シュウ〜恋をした悪魔〜
俺の仕事。
それは、殺人者を抹殺すること。
人を殺したヤツは、殺されて当然。
それが世の習わしだって言うのに、いつの間にか人を殺しても何年か税金を使って規則正しい生活をしたら下界に戻れる世界になってしまったんだ。
おかしいじゃないか。
だから、俺が世を正すことにしたんだ。
この仕事には相棒が必要だ。
相棒のシャムだ。
コイツは血の臭いに敏感だ。
殺人が起これば、その匂いを嗅ぎつける。
この国でしか感知できないが、とりあえずは自分のいる世界から変えてみようと思ったんだ。
今もシャムが血の臭いを感じた。
俺は人間じゃない。
人間の上にいる、新しい生き物なのかもしれない。
俺はどこで生まれたのか。
親がいないからわからない。
昔の話はもういい。
ただ、俺は一瞬で殺人の現場に行ける。
なぜかはわからない。
そこで殺人者の首を切る。
それでおわりだ。
今日の役目が終わった。
外に出ると、すっかり日が暮れているのに女性が歩いている。
「すみません・・・」
話しかけられたが、ここで姿を見られては俺の正体が世間にさらされる原因になる。
俺はその場を立ち去った。
近くの公園に身を潜めた。
今日はここにするか。
俺には家は無い。
毎日どこかで殺人が起こるからだ。
「あの・・・」
さっきの女性だ。
やっかいだな・・・。
「道に迷ってしまいまして、どうかここに連れて行っては頂けないでしょうか。」
女性はフラフラしている。
よく見ると、両目を閉じている。
「私、目が見えないんです。杖を無くしてしまって家に帰れないんです。」
公園の電灯に照らされた彼女は荷物を持った両手を前に出し、こちらに近づいてきていた。
「わかりました。」
彼女から地図を受け取り、目的地に向かった。
「こうゆう時のために地図を持ち歩いているんです。」
彼女が言った。
「そんなもの持っていても、誰も連れて行ってはくれないだろう。」
正直な意見を言った。
世の中そんなものだと思っている。
「そうですね。」
彼女は苦笑いしていた。
到着したら、彼女は何度も頭を下げて家に入って行った。
シャムがまた血の臭いを感じた。
俺は次の役目を果たすため、そこを立ち去った。
『またしても、ホミサイドハンターの出現です。』
殺人者をホミサイドと言う。
世間は俺のことをホミサイドハンターと呼んでいる。
ここまでしているのに、殺人は無くならない。
ガラスに写った自分を見る。
全身黒だ。
いつから着替えていないんだ。
まあそんなことはどうでもいい。
シャムがまた臭いを感じた。
俺は向かった。
役目を終えて、俺は気の向くままその場を立ち去り、歩いていた。
すると、昨日の女性に会ってしまった。
「あ、また逢いましたね。」
女性が話しかけてきた。
俺は逃げた。
気がつくと昨日の公園にいた。
なんでこんなところに来てしまったんだ。
公園のベンチで一息ついた。
「なんで逃げるんですか。」
彼女が目の前にいた。
驚いたが、逃げられないと思って俺はそのまま座っていた。
すると彼女が隣に座った。
「昨日は本当にありがとうございました。」
「いえ・・・なぜあんな時間に?」
俺は何で話をしているんだ。
「母がいるんですけど、腰を痛めてまして。急に部屋の電気が消えてしまって、電球を買いに行っていたんですよ。」
「そうですか・・・。」
何を和んでいるんだ。
早くここを立ち去れ。
「うち、日当たりの悪い家なので、電球は絶対に必要なんです。」
この女の話は終わりそうにないぞ。
「私、こんななので、今は按摩の専門学校に通っています。あ、私はアユミって言います。あなたのお名前はなんですか?」
俺の名前・・・。
・・・。
何だ?
俺の名前は何なんだ?
