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Beautiful WorldLife  作者: 天路周東
第一章 誇り高き血脈
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第三十一話 水の迷宮


 朝、ロイエンとニエリが準備を終えて俺達の泊まっている宿へとやってきた。宿で出してくれた朝食を食べ終えた所で、時間としては丁度いい。

「昨日は良く眠れたかァー?」

眠そうな声でロイエンが声をかけてくる。顔を洗ったばかりなんだろうがなんか毛並みがしっとりしている気がする。ニエリはニエリでぼんやりとどこかを見ているし大丈夫かこいつら……

「おはよう、俺達の準備はできてるぞ」

昨日一日かけて考えられる用意はしてきた。とはいってもお宝がどういう場所にあるのかもわかっていないから事前準備なんてたかが知れているとは思うのだが、それでもできうる用意は済んでいる。

「じゃあ行くか、道中にわかってることを話すわ」

そう言ってロイエンが出て行く、今日からはダンジョン攻略に乗り出す。内心楽しみ半分、怖さ半分というところだ。


「今わかっている情報はだなァ、まずお宝があるらしいって事、入り口があのだだっ広いモヤの中のどこかにあるらしいって事くらいか」

「……えっ?それだけ?」

ソフィが驚く、まぁそうだよな。

「まァとりあえず誰も踏破したことがないだろうって事くらいしかわかんねェわ、すまんな!」

明るく言われても困る。思ってたよりもはるかに大雑把で殆ど何も分かっていない。まぁ攻略済みのダンジョンの情報なんていくら回ってきてもそこにお宝は無いんだろうけど……どこか釈然としない気持ちになったのは間違いない。

「いつも通り、問題ないぞ」

ニエリといえばこれである。いつも通りって……まぁトレジャーハンターとしての経験は二人ともそれなりにあるらしいので信用して着いて行くことにする。協力するって決めたんだしな、うだうだ言っててもしょうが無い。

「ん?ってことはまずはアレかな?」

ルカが何かに気づいたような声を出す、なんとなく言いたいことはわかるが次の言葉を待った。

「もしかして入り口を探すところから?」

「「うん」」

獣人二人が綺麗にハモった。


 濃い湯気の中歩く、足音の代わりに水をかき分けて進む音がするが、それも終わりの見えないモヤの中に吸い込まれていく。

「これは一人では歩けないよ……絶対に迷子になる」

ソフィが呆れた声を出す、ぼそっと言った言葉が突き刺さる。ええ、私のことですねわかります。

「こんなトコ一人で歩く奴なんかいねェだろ」

ロイエンが言うのを無視して話題を変えよう。

「そんなことよりどうやって探すつもりしてるんだ?闇雲に歩きまわってもしょうが無いだろ」

そう言うとうーんと考えだした。そうだよね、ノープランだよね君たちは。

「アレもう一回やってみたら?」

アレとは、ソフィの方を見ると指を一本立てて提案のポーズだ、それ可愛い。

「ほら、カイが迷った時に使ったっていう魔法」

ああ、どうしてもそこから離れないのか……思っていたよりも遥かに心配をかけていたらしい。

「あー、あれなァ」

「あれうるさいから嫌い」

獣人勢には不評である。でもそれ以外の案も無いんだよなぁ。

「じゃあ他に案は?ロイエンもニエリも案がなければ魔法でなんとかするしか無いだろ」

「ウー……まぁいいか、じゃあ頼むぜカイ」

何事も異を唱えるなら代案を出そう、文句だけ言って終わりとかは意見としては認められんな。

「まぁ俺の後ろにいればいいんじゃないか?とりあえず前を探してみる」

一昨日のは全方位を探索するためにわざわざしゃがんで放ったから体の影になればそんなに影響はない……はず、わからんけど。魔力を練って音と風の波を……飛ばす!一昨日よりも澄んだ鈴のような音が広がって行く、同じ魔法を何度も使ったことってなかったが、使ってみることで改善点が見つかるとちゃんと反映出来るみたいだ。熟練度ってやつ?

