表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

十九 何人かの生徒に再会する話

本日二回目の投稿です

ご注意くださいm(__)m

 豚田のクラスに遠藤佳代という生徒がいた。


 髪型は側頭部の片側を百円の安いゴムで結んだサイドポニー。

 身長は百五十二センチ、体重は四十キロという超小柄な体格で胸も小さい。


 また、とてつもない面倒臭がり屋で常に眠そうな半目をしており、周りからは無気力系少女などと言われていた。


 さてそんな彼女であるが、現在絶賛奴隷生活中であった。


◆◇


 はあ、とあたしはため息をつく。


 人が行き交う大通りに並んだ奴隷販売店。

 そこの店頭に置かれた檻の中で、現在あたしは奴隷として売られ中である。


「何でこんなことになったんだろ……」


 現状を思って、あたしはボソリと呟いた。


 まあ、お祈りの最中に眠りこけて男神官の怒りを買ったあたしが悪いんだけど。

 いや、そもそも勝手にこんな世界に喚び出した男神官が悪い。

 なにが勇者だ、あのスカポンタンめ。


 あたしは男神官への怒りで、なんだか胸がムカムカし始める。

 しかし、これはダメだ。怒りは無駄なエネルギーを消費してしまう。

 ただでさえご飯も少ないのだから、省エネは必須事項であった。


 あたしは大きく深呼吸して、怒りを吐き出す。


「いつっ……!」


 大きく呼吸をしたことで、昨日店主に蹴られた脇腹がズキンと痛んだ。

 売れないからって暴力を振るうことないのに。


 だいたい、ここの世界の人間はみんな美人ばかりで、あたしなんか売れるわけないだろ。


 そして、はあ、とまたため息をつく。


 みんなは口々に、なんとか助けて上げるとか言ってたけど、口だけだろうなぁ。

 誰も彼もあの男神官にビビりまくってたし。


 かくいうあたしもビビってた口だけど。


「だけど、何で寝ちゃうかなあ……」


 思わず口から愚痴がこぼれ落ち、あたしはまたまたため息をついた。


 それから店主の「もっと愛想を振り撒け!」という叱咤の中、あたしは眠いのを我慢しながら、檻の中で道行く人々をボケーと眺めていた。


 目の前に広がる大通りは、昨日と全く変わらない。

 働き蟻のように忙しなく行ったり来たりする人々、さらに店の者達が大声を上げて客を呼び込んでいる。


 しかし、そこに「ん?」と思う異物が紛れ込んでいた。


 この世界では珍しい、どこか見覚えのある関取すらも凌駕するような丸々と太ったその後ろ姿。


 それは異物ならぬ汚物。


 そう、豚田であったのだ。


 あたしは目を疑った。

 豚田は、なにやら金髪のイケメンと楽しそうに会話しながら店を物色しているようである。

 おまけに、なんか鎧もつけてる……というか、肉が鎧に収まらずにはみ出してるし。


 とはいえ、これはチャンスだとあたしは思った。

 あいつとは話したこともないけど、なんとか助けてもらおう。


「ちょっと、豚田!」


 あたしは豚田に呼び掛けた。


 すると豚田は一瞬ビクリとして、辺りをキョロキョロし始める。


「豚田、こっちこっち!」


 あたしがもう一度呼び掛けると豚田はこちらを向いた。

 しかし、そのまま動こうとしない。


 そこで、あたしはあることに気づく。

 あ、やっべ。

 あいつが同じクラスの奴にいい感情持ってるわけないじゃん。


 なにせ豚田は、クラスではいじめにいじめられて、さらにこちらの世界では殺されかけていたのだ。

 まあ、あたし自身はそんな面倒臭いことには参加してなかったけど。


 果たしてあたしが、豚田をいじめていたクラスメイトのカテゴリーに括られているか、それともクラスでいじめに参加しなかったいい人のカテゴリーに括られているか。


 って、うわー。ものすごいどや顔浮かべてるよ。

 明らかにザマァって思ってる顔だわ、あれ。


 そして豚田がノッシノッシと近寄ってくる。


 あ、人にぶつかった。


 ぺこぺこと謝る豚田。


 そしてまたどや顔を浮かべて、ノッシノッシとこっちにやって来る。


「あれー? あれあれあれ? どっかで見たことあるなぁキミィ」


 豚田は白々しくもそんなことをのたまった。


「先生のお知り合いですか?」


 豚田が先生とか。

 何をどうしたらそうなるんだと、このイケメンに一万回くらい問いただしてやりたい。


「いいや、知らんよ。行こうかレオン君」


