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Beautiful WorldLife  作者: 天路周東
第一章 誇り高き血脈
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第二十話 孤児院の計画−カイサイド−

この話の途中から再び視点がカイへと戻ります。


 フランが届けてくれたカイからの手紙を開けると、何故ここにいるのかは分からないがとりあえず無事であること、ヴァースのギルドで代筆して貰ってなんとか手紙を出すことが出来た事、持ち金から考えて手紙を出したらヴァースで資金を稼ぐ必要が有ること等、知らせて欲しい事がひと通り簡潔に記してあった。読んでいる途中にもソフィの目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた、隣に座ったフランが優しく抱きしめてくれたのに素直に甘えた

「良かった……」

「うん……うん……」

「となると、すぐに安否を確認するならヴァースに行かないとダメだねぇ」

ユンが言う。その発言から思い当たることといえばヴァース行きの便が何時出発するのかをなるべく早急に確認しなくてはいけないということだ。

「今日届いたから少なくとも今日出発ってことはないけど、確か今回はギルドからヴァースに物資の輸送があるから結構早いかも」

フランが言う、そうとあってはゆっくりと泣いている場合ではない、袖で涙を拭い、二人は立ち上がった。

「行ってくるね」

ソフィとフランはバタバタとユンの家を後にした。

「やれやれ、忙しいねぇ」


 サフラノとヴァースを移動するためには、長距離移動専門のポリー車に乗って行くのが一番安全でかつ確実であるのだが、それが手軽でないのにはいくつか理由がある。 ひとつは長距離移動の上、それを専門にしている業者の数はそう多くはないということ。もう一つはそれぞれの業者がそれぞれの事情で活動をしているため、いつでも利用できるとは限らない事だ。特に後者の理由には、需要の多い時期と少ない時期という偏りであったり、利用したいという客が一定人数を超えない限りは出発しないという不便さが多い。仮に少人数でもどうしても出発したいと言う時には、業者が不利益を被らないようにするだけの料金の上乗せが発生してしまう。

「すみません」

「ん?おお、フランちゃんじゃないか、ギルドからの物資は受け取っているが何か不足でもあったかね?」

フランと荷場のおじさんは業務上知り合いのためこういう時頼りになるなぁとソフィは後ろで思う。首を横に振って質問に否定を返してフランが聞く

「私とソフィの二人でヴァース行きのに乗りたいんですけど、まだ空いてますか?」

「んー、おお。まだ空いてるよ。あと二人以上の客が来たら出発を決めるって言ってたから丁度だな。最大であと4人だ」

「よかった。私達二人が乗ります」

「あいよ、だと出発は明日の昼過ぎだから遅れないように来ておくれ、お代は一人4000カラーだよ」

「わかりました。よろしくお願いします」

二人で礼を言い荷場を離れた、思ったよりも断然早い出発になる。

「急いで準備しなきゃね」

「うん、急な出発になっちゃったけどフランはいいの?」

「うん、用意が間に合うかだけが心配だけどね」

そう言ってはにかむフラン、ソフィとしては急すぎて心が準備できていなかったのだがフランが引っ張ってくれてヴァース行きの実感がやっと湧いてきた。

「ゆっくりは出来ないね」

「今日でいろいろ整理して、明日の午前に買い物するものを済ませて出発だね」

街の中心に戻りながらそう話をする。こうなると本当に一刻の猶予もない。大通りでそれぞれが準備をするために別れた、まずはユンに出発の時間を伝えなきゃ、その次にはティーにも出発を伝えて……おじさんにも離れるって言わなきゃな、大変だ。体の疲れを押し切ってソフィは再び走りだした。


 翌日、店が開く前にフランがソフィの家にやってきて買い物に出発することにした。ソフィの貯金は約3500カラー、フランは5000カラーだったので、ソフィの不足分はフランが出そうと思っていたのだが、デニスがこれで二人の準備をしなさいと1000カラーをフランに渡したためソフィは借金をせずに済んだ。とは言え実質無一文になってしまうのだから買い物はフランがする事になる。

