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十三 弟子をとる話

 俺は再び魔王の下へやって来た。

 そして声高らかに宣言する。


「仲間を絶対助けます!」


 もちろん嘘だけど。


 すると魔王は一言、「そうか」とだけ口にした。

 しかし、口許が僅かに綻んでいたのを俺は見逃さなかった。

 嘘をついた身としては、少し心苦しい。


「それで、私はどうすればいいんですかね」


 助けると言った以上、振りは必要だ。

 加えて、必要経費等もいただかなくてはならないし。


「ふむ、お前が男神官に召喚された場所に結界が張ってあるというのは、以前話した通りだ。

 さらにいうなれば、男神官もお前の仲間も既にそこには居るまい。

 それ故、その場所に最も近い町へお前を送ろう。そこで情報を収集するといい。

 お前達を召喚した者は勇者の元仲間、なれば人間達には有名だろう」


 いつになく、よく喋る魔王。

 いつも一言二言なのに。


 まあ、いいか。それよりも、ここからが本題だ。


「それでその、先立つものがないと……その、私も生活をしないといけないので、その……」


 言葉を濁しに濁しまくって、揉み手をしながらちらりちらりと魔王の様子をうかがう。

 すると魔王は「よかろう」と言って、第三の目を光らせた。


 なにやら上空で魔力の気配がする。

 俺は空を見上げた。


 そこには俺の体くらいありそうな巨大な金塊が浮かんでおり、それがドスンと落ちる。


 ――俺の爪先に。


「ぎょええええええええええーーーーーーっ!!」


 痛い。死ぬほど痛い。

 俺はゴロゴロ転げ回りたいところではあるが、残念ながら足は金塊に潰され、さながら虫の標本のごとく地面に張り付け状態だ。


「む、すまんな」


 魔王がそう言うと金塊が今一度宙に浮いた。


「ぎょええええええええええーーーーーーっ!!」


 俺はここぞとばかりに、大声で叫びながらゴロゴロと転がった。

 魔王の前で無礼だとか、そんなことを一切考えられない。

 俺はただ、この極限ともいえる痛みを紛らわすために、全力で叫び、全力で転がったのだ。

 やがて、魔王の回復魔法により足の痛みが収まると、魔王が俺に向けて言う。


「すまなかったな、オークよ」


 いつもの死の淵へと誘うような魔王の声。

 本当にすまないと思っているのかよ、こいつ。

 もっと言葉に気持ちを込めろよ。

 俺が一歩後ろに下がってなかったら脳天直撃だったぞ、この三つ目野郎。


 ……まあ、いい。

 今更何か言っても意味のないことだ。

 それよりも……。


 俺はペチンと大金塊を叩く。

 ふふふ、いい音だ。

 頬が緩むのを止められない。


 これだけ大きな金塊ならば、なんだってできるだろう。

 それすなわち、どんな料理でも食い放題ということだ。

 ふひひ。


 すると、それに連動するようにグゥと腹が鳴った。

 向こうから持ってきたお菓子を食べたいところであるが、魔王の前でそれは許されない。


 ならばさっさとここから脱しよう。

 貰うもんも貰ったことだし。


「魔王様、そろそろ仲間達を探しに行きたいのですが……」


「よかろう」


 またもやピカリと光った魔王様の第三の目。

 そして俺は光に包まれる。

 これから人間の町へとワープするのであろう。


 それにしても、あの目は便利だな。

 欲しいなぁと思ったけど、気持ち悪いからやっぱ要らね。


「では、頼んだぞ」


 魔王の別れの言葉を聞きながら、俺はその場から消え去った。


 さて、光が収まると辺りはくるぶしほどの高さしかない草原。

 そして、少し先には城壁に囲まれた町が見える。


 俺はまずお菓子で食料補給を済ませると、大金塊をゴロゴロと転がしながら町へと向かった。





 それから一ヶ月後。


「うまい、うまいぞ! もっとこの肉を持ってこい!」


 机の上に並ぶ豪勢な食事。

 そして、それを食べる俺。


 まるで貴族が住むような豪邸に住まい、毎日を贅沢三昧。

 俺はまさにこの世の春を謳歌していた。


「ふぅー、食った食った」


 うまい飯でお腹を満たして大満足だ。

 雇っているメイドが食べ終わった皿を片付け、俺はナプキンで口をふきふきする。

 すると何処からともなく声が響いてきた。


『オークよ』


 俺は心の中でチッ、と舌打ちする。

 魔王の奴はこうやって、度々俺に状況を尋ねてくるのだ


 ちなみに、この声を聞こえているのは俺だけのようで、メイド達は粛々と後片付けを続けている。


「これは、魔王様」


『そちらの状況はどうだ』


「はっ、私としましては泥水をすすり、足を棒にして男神官と仲間を捜しています。

 しかし、なかなか足取りはつかめず、辛く苦しい日々を過ごしている次第です」


 俺はズズズーと、麦のストローでフルーツジュースをすすった。


『なかなか、厳しいようであるな』


「いえ、これも偏に仲間を救いたいがため。

 たとえ、この身が朽ちようとも、必ずや仲間を助け出してやりましょう」


 俺はソファーに移動し、ゴロリと横になる。


『ふむ、ならば勇者の仲間に助けを乞えばどうだ?』


 うん? 勇者の仲間? あれ、勇者は?


