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二十五 そうだ、スラムに行こう! な話

本日二回目です

ご注意下さいm(__)m

「すいません、先生からいただいたお心遣いを下らぬことに使ってしまいました」


 頭を下げるレオン君。

 先程の一件、群衆が邪魔で姿こそ見えなかったが、耳に魔力を集中し何が起こっていたかは把握している。

 なればこそ、ここは俺の度量を見せて、忠誠心を高めるとこれだろう。


「何を謝ることがある、頭を上げろ」


「しかし……」


「ふっ、逆だよレオン君。

 もしあの時、キミがあの子供を助けなかったら、俺はキミを殴っていたところだ。

 レオン君、キミは俺の自慢の弟子だ。

 怒るどころか、俺は誇らしさで胸が一杯だよ」


 き、決まった……。カッコいい……。


「せ、先生……」


 レオン君もいたく感動したようで、瞳をうるうるとさせている。


「よし、飯にしようか!」


「はい!」


 俺がレオン君の肩をバシンと叩くと、レオン君はとても気持ちのいい声で返事をした。




 露店で食事を済ました俺は、ゴロゴロと大金塊を転がしながらレオン君と帰りの道を歩く。

 すると、どこからともなく声が聞こえた。


「ねえ、剣士のお姉ちゃん」


 それは、明らかに俺達に向かっての声。

 俺とレオン君がそちらに目をやると、建物の隙間に赤毛の子供がいた。


「お姉ちゃん?」


 俺は誰のことだろうと首を捻った。


「わ、私は男だ!」


 レオン君が赤毛の子供に向かって焦ったように言う。

 なるほど、レオン君のことだったのか。

 というか、レオン君もよく自分のことだってわかったな。


「ふーん。まっ、どっちでもいいけどさ。

 じゃあ、兄ちゃん。俺、兄ちゃんにお礼がしたくてさ」


「そう思うのなら、全うに生きることだ」


「無茶言うなよ、俺達みたいな小汚ない孤児がまともに働ける場所なんてあるもんか」


「む、そうなのか? 教会などはどうだ」


 俺を置いてきぼりにして、赤毛の子供とレオン君がペチャクチャとお喋りする。


「なんにも知らねえんだな、兄ちゃんは。

 教会になんて頼ったら、次の日には奴隷に売られてるよ」


「馬鹿な、教会がそんなことするわけないだろう」


「かーっ、本当になんにも知らねえな兄ちゃんは。

 さっきのお人好しっぷりからして、どうせいいとこのお坊っちゃんなんだろ?」


「む……」


 赤毛の子供による世間知らずをなじる言葉に、レオン君がムッとした。

 ここだ、俺が口を挟むタイミングはここしかない。


「おいおい、レオン君。そんなことも知らなかったのか?」


「せっ、先生!?」


 ふふふ、ここで俺の知ったかを発動だ!


「教会といえば表ばかりは飾っているが、その実は悪行の限りを尽くして私腹を肥やす犯罪者集団よ。

 あんな奴等を善人と勘違いしているようでは、レオン君もまだまだ見識が足りんな」


 俺はどや顔で、いい加減なことをぶっこいた。

 まあ、どこの世界でも組織なんてものは大なり小なり腐ってるのが普通だから、間違ってはいないだろう。

 俺のクラスという小さな集団でさえ、俺以外は全員腐ったリンゴだったし。


「そ、そんな……まさか教会が悪の組織だったなんて……」


 ガクリと膝をつくレオン君。

 そして、俺にジロリと目を向ける赤毛の子供。


「あんたは?」


「ふっ、俺か? 俺は地上最強の大魔導師にして、あの魔王と勇者の戦いを仲裁した伝説の男。

 そして、このショボくれてる剣士の師匠でもある」


「ふーん」


 ちっ、反応が薄い。これだからガキは駄目なんだ。


「まっ、どうでもいいや。

 そんなことより俺、剣士の兄ちゃんにお礼がしたいんだよ!」


 どうでもいい? そんなことより?

 なんてムカつく糞ガキなんだろうか。


「お礼……? しかし……」


 赤毛の子供のみすぼらしい格好を見て、戸惑いを隠せないレオン君。

 こんな貧民のお礼なんて貰う方も困るといったところだろう。


「いいじゃんか、仲間が旨いパンや果物をくすねて来たんだ。ご馳走するよ!」


 ぶほっ、盗品をご馳走するとか。

 笑っちゃうくらい、常識が無さすぎだろ。


 だがまあ、ふふ。

 ここで俺の器のでかさを見せつけてやるとするかな。


「いいじゃないかレオン君。人の善意に大きいも小さいもない。

 相手がお礼をしたいというのなら、それを受けとるのも礼儀というものだぞ?

 それに、俺もまだ食い足りないと思ってたところなんだ」


 ふっ、決まった。さすが俺。


「え、いや、そっちのでっかい兄ちゃんは呼んでないんだけど」


「――え?」


 赤毛の子供の予想外の言葉に、俺の口から気の抜けた声が漏れた。


「だってめっちゃ食いそうじゃん。俺達の飯が全部なくなっちゃうよ」


 この糞ガキ……っ!

 っと、いかんいかん。

 相手はまだ子供、こんなんでいちいち腹を立ててたら、俺のこれまで築いた威厳が地に落ちてしまう。


「ほら、レオン君」


 俺はレオン君に金貨を渡し、顎をしゃくって指示を出す。

 俺とレオン君はもはやツーカーだから、言葉なんて要らないのだ。


「わかりました!」


 相も変わらぬハキハキとした返事と共に、レオン君はどこぞへと走っていく。


「ちょ、おい兄ちゃん!」


「すぐ戻ってくる、心配するな」


「ほんとかよ」


 ちっ、口の減らないガキだぜ。

 やがて、レオン君が腕に大きなバスケットをぶら下げて戻ってくる。

 その中には、葉に包まれた料理がこんもりと詰められており、旨そうな汁がポタリポタリとバスケットの網目を通り、地面にシミを作っていた。


「兄ちゃん、それ……」


 馬鹿でもわかる。

 お礼をするはずが、逆に気を使わせてしまったのだ。

 赤毛の子供はいたたまれない気持ちであろう。


 俺は「気にするな」とだけ言ってやった。

 ふん、恐れ入ったか。俺の度量の大きさと、懐の広さをあがめるがいい。

 すると、赤毛の子供の顔はパァと晴れやかなものになった。


 そして俺ではなく、レオン君に向かって言う。


「ありがとう、剣士の兄ちゃん!」


 この糞ガキ……っ!


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