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Beautiful WorldLife  作者: 天路周東
第一章 誇り高き血脈
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第二十六話 カリーグ鍾乳洞


 ひんやりとした空気、でもどこか湿った匂いがする。鍾乳洞の中は話に聞いていたとおりに割りと広い上に、毎年祭りのために人がやってくるのもあってか足元もかなり安定している。所々に謎の水たまりがあるのがちょっと気になるが基本的には避けて歩ける程度だ。

「滑らないように気をつけてね」

「う、うん。ひゃっ」

フランが注意した数秒後にソフィが足を滑らせる。ちょっとバランスを崩しただけだが、これで転んで頭を打ったりしたら困る。

「大丈夫?」

「ご、ごめん。大丈夫」

再び歩き出し奥へと進んでいく、鍾乳洞とは呼ばれているがまだここは洞窟という感じだ。奥の方へ進んでいくと鍾乳洞の名の通り巨大な石灰の柱がそびえているらしい。


「うおぉ……」

思ったよりも早く鍾乳洞に出ることが出来た。そしてそこは魔石で灯りを灯さなくてもある程度見える程度には薄明るい空間が広がっていた。

「綺麗……」

見事な鍾乳洞だ、写メとって行きたい……と思うものの携帯はない。今になって携帯なんてものあったなと思いだした。あった所で充電もできないだろうけどな。

「これ何が光ってるの?」

「名前忘れちゃったけど魔力を吸い取って勝手に光る石を埋め込んでるみたい」

「この灯りがなんか薄く青くてまた綺麗だねぇ」

「ホントだね」

完全に観光旅行である。まぁそれも旅の目的の一つでは有るんだけどさ。まぁ急ぎじゃないもんな、何を焦りかけていたんだろうか。もしかして俺も浮き足立ってたのかな。

「ん?」

そんな観光気分の中に割って入る獣が一匹。向こうもこちらに気づいて唸りだした。

「あれがリザドッグ?」

「みたいだね、来るよ!」

「足元気をつけて!」

なんだかんだ言って全員がすぐにカバンから武器を取り出す、まず牽制にルカが矢を射る。鋭い風切り音が少しだけ反響して聞こえたと思った瞬間には哀れリザドッグはその生命を散らした。

「流石」

リザドッグはモンスターに分類されるらしく、倒れた遺体の口から魔力の煙があがる。そしてその煙はすぐさま柱の石に吸い込まれ、石はその光を少し強めた。

「なるほどね、そうやってこの石は光り続けるんだな」

「ん?どういうこと?」

どうやら見てなかったみたいだ、フランに説明すると全員がすぐに納得した。

「なるほどねー、じゃああれかな。むしろここの維持のためにはモンスターを積極的に狩ったほうがいいってことかな?」

心なしかルカの声が嬉しそうになる。最近わかったことだがルカは狩りと聞くとテンションの上がる人のようで、ハントジャンキーなところがあるみたいだ。

「ここの光がまばらなのもそういうわけなんだろうね、均等な位置でモンスター倒したりしないから」

「でもそれのお陰でこんな綺麗なんだもんね」

石は村人の配置らしいから自然のとはいえないかもしれないけど、自然の神秘と言えない事もない。


 その後もリザドッグをちょくちょく狩りつつ奥へと進んでいく、リザドッグは確かに少し鱗が固めだが逆に野犬や狼みたいな純正の獣よりも動きが遅めで、その鱗を貫通できるだけの攻撃力さえあればむしろ的でしかない。リザドッグには爪と牙くらいしか無いのが楽でいい、フランが一番リーチが短いものの、飛びかかってきたリザドッグを半歩のステップで躱し、短刀の効果で容赦なく地面や壁に叩きつけていた。ソフィは鍾乳洞の地面から槍を生やして攻撃し、俺は狼剣で斬りかかる、位置取りによってはたまに柱があって剣が振れないことがあるが、その時は突きで処理できるくらいには冷静に戦えている。

「順調だね、カイも強くなったね、ポヨと戦ってた頃とは大違い」

ソフィが笑いながら言う。

「そんなこともありましたね!」

こっちの世界にきたばかりのころと比べれば大分戦闘にも慣れてきたとは思う。流石にまだ常人ではあるけど、流石に剣術などと呼べるほど上等なものじゃない。いつかは必殺技とかキメて見たいけどね。まだ早い。