思い出せない。
名前なんて捨てたってことか。
「シュウ・・・。」
適当に答えた。
「シュウさんって言うんですね。もし良かったらもう少しお話してくれませんか?」
シャムを見た。
シャムは何事もなくあくびをしている。
少しの間ならいいか。
「はい。」
俺はアユミと話をすることにした。
「うちの話をしていいですか?」
「あぁ。」
「うち、すごく貧乏なんです。母はいつもは元気なんですけど、働きすぎて腰を痛めてしまって、1か月くらい寝たままです。」
「そうですか。」
「父は私が小学生の時に病気で亡くなりました。」
「はぁ。」
「私の目は、生まれた時から見えないみたいです。」
「はぁ。」
「あの・・・」
「はい?」
「ほんとに話してていいんですか?」
「いいですよ?」
「そうですか・・・。なんか、迷惑とかだったら言ってくださいね。」
「はい・・・。」
「シュウさんっていつもどんなことをしてるんですか?」
「・・・・。」
何て言えばいいんだ?
「特に・・・。」
「仕事とかは?」
「ちょっと特殊な仕事をしてます。」
「特殊な仕事ですか!なんかカッコいいですね。」
カッコいいか・・・。
ちょっとニヤけた。
「どこに住んでるんですか?」
「あぁ、まぁ・・・。」
「この辺ですか?」
「あ・・・そうだね・・・」
「そうなんですか!もし良かったら明日もこうやってお話できませんか?」
「いいですよ・・・。」
俺はなぜかそう答えて、アユミは帰って行った。
その日は何も無く、俺はこの公園で寝た。
次の日、アユミが来た。
「ごめんなさい、待ちました?」
「いえ・・・」
珍しくシャムが何も言わない。
そうゆう時は暇だ。
「母が立ち上がれるようになったんですよ。」
「それは良かったですね。」
「はい!」
アユミの笑顔に癒されている俺がいる。
俺はどうしてしまったんだ。
まさか、この盲目の女に惚れてしまったってゆうのか。
「子供って元気ですよね。」
前を見ると、子供が走り回っている。
もちろんアユミには見えていないはずだが。
「こうやって子供の遊んでいる声を聞くのが好きなんです。」
「へぇ、そうですか?」
俺には何とも思わない音だが。
「本当は目が見えたら、保母さんとかそうゆう仕事をやってみたかったんですけどね。」
アユミは少し寂しそうだった。
俺は何て言っていいのかわからず、ただ黙っていた。
「シュウさんは子供のころは何になりたかったんですか?」
何だろう。
相変わらずよくわからない。
「正義の味方?」
とりあえず言ってみた。
「何ですかそれ。」
アユミは少し笑った。
笑わせようと思って言ったんじゃないんだけど。
「子供の頃の夢を叶える人って少ないですよね。そうゆう人は羨ましいですね。」
「そうですね・・・。」
公園を出る彼女のうしろ姿がちょっと暗く見えた。
シャムが感じた。
俺はそこに向かった。
相変わらず救えねえな。
こうゆうヤツらの首を切るのは本当にスッとする。
目には目を。歯には歯を。
それが人間の社会を成り立たせる最も効率的な方法なのに。
それがなぜ無くなってしまったんだ。
理解に苦しむ。
俺はただの殺人鬼じゃない。
ホミサイドハンター。
殺人者しか狙わない。
殺人者には殺人を。
俺はまたあの公園にいた。
そこに今日も彼女がやってきた。
別に約束したわけじゃないけど、なんとなく。
「今日も来てくれたんですか?実は今日もここに来てくれそうな気がして、来ちゃいました。」
そう言って笑うアユミに癒された。
俺は、たぶんアユミに会いたかったからここにいるんだろう。
言いすぎかもしれないけど、この笑顔はこの世界のオアシスとさえ思えた。
が、さすがに話題が無い。
俺の話をしてやろうか。
もちろん本当のことは言わない。
ちょっとした作り話だ。
「今日は俺の話をするよ。」
「うん。」
「俺の家は、すごく金持ちなんだ。俺は学校で成績も一番で、いい学校に行って、いい会社に入ったんだよ。」
「へ〜。すごいね!」
「趣味はボランティアでね、老人ホームや障害者施設にもよく行ってるんだ。」
「すごい!いい人だ!」
「あとは・・・」