「綺麗な音……」

ソフィやフランには好評だ、それに獣人二人もちょっと驚いている。

「ん、今日のは嫌いじゃない」

ニエリがお褒めの言葉をくれたのでありがたく受け取っておく、さんざん嫌だ嫌だと言われたから好きな音をイメージしたら反映された。自分で言うのも何だけど結構魔法感はいい方なんじゃなかろうか?

なんて考えていると跳ね返ってきた音を感じた。一昨日と同じだろうか、俺達人間のサイズとは二回りも三回りも大きい何かだろうとわかる、多分岩……だろうな。

「多分岩か何かだと思うけどこっちに何かあるね、行ってみよう」

「やるじゃねェか、流石は魔法使いサマだぜ」

ロイエンはごきげんだ、っていうかうちのパーティの魔法使いはソフィなんだけどな……そう思いソフィを横目で見ると目があった、こちらを見ながら少し微笑む顔は少し諦めたような、ちょっと複雑な表情にも見えた。


 歩くこと数分、辿り着いたのは苔むした大岩だった。

「俺達がうろついたときはこんなもん見つからなかったけどなァ」

感心したようにロイエンが言いながら大岩を叩いている。

「何かの目印……かな?」

フランが言う、確かに目印にするには持ってこいの大岩だ。でも……

「さァなァ、こんな岩どこにでもあるって言えばあるから、何とも言えねェなァ」

ロイエンがまっとうなことを言う、トレジャーハンターとしてはそこそこだと言っていたのも理解らないでもない。

「何かわかった?」

ルカが聞く、さっきから大岩の回りをうろうろしながらバシバシ叩いているロイエンを見ているだけの状態だもんなぁ。

「わからん!とりあえず叩き割ってみるか?」

そう言いながら大斧を取り出すロイエン、わぁ乱暴。止めるまもなく大きく振りかぶる。

「いくぞ!離れろ!」

言うが早いかニエリはさっさと退避していた、俺達も慌てて離れる。そして振り下ろされた大斧が大岩に……弾かれた。

「オイオイオイオイ、何だこの岩は」

勢い良く弾かれた斧に引っ張られて後ろに倒れたロイエンが起き上がり、頭を振って水滴を飛ばしてから言う、獣人でも犬っぽいところは犬っぽいんだな……俺の中でのロイエン犬度が上がった。

「傷ひとつ付いてないね」

「すご……どうなってんのこれ」

フランとルカが斧のあたった場所に行って見ているが傷どころか苔の一つも剥がれていない

「これはどう考えてもココに何かあるな……」

「うん、あるな」

いつの間にか考えるポーズを真似たニエリが隣にいた。なにやってんすか。

「斧でだめなら魔法だろ、よろしく頼むぜ」

ロイエンはいつの間にか武器もしまっている、やれやれ。

「ソフィ、どうする?」

「どうって?」

怪訝な表情をするソフィ

「いや、魔法と言えばソフィでしょ、頼りにしてるぜ?」

そう言いながら親指を立てるとソフィはちょっと驚いた顔をしたあと考えだした。

「うーん……見た感じ結界みたいなものには見えるけど……」

「とりあえず攻撃してみる?」

「それしかないかなぁ……結界も結界の張り方によって解除の方法が違うし、壊してしまえば一緒なんだけども……」

「なら一発ドカンと頼むぜ!」

ロイエンは壊すと聞くと楽しそうだ、基本的に乱暴な奴なんだな……

「もしそれで何かの入り口が壊れて入れなくなったらどうするの?」

「その時はその時だ!どうせ俺もニエリも何もできやしねぇからな」

慎重派のソフィにあっけらかんと言い放つロイエン、少しの間目線で会話しているのか沈黙が辺りを包む……

「はぁ、まぁ攻撃してみよう、それ以外に方法も思いつかないしね」

折れたのはソフィだ、言いながら杖を取り出す。

「とりあえず私が攻撃してみるね、ダメだったらカイも手伝ってくれる?」

「おう、まかしとけ」

「一応みんな離れておいてね」

そう言うとソフィは微笑んで岩に向き、魔力を練り始めた。心なしか周囲の湯気が少し薄くなっているような気がする。だんだんと杖の先に水の球が出来てゆく、それはゆっくりと大きくなり、ある大きさになると凝縮されたように小さくなり、また大きくなって行くのを繰り返した。その度にだんだんと透明だった水球は、水色のような色を濃くしていく。何度か繰り返した後、だんだんとソフィの顔が苦しそうになってゆく。それを見たフランやルカが少し心配そうに見つめていた。ソフィが身動ぎするように杖を構え直すと、水球はだんだんと回転を始め、それもゆるやかに加速し、形を球形から弾丸のような先尖形に変化させていく。