 これはまずい。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 同じクラスの遠藤! 遠藤佳代だって!」


「先生、こう言ってますが」


「うーん。遠藤、遠藤ね、うーん……」


 頭を右へ左へ傾け、いかにも考えています、みたいに装ってる豚田。


「やっぱり知らないなぁ、さあ次に行こう」


 そう言って、豚田はあたしに背を向ける。


「そりゃないよ、豚田! こっちはあんたの名前だって知ってるってのに!」


 あたしはすがるように目一杯訴えた。

 いくら面倒臭がりなあたしでも、さすがにここは踏ん張りどころである。


 すると、ピタリと豚田の足が止まり、再びこちらを向いた。


「ほう、俺の名前を知っているというのか」


 正直、その台詞に誰だよこいつと言いたくなるが我慢する。


「う、うん。名字は豚田でしょ?

 な、名前はちょっとわかんないけど」


 気のせいだろうか。豚田の眉尻が、ややつり上がった気がする。


「む? 先生の名前はアルドガルド・エドワール・ルイ・ナポレオン・アームストロング十三世だぞ。人違いではないのか」


「ぶはっ! なによそれ!?」


 イケメンの口から出た珍妙な長ったらしい名前に、思わず笑ってしまう。

 豚田も顔が真っ赤だ。


「貴様! 先生のお名前を笑うとは何事だっ! 成敗してくれる!」


 そう叫んだかと思うと剣を抜くイケメン。


 ひぃぃ。


「ちょ、ちょっと待って! 謝るから、笑ったこと謝るから!」


「では早く先生に謝れ!」


「はっ、はい!」


 あたしは豚田を向いて頭を下げる。


「ご、ごめんなさい!」


 すると、チャキンと金属音がした。ちらりとそちらを見るとイケメンが剣を仕舞ってくれたようである。


 あたしはふぅと息を吐いた。

 ほんと、心臓に悪い。あたしはもっと穏やかでのんびりとした生活を送りたいのに。


「それで、その……豚田、くん」


 頭を恐る恐る上げて、伏し目がちに豚田を見る。


「アルドガルド様だと言っておろうがっ!!」


 ひぃ!


 途端にぶちギレるイケメン。ほんと勘弁してください。


 すると豚田がイケメンに話しかける。


「いや、レオン君。

 そのだな、アルドガルド・エド、エド、エドワール、えっと…………」


 あっこいつ、自分で自分の名前忘れてるわ。


「いや、そのなんだ、アルドガルドというのは確かに名前なんだが、それとは別に真名というものがあってな」


「はあ」


 豚田のよくわからない話に生返事を返すイケメン。


「真名とはその者の心に秘めたる名。いわば真実の名。

 この女はその真名のことをさっきから言っているんだよ」


「なんと!」


 驚くイケメン。そしてこっちを向き、片膝をついて頭を下げた。

 なんだこれ。


「かような名があるとは露知らず、大変失礼な真似をしてしまいました! どうかお許しください!」


 なんかこのイケメンの豚田への忠誠心がやばい。

 まあ、こんなイケメンに頭を下げられて悪い気はしないけど。


「あ、でもその女、俺の真名を間違えてるから」


 え?


「きっさまーっ! 先生の真名を間違えるとは何事かぁーっ!」


 ひぇぇ。


「ちょっ、ちょっと待ってよ! あんた学校で豚田って……」


 ここであたしは、ん? と思った。

 なにも考えもせず豚田と呼んでいたけれども、果たして豚田なんて名字が普通あるであろうか。

 どう考えても、いじめ目的でつけられたあだ名だろう。


 あちゃー、失敗した。


「んんー? 『なに』田だってぇー?」


 これはやばい。ここで本当の名前を言わなければどうなるか。


『なんだその名前は。イケメン、この女をやってしまいなさい』

『はっ、成敗!』

『ぎゃー』


 みたいな展開もあり得るかもしれない。

 これはまずい、よく考えないと。


 まず名字の最後に『田』がつくのは確定事項。

 あとは『なに』田であるか。

 こういう場合韻を踏んでいるだろう。


 豚田、ブタダ、ぶただ、ぶた……。


 ハッとした。


「う……」


「う?」


「歌田くん……」


 すると豚田は笑顔を作った。

 どうやら正解だったらしい。

 よかった。


 そして、豚田とイケメンはどこかへ去っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