 緩やかな斜面を下って行くと、途中に階段のような整備された場所があった。

「ここが地底湖の入り口?」

「多分ね、村の人の話だと多分ここかな」

情報ではこの下の地底湖にネヴラバがいる。ネヴラバも情報通りならば大した脅威のあるモンスターじゃない。目的の祇晶核がすぐに手に入ればいいんだけど……

「じゃあ、行きますか」

気持ちを引き締め直して階段を降りる、階段の両脇にも魔石が埋め込まれているようで、仄かな明るさのおかげで足を踏み外すことはなさそうだ。階段は人二人が横に並ぶには少し狭いくらいだ。踊り場を一度挟んで少し長い階段を降りた先には……

「わぁ……」

「すご……」

真っ青な地底湖が広がっていた。それも結構大きめの、だいたい何とかドーム1個分とか言うところか。耳を澄ますとどこからか水の流れる音も聞こえる、どこかの川か何かがつながっているのだろう。階段を降りてすぐのところには湖岸がひろがっていて、それもまた結構な広さがあった。よく見渡せばところどころにアンカーが打ち込んであり、ここでテントを張って狩りをすることができるのだろう。なんだかんだ言ってもカリーグ鍾乳洞に入ってからここにたどり着くまで戦闘を含めて2〜3時間くらいは経っているんじゃないだろうか?正確な時間は分からないが若干の疲れも無いこともない。

「なぁ、ざっと見たところネヴラバも見えないし、まずは休憩しないか?」

「そうだね、そうしよっか」

みんな賛成してくれた。アンカーのところには火を起こした後があったのでそこで休憩をすることにした。


 お茶を入れ、用意したパンに炙った肉を挟んで食べる。

「醤油欲しい……」

「ショーユ?」

フランが聞き返すやっぱこっちには無いか……それを聞いただけで涙が出そうだ。

「俺が住んでたところにあった調味料でねー、アレがない世界で生きるなんて考えられないと思ってたよ……」

「そんなにおいしいの?」

「そりゃもう、魂に響くね、あれは」

「ショーユってどういうものなの?似たようなのを探してみたらいいんじゃない?」

似たようなの……かぁ、大豆があればできるのかな?塩はあるしなぁ……でも作り方知らないし、冒険者カバンに入れておいても時間進まないから一箇所に落ち着かないと出来ないんじゃないのかなぁ……そもそも麹とカビの区別つくのかって言われたら自信ないしなぁ……


「……なんか深く考えだしちゃったね」

その後黙りこんでしまったカイをよそに三人は食べ終えた所を片づけた。

「あれ、いつの間に」

「カイは時々考えこむと周りが見えなくなるよねぇ」

「Oh…面目ない」

若干ぬるくなったお茶で残ったパンを流し込んだ。その間にも女子組は狩りの準備を着々と進めている。そんな中ソフィがカバンから取り出したものに俺とルカの視線が集中する。

「ん……な、何二人共、私に何か付いてる?」

「いや、その手に持ってるのって……」

「ああ、ノエルの魔薬?」

ソフィも魔法使いなんだから魔力の回復するよなぁ。なんか同情の視線を送ってしまう。ルカは今からうわぁって顔をしている。だからその顔やめろ

「二人共なんて顔してんのよ」

笑いながらビンになにか入れてくるくると回している。その後一気に飲み干した。

「……あれ?」

なんのことはなく飲み干した……だと……

「ソフィってそれ平気なの?すごいね」

ルカが言う、俺もそう思う、あんなの素で飲めるなんて常軌を逸しているよ。

「え?平気って何が?」

「何がって……ノエルの魔薬ってとんでもない味するじゃない?カイが飲んでたのちょっと舐めただけで気絶するかと思ったよ?」

その一言でソフィとフランの視線が何故か俺に集中する。え、何?