「ごめんねフラン」

「ううん、急な話だったし私が勝手に決めちゃったようなものだし」

「でも……」

「それに私とソフィはもう一緒に冒険する仲間なんだから、財布は二人のものみたいなものだよ」

実質この世界で固定メンバーで冒険をする冒険者達はそうしていることが多い。食事などを全員で取り、また装備を整えたりするのもパーティ全体の為になるように考えて使う事が多いため、所持金や収入をパーティ用と個人用で割り振って使う事は各個人の使い方に関わらずパーティの底上げに使える様になる。結果として全員の生存確率を上げるために使いやすくなるのだ。ソフィの言い分としてはそれを踏まえたとしても0:1500なのは気がひけるのだが、今回に限ってはどうしようもない。弓を売るための査定の時間なども無いのだからしょうが無い。

「何が必要かな?」

てきぱきと行動しているように見えてフランは旅の経験が一切ないため、知識等の担当はソフィになる。フランの言い分としては待ち望んだ初めての旅で、それに一緒に行くのがソフィなのだし、旅の知識では頼りっぱなしになるのだから1500カラーで済むのなら安いくらいだと思うのだが、ソフィの性格を考えるとあまり手放しで受け取ってもらえないのはしょうが無い。

「とりあえずは二人で400カラーくらいは取っておかないとヴァースに着いてから困りそうだよね」

「そうだね、うーん。」

「二人分の毛布とか食器とかそういう日頃のものは私が持ってきたから、いざというときの物を中心に買わないと行けないね」

「そっか、必ず宿に泊まれるわけじゃないもんね。荷台の中で寝ないと行けなくもなるのかぁ……」

「基本的には困らないように用意してきたよ。私が持ってる物で足りないのは……やっぱり回復薬とかかなぁ。あとは魔石があればいいんだけどサフラノだと少し高いんだよね……」

「どうしても無いと困るものを中心に買わなきゃってことかぁ……ソフィ、1000カラー以内で見繕ってもらってもいい?」

そうしてあーだこーだ言いながら二人で計870カラーの道具を買い込み、それぞれのカバンに入れた。フランも今回の旅のために冒険者カバンを買ってある。普段は極力カラーを使わないようにし、いつの日か旅に出るための費用として貯金していたのが功を奏した。


 予定通り荷場に着き、業者に二人で8000カラーを支払う、これで二人共ほぼ文無しだ。あとは積荷を確認し終わったら出発だという。基本的に積荷を全て配置してから人が乗り込むため、準備ができるまでは外で待機だ。

「おーい」

声のする方を振り向くと街の方からユンが走ってくる。魔力を使っているのかその小柄な体からは考えられない位の速度ではあるが、それでも一般人が走るよりは少し劣る。

「ユン?」

二人の元へと辿り着いたユンは息を整えてからソフィに本とイヤリングを渡した。

「あっ、イヤリング預けっぱなしだったの完全に忘れてた……」

「全く……確かに急だけど忘れてっちゃダメでしょ」

「ごめんね、わざわざありがとうユン」

「なぁに、これがなくても見送りには来るつもりだったよ。フランの人生初の旅立ちでもあるしね」

そういってウインクするユン。大げさに言うがたしかにその通りだ、人生で初めての、と言われると胸が高鳴ったり、不安だったり……自分がヴァースを一人で離れる事になった頃の事をふと思い出していた。

「そうそう、そのイヤリングだけどさ」

「うん?」

「一応探索魔術の基本術式だけは組んでおいたから、今後必要になったら探したい人の魔力を注入して使うといいよ」

「本当!?時間も無かったのに大変だったでしょ?ありがとうユン」

「はっはっは、アタシにかかればまぁそんなに難しいことじゃなかったね、使い方は探したい人の魔力か、魔力の痕跡のあるものにくっつけて『解読(リード)』して、その後耳につけて『追跡(チェイス)』すれば必要な情報がわかるはずだよ」

