七 クラスメイトに殺されそうになる話
――その男はかつて勇者の仲間であった。
男は勇者と出会い、共に数々の魔物をほふった。
男は苦難の道を勇者と助け合い、肩を並べながら進んだ。
そして男は、遂に魔王の喉元へと刃を届かせるところまで辿り着いた。
しかし男は勇者共々、魔王に敗れて呪いをかけられた。
――男は呪文を唱える。
その男は天才だった。
「魔王に勝てぬのならば、魔王に勝てる者を連れてくればいい」
思い起こすのは、魔王が異世界より召喚したというあのオーク。
「異世界の者は皆強い魔力を持つに違いない」
そう考え、男は二年の年月をかけて召喚術を極めた。
そして――。
「――見つけた。
これがかつて、魔王が召喚によって開けた、異次元とを繋ぐ穴の残照」
男はその残照をたどり、再び異世界との間に穴を開ける。
「出でよ、真の勇者達よ」
多ければ多いほどいい。
そんな安易な考えのもと、男は、異世界から大量に人間を召喚するのであった。
◇◆
俺は日本の公立高校に通う、ごく一般的な高校三年生だ。
今日も元気に学校に通い、今は授業と授業の間の休み時間である。
「おい、豚田ァ!」
席に座り次の授業を待つ俺。
後ろからは、如何にも馬鹿っぽい……というか、馬鹿の声が聞こえてくる。
ちなみに俺は豚田などという名前ではない。
「うんこまん、こっちむけよ!」
当然うんこまんなどという名でもない。
「ストリップショーやれや! おら!」
誰がやるか、しね。
そして俺の後頭部に、クラスの馬鹿が投げた丸めた紙屑が当たる。
そう、俺は二年前のあの事件以来、豚田やうんこまんなどと言われ、ずっといじめられていたのだ。
つまり、なにもかもがあの魔王のせいである。
あのゴミ糞魔王さえ俺を召喚しなければ、こんな豚田などと……。
いや、それは前から言われていたけれども、まあ、ここまで俺がいじめられることはなかったはずだ。
おまけに向こうで習った魔力も、こっちの世界ではてんで使えなかった。
俺をいじめる奴等にむかって「くらえ! はぁ!」とか言って、手を突き出したのなんかは完全に黒歴史だ。
「くそっ、これも全部魔王のせいだ」
俺は机にうずくまりながら、ぶつぶつと魔王への呪詛を呟く。
「やだ、また豚田がぶつぶつ言ってるよ」
「きもーい」
しね、糞女共。
この学校に俺の居場所はない。
かといってズル休みでもしようものなら、親に飯抜きにされてしまう。
今は堪え忍ぶ時。
あと半年、そうすればこの腐れ学校とはおさらばだ。
だから俺は今日も寝た振りをする。
「おーい、始めるぞー」
やがて授業開始のチャイムと共に教師がやって来た。
俺は顔を上げようとして――その時だった。
突然、目の前の景色が変わったのは。
「――え?」
その呆けた声は誰のものだったか。
少しして、クラスの馬鹿共が我に返り、叫び始める。
「なんだこれ!?」
「おい、俺達学校にいたはずだよな!?」
「やだ、どこよここ!?」
馬鹿共の狼狽える声が聞こえる。
なんたるビビりっぷりであろうか。
俺の口からは、ふふふ、と笑い声が漏れるのは仕方がなきこと。
何故なら、俺はこれを知っているからだ。
ここは魔王の――
「ようこそお出でくださりました、勇者様方」
――って、え?
後ろから聞こえてきた声。それは、魔王のどっしりとして気持ちが悪い声とは違った。
思えば周りの景色も、魔王がいた真っ白い空間とは違って、大きな部屋だ。
おまけに床には魔方陣みたいなのが描かれている。
とはいえ、先程聞こえた声に聞き覚えはある。
はて、誰の声だったか。
「ん? おや? そこにいるのは……」
俺は後ろから聞こえる声に振り向いた。
そこにいたのは――。
「げえっ、男神官!」
「げえっ、オーク!」
俺と男神官の声が重なった。