「カイ……あのね、すごーく言いにくいんだけど聞いてくれる?」

「え、お、おう」

何を言われてしまうんだろうか、怖い、今すごく次の一言が怖い。なんとなく想像できるのが更に怖い。

「ノエルの魔薬、原液で飲む人なんて普通いないんだよ?」

まるで脳天を揺さぶられたかのようだった、空いた口が塞がらない上にそこから魔力の煙があがった気がした。


 結局俺が飲み干した十数本分はタダの愚行でしか無かったことがソフィの説明で明らかになった。どうやらノエルの魔薬というのはアイスの実と呼ばれる甘い木の実をすりつぶした物を混ぜて飲むのが普通らしい。このアウィスの実には甘い他に魔力を分解する性質があるらしく、飲む直前に混ぜることで上手いこと中和して、味を飲めるものにしたうえで魔力の減退を殆ど無く飲むことができるんだそうだ。アウィスの実を事前に入れた状態で流通すると魔力を分解しきって殆どただの甘い水になってしまうから飲む前に入れるのが常識なんだそうだ。

「また一つ賢くなってしまったぜ……」

がっくりとうなだれながら反省する。そりゃこんなくっそマズイもの飲みながら戦えないよな……

「私からしたら10本以上も原液で飲んだことが信じられないわ……」

「私も……」

「凄いよねぇ、カイって」

褒められているのかよくわからない言葉をありがたく頂戴しながら準備をすすめた。ちなみにアウィスの実入りの魔薬はまるで炭酸の無いラムネのような味がして少し懐かしい気分になった。


 準備を終えて片付けも終えた。

「で、どうやってネヴラバと戦うんだ?」

そう、ゆっくり休憩ができるくらいこの地底湖の湖岸には何もいない。噂のネヴラバを湖から引っ張り出す方法が無いことには戦えない。まさか水中戦とは言うまい。

「ちゃんと用意してあるよ」

フランがカバンから何かボールのようなものを取り出した。

「それは?」

「村の漁師さんから譲ってもらったの、ちょっとした爆弾なんだって」

爆弾とは穏やかじゃないね。なんか水中にいるのを爆弾で引っ張りだすってどっかで……

「これの表面をしばらく水に付けてると溶けて、中の特殊な火薬が水に触れると爆発するんだって、その音と振動でネヴラバを引っ張りだすみたい」

「一発でどのくらい出てくるの?」

ソフィが聞く、確かに1〜2匹ならなんとでもなりそうだけど数によっては考えなおしも必要か。

「そこまでは聞いてなかったなぁ……でもそんなにわさわさ出てこないとは思うけど」

「まぁそれが手段なら試す他ないでしょ」

机上の空論ってやつになりかねない話はとっとと切り上げてしまおう。男ならなんでもやってみるもんだ。そう言いながら爆弾を受け取る。

「これどのくらい遠くだといいのかな、あんまり全力で投げても出てこないと意味ないよね」

「いや、なんか村の若い人が結構頑張って投げるって言ってたから全力でもいいんじゃない?」

マジか、それってもしかして結構危ない威力の爆弾なんじゃないのか?少し怖い感じがしないでもないが……まぁ一度言った事は引けない、ソフトボール投げの容量で思いっきり投げることにした。

「そー、れっ!」

思っていたよりも綺麗な放物線を描いて爆弾は飛んでいった。

「おー、なんだかんだ言って男の子って感じするね」

「ねー、ちょっと見直しちゃう」

なんて声が聞こえる、高校生かよ。照れくさいからやめてくれ、自分がどんな顔してるかわからないから振り向けないだろ。


 水に沈んでから30秒くらいたった頃に、少し鈍い音が聞こえたと思ったらだんだんと水面が丸く盛り上がりはじけた。爆弾の余波で波が出来てこちら側に押し寄せてくる。

「これちょっと引こう!」

そう言って後ろを向き、三人に来い、という手招きをしつつ走った。全員がついてきてるのを確認しつつ壁際まで走る。じょじょに大きくなった波は湖岸にたどり着く頃には1mほどの大きさになっていた、湖岸に乗り上げた波は徐々にちいさくなりながらも表面をさらっていく。ぼんやりと湖岸に居たら波を食らって流されていたかもしれない。

