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十六 弟子をとる話

 貰ったマントは俺の全身を覆うには少し小さい。

 そのため、仕方なく腰に巻き付ける。

 正直、風呂上がりみたいで恥ずかしい。


「もうこっちを向いてもいいよ」


 俺が声をかけると、後ろ姿の金髪の剣士が振り向いて、そしてぎょっとした。

 まあ、当然だ。

 マントで全身を隠しているかと思ったら、股間以外ノータッチなんだから。


「いやあ、マントがちょっと小さくてね」


 俺はハハハと笑った。こういう時は堂々としていると案外恥ずかしくないもんだ。


「それにしても、助かったよ」


 俺は、金髪の剣士にお礼を言った。

 マントのことだけじゃない、体を治して貰ったことも含めてのお礼だ。


「い、いえそんな。私は言われた通りやっただけで……」


 金髪の剣士は恐縮しているようである。

 まあ、俺の偉大さに当てられたってところか。


 そこで俺はふと辺りを見回した。

 周囲は俺を中心に巨大なクレーターができており、北の山すらも一部欠けている。

 我ながら大した威力である。


 どうやらあの糞スライムをきっちりあの世に送ってやることができたみたいだ。

 ふひひ、糞スライムざまあ。


 俺はうんうんと頷いた。


「あ、あの」


「ん?」


 金髪の剣士が、どこか腫れ物にでも触るように俺に話しかける。

「こ、ここで何があったんですか?」


 金髪の剣士はこのクレーターに驚きを隠せないようだ。

 ふふふ、まあ当然だろうな。


「ふっ、とてつもない魔物と戦っていてな」


「とてつもない魔物、ですか……?」


「ああ、おそらくはあの最強最悪の魔王にも匹敵する相手」


「ええ!?」


 ふふふ、ビビってる、ビビってる。


「俺は、魔王を一度目にしたことがあるからな。まず間違いないだろう」


 俺は遠くを見つめて言った。このさりげなさが重要なんだ。


「そ、それで、その魔物は!?」


 魔王級の魔物がいたとなれば焦らない奴はいないだろう。

 この金髪剣士も、例に漏れず狼狽えている。

 そこへ俺は特大の爆弾を落とした。


「――周りを見てわからないのか?」


 俺はニヤリと自信ありげな笑みを浮かべる。

 これで腰にマント一枚という格好じゃなかったら、かなり決まっていることだろう。


「で、では、貴方が魔王級の魔物を倒されたんですか……!?」


「その通りだ」


 声を震わす金髪の剣士に、俺は腕を組みながら、その偉業を告げた。

 周囲にはどでかいクレーター。その中心いたのは、俺一人だけという事実。

 それらが俺の話を、疑う余地もない真実へと変えるのである。


 すると突然金髪の剣士が俺に向かって土下座をした。


「先生!」


 むっ、先生とはまさか俺のことであろうか。


「先程の魔法のご教授、大変見事にございました! その見識は空よりも高く、海よりも深いものとお見受けいたします!」


「ふむぅ」


 よいぞよいぞ。もっと褒めなさい。


「どうか私めにその知の一端をお授けください!」


 そして、お願いしますと言って頭を地面に擦り付ける。

 さて、どうしようかと考えるところではあるが、この金髪の剣士、よくよく見ると中々良さげな装備をしている。

 貴族かなんかだろうか。

 これはパトロンが見つかったようですな。


「えーと、キミ」


「はい!」


「俺の弟子になりたいってことでいいんだよね?」


「その通りです!」


「ふむ……俺、今一文無しなんだけど」


「え? あ、はいっ、これをどうぞ!」


 金髪の剣士が腰に下げた袋を差し出した。

 俺はジャラリと鳴るそれを受け取る。

 手にかかる重量感。

 これは期待できそうだと、顔をにやけそうになるのを我慢しながら中身を確認する。


「ほう、これはこれは」


 袋の中にはたくさんの金貨が詰まっていた。


「うむ、弟子になることを許す!」


「――っ!? ありがとうございます、先生!」


 また頭を地面に擦り付ける金髪の剣士。

 ふふふ、先生か。

 よいぞ、よいぞ。


「あ、そういえば君、名前は?」


「はいっ、レオ……」


「レオ?」


 金髪剣士は何故か途中で口をつぐんだ。


「れ、レオン……レオンと申します!」


「レオンね、てことは男か」


「は、はい……」


 何やら歯切れの悪い返事をするレオン。


「まあ、どうでもいいか。とりあえず町まで行こうよ、レオン君。俺も服がほしいし」


「は、はい!」


 こうして、とうとう俺にも弟子ができたのである。




 町への道をのんびりと二人で歩く。

 俺の実力ならば町まで一走りであるが、弟子がいるためそうはいかない。

 時折、いたいけな風が俺の腰巻きのマントをさらって、レオン君が顔を背けたりしながら、俺達はてくてくと歩いた。


「そういえばさ、レオン君って貴族かなんかなの?」


「えっ? い、いえ、その、ただの旅人です」


 ……訳ありか。

 恐らくは破門された元貴族。

 このイケメン具合からして、原因はだらしない下半身かな。

 手を出しちゃいけない高貴な方々に片っ端から腰振りまくったとか、そんな感じだろう。


 ちっ、この分だと金にはあまり期待できないか。いいパトロンだと思ったんだがな。

 まあ、色々とこき使えるだろうし、先生と呼ばれるのも悪い気はしないから、関係を解消したりはしないけど。


「そ、そういう先生こそ、一体何者なんですかっ!?

 さ、先程、魔王を見たことがあるって言ってましたし!」


 焦った風に、話題を変えようとするレオン君。

 なんというか、すごいわかりやすい。

 まあ、別にいいけどね。


「俺が何者か、か……ふふっ」


 それを聞いちゃうかー、と俺はニヤニヤした。


「――あれは勇者と魔王が戦う一大決戦のことだ」


 俺は立ち止まり、かつてのことを懐かしむように空の彼方を見つめた。


「ゆ、勇者と魔王の戦いっ!? じゃ、じゃあ、先生はもしかして勇者様の仲間……っ!?」


「いや、俺は魔王に召喚されてだな」


「えぇ、そっち!?」


 レオン君がパッチリお目々を真ん丸にして驚く。


「うむ、まあ、手違いで喚ばれたみたいでな。

 その時、勇者と魔王が争っていたわけだか、俺が二人にいい加減にしろって感じで実力の違いを見せて、こんこんと戦いのむなしさを説いてやったわけだ。

 すると二人は改心して、仲直りした」


 大体、こんな感じだったはずだ。

 レオン君はあまりの話についていけず、ポカンとしている。

 これでまた、俺の師匠としての威厳が上がったことだろう。


「かれこれ二年ほど前の話だ。

 今思い出しても懐かしい。魔王はこの前会ったが、勇者は元気でやってるのかな」


 あいつ俺がいないと全然ダメだからなー、と呟きながら俺は勇者の顔を思い出した。


「えっと……勇者様ならこの前お亡くなりになりましたけど」


「ええっ!?」


 まじで!?


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