「流石はユン、凄い」

フランも褒めるとユンは自信たっぷりに腰に手をあてて胸を張った。

「それとコレもあげよう、私は別に使わないから」

そう言ってポケットから魔石を二つ取り出してフランに渡した。

「これは?」

「赤い方がトーチの魔石。青いほうが湧き水の魔石だよ、どっちもあれば便利だろう」

「ユン〜」

感極まった二人は膝をついてユンに抱きつく、サイズの違いがあるからしょうが無い。抱っこするわけにもいかないし。ユンは抱きついた二人の背中を優しく叩き、激励した。

「気をつけていっておいで、すぐに帰って来いとは言わないけど、いろいろ見たらみやげ話をしにいつかは帰ってきなよ」

「うん、ユンも元気で」

「行ってくるね」

「うん、じゃあね」

丁度荷台に荷物を積み終わったようで乗車予定の人に呼びかけが始まっている。二人は立ち上がってユンに手を振り、荷台に乗り込んだ。全員が乗り込み出発の合図が鳴る。順当に進めばヴァースに着くのは8日後になる、荷台から手を振る為に顔をだすと、いつの間にかおじさんやデニス、ティーとソーサーも見送りに来ていて皆に手を降った。


 荷台に揺られながらソフィとフランは隣り合って座る。早速毛布を取り出して座席に敷いておく、これがあるのと無いのとでは疲労度が天と地ほどあるというのは旅の知恵だ。

「なんとか間に合ったね」

「うん、だいたい8日くらいかけてヴァースまで旅をするんだけど、途中カスタとかグランラックに立ち寄るよ。観光はしてられないけどね」

「立ち寄った時に何をするの?」

「だいたいはポリーを休ませるのと、あとは皆がそれぞれ食料とかを用意するかな。私たちは4日分くらいは持ってきてるけど、足りない分は補充しないとね」

「ふんふん、旅の汚れとかも落とさないとだしね」

「そうだねー、やっぱり気になるよね」

ここらへんはやはり年頃の女の子だ、事実こういう長旅ではだんだんと体も汚れていくため、各街の宿屋では汚れを落とすために湯を提供するサービスを格安で行なっている所が殆どだ。男女一纏めで移動する場合は気軽に体を拭くことも(はばか)られるため、街での休息が無いと女性の利用者が激減するのである。

 そんな事を話す二人に近づく人影があり、気づいたフランが目を向ける。

「君たち若いねぇ、ヴァースに着くまでオレと遊ばない?体拭いてあげるよ?」

一言目から下心丸出しのコイツは若干頭髪の薄い線の細い男だ。無精髭も生えていてとても清潔感があるとは言えない風体である。ワイルドといえば聞こえはいいが線の細さが頼りなさを醸し出している。

「「お断りします」」

二人が笑顔でハモる。ソフィに至っては袖の下は鳥肌が立ったくらいだ。フランはこんな風に声をかける冒険者は今まで何人かいたので不本意だが慣れてはいる。

「えー、いいじゃないの。仲良くしようよ」

しつこく食い下がる男の動向を周囲の客も見ている。中にはすきあらば便乗しようと考えているものもいた。車内にいる女性は夫婦が2組の他にはソフィとフランしかいないため、こういった手合いが目をつけるなら当然二人になる。

「こう見えて私達冒険者ですけど、大丈夫ですか?」

そういったのはソフィである。すると乗客でこちらを伺っていた男性のうちほとんどは興味を失い、女性はほっと胸をなでおろした。

「なんだよ、冒険者かよ」

舌打ちをして男は元いた場所へ戻る。フランも安心すると同時にソフィに感謝した。

「冒険者って凄いんだね」

「まぁね、こういう風に乗客をナンパする人は必ずいるらしいんだけど、色んな意味で冒険者には手を出せないのよ」

「色んな意味?」

「そう、例えば冒険者ってことは少なくとも魔物と戦う事が出来る人でしょ?一般人が冒険者と戦って勝てる事はまずないからやるだけ無駄って言うのが一つ。次に冒険者同士であってもどっちが強いかやってみるまではわからないからリスクが高いって事、それにどんなに強さに自信があっても冒険者同士で殺し合いをすれば……」

「ギルドカードに記録されちゃうもんね、なるほどなるほど」

強くなったら他人に危害を加えようとする冒険者がいないわけではないため、対策としてギルドカードに付与された機能の一つである。私利私欲のために他の冒険者を殺せば、その場所と相手が記録されるので、明らかに不自然な記録がある場合はギルドから多数の制限がかかる。例を上げればランクの降格、階級の剥奪や、ステータス減少の呪いをかける処分であったりする上に、危険人物としてマークされる他、依頼を受けることが出来なくなったり断られたりする。