「波こわっ」

安全を確認しつつ感想を言うと三人からは想像と違う言葉が帰ってきた。

「カイって判断早いよねー、やっぱりリーダーに適任じゃない」

「あんなに波大きくなるなんてね、カイ凄い!」

「注意受けてなかったからそのままだと流されてたね……ごめんね、聞き込み不足だったね」

この三人は本当によく褒めてくれる、嬉しいんだけど照れる。慣れないとダメかな。頬が熱くなる感覚があるから顔も赤くなってるかもしれない。

「あ、それより上がってきたみたいだぞ」

湖岸を指さす、そこにはオオサンショウウオを縦に長くしたような生き物がちらほらと姿を見せだしていた。

「さ、祇晶核貰うぞー!」


 波が引くのに合わせて走りだす。走りながらカバンから狼剣を取り出して構えた。それに三人が追随する。

「まずは一体を全員で倒そう!」

指示を出しながら走る、それぞれから肯定の返事が帰ってきたのを振り向かずに聞くと、一体だけでいるネヴラバに駆け寄り、斬りかかった。

「せいやっ」

上段からの振り下ろし、動きの遅いネヴラバを確実に捉えた。と、思ったのだが剣先がずれて滑る。何かを斬る感触ではなく、何か弾力のある物に押し返される感触しか無かった。ネヴラバに当たった剣はどちらかと言えば鈍器のような、ただの鉄の棒で殴ったようなダメージをほんの少し与えたに過ぎなかった。ネヴラバが殴られた拍子に低い声で鳴き、こちらを向いたのですぐに離れた。するとそこに間髪入れずに矢が飛んでくる。が、しかしこれも刺さらずに逸れてしまった。

「えっ、矢が効かないの!?」

うっそー、と言う声が聞こえてくる。今まで戦ったことのないタイプなんだろう。刃が効かないってのは厄介だ、チームの半分くらいは戦力にならなくなってしまう。ネヴラバがこちらに向かって突進を始め、口を開いて飛びかかってきた。

「うおっ」

間一髪で(かわ)す、遅いとはいいつつも足腰は割と強靭なようで、腰くらいの高さまで飛び上がってきた。噛み砕こうと閉じられた口は思ったよりも大きな音を立てて閉じられた。あんなのに噛み付かれたら肉をごっそり持っていかれるかもしれないとおもうと恐ろしい。

「カイ!離れて!」

フランが走りながら叫ぶ、それに従い距離をとる。

「いくよフラン!『岩の槍(ロックスピア)』」

ネヴラバの腹の下から数本の槍が飛び出しアッパーのように体を持ち上げる、が、やはり刺さっているわけではなさそうだ。そこにフランがネヴラバを飛び越すように飛び上がり、手に持った短刀に魔力を込めて、槍に向かって叩きつけるように吹き飛ばした。流石にそれには耐えられなかったようで、数本の槍がネヴラバに突き刺さる。突き抜けてはいないもののしっかりと刺さった槍がネヴラバを宙に固定する。エグい、が倒さないと行けないのだからしょうが無い。とどめを刺すべくじたばたと手足を動かすネヴラバに向かって狼剣を振り下ろした。今度は固定されているからか、少し抵抗する感触はあったものの、全力で振り下ろした剣はその身を切り裂いた。動かなくなったネヴラバの口から魔力の煙が上がったのを確認し、一度全員で集まった。

「こりゃそれぞれで倒すのは無理だね」

「私なんか何の役にもたてなかった……」

心なしかルカが涙目である。

「そんなことないよ!ちゃんと戦い方見つければダメージ与えられるって!」

フランが慰めている。うーん、この手の表皮がぬるぬるしてる類のモンスターの攻略法といえば……

「口の中を狙う、とかかな?」

「え?」

突然言ったからか理解されなかったらしい、手短に説明する。

「外側がぬるぬるしてて、中身にダメージが与えられないんなら、最初から中身を狙うのが一番でしょ?そしたら口の中がそうかなって話」

「なるほど……ってそんな簡単じゃないでしょ」

ソフィからツッコミが入る。でも表皮には通らないんだからしょうが無い。

「ん、わかった。狙ってみる」

「ただ口を開くのが噛み付きの時だけだとしたら躱すのを優先ね?」

「わかってるよ、流石に噛まれてまで撃ちたくは無いわ」

「なら良し」

いのちだいじに。だ

「戦い方は今みたいな感じでいいかな?」

ソフィが確認を取る。

「そうだね、ソフィがロックランスで持ち上げて」

「私が縫い付ける」

フランが小刀を持ちながら気合を入れている。

「で、そこを切りつけるか」

「私が口を狙って撃つ、ね」

いいね、役割分担も妥当だし危険も少なそうだ。再び1体のネヴラバを狙いに走りだす。



「……出た!」

「やっと出たか!」

それからネヴラバを十数匹倒し、祇晶核が出来るならそこ、と言われる首の根元を中心に切り開いているのだが一向に出ない、そろそろ疲れてきたかと言う頃になってやっと一つ目の祇晶核に出会った。

