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Beautiful WorldLife  作者: 天路周東
第一章 誇り高き血脈
19/34

第十八話 ホーミングフラワー

すこしだけ時間に余裕が出来て執筆に充てる時間が取れましたので早めの投稿を

書けるときに書いておきたいですね。


 出発から一泊をおいて、ここはサフラノの東方にある森のさらに東にある丘陵地帯。ところどころに花が咲き乱れ、この地帯を分断するように木々が生い茂っている。ここに目的のホーミングフラワーがいるらしい。

「凄く綺麗な場所ね」

ティーが賛辞を述べる、確かに色とりどりの花が咲いていてとても美しい景観となっていた。

「ホント……モンスターがでなければ凄く安らげる場所って感じだね」

ソフィが足元の赤い花をつつきながら同意する。

「ホーミングフラワーって何色なんだっけ?」

「花びらは黄色かな、まぁ花の色よりも大きさですぐ分かるらしいけど……」

フランが言う、今日のフランは冒険者スタイルだ。ブーツに短パン、ジャケットにはナイフを数本差していて、ギルドで業務をやっていたとは思えないほど着慣れた雰囲気がある。

「花畑よりは森の中なんだっけ?」

「そうだね、まずはあそこの林の中でも探してみようか」

三人は花の香りに若干浮き足立った様子で林へと足を踏み入れた。


 この地帯には針葉樹林が多く、足元は安定していて探索はスムーズに進んだ。三つ目の林は前の二つに比べて大きめの林だから、こんどこそはと踏み入れると、さほどかからずに標的を発見することが出来た。

「いた……あれがホーミングフラワーだよ」

フランが気づき、二人を木陰に呼び寄せてから確認する。そこにはソフィ達とそう背丈の変わらない花があり、ゆっくりと動いていた。 ホーミングフラワーの足元には一羽の兎が転がっていて、その周辺には黄色い球が転がっている。

「なんだろ?あの黄色いの」

「花粉じゃないかしら」

ソフィの疑問にはティーが答える。そういえば花粉を飛ばして攻撃をすると書いてあった。

「何してるのかな……もしかして今がチャンス?」

フランがナイフを引き抜いて気合を入れ直す。ティーが補助魔法をかけるために杖を取り出した。ソフィも同様に杖を取り出す。

「『その身に纏うは風、万里を駆けろ ウインドウォーク』」

三人を風の魔力が包み体が軽くなる。

「ありがとう、ようし……」

フランが飛び出そうと身構える、それをソフィが制した

「待って、何かしてる」

三人は再びホーミングフラワーを見ると、うねうねと体を揺すりながら足として使っている根を動かして兎に覆いかぶさった。根本から何か管のようなものを出して兎に突き刺している。そしてまた体を揺すっている、それはおぞましく奇妙な踊りのようだった。

「うっわ……気色悪い……」

フランが漏らした一言は三人の総意といってもいい。

「あれ……兎を苗床にしてるんだよね」

「ああはなりたくないね……絶対に」

「そうね……気をつけて行きましょう」


 フランが飛び出してホーミングフラワーを切りつける、だがナイフでは太い幹部分に絡みつくツタを傷つけるだけだ。

「フラン、危ない!」

「ッ!」

慌てて飛び退くと数瞬前にいた場所に花粉が打ち込まれる。フランはバク転をして距離をとった。

「『火球(ファイア)』」

ソフィの火球がホーミングフラワーを襲う、花の部分に直撃するが花びらが焦げただけだ。

「植物なのに燃えない!」

「植物系モンスターでも水分が多い花タイプはダメね、ゴーストウッドとかの枯れ木みたいなのには効果的だけど」

ティーが解説をする、流石に魔法に関する戦闘には詳しい。

「フランちゃん!ホーミングフラワーから離れてて!」

「うん!」

指示に従い距離を取る、ティーは杖を構えて魔力を練った。その隙にソフィは回りこんで火球をホーミングフラワーに打ち込む、ホーミングフラワーの注意を引き付けることでティーやフランの安全を確保するためだ。相変わらず大したダメージは見られないが狙い通りにこちらを向いてくれた、と思ったら根を細かく動かしてソフィ側に走ってくる。