「そ、それに旅の途中ってモンスターが出ることもあるから、戦力を減らすと結果的に自分に危険が及ぶってことを考えればね」

「そっか、いざって時に守ってもらえないね」

「そ、わざわざ自分に危害を加える人を守ってあげたりしないよ」

最後の一言は若干大きめの声で言うと先程の男はバツが悪そうにそっぽを向いた。モンスターに襲われた際に守らない気は無いが変な気を起こす人が現れないように牽制の意味で言ったのだが効果が見込めそうだ。乗車前に聞いておいたのだが戦闘が出来るのはソフィとフラン、それに業者と乗客にもう一人冒険者がいるので4人。他はただの一般人らしい。ちなみにそういった意味で護衛が出来るため、一人4000カラーで済んだとも言える。一般の乗客は少なくとも5000カラーは支払って移動している筈だ。

「もっと早く移動出来ればね……」

フランがそうつぶやく、それなりに荷物を積んでいるために3頭のポリーで引いても人間が走る程度の速度だ

「んー、ポリーが疲れるからね、こればっかりはどうしようも……ん?」

「ん?どうかした?」

「そうだ!軽ければいいじゃない!」

そう言うとソフィはカバンから杖を取り出して前の方へと歩いて行った。そして少しの間業者と何か話をしていた。しばらくした後ソフィが戻ってくる。業者がゆっくりとスピードを落として一度荷車が停止した。

「どうしたの?いきなり」

「うん、荷台に魔法をかけていいか相談しに行ってた、なるべく早く着きたいし。上手く行ったら少しお金も戻ってくるって」

「おおー、やっぱり便利だね!スゴイスゴイ」

喜ぶフランに微笑み返してソフィは他の乗客に呼びかけた。

「皆さん聞いてください。私の魔法で荷台を軽くしますので少し移動の速度が上がります。なるべく揺れが増えないように配慮はしてもらえるようですが不都合のある方はいますか?」

そう聞くが特に異論は無いようなので魔法をかけることにする。意識を集中して荷車全体を包み込める量の魔力を練り上げる。必要十分な量の魔力を練り上げるのにたっぷり40秒はかかったが、ソフィのイメージは人以外にも問題なく風を纏わせる

「『フローティング・ドレス』」

荷車をドレスアップさせるように風を纏わせる。魔力が行き渡った感触を確認して業者に合図をすると、再び荷台はゆっくり走りだした。トップスピードは先程までよりも1.7倍ほど早いようだ。ソフィはフランの隣に腰を下ろすと、カバンから丸薬を取り出して飲み込んだ。

「お疲れ様」

「ありがと。またかけ直すまでに魔力を回復させておかなきゃ」

「このくらい早くなったらすぐ着くね!」

「うん、まずは何もないといいけどね、モンスターと遭わなければそれだけで時間短縮になるし」

ヴァース行きの荷馬車は足取り軽くカスタへと疾走した。空は晴天、雲ひとつ無い青空が二人を導くように広がっていた。








 あれから数日経った。その間も何度かルカと狩りに出かけ、地道に資金を稼いでいる。手紙を出してから8日はとうに過ぎているから、すぐに手紙が届けば返事を出してくれている頃かなと思う。まぁ全く連絡が取れていなかったからなぁ、まだカスタにいたり、手紙の配達が失敗してたりすると困るわけだがそれも確認できない。つくづくネットで現在の配達状況を確認できるってことが便利だったって分かるなぁ。それにメールとか電話も、とんでもない発明だったんだなと使えなくなると思う。

 さて、今日は何をしているかというと、ノーリスさんの頼みで孤児院の子供が住み込みで働けそうな所を探す手伝いをしている。

「はい、はい。あ、大丈夫ですか?それじゃあ近々連れてきますので。はい、よろしくお願いします」

頭を下げて店を後にする。普段うろついているヴァースの下町からはかなり離れたところにある市民街に来ている。そこでかたっぱしから聞いて回っているが、思っていたよりも受け入れられている。今OKを貰ったのは小さなパン屋だ。世間話に花が咲いて少し時間を食ったがついでに焼きたてのパンの形の悪い奴を食べさせてもらった。んまい。地図にチェックを入れて受入れ人数1を書き込む。

