表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/31

二十四 そうだ、スラムに行こう! な話

出来上がり次第、あと二本投稿する予定です

ご注意下さいm(__)m

「ひ、ひどい目に遭った。最悪だ、くそ」


 俺達はなんとかスラムを脱出し、現在は屋敷の前である。

 だが、スラム街での爪痕は大きい。

 レオン君も俺も、全身土や泥まみれだ。


「石は剣で防げますが、流石に泥までは無理でしたね。もっと精進しないと」


 えっ、俺は頭に何発も石をぶつけられたんだけど……。


「とにかく、着替えないとな……」


 そう思って、服を脱ごうとする。しかし――。


「くさっ! なんだこれ!」


 ウンコだ。ウンコを投げつけられていたのだ。

 どんだけだよ、あいつら。

 頭に蛆でも湧いてんのか。


「おいっ! すぐに風呂を用意しろ!」


「た、ただいま!」


 俺が大声で指示を出すと、屋敷の中から使用人の声が上がった。

 すぐに風呂の準備に取りかかることだろう。


 その間に、レオン君は自分の部屋に着替えに行き、俺はその場で服を脱いで、パンツ一丁になると、大金塊と共に屋敷の中へ入った。


 ゴロゴロと大金塊を転がしながら、屋敷を進む。


 俺の屋敷には二つの道があった。

 一つは人間が通る道。もう一つは大金塊が通る道だ。


 鉄の二倍の重さを持つ金。

 それでは床が耐えられないため、一部床を外して、一階ならばどこへでも大金塊を持って転がせるようにしたのである。

 もちろんそれは風呂場にも続いていた。


 俺が自分の部屋に行き、大金塊を磨きながら待っていると、「準備ができました」という報告。


 使用人には魔法が達者な者はいないはずなのに、この早さ。

 おそらくレオン君が魔法を使ったのだろう。


「ふっ、できよるわ」


 弟子の忠信ぶりに満足な笑みを浮かべて、俺は大金塊をゴロゴロと転がしながら風呂場に向かった。




 風呂に入りさっぱりとした俺は、新しい服に着替えて街に出ていた。

 もちろん、レオン君も一緒に。


 大金塊を転がす俺にいつものごとく注目が集まる。

 羨望の眼差しがとても気持ちいい。


「さて今日はどこで飯を食べようか」


「先生の金塊が入れるお店は限られていますからね。今日も屋台ですか?」


「うーん」


 そうなのだ。金塊が入れるのは入口が広く、また土間になっている店のみ。

 悩ましいところである。

 まあ、屋台で食べるのもいいんだけどな。


 そんなことを考えていた時だった。

 遥か前の方で何やらざわざわと人だかりができはじめている。


 なんだと思い、俺は目を凝らした。


 子供……か?


 人の合間を縫って見えたのは、子供が大人に蹴られて転がる様であった。


「先生、先に行きます!」


「え? ちょっとレオン君っ!」


 凄まじい速さで人と人の間をすり抜けて駆けるレオン君。

 俺はゴロゴロと金塊を転がしながらそれを追った。



◇◆



「この糞ガキがっ!」


 大の男が数人がかりで子供を蹴りつける。

 遠巻きに眺める群衆も、男達の暴力に顔をしかめるものはいたが、それを止めようとはしなかった。

 いや、中にはその集団暴力を煽る者すらいた。


 しかし、そこにただ一人、制止の声を上げるものが現れる


「そこまでだ!」


 金色の髪と美しい容姿をもった、絶世の騎士。

 その場にいた女衆からは、ほぅというため息が漏れた。


「なんだぁ兄ちゃん?」


 子供を蹴りつけていた男達の一人が、止めに入ったレオンに食って掛かる。

 されど、それは悪手である。

 瞬間、スッと白光が煌めいたかと思えば、男の首にはレオンの抜いた剣が添えられていた。


 あまりの速度、あまりの一瞬。

 誰一人として反応できた者はおらず、誰もが目を瞬かせた。

 レオンはその一振りのみで、己が只者ではないことを知らしめてみせたのである。


「え……? あっ……」


 男は突然のことにまず驚いた。

 次いで自分の首に剣が当てられたことを理解し、震え上がった。

 今の一瞬で己の命が潰えていたかもしれぬことに、男は恐怖したのだ。


「ま、待たれよ騎士殿!」


 戦士然とした格好の老年の男が、群衆の中より一歩前に出る。

 すると、レオンの鋭い視線がぶつけられ、老戦士はたじろいだ。

 しかし、年の功ともいうべきか、それとも戦士としての誇りがそうさせたのか、老戦士は怯みつつもレオンに物申した。


「そ、その子供は盗みを働いたのだ。

 今やっていたのは、その報復に過ぎん」


 その言葉にレオンはちらりと子供に視線を向ける。

 服はボロボロで、靴は履いていない。

 土埃で汚れていることを差し引いても、まともな格好ではなかった。


「そ、そいつはスラムのガキで、盗みの常習犯だ」


 震える声で話し始めたのは、剣を突きつけられている男であった。


「俺達の制裁なんて甘いもんだ。

 警邏の者につき出せば、奴隷商に売られるか、殺されるかなんだからな。

 盗みがバレればリンチにされるのだって、このガキも納得ずくだ」


 その男の言い分に、レオンは暴行に加わっていた者にも目を向ける。

 その誰もが、『俺達は悪くない、お前が間違っているんだ』といったレオンを非難する顔をしていた。


「……そうか」


 レオンは至極あっさりと剣を収めた。

 そして懐から金貨を四枚取り出して、それを目の前の男に差し出した。


 男はギョッとして、その視線を金貨とレオンとの間でさ迷わせる。


「四人で分けろ。もうその子供は許してやれ」


 平民なら金貨が二十枚あれば、一家が一年暮らしていける。

 金貨一枚の価値は、二十日ほど働いてやっと手に入れられるほどの額なのだ。

 それ故に、暴行を加えていた者達が子供を許すことに否はなかった。


 そして、子供を捕まえていた男がその手を離すと、子供は一目散に逃げていく。

 よほど頑丈であったのか、それとも手加減されていたのか。


(まあ、それはどちらでもよいことか……)


 逃げる者の事情をレオンが考えたところで詮なきこと。


「さあ、騒ぎは仕舞いだ! 解散しろ!」


 レオンがそう告げると、群衆達はバラバラと去っていく。

 そして、巨大な丸い影が二つ姿を現した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