「うーん、案外レアアイテムなんだね」

ソフィがぼやく、流石は伝説の薬(仮)の材料だけはある。

「これで完了?」

ルカがソフィに聞く、ソフィはごそごそとカバンから例の手紙を取り出した。

「えーっと、フラン、ちょっとそれ貸して」

フランが祇晶核をソフィに手渡す。

「うーん……あー、ダメだね。これだと小さいみたい」

なんてこった。やっと出たかと思ったのに不合格とは。ちなみに今回出た物は大きさとしては直系5〜6センチほどだろうか、そこそこ立派に見えるんだけどな。

「くあー、狩りなおしかぁー」

ルカが背伸びをしながら言う、言いつつも顔はちょっと楽しそうだ。

「まぁのんびりやりましょ、急いでるわけでもないし」

フランが言う、ソフィはにこやかに頷いていた。


 それからしばらくして、一発目の爆弾で出てきたネヴラバを全て狩り終えた。もう水中に戻ってしまったのもいるが、陸に残っていたのは狩りきった。総数27、うち祇晶核は3つ。9分の1の確率って言えばまぁ出なくはない。100回引いて1回あたりが出るかどうかなんてものに比べれば断然いいほうだ。数万匹狩って一個のレアアイテムなんてものと比べようものなら涙がでるレベルで楽だろう。

「なんにしても一回休もう?」

ソフィが提案する、確かにそろそろみんな疲れてきている。疲れた時にちょっとした失敗で致命的なダメージを受けるのは避けたい。ぞろぞろと壁際の休憩地帯へと戻った。

 さり気なくこの休憩地帯、若干他より高めの位置につくられており、爆弾による津波を被っていない。毎年取りに来ているだけあって効率的に作られているのがわかる。4人で手分けしててきぱきと火を起こし、スープを作った。パンと肉を炙ってスープと一緒に頂く。

「ん?フラン、何してるの?」

ソフィが言ったのでフランに目を向けると、フランは冒険者カバンから布を取り出して祇晶核を磨いていた。

「ほら、取り出した祇晶核って汚かったから」

ネヴラバの血が付いているために赤黒かった核がだんだんとその本当の姿を見せていく。ネヴラバの血は体表と同じように若干の粘り気とぬるぬるした性質を持っているので、核を磨くのにも結構手間がかかるようだ。匂いがきつくないのが救いではある。

「わ、綺麗」

フランが言うとルカとソフィがフランに寄る。なんだかんだ女の子って感じが見て取れて頬が緩む。

「ホントだ……」

「凄い……いいねこれ」

どれどれ、とルカの肩越しに俺も覗くと、フランの手には青と緑が絡みあうように輝く宝石のような核があった。

「おおー」

感嘆の声しか出ない。確かに凄い綺麗さだ、これは儀式に使われると聞いても頷ける。

「俄然やる気出ちゃうね」

「ね、頑張ろう」

乙女のテンションはうなぎのぼりだ。内心自分のために取るのを手伝ってもらうっていう立ち位置に申し訳なさを感じていたのだが、本人たちも欲しいとなるとその意識がなくなるのですこし心の荷が降りた感じがした。


「で、ルカは何してるの?」

その後の準備でルカが何かの作業があるからもう少し休憩してて欲しいと言った。それに応じてゆっくりしていたのだが、なかなか難航しているようだったので声をかけた。

「んー、いやね、投げるよりは矢に付けて飛ばしたほうが楽なんじゃないかなーって」

そう言ったルカの手には先端に爆弾の付けられた矢が握られていた。

「確かに、うまくいかないの?」

「んー、もうちょっとでがっちり付くと思う。もう少しだけ待ってね」

そう言うと再びルカは爆弾と矢と紐との格闘を始めた。


後になって思えば、ここで面倒臭がらずに手で投げてれば良かったなと思う。俺達はルカの作業が終わるのをお茶を飲みながら待っていた。


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