「うわぁ気持ち悪い!」

その動きに身の毛がよだつ、どうしてこう虫といいホーミングフラワーといい足が多くて動きの細かいものは気持ち悪いのだろうか。

「ソフィ!」

フランが叫ぶ、足の動きに気を取られているうちにホーミングフラワーが花を少し引いて何か液体を勢い良く飛ばしてきた。すんでのところで気づいて(かわ)すが右足に液体がかかる。

「うううううう気持ち悪いい」

慌ててかかった液体を振り払おうと足をあげようとするが、液体にはかなりの粘性があるらしく、地面とくっついて足が離れない。

「や……ヤバい……」

「ソフィ!」

フランがホーミングフラワーに切りかかって意識をそらそうとするが足が止まらない、完全にソフィに狙いを定めている。

「フランちゃんどいて!」

ティーが叫ぶ、フランは即座にホーミングフラワーから離れた。

「『スラストウェイブ』」

ティーが杖を突き出すとその先から地を走る風の刃が地表をえぐり、なぎ払いながら飛んでいく。一瞬でホーミングフラワーに到達した刃はそのツタだけではなく、幹の部分まで鋭く切り裂く。支えを失ったホーミングフラワーは花の部分からぎちぎちと唸り声のような音を上げて崩れ落ちた。

「フランちゃん、その幹の部分の膨らんだ所に種みたいなのがあるはずだから切って」

「了解」

「あ、危ないから花にはなるべく近付かないでね?」

その忠告を聞いてフランは助走をつけて花の部分を離れた所に蹴飛ばした。

「わーお、可愛い顔して意外とワイルドなのね」

幹の部分で少し盛り上がっているところをナイフで切り裂くと、その中心に確かに種のようなものがあり、心臓のように微かに鼓動している。そこにナイフを突き立てると魔力の煙が上がり、ホーミングフラワーは絶命した。

「フラン〜」

ソフィが情けない声を上げている。足が地面にくっついていては何も出来ない。

「もー、油断しちゃダメだってのにー」

「うう、花粉を飛ばしてくると思って避ける準備してたのに……」

「そういう攻撃もあるってことね。二人で来てたら今頃……」

そう言って振り返ると無残に種を植えられた兎が見える。二人もそれを見て身震いした。ティーのアドバイスで水魔法を使い粘液を洗い流すとソフィの脚は自由になる、安心したソフィは本来の目的を思い出した

「で、種子ってどれだろう?この花の中にあるの?」

「ううん、そのフランちゃんのナイフが刺さってるのがそうよ」

「あ、コレがそうなんだ」

「厳密に言えばその中心にある紫色の球が必要なモノね」

「ソフィ、種子ってあとどのくらい必要なの?」

「んー、確か二つもあればって言ってたと思うけど。ティーは何個必要なの?」

「私は一つあればいいんだけど、欲を言えば三つくらいは欲しいところね」

「なるほどね、じゃあまだまだ探さなきゃだね」

「気をつけて行こうね」

「その前に、と」

再びホーミングフラワーを探しに行く前にティーは火の魔法で兎の死体を焼いた、食べるのが目的ではなく、苗床としての役目を果たさないようにするためだ。三人は再びホーミングフラワーを探して移動を開始した。


 その日はあと2体のホーミングフラワーを発見し、特に苦労することもなく種子を手に入れた。回をこなすごとに三人は連携をスムーズにこなすようになった。状況に応じてフランとソフィがホーミングフラワーの注意を引き、ティーが強力な魔法でなぎ払う。そもそもソフィもフランもレベルが低いためまともにダメージを与えられていないのが現状だ。

