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Beautiful WorldLife  作者: 天路周東
第一章 誇り高き血脈
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第十六話 捜索隊 −ソフィサイド−


 カスタを出発して2日。焦る気持ちとは裏腹に、荷台を引くポリーはゆっくり、でもしっかりと地面を踏みしめるように進んでいた。速度としては人が歩くよりは早く、走るよりは少し遅いくらいだ。平地で見通しが良ければもう少しスピードを上げるらしいのだが……。荷台には積み上げられた箱とティー、ソーサー、それとあと二人ほど冒険者が乗っている。

「ソフィ」

「ん?」

「これ食べる?」

「ありがと、ティー」

ティーからサンドイッチを受け取る、グランラック名産の黄色いジャムが挟んであるらしい。中の果実はさくさくとした食感ながら濃厚な果汁が染み出す。

「ん、凄い美味しい!」

「でしょ!」

その美味しさに一瞬笑顔を取り戻したものの、やはりすぐに何かを考えこむようにしてソフィは黙りこむ。美味しい物なんてただのごまかしでしか無いのはわかっているが、どうにか元気になってほしいティーの気持ちの現われであった。

「……そろそろサフラノだね」

「うん……」

 カイは結局逃げ延びることができたのだろうか、私はどこを探せばいいのだろうか、この2日間荷台でずっとそればかりを考えていた。ギルドで励まされ、カイを探すことを諦めないと心に誓っても、どうしても嫌な予感は拭い去れないまま頭の片隅を占領していた。


 3日間の旅路では小型の鳥モンスターが数体襲ってきたものの、ティーが風魔法でなぎ払い、何も起こらなかったのと変わらない速度で進行できた。

「あとどのくらいでサフラノ着くの?」

ソーサーが御者にたずねると

「ん?もうすぐだぞ。ほら、あそこに麓の店があるだろ」

そう言って御者が指差す方向には確かに屋根が見える。

「すみません、少しでいいのであそこで止まってもらえませんか」

いつの間にかソーサーの隣にはソフィが立っていて、御者の指差す方向を見ていた。

「ん?俺は構わねぇが何するんだ?店ならサフラノのほうが良い物売ってるだろ」

「仲間が通らなかったかどうか聞きたくて」

「ふぅん、でもあんまりゆっくりはできねぇぞ」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

あそこに行けば道具を売っていたおじさんに話を聞くことができる、もしこちら側から出てこれたらきっと会っているはず…… 緊張しながら店へと近づいていく、一歩一歩が重い


 しかし、ソフィの思惑は外れた。店には誰もおらず、それどころか周辺には人の影は全く見当たらなかった。呆然としていると後ろから声をかけられて我に返った。

「アテが外れたか?とりあえずサフラノに行けば何か分かるだろ、ほら嬢ちゃん乗りな」

ポリーを引いて御者がやってくる。ソフィは大人しく荷台に乗り込んだ。

「ソフィ……」

ティーが心配そうに声をかける

「ごめん、お待たせ」

「ううん、そんな事いいんだけど……」

「大丈夫よ、皆サフラノに戻ってるだけかもしれないし」

「乗ったか?じゃあ行くぞー」

ポリーがゆっくりと走りだした。この時既にソフィの心は折れかかっていたが、カイの行方が知れていないという事が逆に最後の希望となりかけていた。


 そのすぐ後、一行はついにサフラノにたどり着いてしまった。出発前にはあれだけ早く辿り着きたいと思っていたサフラノなのに、先程の当てが外れたこともあり今となっては街に入るのが怖いとすら感じてしまっていた。基本的に都市間を移動するポリー便は街の外で発着するため、降りる場所は街の外なのだ。