 次々と虱潰しに営業をし、日が暮れる頃には市民街の区画の3分の1ほどを回ることが出来た。予定引き取り人数まであと……12人分か、やっぱ多いなあの孤児院、大規模だもんなぁ……。しかしまたなんで今になってこんなに大人数を一気に働きに出させるのだろうか?孤児院を止めるんですか?って聞いても別にそういうわけでは無いのだがね、とやんわり隠されてしまった。まぁルカには世話になってるし、ルカに恩返しという意味も込めて手伝いを引き受けた。そろそろ約束の時間になるのでルカとの待ち合わせの場所に行くと、変な銅像の隣のベンチに座っていた。

「おまたせー」

「あ、カイ。お疲れ様、そっちはどうだった?」

お互いの進捗状況を報告しあう、俺は16件で18人。ルカは12件で12人の受け入れを確約してきた。これで予定人数ピッタリだった

「おっ、ピッタリ」

「負けたぁー!結構頑張ったと思ったのに!」

勝負していたつもりは無かったのだがルカは悔しがっていた。まぁ運もあるでしょう多分。

「悔しいなぁ」

「別に勝負してたわけじゃないだろ。それに運だよ運」

「むー、まぁ狩りでは勝ってるからいいか」

そう言って胸を張るルカ、危うく目線が行きそうになるのでやめて欲しい。

「それでも2日とか3日かかるのを覚悟してたのに1日で終ったからラッキーだね。ご飯食べに行こ?」

「ん、そうしよう」

「こっちの方はめったに来ないからお店とかわかんないんだよね〜、どこかいいところ無いかなぁ」

「んー、どうだろうなぁ。適当にぶらついて何かあったら入りますか」

「そうしますかー」

いやぁ、リア充だなぁとか思ってませんよ。覚えてはいないけど、日本にいた時はこんなに女の子とぶらつくような縁があった記憶はない。多分記憶が残っていても無い。そういう意味ではビバ神世界だ。 その後適当に入った店でそこそこのご飯を食べた。この店には悪いがマリーさんの店のご飯のほうが美味かったな……


