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Beautiful WorldLife  作者: 天路周東
第一章 誇り高き血脈
15/34

第十四話 狩人

 目覚めは爽快だった、枕元に転がる瓶を見るまでは。くっ……まだ手元に魔薬が4本もある……おはようの一本を飲んだら朝からおやすみするとこだった。 廊下を歩くシスターに顔色が悪いと心配されるレベルだ。 あと3本……これジュースとかで割ったら……いや、更にエグい事になりかねないからやめとこう……。


 顔を洗い、服を取り替える。今日はいつもより早めに起きれたため、シスター達と一緒に朝食の準備をしている。そういえばシスターシスターと一括りに呼んでいるが、この教会にはおよそ15人ほどのシスターが居るらしい。帽子とヴェールのようなもので頭の殆どを覆っているのでよく見ないと誰が誰だかわからなかったりする。名前を教えてもらう機会が無いのでさらに区別が付かない、もちろんそれぞれ顔も体型も違うから、別人だということは分かるんだけど……

「カイさん、この食器をお願いします」

「はい、ここでいいですか?」

「はい、ありがとうございます」

俺の仕事は高い所にある食器や調理器具の出し入れがほとんどだ、あとは玉ねぎとじゃがいもを合体させたような何かの皮むきくらいか。白い修道服に囲まれた半袖短パンの男……うーむ、第三者的に見ればかなり妙な状態にも思える。でも依頼の時に着ているズボンも上着も少し洗った程度でお世辞にも綺麗とは言えないからな、調理場に汚い格好で立つことは許されない。これは俺の持論だ。

 朝食の準備が整い、揃って頂く。この教会には俺以外にも3人ほど流れの冒険者が居るらしい、開かれた教会というかなんというか。ありがたいことですな。カバンから50カラーを取り出してお布施台に乗せておく、賽銭箱と違って置かれた額が見えるのがなんとも、っていうかここから持ってかれたりとかしないんだろうか……?


 部屋に戻り、服を着替えて魔薬を飲む、なんとなくこのマズさが癖に……はまだなりそうにない、むしろこんなのが癖になったら味覚がおかしくなった証拠って感じもする。安価なのはやめて多少なりとも効果でも口に悪影響のないものを選んだほうがいいんじゃなかろうか……

 聖堂へ行くと今日も長椅子にルカが座っていた、そういえば昨日は休みにすると言ったけど今日どこに集合とかは決めてなかったな。

「おはよう、ルカ」

「うん、おはよう」

「今日どこに集合とか決めてなかったね、来てくれてよかった」

「そういえばそうだね、なんとなく迎えに行かなきゃって気がしてたよ。どう?調子は大丈夫?」

「うん、もう大丈夫。左手が痛くなったのは魔力が残り少ないサインみたいなものだったっぽくてさ、ちゃんと回復すればちょっと使ったくらいじゃ痛まないみたいだ」

「そっか、じゃあ魔力回復の薬いっぱい用意しないとね」

「あ……ああ、うん……そうだね」

頭上でノエルの魔薬が羽ばたいている気がする、明らかに歯切れの悪い答えにルカは怪訝な表情だ。

「武器買ったらお金なくなった……とか?」

「いや、武器は武器屋のおっちゃんと少し仲良くなって息子さんのお下がり貰ったんだ」

「え、息子さんってあの護国剣士の?」

「そうだよ、有名なの?」

「有名だね~、少なくともこの外町から護国剣士に召し上げられるってのはかなりの名誉だよ」

へぇ、それはなんか凄い物を貰ってしまったのかもしれない。

「そりゃ俺もビッグにならないとなー」

「そんないいことがあったのになんで元気が無いのかな?」

「それがねー……コレが……」

言いつつ魔薬を取り出す、ルカが飲んだことあるかどうかは分からないが。

「コレってノエルの魔薬ってやつ?」

「そ、昨日買ってきたんだけどね……ちょっとひと舐めしてみてよ」

そう言って蓋になっている木栓を抜いてルカに手渡す。

「……」

明らかに話の流れから言って美味しいとは思えないのだろう、少しためらった後に小さく舌を出して魔薬を舐めた。

「!!!????!?!?」

その瞬間ルカが跳ね上がった。予想以上のリアクションである、辛うじて瓶を取り落とすことはしなかったが危ない所だった。

「なぁにこれぇ!」

「ね?ヤバイでしょ?」

ルカから瓶を受け取る、普通の飲み物なら関節キッスがどうのこうのとときめくことも出来るかもしれないが、中身がコレとあってはそんな気分にもなりやしない。そのくらいマズイ