「ティーが来てくれて本当に良かった……私達だけじゃ無理だったね」

ソフィが焚き火に枯れ枝をくべながら言う。

「確かにね、二人だとレベルが足りてないのが致命的だったかも」

ティーが言う、ティーの現在のレベルは31、火力の面で見ればホーミングフラワーは取るに足らないモンスターだ。

「でも、二人がいなかったら無理よ?一撃で倒すにはそれなりに魔力を練らないといけないし、その間私は隙だらけだもの」

「まぁ注意を引いておいてその間に魔法を準備するってのは基本的だけど効果があるよね」

フランも同意する、なんだかんだこの三人はそれぞれの役割を果たすことでチームとしてまとまることが出来ている。

「さて、最寄りのホーミングフラワーを倒してるから多分安全だとは思うけど、見張りの交代制で順番に寝ましょう」

ティーがそう言う、順番をどうするかについてはティーが最初に寝て、次にどちらが寝るかは話し合っておく事になった。

「それじゃあおやすみ」

「うん、おやすみ」

「おやすみなさい」

ティーがテントに入って毛布に包まる。この丘陵地帯は強い風は吹かないものの、結構な頻度でそよ風が流れていくため、じっとしているとそれなりに肌寒い。

「ティーさん強いんだね」

フランが言う

「うん、すっごく強いよね」

「私達って凄く弱いんだなってのもよくわかった。冒険者なんて言っても、小さい頃から色々やっててもこんなものなんだなーって」

「フラン……」

日中は見せなかった弱音を吐き出すフラン、それはソフィも同じ思いだった。

「運がいいだけじゃこの先カイを探しには行けないよね……」

「私、お父さんとお母さんにもう一回真剣に戦闘術を教えてもらうことにするよ」

フランは結局一晩の大激論の末にデニスを打ち負かし、冒険者になる事を了承させた。実際フランの母はどちらかと言えばフランの見方であるため、真剣に冒険者になりたいと言い出した時点でデニスに勝ち目は無かったのだが。それはそれで実力不足で死亡する事は両親も全く望んでいない、そうならないための努力の手助けを頼むのは甘えではないはずだ。

「私はティーさんに魔法を教えて下さいって頼んでみる」

ソフィはあまり人に頼りっきりになるのを良しとしないが、今回の戦闘を振り返って痛感した実力不足を何とかしなければならないとは考えていた。母の教えで人に物を教わる場合はそれに見合う対価が必要だと言うのがソフィにとっても信念の一つではあるのだが、カイを探しに行くという目的に見えないリミットがあることを考えると流暢にかまえてはいられない。今が信念を多少曲げてでも頭を下げるべき時であると思う。

 その後も二人は交代の時間まで、どうすれば強くなれるかについてや、カイを見つけたら世界を旅したいとか。そんな話をしていた。交代の時間となり、フランが先に寝ることにした、ソフィは最後だ。

「なんか盛り上がってたね?」

「あ、ごめん。うるさかったかな」

「ううん、大丈夫」

「私もフランも全然弱いなって思って」

「まぁ、それは経験の差だよ」

「うん、でも弱くていいわけじゃないなって思った。あのねティー、こんなこと頼むのはあんまりいい事じゃないってわかってるんだけど……」

「うん」

ティーの方を向いて姿勢を正す、意を決して頼み込む。

「私に魔法を教えて下さい!」

基本的に魔法というのはその個人の努力の結晶だ、魔術が広く一般人にも普及するものであるのと対照的に、魔法は扱う人によって完成形が違う。それは同時に個人で編み出すものであり教わるものではないという暗黙の了解がある。