何も思いつかない・・・。
俺は、なんで嘘をついてまで自分をカッコよく見せたいんだ。
アユミにどう思われようと、そんなこと俺には関係ないはずなのに。
やはりこんな話をするんじゃなかったか。
「私も、目が見えたらボランティアとか人の役に立ちたいなって思うんだけどね・・・やっぱりこんなんじゃ逆に助けられちゃう立場だからね。」
そんなつもりで話したんじゃないんだけど。
そのあと、すこし沈黙が続いてしまった。
失敗した・・・。
「じゃぁ、私が話そうかな。」
アユミが話を切り出した。
「私の昔の話をするね。」
「あぁ。」
とりあえずいつものようにアユミの話を聞くことにした。
「私は生まれた時から目が見えなくて、母も父も見たことが無いわ。もちろん私自身の顔もわからない。だから、どうせ見えないんだから、想像してるの。ちゃんとした人間の顔をしていないかもしれないけど、自分の顔は私の中で一番の美人の顔を想像してるの。」
そう言って笑うアユミは結構美人だ。
「実際も美人だよ?」
正直に答えてみた。
するとアユミの顔がものすごく赤くなった。
「な、何言ってるの!お世辞はいいよ!」
すごく赤くなったアユミはかわいかった。
「小学校の時にお父さんが死んで、お母さんと2人になって、それからはとにかく貧乏でね。私も苦労したつもりだけど、やっぱりお母さんはもっと苦労したんだろうな、って思うと、将来は楽をさせてあげたいな、とか思うんだけどね。実際は無理だね、きっと。」
なんで世の中は不公平なんだ。
こうゆう人たちにもっとお金を分けてあげられたらいいのに・・・。
「あ、でもね。お父さんもお母さんも、私のことをすごく大事にしてくれてるって感じてたから、私はとっても幸せなんだよ。」
何でそう思えるんだ。
もっとひがんでもいいと思うんだけどなぁ。
アユミは欲の無い、汚れの無い真っ白な人だ。
そんな人が世の中にいるなんて思わなかった。
だからアユミといると癒されるのかな。
「私の昔の話って言っても、そんなにおもしろくなかったね。」
「そんなことないよ。」
「シュウくんの昔はどんな感じだったの?」
「俺・・・」
昔のことはわからない。
「シュウくんの昔の話が聞きたいな。」
アユミにそう言われて思い出そうとした。
しかし、そうすると頭が痛くなる。
俺が下を向いていると、アユミは話題を変えてしまった。
「ホミサイドハンターって知ってる?」
「あ、あぁ・・・」
よりによってこの話題か。
「すごいね。人殺しが殺されるって。」
「そうだね。」
「あれってやっぱり組織なのかな。だって、どこでも殺されちゃうし。」
「確かにそうだ。」
「学校でもみんなホミサイドハンターのこと話してるんだよね。」
「へぇ。」
「私、ホミサイドハンターと話がしてみたいな。」
「え?」
アユミの意外な意見に驚いた。
「怖くないの?人を殺すんだよ。」
「そうだけど・・・。」
「変わってるね。」
「えぇ。私は変わり者ですから。」
アユミはそう言って笑った。
その時シャムがまた感じた。
「俺、用事あるから・・・」
そこを離れようとしたとき、アユミが言った。
「明日もお話しましょう。」
俺は返事をせずにその場を立ち去った。
俺はホミサイドハンター。
これ以上アユミとは関わらない方がいいと思う。
アユミのそばにいると、人を殺せなくなる気がする。
アユミはそんな力を持っていると思った。
アユミは、きっとホミサイドハンターに会ったらこう言うだろう。
「もう人を殺すのはやめて。」
俺は頭が痛くなった。
考えるのをやめて、シャムと血の臭いのするところに向かった。
俺は殺人者の首を切る。
いや、実際にはそのイメージだけが頭にあるだけだ。
気がつくと、既に殺人者は目の前で死んでいる。
俺はどうやって殺しているのか、覚えていない。
ただ、首を切った、と思いこむ。
今日も、気がつくと殺人者が倒れている。
その周りにはおびただしい量の血が流れていた。
俺は頭で殺したことをイメージして、その場を去った。
シャムが俺の後をついてくる。
いつからコイツは俺の後をついてくるんだろう。
俺には本当に過去は無いのか?