「私魔法使いのこともっと尊敬することにする……」

「俺も昨日そう思ったよ……」

一度栓を抜いたからには飲んでおかなきゃ……未だになれない魔薬を飲み干した。

「うわぁ……よく飲めるね……見てるだけで……」

「言うな……」

朝からテンションがガタ落ちの二人であった。



 今日のギルドはいつもより人が多い気がする、なんでも近場の街道に野党が現れて貴族が襲われたんだとか、その討伐依頼があって受けに来た冒険者が多いらしい。俺達はそんなのに参加できるほど戦えるとも思えないので、今日も肉を取りに行くことにした、ちゃんと魔力を扱って戦えるかどうかの確認もある。最低でも魔力芯の剣はマスターしておきたい。 依頼を受けてまた森に移動を開始した。

「ね、カイは結局どういうふうに戦うことにしたの?」

「武器屋のおっちゃんにさ、武器に魔力を通して強化するって戦い方を教わったんだ、武器を覆うやり方と、武器の芯に魔力を通すやり方」

「へぇ、私にも出来るのかな?」

「どうなんだろう?理屈としては出来ないこと無いよね、多分」

「今日カイが試して効果がすごかったら私も練習してみようかな」

「いいんじゃない?昨日試した感じだと上手く使えればほとんど魔力消費しなくてもかなりの効果出せそうだった」

「へぇー、楽しみ」

その後の狩りは昨日とは打って変わって安定した狩りになった、小さい獲物は追い立てて弓で仕留める、ユニトンは最初にルカが弓を射って脚を止め、そこを強化した木剣で角に攻撃する。動く相手に対して的確に魔力をコントロールしながら攻撃するのは難しかったが、木剣が良い素材で出来ているんだろう、少し魔力を入れすぎたと思っても調節が効く。 ルカが杖で折るのにしばらくかかった角も、二回ほど打つとヒビが入り、三度目、四度目にはあっさりとへし折る事ができる。木剣にはほとんど変化が見られない、芯に通すだけである程度表面も保護されるのか、傷が入ることも殆ど無かった。

 最初のユニトンをあっさり倒した時には、ルカも驚いていたようだ。

「本当に凄いね、一昨日とは全然違う」

「男子三日会わざれば刮目して見よって言うからね」

「なにそれ?」

「俺が住んでた所のことわざでね……えー、あー。詳しい意味は忘れちゃったけど、まぁやる気のある男は成長が早いって事だよ」

「そうなんだ?」

「まぁ運が良かっただけだけどね、おっちゃんに教わってなければあんまり変わらなかったよ」

解体も終わり、肉をしまい終える。その後もスムーズに狩りは進んだ。


 焚き火に肉をかざして炙る、最近こういう食事が多くて偏りが気になるな……野菜たっぷりの煮物とか食べたいところだ……

「今日もキャンプして明日も狩りして帰る……でいいよね?カイの調子も良さそうだし」

「おっけー、今日も先にルカが休む……でいいのかな?」

「そうだね、そうしよう」

日が暮れる頃には兎が4羽、(ふくろう)と鶏を足して2で割ったような鳥が2羽、それにユニトン二頭とかなり好調な狩りだった。

「それじゃあよろしくね、おやすみカイ」

「ああ、おやすみ」

もぞもぞとテントで毛布に包まるルカ、それを横目に魔薬をぐいっと一本。ああもうこのまま俺もお休みしたくなる。でもあんなにあった魔薬もこれでもう1本まで減ったぞ……あとは緊急時用にとっておくつもりだ、っていうか次は少し割高でも魔薬以外の回復手段を選ぶ。思えば何故安価な魔力回復薬がその値段なのかを考えなかったのが痛い。やはり値段にはそれなりの理由があるのが普通なんだ、良い物を安くなんて少なくともこの世界では出来るとも思えない。 魔法が堪能な分機械を発達させようという人がいないんだろう、人間の代わりになるものという発想がほとんど無さそうだ。 ってことはこの世界では巨大ロボとかは作れないのかな……?いや、逆に発想さえ持ち込めば魔法と組み合わせてって手もあるなぁ。 魔法といえば召喚術とかもあるんだろうか、異界の王を呼び出して力を借りたりとかは定番だよね!