「普通なら余裕でお断りなんだけど、ソフィの場合は事情が理解出来るしなぁ……」

頭を下げて次の言葉を待つソフィ、少しの間考えた末、ティーは一つの結論を出した。

「うん、分かった、教えてあげる」

「本当!?」

「自分で頼んだんじゃない、そんなに驚かないでよ」

そう言って笑うティー、正直諦め半分で頼み込んだのだから驚くのも無理は無いと思う。

「それで、ソフィはどんな魔法が知りたいの?攻撃魔法?」

「これから先、冒険者として生きてく上で必要な魔法って言えば補助魔法じゃないかなって思うの」

「へぇ、どうして?」

「カイを置いてカスタに戻った時、私は本当に無力だった。ティー達に助けを求めてウインドウォークをかけてもらった時はハンマーで頭を殴られたみたいに衝撃的だったよ、私がこんなふうに魔法を使えたら窮地に陥った時に仲間を置いて逃げる必要が無かったんじゃないのかって」

ティーは黙って、しかし少しだけ微笑みながら話しを聞いている。

「私にはカイがいて、今はフランがいてくれる。私一人で戦うなら攻撃魔法だと思うんだけど、仲間がいるのなら仲間の力になりたい」

「なるほどね……うん、分かった」

「よろしくお願いします!」

「しー、フランちゃん起きちゃうよ?」

思ったよりも大きな声が出ていたようでたしなめられてしまった。

「さて、じゃあ何から教えてあげようかなぁ……まずはウインドウォークかな?」

「ウインドウォークの効果凄いよね、あんなに体が軽くなるなんて」

「じゃあウインドウォークからにしよう、まず……ソフィは魔力の属性を感じることは出来る?」

「ある程度は」

「じゃあ大丈夫かな、まずは風魔力の球を作ろう」

そう言うとティーは手のひらの上に風の魔力を集めて球体状にした、透明な球体でありながらも密度が濃くてその部分の向こう側が歪んで見える。

「凄い……」

「やってみて」

ソフィも手のひらを前に出して意識を集中する。風の魔力は空気の流れに沿って漂っている、それを渦を巻くように吸い込み、毛糸の球を作るように中心からランダムに巻き付けていく。 数秒でティー程ではないが風の魔法を扱うには十分な量の魔力を球体にすることが出来た。

「上手いじゃない、次はその球体の形を風に戻してみよう。ただし強風じゃなくて……」

言いながらティーは近くに生えていた花を一つ摘み取った。それを球体の上に浮かべて風を起こす。

「こんなふうに、魔法をかけたい対象に一定の風量を魔力が切れるまでかけ続けるように……できるかな?」

ふわりとティーが花をソフィに向かって飛ばしてくる、それを包み込んで浮かべるように風を起こす。イメージとしては巻きとった風の魔力の糸をほどいていくように花にかけていく。

「おおー。センスあるぅ」

糸とイメージしたのが功を奏した、撚り糸のように一定の太さにした魔力を、一定の量ずつほどいていくイメージは花を浮かべるのに適した形だった。

「これはもう一気にウインドウォークまでもってっても大丈夫かな?」

「やってみる」

「風の魔力を集めて、かけたい人に向けて(まと)わせる、纏わせた魔力は今みたいに一定の力で浮かぶ事を意識してね」

「纏わせる……」

花にかけた魔力は下から上に柔らかく吹き上げるようにイメージしていたから、それとは別に創造しなくてはならない。

「まずはさっきと同じようにやってみてもいいんじゃない?」

「そうしてみる」

再び風の魔力を集めて全身に絡みつくようなイメージで纏わせると、次の瞬間体が軽くなった、と思ったら風圧で服がめくれ上がってしまった。

「キャー」

「お、これは眼福」

必死で魔力を霧散させる、下から上に持ち上げる力が上着を吹き飛ばしてしまう所だった。使い方を間違えればこういう事にもなりかねない。

「なんかオヤジ臭いこと言わなかった?」

ジト目でティーを見るとニヤニヤとしながら何のこと?ととぼけられた。このイメージはダメだ、もっと違う物を考えなければ。上着だけで済むならまだ、いやよくは無いが。これが男性の前でかつスカートだったらと思うと恥ずかしくて顔から火が出る。