「『!!』」

圧縮された水の弾丸はもはや弾丸と言うよりは砲弾となって大岩に襲いかかる、大岩に当たった水弾はまるで水蒸気爆発でも起こしたのかと思うほどの巨大な飛沫を上げた。発射から着弾までは速度が早く殆ど見えなかった……こちら側には水が飛んできていないものの、とんでもない威力なのは見てわかる。

「すごいなソフィ!……ってあれ?ソフィは?」

ソフィの方を向くといつの間にか居なくなっていた。それに気づいたフランとルカもソフィを探す。

「ソフィー!」

「あいたたたた……」

びしょぬれになったソフィが湯気の中から姿を表す、もしかして反動で吹っ飛んだんじゃ。

「あのくらいになると踏ん張り効かないね」

えへへと笑うソフィ、そりゃそうだよな……

「大丈夫?怪我とかしてないか?」

「うん、大丈夫だよ」

「すごい魔法だったな、流石ソフィだ」

「ありがと、まぁココじゃないと使えないけどね」

そう言いながら取り出したタオルで顔を拭く

「吹っ飛んで怪我したら意味ないもんな」

そう言うとそれだけじゃないんだけどね、と笑った。


「や、やるじゃねェか……」

「思ってた以上……つよい」

ロイエンとニエリは唖然としている。本当に予想外だったんだろうな。俺もフランもびっくりだし。

「それより、岩は……?」

完全に忘れていた。ソフィが言って全員の視線が大岩の方に集中する。大量の水しぶきがだんだんと落ち着き……大岩はその8割が消し飛んだ姿で現れた。

「す、すっごい」

「ソフィすごい!」

手放しで喜び褒めるフランとルカにソフィが照れている。やっぱソフィはすごいわ、ちょっと魔法が使えるとかで調子に乗れないな。


「これ、なんだ?」

いつの間にか大岩のあった場所に移動していたニエリが何かを見つけた。

見ると大岩の中心に何か模様のような物が刻まれた宝石が幾つか埋まっていた。

「これは……なんだろう?多分結界を作る魔石だと思うけど」

ソフィが調べている間、さっきのソフィの魔法のやり方について考えていた。周囲の湯気が薄くなったのは多分水を魔力にして取り込んだんだろうな……こんだけ湯気があれば少しくらい吸い取っても無くなりはしなさそうだし、魔力の補充に持ってくのもありだろうか。地面とかから吸おうとすると吸いすぎて自然破壊しちゃうからずっと控えては来たんだけど、いやでもどうなるかわからないしなぁ……

「ねぇ、カイ、カイってば」

ふと気づくとソフィに呼ばれていた。なんだろう

「カイさ、ここから魔力取れる?」

そう言って岩に埋まった宝石を指さした、よく見ればまるで鼓動するように怪しく光っている。

「ソフィは?」

「私じゃ無理、結構な量の魔力が詰まってて……カイならいけるかなって、ユンに魔法教わってた時も吸収が得意って言ってなかったっけ?」

「ちょうど今この湯気から魔力少しもらってってもいいかなぁとか考えてた所、じゃあやってみる」

そっと魔石に手を当てようとすると、何故か左手が吸い込まれるように魔石に近づいていった。右手を当てるつもりだったから不思議な動きをしてしまった。

「どうしたの?大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫、何でもない」

皆が見守る中、意識を左手に集中し、目を閉じる。不思議と手のひらの先に渦巻くような力の塊を感じた。まるで自分とその力だけが隣り合ったような、不思議な感覚だった。魔力を感じ、吸い取ろうとすると左手に違和感を感じた、どこかこう、飢えたような、何かを貪り喰らうことを求めるような……