俺の過去・・・。
いつかのように、鏡に映る自分を見た。
前と同じ服装だ。
全身黒い。
この服はどうしたんだ。
俺は何者だ。
考えるとやはり頭が痛くなる。
近くの木の陰で腰をおろした。
シャムが俺の横に座った。
「ニャー」
そう言って尻尾を丸めて寝てしまった。
シャム猫じゃない、ただの雑種の猫なのになんでシャムって名前なんだ。
なんで俺はホミサイドハンターなんだ。
そんなこと考えたこともなかったのに、アユミに会って俺は変わってしまった。
アユミが俺の過去を知りたいって言っていた。
なんで過去のことなんか知りたがるんだ。
やめてくれ。
そう思いながらそのまま眠ってしまった。
次の日、俺はアユミの公園にいた。
が、アユミのところには行かなかった。
アユミは一人でベンチに座っている。
俺はそれを遠目に見ていた。
これ以上アユミに関わると、俺は俺でなくなってしまう。
そう思うと、俺はその場から動けなかった。
すると、アユミがこちらに向かってくる。
「なんで遠くからずっと見てるの?」
アユミは俺がここにいることをわかっていたんだ。
「俺・・・」
黙っている俺に、アユミは見えない目で俺をみつめた。
「今日は都合が悪い?」
「そうじゃない。」
「じゃぁ、私のこと、ウザくなった?」
「そうじゃないんだ!」
俺は公園を出ようとした。
「明日はちゃんといつもの時間に来てね!」
彼女はそう言った。
俺は返事をしなかった。
俺は公園を出た。
その時、俺の横を1台の原付がかすめた。
何かを感じて後ろを見ると、原付は彼女を轢いて彼女の鞄を奪って逃走した。
彼女が倒れた。
俺は動けなかった。
前の家の人が、異様な衝突音を聞いて出てきた。
そのまま救急車が来て、彼女は運ばれて行った。
俺はまだ動けないままだった。
その時、シャムが血の臭いを感じた。
別の場所だった。
でも俺は行けなかった。
その日からシャムはいなくなった。
気がつくと病院の中にいた。
彼女が寝ていた。
死んでいなかった。
あれから何日たっただろう。
傍らでお母さんらしき人が泣いている。
アユミは目を覚まさない。
警察の人が病室に入ってきた。
犯人が捕まったとのことだった。
連続ひったくり魔だそうだ。
フラつくアユミを勢いで轢いてしまったらしい。
犯人はどこにいるんだ。
俺はその警察について行った。
すると、犯人は留置場にいるとわかった。
写真で顔も確かめた。
俺はその留置場に行った。
アユミを轢いたヤツを探した。
夢中で探した。
その間の記憶が無いくらい必死だった。
気がつくと、ヤツの前に立っていた。
「おい、お前。」
話しかけても返答がない。
俺のことなんで見えていないみたいだ。
俺はヤツの頭を掴んだ。
そして、次の瞬間・・・。
目の前に誰もいない。
場所は同じだ。
近くにあるガラスを見た。
アユミを轢いたアイツの顔だ。
なんで?
そうだ。
俺は思い出した。
俺は、死んだんた。
あの時、殺された。
1年前、家に帰ると様子がおかしかった。
「お母さん?」
呼んでも返事が無い。
居間に入った。
「シャム?」
シャムは、うちの猫だ。
シャムって言ってもシャム猫じゃない。
ボクが拾ってきた猫だ。
拾ってきたときは、シャムのことをシャム猫って思いこんでいたのに、次の日お父さんがそれは違うよ、って。
でも名前を変えることができなくて、シャムになっちゃったんだ。
いつもボクのそばにいるシャムがいない。
台所に行った。
すると、お母さんが倒れていた。
「お母さん!」
起こそうとしても、お母さんは動かなかった。
足元を見ると、血がいっぱいだった。
怖くなって居間に逃げた。
すると、手に毛の感触があった。
シャムだ。
「シャム、何があったんだよ!」
シャムも動かない。
口から血を流している。
怖くなって家を出ようとした。
「シュウイチ。どこ、行くの?」
振り返ると、お父さんがいた。
「お父さん!お母さんが!シャムが!」
お父さんに駆け寄ると、胸に激痛が走った。
お父さんから離れると、その手には血がべっとりついた包丁が握られていた。
ボクの服があっとゆう間に真っ赤になって、立っていられなくなって倒れた。
「お父さん、お仕事無くなっちゃってね。もう生活できないから、みんないなくなろうな。」
そう言ってお父さんは目の前に立っている。
ボクがもっと大人だったら、お父さんはそんなこと思わなかったんじゃないのか。
