、泥が付かないようになっているらしい。

 体の冷えも既にない。

 これならば、問題は無さそうだ。


「シアの方は大丈夫か?」

「問題ありません。MP、耐久度、共に殆ど消費は無いです」

 シアの方も問題はなさそうだった。

 視界を左上隅に向けてみれば、確かにシアのMPは5%程しか減っていない。

 どうやら『スィム』は魔法の中でも消費がかなり軽いらしい。

 代わりに効果時間は10分と、普通の適水粉の6時間と比べたらかなり短いようだが。


「ゲコォ!」

 と、ここで沼の中から巨大なカエル……プレントードLv.1が飛び出してくる。


「おっと」

「ゲゴォ!?」

 なので俺は左手の短剣を突き刺して怯ませると、短剣を振り抜くのに合わせて体を回転させ、右手の斧でプレントードの側頭部を打ち抜いてやる。

 で、それだけでプレントードのHPバーは尽きた。


「やっぱり敵は弱いですね」

「まあ、最初期のマップだしな」

 剥ぎ取りは……いいか。

 インベントリの容量もないし、今更特性も付いていないレア度:1の素材を手に入れても使い道なんてほぼ無いだろうしな。

 と言うわけで俺とシアはそのまま北の湿地の奥地に向けて足を進める。


「ここからは適水粉を使うしかないみたいですね」

「だな」

 そうしてしばらく歩いていると、やがて泥の道が途切れ、見渡す限り沼地しかない場所に出る。

 どうやらここから先は対策をしている事が前提であるらしい。


「今の時間は8時ちょっと過ぎですね」

「分かった。なら14時になったら教えてくれ。その時点から反転を開始して、街に戻る」

「分かりました」

 俺とシアはインベントリから普通の適水粉を取りだすと、それぞれ自分に使用する。

 そして、真北の方に向けて沼の中を慎重に進み始めた。


----------


【AIOライト 23日目 14:00 (4/6・晴れ) 北の湿地】


「マスター、14時です」

「分かった。あそこに泥の道があるようだから、一度そこに上がろう」

「分かりました」

 襲い掛かってくる雑魚を一蹴しながら歩き続ける事およそ六時間。

 俺とシアは変化らしい変化すらもない沼地を歩き続けていた。


「ふぅ、流石に疲れるな」

「ですねー……」

 うん、本当に変化はなかった。

 何処まで行っても膝から下は茶色く濁った水で出来た沼、沼、沼。

 沼の上に出ているのはモンスターか、自動生成ダンジョンの入り口か、葦あるいは休憩用であろう小さ目の泥の島であり、南の森林の茨のような特徴のある物体は何も無かった。


「適水粉はそれぞれ後一つずつ……今日はもう撤退だな」

「そうですね。そうするしかないと思います」

 あれだけ苦労して歩き続けたのに何も無いというのは、中々に精神的に来るものがある。

 と言うか此処まで何も無いと、ルートを間違えているのではないかと思ってしまう。

 それと、いっそ西の大門か東の大門から外に出て、エリアの境界沿いを北上した方が楽かつ速いのではないかとも考えてしまう。

 いや、実際速いかもしれない。

 うん、明日からはそうしよう。

 俺たちが今居る場所がどのあたりなのかはマップにもきちんと表示されているしな。


「あれ?マスター」

「ん?どうした。シア」

 と、ここでシアが何かに気づいたように俺の背後の方を指さす。


「あそこの沼、色がおかしくないですか?」

「んー?」

 なので、俺もシアが指さした方を向く。

 すると確かにそこの沼の色はおかしかった。


「黄色……ですよね」

 他の沼が茶色であるのに対して、シアが指さした沼は完全な黄色だったからだ。


「だな、ちょっと行ってみるか」

「はい、分かりました」

 何も発見せずに帰るのは流石に嫌だ。

 だから何かはあるであろうその沼だけは調べたかった。

 そんな俺の考えがシアにも伝わったのかは定かではない。

 いずれにしても調べるべきではある。

 そう判断して、俺とシアはその黄色い沼に近づくことにした。

09/05誤字訂正

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