 我ヲ使役シタクバソノ力ヲ示セ


とか言われちゃったりしてね! ピンチの時に


 チカラガホシイカ……


とかさ、この世界ならありえるんだろうなーと思うと封印していた過去がじわじわと思い出される。 この世界ではそれが当たり前だったとしても実際にやるとなると顔真っ赤になりそうな気がする…… なるべくならあんまりこう、堅苦しい言葉での召喚とかは回避したいところだ……



 夜も更けて、当たりは暗く、見あげれば星が瞬いている。今夜も何もないことを祈りながら焚き火に木をくべる。 魔力芯の剣が本番で上手くいってよかった、まだまだ安定度は低いし瞬時に魔力を行き渡らせることも出来ていないが、出来るようにさえなれば戦闘の安定感がかなり上がる事を考えると、暇な時は常に練習しておきたいくらいだ。回復方法でもっと楽なのが見つかれば、だけどな……


 もうそろそろ交代の時間だろうかと言うくらいには待った、今日も特にこれといった襲撃なんかは無い、まぁそうそう来ないからこそ安心して狩りに来れる狩場なんだろうけどね。 と思っていると、若干遠くからではあるが、何か犬か、狼かのような遠吠えが聞こえた。その声は力強く、同時に嫌な予感をカイに届けた。 これは早めにルカを起こして、安全になるまでは二人で起きてたほうがいいかもしれないな……

「ルカ、起きて」

テントを開けて揺り起こす、眠そうにしながらも割りとすぐに起きてきてくれた。

「そろそろ交代?」

「そうしたいとこなんだけどね、なんか狼の遠吠えみたいなのが聞こえるから、しばらくは起きてるよ」

「なるほど、そういうことか。わかった」

納得したルカはカバンから弓一式を取り出し、腰に矢筒を取り付けてから隣りに座った。

「この辺で出る遠吠えする魔物っていうと、ロックウルフが一番ありえるかな」

「ロックウルフ?」

「うん、体の色んな所が岩で出来てる狼、あっちの方の山で生まれるみたい」

そう言ってどちらかを指さす、方角はわからないけど多分グランツ山なんだろう、洞窟にいた奴がロックウルフだったんだろうなぁ。 にしてもロックウルフとは、この世界にきて初めて名前と体が完全に一致する名前な気がする。

「最悪の場合ブレイドウルフかな……まず無いと思うけど」

「ブレイドウルフってのは?」

「爪とかが物凄く鋭い狼だね、あと個体によって場所が違うんだけど、体の何箇所からか剣のようなものが生えてたり、戦闘中に飛び出したりするらしいよ」

「へぇ、強いんだ?」

「って聞くね、弱かったら嬉しいけど、気は引き締めとこうね」

「ロックウルフならグランツ山の坑道を通った時に3匹ほど相手にしたなぁ」

「へぇ、やるじゃない、どうやって勝ったの?」

「んーと、魔法で地面を凹ませて、バランスを崩したら頭にこう、ね」

木剣を振り下ろしながら説明する。

「凹ませるの好きなんだね」

「いや、好きっていうか一瞬の隙を作るのに便利っていうか」

「まぁ確かに突然足元が凹んだらびっくりもするし手元も狂うし、走ってたら転んじゃうかもしれないね」

「なかなか便利なんだよ、今はあんまり使いたくないけど」

「アレを飲む必要が出るもんね……」

「まだ一本残ってるけどどう?」

と冗談をいうとルカは全力で首を横に振って拒否した、そんなに嫌がらなくても……いやまぁ気持ちはわかるが。


しばらくすると、割と近い所でガサガサと何かが争っているような音や、かすかに悲鳴のような泣き声が聞こえる。ルカと顔を見合わせる、多分間違いないだろう。

「やっぱりいるね、どっちだかわからないけど」

「ん、こっち来なきゃそれでいいけど、まぁそれはそれで寝れないからなぁ」

「まぁね、安心できないと疲れるし」

さて、何時襲われてもいいように準備を整えていこう、最後の一本の栓を抜いてぐいっと……おいルカ、やめろそのうわぁって顔。

「……おえ」

言ったのはルカである、俺じゃない。もうこの魔薬買うのやめようマジで と真剣に思った。 それぞれが武器を取り出し準備をする、と言っても木剣を取り出しておくくらいだ、それぞれ火を背にして周囲を警戒する。しゃべるのを止めて耳をすませると微かにだが地を蹴るような音が聞こえる。