「ソフィ、大丈夫?」

「ごめん、もうちょっとだけ待って……」

足が震えて動かない、これで街にカイがいなかったらどうしようと考えると恐ろしくて一歩が踏み出せないでいた。

「ソフィ?帰ってきたのか」

「おじさん……」

発着場にはソフィの叔父がいた。久々に顔を合わせたが、今は喜ぶ気にはなれなかった。

「すまないなソフィ、仕事があるからまた今度遊びに来てくれ」

そう言って優しく髪を撫でると叔父は荷物を受け取って戻っていった。

「ソフィ、行こう?」

ティーが促すと弱々しく頷き、ソフィはやっと一歩を踏み出した。三人は真っ直ぐギルドへ向かった。


「ソフィ!お帰り!」

カウンターからフランが駆け寄ってくる。

「あれ?カイさんは?一緒じゃないの?」

「……ッ」

その一言が全てを物語っていた、崩れ落ちそうになる心を必死で抑え、フランを見据える。

「フラン、ちょっといま開いてる人たちを集めてくれる?」

「えっ……?」

「お願い」

「ッ……分かった!」

フランが即座にギルドにいる冒険者やギルドの関係者に声をかけるとすぐに全員がギルドのロビーへ集まった。マスターはいないようだがサブマスターであるデニスもいる。全員を見渡し、ソフィは意を決してクエストからの帰還中に起こったことを話した。全員が息を飲んで話を聞いていた。

「ついさっきサフラノに着いたの、誰もカイは見てないよね?」

全員が頷く、覚悟していたことだがまだやれることはある。

「そういえば、三日前って言ったら行動からすごい勢いで水が溢れだして、麓にいた人がサフラノに避難してるって聞いたよ」

そうフランが言った。

「だとやっぱりこっちにカイが流されてきてるってこともありえるな、よし」

デニスが続く、全員に聞こえるように張り上げた声にはサブマスターとしての威厳があった。

「全員で麓の捜索だ!今のところ緊急の依頼は来ていないはずだから、急を要するものでなければ後回し。フラン、メリダ、エルビス、済まないがギルドの方の業務は頼んだ、なにか緊急の自体があればポリーを使って構わないから麓まで連絡しに来てくれ」

「はい」

「それ以外は麓の捜索だ、時間がかかることを考慮して麓の備蓄を使用しても構わない、代金はギルドで持つ、以上だ。質問は?」

特に誰からも質問はない、全員が移動を始めた。

「ソフィ、行くぞ」

「はい」

デニスに続いてソフィも歩き出した、ティーとソーサーも捜索に加わる。

「ありがとう、ティー、ソーサー」

「いいよ、気にしないで」

「見つかったらサフラノで一番美味い飯が食いたい」

「ソーサー!」

「ふふ、いいよ。皆でご飯食べよう」

そうだ、まずは全力で探そう、皆協力してくれるんだ。


 捜索は思っていたものよりも難しいものだった、何しろ麓は水が完全に乾ききってはおらず、誰かが一度通った所をなるべく通らないようにしないと足あとが誰のものであるかわからなくなるのだ。全員が個別に行動し、何かが見つかり次第麓の店の所に戻るように指示された。戻った者は用意された打ち上げ花火で合図をすることになっている。

 捜索を始めて数時間、もうそろそろ日が落ちてきて足元がよく見えなくなり、今日の捜索を一度切り上げるかという頃になって花火が打ち上がった。気づいた全員が店のある場所へ戻ってくる。たまたま近場にいたソフィははじかれるように駆け戻った。

「見つかった!?」

「いや、カイは見つかっていないんだが、これってそのカイって奴のか?」

そう言いながら冒険者の男が見せてきたのは見慣れたバトルピッケルだった。

「これ……どこにあったの?」

ソフィが詰め寄る、冒険者の男は慌てて答えた。

「落ち着けよ、あっちの方の山と森の境目あたりに少し開けたところがあってな、そこに落ちていた、何か二人分の足跡が残ってたから歩いて何処かへ行ったのかも知れないが、足跡はあまり遠くまでは残ってなかったんだ」

「そんな……」

手がかりは見つかったがカイにたどり着かない、花火の合図で全員が集まり始めていた。


 結局、本日の捜索はそこで終了となった。ソフィを初め数人は麓に泊まることにしたが、他の冒険者はサフラノへ戻っていった。実際協力してくれた冒険者たちは優秀だった。それぞれに割り振った捜索の範囲を超えて捜索は進んだ。