 翌日、ルカと一緒に孤児院へ報告しに行く。今日からは子供たちをそれぞれの店に派遣させる仕事だ。ノーリスさんが椅子に座って微笑んでいる。

「本当にありがとう、カイ君は仕事の出来る男だな」

「いやぁ、どうも」

照れる、やはり努力を褒められるのはモチベーションにも関わってくるよなぁ。

「というわけで当初の予定通り、子供たちをそれぞれの店に連れて行ってもらえるだろうか」

「はい」

俺とルカが返事をする。

「済まないね、本当なら私が進めておくべき話なのだが」

「いや、俺はルカにお世話になってますから。その恩返しも兼ねて」

「恩返しとかいいのに、でもありがとう」

「ルカも済まないな。本当は冒険者業だけで生きていけるのに私達の手伝いを買って出てくれていて本当に助かっているよ。ありがとう」

「私もここのおかげで立ち直れたから……」

ルカもそう言いながら照れている。

「も、もう行こ!時間なくなっちゃう!」

明らかに照れ隠しに立ち上がり手を掴んで引っ張られる。

「それじゃあ行ってきます」

「ああ、頼んだよ」


 扉を閉めて二人が退室し、しばらくして中庭に集められた子供たちを先導していく、着々と計画は進行している。

「ありがたいよ、本当に」

そうつぶやくとすぐに扉がノックされる。

「ん?どうぞ」

「失礼します」

部屋に入ってきたのはケインとアイン、シース、ネルの4人。

「こちらの方の準備は終了です。いつでも行けます」

4人を代表してケインが報告をする。

「そうか、計画の実行は予定通り4日後だ」

「やっと終わるんですね」

「ついに無念を……」

拳を握り締めるシース。アインは終始無表情のままで、ネルはケインに寄り添っている。

「あの」

ネルが発言する、全員がネルの方をみて言葉の続きを待つ

「ルカは……いいんですか?」

「ルカは……カイに任せよう、押し付けるみたいでカイには悪いが、あれはあれでなかなかお似合いだよな」

質問にはケインが答えた。ここ数日でルカとカイは冒険者として信頼関係を築いている。正直巻き込むかどうかをずっと悩み続けていたのだ。

「そうだな、ルカはここに来て日も浅い。子供たちのように面倒を見る必要もないくらいしっかりしている」

「ルカ……」

ネルの心境としては複雑だ、無論巻き込みたくないという思いもあるが、仲間であり計画から外すのも心が痛い。そんな心境を察してケインはネルの手を握る。

「各自最終準備に入る。私も3日後には戻るがそれまではここを開ける、ルカをどうするかについてはお前たちに任せる」

「はい」

椅子から立ち上がりノーリスは無人の中庭を見下ろす。こうして全員を外に出してしまえばなんと空虚な空間だろうか。

「……ああ、やっとだ。悪魔め、覚悟するがいい」

ノーリスは煮えたぎるような怒りが漏れだしたような声でつぶやいた。



 孤児院にいた子供たちのうち、年齢で言えば小学生以下くらいの子をぞろぞろと連れて市民街までやってきた。これからどの子をどの店に振り分けるかになるが、この人数をそれぞれ意見を聞きながらでは何時まで経っても終わらない。そこで子供たちにはじゃんけんを教えることにした。市民街の中にある公園では今やじゃんけんの声で一喜一憂する子供たちでいっぱいだ。

「じゃんけんって面白いね、カイが考えたの?」

ベンチに並んで座ってその光景を見ながら話をする。

「いや、俺が昔いたところでは普通の遊びだったよ。揉めること無く何かを決めようとするならだいたいこれかコイントスだったな」

「合理的だよね、遊びだけどなんかこう……決闘みたいな雰囲気もあって面白い」

「ヴァースではどんな遊びをしてるものなの?」

「んー、どうだろ。私はずっと弓がおもちゃだったからなぁ……」

「やっぱりあの腕は鍛錬の賜物って奴なんだなぁ」

「ふふ、まぁね。でも逆に言えば友達は少なかったし、孤児院の仲間は私にとっては欲しかった友達で、大切な仲間だよ」

そう言って子供たちを眺めるルカの横顔は優しい姉のようで、どこか懐かしく、安らぎを与えるような顔だった。

「そろそろ全員決まったかな?」

そう言って立ち上がるとルカは手早く子供たちを集め、勝ち負けで決まった順番通りに整列させた。あとはその順番通りに子供たちを連れて行くだけだ。

 手分けして15人ずつそれぞれの店に連れて行く、どこの店も好意的に受け入れてくれた。戦争で親を失った子供たちが多くいれば、逆に戦争で子を失った親も多いのだ。最後の一人を任せ終わった頃にはもう日が暮れていた。今日も待ち合わせ場所に行くと今度はこっちが早かったようでルカがまだいなかった。 ベンチに座って伸びをして待つ。

「今日もいい仕事したなぁ……」

西に背を向けてながーく伸びた自分の影をぼんやりと眺める。しばらく眺めて空を見上げるとぼんやりと影の形が空に写っていた。

「あ、なんか懐かしいなぁ……なんだっけこれ、影送りだっけか」

その昔読んだ話を思い出す。こうしていろんなことをそれなりに思い出せるのに、どうして自分の名前も家族も思い出せないのか。だんだんと思い出せないことが当たり前になって来ている気がする。思い出したいと思わなくなってきている。 ぼんやりと空をみあげているといつの間にかまぶたがゆっくりと降りていた。


 誰かが隣に座った揺れで目を覚ます。いつの間にか寝てしまったのか。

「あ、起きた」

ルカだった。まぁ他にもベンチがあるのにわざわざ隣に座るのなんてルカくらいしかいない。

「ごめん、いつの間にか寝てた」

「凄く短い時間だよ?」

「?」

何故知っているのか?寝起きの頭ではいまいち理解が出来ないので首をかしげるとルカは笑いながら説明をはじめた。

「だいたいカイが空をみてぼんやりしてる時に私もきたんだけど、すぐにうとうとしてるのがわかったから驚かそうと思って」

「ああ、なるほど……いや、なんか西日が暖かくてついね」

「ふふ、そうだね」

「今日もお疲れ」

「うん、お疲れ様」

「しかしまた一体何で今一気に子供たちを里子に出したんだろうなぁ」

「うーん……なんでだろうね」

「ルカは特に理由を聞いてたりはしないのか」

「うん、もしかしたらケイン達は知ってるのかもしれないけど、最近はあんまり孤児院行ってなかったから」

「狩りに付き合ってもらってたもんな」

「付き合ってあげてたんじゃなくて一緒に行ってただけだよ」

おお……なんかグッときたぞ今。この世界に来てからというもの、いろんな人との関わりが増えたが、どこもこうして横のつながりを大切にする印象がある。言うなれば絆と言うやつだろうか。何かをしてあげるとかしてもらうとかっていう目線じゃなくて、一緒にするとか、分担するとか。結果やってることは同じでも立ち位置が全然違う。 謙遜が行きすぎて卑屈な立ち位置になっていたのかもしれないな……。

