二十八 幕間 日本では
・日本の話が三本続きます
初回はなんか説明文ぽくなってしまいましたm(__)m
・あらすじのところから、毎日更新を削除しましたm(__)m
できるだけ毎日更新をするつもりですが、文章がうまく書けなくてどうしようもない時はご勘弁くださいm(__)m
日本中を震撼させた集団失踪事件。
その熱が冷めやらぬ中、日本では更なる波乱が起きようとしていた。
これは集団失踪事件のただ一人の帰還者――豚田が、異世界に再び戻った頃のことである。
◇◆
豚田がいなくなった日の翌日、その家族から一件の捜索願いが警察に出された。
まさかの二度目の失踪である。
警察はすぐさま豚田の捜索に取りかかった。
しかしこの時、既にインターネット上では豚田について騒がれ始めていたことを警察はまだ知らない。
「まじかよ、これ」
「いやあ、さすがに嘘っぱちでしょ」
失踪事件の唯一の帰還者である豚田の手紙、それがインターネット上の幾つかのサイトに貼られていたのである。
そこにはマスメディア、警察、失踪被害者の家族などから受けた、数々の被害が克明に記されており、最後には、まるで自殺をほのめかすような文章が書かれていた。
悪ふざけにしては不謹慎で、あまりにも度が過ぎている。
されどネット住民達はそれを面白半分に各所へ貼り付けていった。
たとえ偽物だとしても俺は悪くない、こんなふざけた物を書いて送ってきた奴が悪いんだ、という自分勝手な気持ちで。
しかしあいにくとそれは本物。
間もなく警察から、豚田が再び行方不明になったことが公表され、これにより手紙が真実であったことを知ったネット世界はこれ以上ないほどに沸きに沸いたのであった。
そして、一足遅れてマスメディアや警察署、市役所、それになんの関わりもない一般人へと豚田の手紙が届くことになる。
警察署長はその手紙に目を通して、そしてギョっとした。
テレビ局の社長もまた手紙を読み、目を丸くさせた。
新聞社、週刊誌の責任者も同様である。
いなくなった豚田が残した手紙。
それは自分達を痛烈に非難するものであったのだ。
まるでそのせいで豚田がいなくなってしまったかのように。
これが表に出ればどうなるか。
言うまでもなく世論からの批判は避けられないだろう。
ならば取るべき手段はただ一つ――それは、隠蔽。
警察もマスコミも当たり前のようにその豚田の手紙を見なかったことにしたのである。
しかし、時既に遅し。
インターネット上では、豚田の手紙でもはやお祭り状態。
そしてそれは現実世界にも飛び火する。
一本の非難の電話を皮切りに、警察署やマスコミ各社では豚田への対応を咎める電話がひっきりなしであった。
さらに名指しで批判されなかった週刊誌も動き出す。
『残された手紙! B少年の行方不明の原因に迫る!』
――と題した記事を、ある週刊紙が六ページに渡り掲載。
そこには、手紙の全文に加えメディアの行き過ぎた報道や、警察の苛烈な取り調べを糾弾する内容が書かれていた。
これにより豚田の手紙は一般大衆の知るところとなり、手紙に書かれていた者達は責任の追求を免れ得ない状態となったのである。
すると、こうなっては致し方なしといわんばかりに、各組織はそれぞれ思い思いの対処を行った。
大手マスメディアは自分のことを棚にあげ、警察と失踪被害者の父母会をそれとなく非難した。
父母会は、インターネット上に被害者の特設ページを開き、そこで大手マスメディアと警察を叩くと共に、会見を行って自らの潔白を訴えた。
警察に関してはどこも非難することなく、ただ、豚田に対して適切な取り調べを行ったと、己を正当化する発表を行った。
――なんという面の厚さであろうか。
彼らが行った対抗措置はなんと罪の擦り付け合いであったのである。
もちろんこんな茶番に騙される者はおらず、世論は実に冷ややかな目でその“言い訳”を聞いていた。
さらにこの三組織はネットの各掲示板で工作活動を実施する。
だが、ネット世論は三組織全てが悪いとしており、擁護する者がいればその者は工作員として扱われていた。
しかし、そんなお祭り騒ぎも一ヶ月もすれば沈静化。
熱しやすく冷めやすいというべきか、日本社会において集団失踪事件そのものが忘れ去られつつあった。
その時である。
行方不明であったうちの一人の少女が見つかったのは。
無人の教室に現れた遠藤佳代。
彼女は、学校から連絡を受けた家族にすぐさま保護された。
警察にも連絡がいき、佳代に関しての警察発表もされたが、豚田の件を鑑みて情報公開は最低限に留められている。
また、警察は内々に取材等の自粛を各報道機関に伝達。
それぞれの報道機関はここでまた問題を起こせばそれこそ非難は免れないと考え、それに大人しく従うことになる。
そして、警察は遠藤佳代の取り調べ……というよりも、自宅での親同伴の聞き取り調査を行った。
これもまた、豚田の件を反省しての配慮である。
遠藤佳代は、何があったのかを嘘偽りなく話す。それが贖罪であるかのように。
やがて話を聞き終えた時、両親も警察官も顔を驚愕の色に染めていた。
まず両親。
彼らは失踪被害者の父母会に所属し、唯一の帰還者である豚田を責め立てていた。
しかし、娘より聞かされた話はとても豚田を責められるものではなかった。
むしろ豚田以外のクラスメイトこそが非難を受けるべきであり、さらに娘にとって豚田は救世主といってさしつかえない人間であったのである。
次に警察。
こちらは豚田を取り調べた際と同じ内容の話に戸惑っていた。
異世界のことについてはともかくも、他の生徒に殺されかけたことなどは、嘘だと断じていた話である。
むしろ警察は、豚田が他の生徒を欺き何らかの方法で一人だけ帰ってきたと考えていたのだ。
だからこそ、佳代の両親と警察官は両者ともに顔を青くした。
豚田を追い詰めたのはまさしく自分達であると悟ったのである。
かくして、警察からは決して他言しないようにと厳命されて、遠藤佳代の聞き取り調査は終わった。