「明日探して見つからなければ……諦める」

その晩、ソフィと残ったティー、ソーサー、デニス、それと冒険者のジュネスが火を囲んでいる時に唐突にソフィが切り出した。

「ソフィ!?どうして」

「諦めるって言うのは、カイを諦めるわけじゃないの。でもずっとここをうろうろしてても多分見つからない」

「それは……そうかもしれないけど。じゃあどうするの?」

「一旦サフラノに戻ってユンに相談して、魔法をつかって探索出来ないかと思って」

「しかし探索魔法にはそれなりに準備が要るんじゃないのか?」

「うん、でもここをうろつく時間に充てるよりは材料を集めに行くほうがカイに近づけると思うの」

「確かに……まぁそうと決めたら文句はない、もしギルドで手伝えることがあったら遠慮なく言うんだぞ」

デニスの一言が心強い、そしてカスタからの二人も同調する

「私達も協力するからね、ソフィ」

「ティー……どうしてそこまでしてくれるの?」

「俺は暇だから、ぐぉぁ」

言葉を選ばないソーサーに容赦の無い蹴りを入れつつティーはソフィの手をとった。

「仲間を失う怖さ、私にも分かる。流石にそこのアホみたいに暇だからとは言わないけど、しばらくはサフラノ方面に適当に旅をしてるだけの予定だったの」

「まぁ、そういうこって俺達のことは別に気にしなくていい」

身構えながらソーサーが言う、言葉を選んでいないだけで考えていることはティーとあまり変わらないのだ。

「二人共ありがとう……」

ソフィの目に涙が貯まる、ティーは優しくソフィを抱きしめた。

「一先ず明るくなったらまた捜索を始めよう、それぞれ適当に屋根のある所で寝てくれ」

デニスがそう締めくくり離れた。 適当に屋根のある所、とは言うものの寝泊まりの出来る建物は4つほどあるためポリーの小屋で寝ることはない。無論その謎のユーモアに気付く者はいなかった。


 ソフィは翌朝、日が昇る頃にはもう麓の探索へと繰り出していた。昨日カイのピッケルがあったという所へ行く。 そこには確かに二人分の足跡があった。

「これは……カイってこんなに足小さく……ないよね」

あったにはあったが、どう見てもカイよりは小さい靴の足跡だった。

「ここにカイがいたとしたら……誰かに助けられた……?」

少なくともこの場で襲われて殺されたって言うことはあまり考えられないと思う、そう言った野盗の場合大抵はその場で殺された人は放置されてしまう。ギルドの考え方に則れば、これで再び希望が見えてきたことになる。

「カイ……見つかったら文句言わなきゃだ」

そう言いながらも表情にはすこしだけ明るさが戻っていた。まだ生きているのならユンに協力してもらえばまだ探すアテはある。

「でももう少し手がかり……無いかなぁ」

どんな情報でも今は欲しい、近くの茂みや木の影などをひっくり返すように探して回った。しばらく探しまわった時、ある茂みに何か光るものが転がっているのを見つけた。手にとって見ると、それは何かの原石のようだった。

「これ……なんだろう?綺麗……」

それは赤茶けた岩石の中に、角度によって見える色が変わる原石がひしめいている。カイが手に入れた原石とは違うようだが、これを渡せば喜ぶだろうな。そう思いながらカバンに原石を入れた。

「ソフィー」

「あ、ティー」

そういえば何も言わずに出てきていたのを忘れていた。探しに来てくれたのだろう、ソフィはティーへと駆け寄った。

「何か分かった?」

「うん、あのね……」

ピッケル発見箇所周辺でわかったことを説明する、今となっては発見した冒険者とソフィの足跡も追加されてしまったが、もともとあった小さめの足跡は不思議だ。


「なるほどね、確かにそう言われたらそうかも、どこに連れてって貰ったのかは謎だけど」

「この付近で人が住んでるってことは無いってお父さんも言ってたしなぁ」

「うーん、なるほどねぇ」

「とりあえずは一旦戻ろう、違う方法でカイを探すことにする」

「そっか、なんか元気になったね」

「うん、ごめんね、心配かけて」

顔を見合わせるとティーは笑った、つられてソフィも笑う、二人で戻る途中に残りの捜索組とも合流し、再び説明をしてサフラノに戻ることにした。

また1週間以内に間に合いませんでした……


就職活動と平行しての執筆になりますので今後も1週間キッチリに投稿というのが怪しくなるかと思います

なるべく早く決めて安定した執筆活動を行いたい……


短いのですが話の区切りで一旦切りました。

不定期になりがちですが応援よろしくお願いします。

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