「そうだな、ありがとう」

「さ、完全に日が落ちる前に報告しに行って、ご飯食べに行こう」

立ち上がって手を差し出すルカ、その手をとって立ち上がり、孤児院へと歩き出した。


 翌日は狩りに出かけ、一晩を森で過ごして帰ってくる。この狩りのサイクルももう大分慣れた。ギルドに戻るとケイン達がいた。

「おっ、皆」

「おお、カイ、ルカ」

軽く挨拶をすると何かを思い出したようにケインがこちらを振り向いて口を開いた。

「なぁ、二人とも明後日って何か予定あるか?」

「ん?明日は休暇日にして、明後日は適当に狩りでもって話だったけど何かあるのか?」

予定を伝えると少し悩んだような素振りを見せてケインは話を切り出した。

「いやな、ノーリスさんから頼まれた物を取りに行きたいんだけど俺ら全員他の依頼と被っちゃってさ、もし二人が行けるんなら申し訳ないんだけど代わりに行ってきてくれないかなと思って」

俺としては引き受けることに特に何の問題もないが……ルカを見ると頷きながらいいよと言った。

「大丈夫だよ、引き受ける」

「おお、本当か?ありがたい」

ケイン達は全員ホッとした表情になる、そんなに行き詰まるほどの天秤のかけ具合だったのか。調度良く戻ってこれて良かった。

「何を取ってくればいいんだ?」

「ああ、えーと……あれ、なんだっけ」

「おいおい、大丈夫かよ」

「ははは、すまんすまん。明日までに必要な物を全部書き記してカウンターに預けておくから、それを見てくれないか」

また若干周りくどい事をするなぁ、珍しい

「そんなことしなくてもノーリスさんに聞きに行けばいいんじゃないのか?」

そう言うと

「いや、ノーリスさんは明後日まで帰ってこないんだよな。出かけてるからさ」

「ふぅん……まぁそういうことなら仕方ないな」

「ああ……悪いな」

「いいよ、任せとけ」

そう言うとケイン達は街へと戻っていった。それを見送った後、狩りで手に入れた肉を納品する。

「お疲れ様でした、またよろしくお願いします」

ここ数日で肉の人みたいな感じで覚えられてしまった気がする。たまには他の依頼も受けてみるべきかなぁ……ルカと別れて協会へ戻る。今回の狩りも疲れた……


 シスターに戻りましたと伝えて部屋に戻ろうとすると声をかけられた。

「あ、カイさん」

「はい?」

「以前お話した魔力を回復させる霊薬について友人から返事が返ってきたのでお知らせしようと思いまして」

「ああ!ありがとうございます!どうでした?」

「ええ、こちらがその返事なんですが。私も聞いたことのない材料が幾つか記述されていまして……」

そう言いながら手渡してくれた手紙を見ると本当に何なのか全くわからないものがたくさん書いてあった。二枚目には製造方法らしいものが記述してあるがコレもよくわからん。ユンとかなら分かるんだろうか。魔術的な霊薬ならソフィでも分かるだろうか……何にしても自分一人ではどうしようもない。

「その手紙は私が持っていてもしょうが無いのでそのままカイさんに差し上げます」

「本当に有難うございます!調べながら作りたいと思います。何かお礼とか……」

「いえいえ、かまいませんよ」

本当にシスターは天使さんだなぁ……でもまぁせっかく聞いてくれたんだし何か……

「じゃあ明日は休みなんで、協会の掃除でも」

「ふふ、ありがとうございます。それでは」

「はい、ありがとうございました」

手紙を封に戻す。差出人は……エリス……?エリスさんね。ありがたやありがたや。一先ず今日のところは疲れを癒そう。明日は協会へ、もといシスターへ恩返しだ。



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