「周りが暗いのが難点だね、こっちから迎え撃つことも出来ないし」

ルカが言う、そういえばそうだ、この火が照らして見えるところでないと戦えない

「確かに、そういえばどう戦おうか?ルカはこの距離でも弓使える?」

「まぁ威力は落ちるけど一応ね、カイにはなるべく敵に攻撃とかしたら敵とは離れるようにしてほしいな」

「死因がルカってのは簡便だもんな」

「私が襲われたら助けに来てね」

「ああ、もちろんだ」

少なくともこの土地この相手でどっちかだけが逃げるなんてことは出来ない。今回は死力を尽くして戦いぬくしか無い、神経を研ぎ澄ませていると先程まで聞こえていた戦闘の音は止み、茂みの動く音が近づいてくる、狩人の次の目標は俺たちなんだろう、火も炊いてるしなぁ

「そういえば魔物とかって火を炊いてれば寄ってこないとかあるの?」

「動物ならそうだけど、モンスターはそうでもないのが多いよね」

そうなのか、ならやはり

「ってことはここはモンスターには?」

「うん、バレてるだろうし近づいてくると思うよ」

「とはいっても火を炊かないわけにも行かないしな……ん」


 来た、モンスターが次の獲物をこちらに定めたのを肌で感じる。空間としては8m四方の空間、例えるなら学校の教室を少し大きくしたくらいだろうか、あまり広くはない。 空間の中央に焚き火があり、それを囲んで警戒していたのだが、何かが近づく気配と音で来る方向はわかる、全方位を警戒する必要がないのが楽だ。木剣に魔力を通す、狩りをしていて気づいたのだが、真に魔力を通す際には事前に細い魔力の意識を通しておいて、必要なときにそれを導線にするように必要な魔力を追加すると魔力を通すのがスムーズだ。通した後の魔力量の固定をもう少し練習すべきだけど今なら何回か弾けさせても戦い終えるまでは魔力が保つはずだ。

「一応牽制も兼ねて一発撃っとくね」

ルカが矢をつがえて狙いを定める、邪魔をしないように息を潜めて固唾を呑む。一瞬の静寂の後、少し離れた茂みから音が聞こえた、間髪入れずにその茂みに矢が吸い込まれてゆく。ルカを見ると目が合う、若干頷いたのを見るとそれなりに手応えを感じたんだろう。木剣を構えると茂みから大型犬をさらに一回り大きくしたような狼が飛び出してきた。

「ブレイドウルフ!!」

ルカが叫ぶ、最悪のケースにぶち当たったらしい。

「どうすればいい?」

ブレイドウルフは警戒しているのか距離を詰めないでゆっくりと歩きながら動き回っているので今のうちに情報を得る。

「なるべく離れて、体のどこから刃が飛び出すかわからないからすれ違うのが一番危ないの、飛びかかってくるのを避ける時はなるべく全力で避けて」

紙一重で避けようとするとやられるって事か、危ないな

「了解」

そう言ってブレイドウルフを睨む、唸りながら距離を図っているようだ……

「ハッ!」

ルカが矢を射る、即座に反応したブレイドウルフは体を捻ってそれを(かわ)し、ルカに向かって突進してきた。タイミングを見計らってブレイドウルフの横合いから木剣を振り下ろす、小癪にも直前で気づき横合いに躱された。かなりすばしっこい奴だな、面倒だ。

 ルカは自分とウルフの間に焚き火を挟むように移動しながら矢を射るチャンスを伺っている。位置取りは流石に弓を専門とする狩人だと思う、剣を振ったことによりブレイドウルフはこちらをまず敵として認識したらしい、次の瞬間には助走から一気に飛びかかってきた。思ったより突然の反応で躱しきれない、とっさに木剣を縦に構えてウルフの跳びかかりを防御した。