「どうしたら全身が軽くなるかを考えてみて、逆にどういう条件だと体が軽くなりきらないかも考えるといいかもしれないね」

アドバイスを貰って考える。今は体に纏わりつかせるイメージだったから服を内側から持ち上げてしまった。そもそも自分は服だからこれでも効果があるかも知れないが、例えば今後カイやフランが鎧を装備したら?体は軽くなっても装備が重いままでは動きが変わるとは思えない。それなら装備品が軽くなる……いや、それはそれで人によって装備品が違う。

「うーん……」

「ゆっくり考えて、まだ交代までは時間があるわ」

そう言ってティーはカバンからお茶のセットを取り出して用意し始めた。


 ティーがお茶を一杯飲み終わるまで幾つかイメージを試してみたがどれもいまいちだった。魔術と違ってイメージを聞いただけでは思った通りの効果が得られないのが魔法の融通の効かないところである。イメージを聞いて完全にしっくり来ることはこの世界では稀である。魔法をつかう個人の資質と、それに合致するイメージの形というものが必ずあるらしく、逆にイメージを聞いてしまったがためにそれにとらわれ、最終的に目的の効果を得る魔法を習得できなくなったという事例もあるくらいだ。それだけに魔法の教授というのは難しく、軽々しく行われないのである。

「なかなか大変ね」

「うん……」

「まぁ直前までは来てるから、あとは自分のイメージを見つけ出すだけよ。他にアドバイス出来る事と言うと……」

「うーん……」

「あ、そうだ。ソフィは知ってるかな?魔法の属性別の相性の話」

「属性別の相性?」

「特に補助魔法に関しては重要なんだけど、火属性は力を司る部位と相性がよかったり、水属性は体調を操作するものと相性がいい、とかそういうの」

「少し聞いたことがあるけど……攻撃に関してしか勉強してなかったかも」

「そっかそっか、風魔法は体の表面だったり、移動を司るものと相性がいいのよ」

「移動を……表面……」

「参考になればいいけど」

「ありがとう、考えてみる」

少し不安そうに、でも努力をやめる事のないソフィを柔らかく見守りながらティーは二杯目のお茶を淹れた。


 そしてついにソフィは自分のイメージに合致する魔力の形を見つける。

「これだ!」

「お?出来た?」

「うん!出来たよ!」

苦労に見合う物を見つけたのだろう。その笑顔ははちきれんばかりだ。

「『フローティング・ドレス』」

ティーに出来上がったばかりの魔法をかける。編まれた風の魔力は優しくティーを包み込み、衣服の隅々まで風の魔力が糸のように混ざり込み、心地良い浮遊感とともに体が軽くなる。

「凄い凄い!凄くよく出来てるよソフィ」

軽くステップを踏むだけで分かる、体が軽くなってはいるが普段の動きと比べて違和感なく、しかし確実に楽に素早く動ける。ティーのウインドウォークはティーの魔法の師匠が使っていたフォローウインドという追い風の魔法を参考にし、動きたい方向へ後押しをするようなイメージで作られたものだが、フローティング・ドレスはそれとは全く違う方向で完成された補助魔法だ。