「あっ」

誰かが言ったのが聞こえた瞬間から、すごい勢いで魔力が左手に流れ込んできた。左手はまるで自分の意志を離れたかのように魔力を吸い込み続けた。手が熱くなるのを感じる、少し苦しいけど自分に害を及ぼすような感じではなく、吸い取っているのに内側からあふれるような……


 目を開けるとソフィ達が心配そうな顔で覗きこんでいた。

「起きた……良かった……」

胸をなでおろすソフィ、額には濡れたタオルが載せられていた。

「あれ、もしかして気を失ってた?」

「いきなり倒れるからびっくりしたよ……」

フランがうなづきながら説明してくれる。額のタオルを渡しながら聞くと、どうやら全て吸いきって魔石の光が消えたのとほぼ同時に突然崩れ落ちるように倒れたらしい。気を失っていたのは数分のことらしいが、頭から岩に突っ込んだため額がすこし切れたらしい、言われてみればちょっと痛い……

「ごめん、心配かけた」

「ほんとだよ……カイは心配かけてばっかり」

そういうソフィはふくれっ面だ、ちょっとかわいいな、なんて思ってしまう。ごめんね、と言うが半分は不可抗力だ。なるべく心配をかけないようにはしたいけど……。

「お、起きたか。大丈夫かァ?」

ロイエンとニエリが歩いてくる、どこへ行っていたんだろう。

「ああ、悪い」

「いや、起きたなら構わねェよ。それより朗報だぜ」

朗報?なんだろう、お宝でも見つかったのか

「アレ、どうやら入り口みてェだ。ついに本番だな」

そう言いながら肩の後ろを親指で指すロイエン、体をずらしてロイエンの向こうを見ると、うっすらと何かが見えた。

「カイが倒れてから現れたの、結界で隠されてた入り口みたい」

ルカが言う、どうやらここに何か隠されているのは間違いなかったようだ。

「カイ、体の調子は大丈夫?」

「ああ、特に違和感は……」

フランが心配そうに言うので全身チェック……変なところは特に……と思ったが、左手に何か力が宿ったような感覚があった。

「うん、問題ない。大丈夫だよ」

そう言うと安心したようにフランは立ち上がった。

「お待たせしました。それじゃ、行きますか?」

あんまり待たせるのも悪い、せっかく入り口が現れたんだ、入るしかなかろう。

「おう!」

岩を降りて入り口に近づくと、そこからは階段になっていて地下へと向かっていた。入り口に近づくにつれて温泉の湯が流れて入っていく音が大きくなった。

「よし、じゃあとりあえず先頭はロイエンにまかせていいか?」

「おう、そうしてくれ」

入り口を発見したのは俺達の功績としても、中はトレジャーハンターのプロの領域だ。罠とかもきっとあるだろう。そういうことを考えるとロイエン達に全面的に従う、そういうふうに決めていた。

ロイエンの後について、ゆっくりと階段を降りていく、不思議と中はうっすら明るく、地下だというのにライトの魔石がいらないくらいに見通しが良かった。


 階段を下り切るとそこには岩と水の楽園が広がっていた。ところどころに苔や木が生え、水色と緑が美しい。

「どうなってるんだろう……」

驚きを隠せない様子でフランがつぶやく、フランだけじゃなく、ロイエンとニエリを除いた俺達は衝撃を受けていた。

「お、そうかお前らは初めてなんだもんなァ」

嬉しそうな声でロイエンが説明してくれる。

「何がしかのお宝が安置されてる場所ってのは魔力で作られた別世界みたいなところが多くてな」

「普通はありえない事も多い、でも綺麗」

ニエリもちょっとだけ声のトーンが高めだ。

「ってことは本格的にココがお宝のある場所ってことでもあるわけだな」

「そうだ、やるじゃねェか」

だからごきげんなのか。それにしてもこの光景、天井が……水で覆われてる。遠くの方に見える壁も水だ。どこからか差し込む光があらゆる水面に微かに反射して揺らめいている。

「綺麗だね……」

ソフィもルカも見とれている。俺もこの光景は忘れられないだろうな……

「さ、行くか」

「トレジャーハント開始」

ロイエンとニエリが先だって歩き出す、俺達は風景に目と心を奪われながらその後をついていった。

ペースが……安定しない……申し訳ないです。

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