なんでボクたちまで殺したんだ。
なんで生活できないとか言うんだ。
意識が無くなる瞬間、気がつくと、ボクは立っていた。
目の前に人が倒れている。
ボクだ。
そこには、ランドセルを背負った9歳のボクが倒れていた。
走って洗面所に行って鏡を見た。
そこには、お父さんがいた。
何が起こったのかわからない。
ただ、ボクはお父さんを許さない。
持っていた包丁で自分の首を切った。
次の瞬間、ボクは玄関の外にいた。
横には、倒れていたはずのシャムもいる。
ボクは大人の姿をしていた。
ボクは死んだ。
その日から、人を殺す人が許せなくなった。
ボクはどこにも行けなかった。
心だけがここにあった。
心の闇のまま、殺人者を殺した。
全部思い出した。
俺は目の前のガラスを割った。
コイツは殺人者じゃない。
でも、どうしても許せない。
俺はどうしたらいいんだ・・・。
その時、物音に気付いた警察官がこちらに走って来のがわかった。
「うわぁぁぁ!」
どうしていいのかわからないまま、俺は叫んだ。
そのままガラスの破片を首にあてた。
到着を待たずに、俺は自分の首を切った。
気がつくと、留置場の外にいた。
俺は病院に戻った。
アユミはまだ寝ていた。
俺は、人殺しじゃない人を殺してしまった。
世の中のために頑張ったはずだったけど、結局は自分のためにやっていたんだとわかった。
お父さんが許せなくて、どこにも行けない俺の心が他の殺人者をお父さんとダブらせていたんだ。
そっとアユミに近づいた。
もちろん、横にいるアユミのお母さんにも看護師さんにも、俺の姿は見えていないみたいだ。
なんで、アユミは俺を感じることができたんだろう。
「アユミ・・・目を覚まして。」
俺はアユミにキスをした。
アユミは目を覚まさない。
涙が出てきた。
アユミはずっとこのままなのかな。
俺はどうなるんだ。
誰にも気づいてもらえず、消えることもできない。
永遠に彷徨い続けるのかな。
俺の目から涙がこぼれた。
その涙がアユミの頬に落ちた。
その時、アユミが目を覚ました。
「アユミ!」
アユミのお母さんと看護師さんが慌ただしくなった。
俺は、もうここにいられない。
俺は病室を出ようとした。
「シュウ!」
アユミが俺の名前を呼んだ。
アユミはやっぱり俺を感じてくれていた。
「アユミ、シュウって誰?」
「そこにいる男の人よ。」
アユミのお母さんと看護師さんは不思議そうな顔をしていた。
俺は走ってその場を去った。
走って病院を出て、これからどうしたらいいのかわからない俺は、ふらふらと歩きまわった末にとりあえずあの公園に行った。
すると、そこにはアユミが座っていた。
「やっぱりここに来た。」
アユミはすぐに俺を見つけて、こちらに近づいてきた。
「ごめんね、シュウ。心配かけたね。」
そう言って笑うアユミを抱きしめた。
「俺の見た目・・・どんな感じだと思う?」
驚いたアユミが、静かに答えた。
「ちょっと陰があって、背は私よりも少し高くて、年齢は私と同じくらいかな。で、すっごくかっこいいって思うよ。」
「ボクは本当は9歳の小学生だとしたら?」
「え?」
ボクの目は、涙でいっぱいになってしまった。
アユミは少し黙った後、こう答えた。
「じゃぁ、私は十歳も年下の小学生に恋をしちゃったってことになるね。」
その時、自分の体に異変を感じて、アユミから離れた。
自分が消えてしまいそうな感覚。
ボクは、このまま消える。
そう確信した。
いっぱい悪いことをしたから、天国には行けないかな。
でも・・・良かった。
「アユミ。ボクとたくさんお話をしてくれてありがとう・・・。」
自分の身長が低くなっていくことを感じた。
手を見ると、ほとんど透明になっている。
「どこ行くの?」
アユミが心配そうな顔をしていた。
「アユミのおかげで、アユミに恋をして、本当の自分に戻れたと思う。」
そして、本当の自分に戻って、ボクは本来の道を進むことができるようになった。
「ごめん・・・ボク、もう死んでるんだ・・・。」
「え?どうゆうこと?ユーレイってこと?」
「アユミ、大好きだよ。」
ボクはほとんどなくなってしまっていく。
アユミのことも見えなくなって、最後に聞こえた。
「シュウ!いなくならないで!ユーレイでもいいからそばにいてよ!」
アユミは泣いていた。
そしてボクは消えた。
ボクの初恋と一緒に、ボクは新しい道を歩き出した。