 なんて思ったが、別に興味はないので聞き返さない。


「おお、それはいい考えでございます。

 では早速勇者の仲間を探しにいきますので、報告はこのあたりに……」


『うむ、期待しているぞ』


 魔王がそう言うと、それっきり交信はなかった。


 けっ、誰が行くかよバーカ。


 俺は脳内で悪態を吐きつつ、ソファーの上で食後の睡魔に身を委ねようとする。

 しかし、それを邪魔するように俺の下へ執事長がやって来た。

 白髪を生やした、いかにもな爺である。


「なんだ? んん?」


 俺はギロリと睨み付けた。早く眠りたいのだ。


「旦那様、先日が家人の手当ての日となっていたのですが……」


 む、まだ給料を渡していなかったか。


「よし、ちょっと待っていろ」


 俺は眠りたいのを我慢して、二階の自室に向かった。

 扉を開けて部屋に入り、壁にかけられた大きな絵画を外す。

 この後ろに隠された金庫があり、その中に大量の金貨が隠してあるのだ。


「あれ?」


 おかしい、俺は幻覚でも見ているのであろうか。

 絵画をつけ直し部屋を出る。もう一度最初からやり直しだ。


 俺は眠りたいのを我慢して、二階の自室に向かった。

 扉を開けて部屋に入り、壁にかけられた大きな絵画を外す。

 この後ろに隠された金庫があり、その中に大量の金貨が隠してあるのだ。


「あれ?」


 しかし、結果は変わらず。

 なんと絵画の後ろは空っぽの空洞だったのである。


「なんでっ!? どうしてっ!?」


 俺は焦った。あの金庫には、この世界で生きていく上での全財産が入っていたのだから。


「旦那様、どうかなさいましたか?」


 外から聞こえる執事長の声。

 どうしたどころではない。

 俺は扉を開けて、すぐに執事長に命令する。


「屋敷の使用人を今すぐ全員集めろ!」


「は、はい!」


 俺の様子にただ事ではないと察した執事長は、慌てて皆を呼びに行った。

 やがて、ぞろぞろと使用人達が集まってくる。


「ダンとジョンソンはどこへ行った」


 執事長が尋ねるが、皆は知らないと答えている。

 それを聞き、俺はエア眼鏡をクイッと持ち上げた。

 なるほど、謎は全て解けた。

 どうやら犯人は見つかったようだな。


「そいつらが犯人だ! 町中を探せ、見つけるまで帰ってくることを許さん!」


 俺は使用人達にダンとジョンソンの捜索を命令した。

 しかし、使用人達は事態が飲み込めていない様子。

 くそ、高い金払ってるんだから、それくらい察しろよ。


「あの、二人が何をしたんでしょうか……?」


 俺の怒気に怯え、恐る恐るといった風に聞いてくる執事長。


「奴等は俺様の金を盗みやがったんだ! 見つけたら生きたまま皮を剥いで、魔物の餌にしてくれる!」


 俺はやると言ったらやる男である。


「それぞれ、ダンとジョンソンを最後に見た時間を言いなさい」


 執事長が再び使用人達に尋ねる。

 使用人達はそれに答えていき、そこから導きだされたのは、三日前からダンとジョンソンが行方知れずだということであった。

 いや、三日前って。

 報告しろよ、この馬鹿共!


「旦那様、三日前に逃げられたのでは、もうこの町にはいないでしょう」


「ふざけるな! あいつらが持っていった金庫には俺の全財産が入っていたんだぞ!」


 俺は烈火のごとく怒り狂う。

 しかしそれに対し、使用人達は怯えることなく、とてつもなく冷淡な瞳になった。


「……私達の給金はどうなってるのですか?」


 ゾクリとした。

 怖い、目が据わっている。これが、いつも笑顔を絶やさなかった執事長であろうか。


 まるで背中に氷柱を突っ込まれた感覚だ。

 いや、突っ込まれたことなんてないけど。


「だ、だから、それは犯人の二人を捕まえてから――」


「捕まえられなかったら?」


 ――ひぃ。


「我々はプロです。先月分の給金をいただけなければ、これ以上働くつもりはありません。

 それで――」


 お 金 は あ る ん で す か ?


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