「よかった……本当にありがとう……」

ゆっくりと座り込むソフィ、ずっとイメージを切り替えて魔力を行使してきたのだ、疲れもするだろう。

「疲れたでしょう、お茶淹れるから飲んで寝るといいわ」

「ありがとう……つ……疲れた……」

ソフィはカバンからノエルの丸薬を取り出すと二粒飲み込んだ。相変わらず美味しくない薬だなぁ……

「お疲れ様」

ティーがお茶を渡してくれた。一口飲むと暖かなお茶が全身を暖めるように行き渡るような気がする。

「美味しい……」

「よかった」

飲み終えた頃には心地よい疲労感からくる眠気で微睡んでいた。

「ソフィ、寝てていいよ」

「うん……ごめん」

そんな様子を可愛いなぁと思いながら髪を優しく撫でるティー、その姿はとても仲の良い姉妹のようだ。

「そろそろ交代だしね、フランちゃんを起こしてお休み」

「うん……」

ゆっくりテントの方へ歩いて行き、そのままフランの隣で眠ってしまった。まぁそんな気もしていたのだがやはり限界だったようだ。

「しょうがないなぁ」

ティーは今は亡き妹を思い出しながらソフィに毛布をかけ、静かにフランを起こした。


 朝が来て眠りから覚めると、朝食の香りが漂っていた。

「おはよう」

「あ、起きてきた。おはようソフィ」

「おはよう、疲れは取れた?」

「うん、もう大丈夫」

フランが鍋からポタージュスープをとりわけ、パンと一緒にソフィに渡す

「ありがとう」

「聞いたよソフィ、新しく魔法覚えたんだって?それも凄いの」

「へへ、頑張ったからね。一晩で1つだけだったけどかなり上出来だと自分でも思うよ」

「私も頑張らなきゃ!」

ソフィが寝ている間フランとティーはそれぞれの境遇をある程度話したりして仲良くなったようで、寝る前とは若干だけど空気が軽い気がした。


 三人とも食べ終わり、キャンプの道具を片付け終えて今日もまたホーミングフラワーを探すために移動を開始した。

「今日で必要数が集まるといいね」

「頑張ろ!」

「昨日みたいに油断しちゃダメよ?」

「もう!気をつけるよ」

その時、丘の向こう側から動物の悲鳴とも取れる泣き声が聞こえてきた。三人は顔を見合わせてそちらに向かう、木々の合間から谷側を覗くと、そこは小さな盆地になっていた。念のため全員武器を構えながら進む。

「見て、あれ……」

フランが指さした方向には家一件分くらいはあろうかという巨大なホーミングフラワーがいた。その近くに熊のような生き物が横たわっている。

「あれ……ホーミングフラワーのボスかな」

「明らかに大きすぎるよね……」

「私達じゃ相手しないほうが無難ね、あんまり近づかないほうが賢明だと思うわ」

様子を観察しながらそう話す、視界の先ではホーミングフラワーのボスが太いツタを使って熊を引きずり、根本にある隙間に押し込んだ。きっとあの死体も苗床にするのだろう。

「行こう、気づかれると危険よ」

そう言って振り向いたティーは二人を抱えて横に倒れ込んだ。 次の瞬間、隠れていた木に黄色い球が炸裂する。ティーはすぐに起き上がり、風魔法を放つ。

「『エアブレイド』」

若干小さめのホーミングフラワーだったためか、魔力をさほど練り上げない状態の魔法でも胴体を両断出来た。状況に気づいたフランが的確に種子に向かってナイフを振り下ろす。

「危なかった……」

「ありがとうティー、助かった」

「お礼はまだ早そうよ!二人共こっちに!」

ティーの指示で再び木陰に隠れると突然木を激しく揺らすような衝撃が走った。

「完全に見つかったわ……」

ホーミングフラワーのボスがこちらに向かって花粉を飛ばしてきていた。それと同時にめきめきと音をあげながらボスが立ち上がりこちらへ移動を始めた。

「どうする?」

フランが聞いて

「逃げよう、勝てるかもわからないし危険よ」

ティーが決める。その間ソフィは魔力を練り上げていた。杖を構えて三人に向けて魔力を解き放つ

「『フローティング・ドレス』」

三人の体が軽くなる。反復練習をしていたわけではないが、ここぞと言う時に完璧な魔法を練り上げるくらいには度胸がついていた。

「わ、凄い……これがソフィの新しい魔法?」

「うん、すぐに逃げよう」

三人は顔を見合わせるとホーミングフラワーのボスに背を向けた、その瞬間花粉の球が木々を打ち鳴らす。それを合図にして三人は真っ直ぐ逃げ出した。


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