 木剣にウルフの顎がぶつかるが、思ったほどの衝撃はない、魔力を通すことによってこんなにも安全度が上がるなんて。しかしブレイドウルフを弾き返すことが出来たわけではない、ブレイドウルフは木剣にかじりつき、奪いとろうとしている。

「ルカ!頼む!」

このままだとなんとも対応が出来ないのでルカに頼む、ほんの若干ではあるがルカの邪魔にならないように動いておいた。 次の瞬間には飛来した矢がウルフの横っ腹に突き刺さり、はじかれるようにしてウルフは木剣を離した。今が好機と目を白黒させるブレイドウルフの顔面に全力で横薙ぎの一撃を見舞う、下顎にヒットし、さらに思っていたよりも威力があったようでブレイドウルフは2mほど吹っ飛んで地面に転がった。深追いはせず少し距離をとる。

「コレならいけそうだね」

「油断は禁物だからね」

そう言って弓をつがえるルカ、その通りだ。まだ刃を出して攻撃をしてきてはいない、運が良かっただけだ。そう思い直す、しかしブレイドウルフは即座に立ち上がることは出来たが、先程の一撃で顎が少し割れたのか口からは血とヨダレが垂れているし、若干足がふらついているようにも見える。実際、追い打ちをかけるようにルカが放った矢を避けることも出来ず、前足の付け根の当たりに矢が当たり、耐え切れず転倒する。止めをさしに近づこうとするとルカに止められた。

「危ないからいいよ、私がやる」

次に放った矢は正確にブレイドウルフの脳天に突き刺さり、その生命を奪った。


 ブレイドウルフが絶命すると、その体から紫色の魔力が立ち上り霧散して消えた。安全が確認できたので二人で残った死骸を解体することにした。

「ブレイドウルフを倒したのは初めてだなぁ」

どことなくルカは嬉しそうだ

「思ったよりあっさり倒せてよかったね」

「カイが足止めしててくれたからね、なかなかやるじゃない?結構連携取れてたし、いいコンビになれそう」

そう言いながらブレイドウルフの立派な鉤爪を得るべく四苦八苦しているルカ

「コンビ……か」

コンビと聞くとやはりソフィを思い出す。手紙を出してからまだ4日か5日しか経っていない、ソフィに届くまではまだ時間がかかる筈だ。

「どうしたの?」

「あ、いや何でもない」

やることはやったんだからここで考えてもしょうがない、また会った時に心配かけて済まなかったと誠意を込めて謝ることにしよう。

 鉤爪を剥ぎ取った後、ルカがカバンから小瓶を取り出して、ブレイドウルフに中身をふりかけた。

「何してるの?」

「ん?ああ、知らない?これはね、精錬の水って言うんだけど、強いモンスターとかを倒した後にふりかけて……」

ブレイドウルフに手を添えるルカ、何が起こるんだろう?

精錬(リファイニング)

そう言うとうっすらと魔法陣のようなものがブレイドウルフの下に現れ、怪しく光った。

「おおお……」

か……かっこいい

「来い……来い!」

次の瞬間魔法陣がまばゆく光り、眩しさで目を覆う。 光はすぐに収まった。

「来たー!」

ルカが喜んでいる。 何なんだいったい

「ふりかけると何が起こるのさ?」

「んふふふ、見てコレ」

そう言ってルカが横にずれると今までブレイドウルフの死骸があった所に二本の剣が落ちていた。

「おお?武器になってる!」

「えへへ、さっきのが精錬の魔法を補助する薬でね、絶対に成功するわけじゃないんだけど、たまーにこうしてモンスターの特徴とか記憶とかを持った武器とか道具に変化させることが出来るの」

「へぇー、じゃあ運が良かった?」

「何回も挑戦したわけじゃないからどのくらいの確率なのかはわからないけど、多分運は良かったと思うよ!」

モンスタードロップを得るためにはこんなことしなきゃならないのか……若干面倒ではあるがなかなかのロマンに溢れてるな。

「この精錬の水もそんなに安くないからあんまりばんばん出来るわけでもないんだけどね」

「へぇー、意外とお金持ち?」

「まさか、これはお父さんがくれたものの残りだよ」

「なるほどねぇ」

「強いモンスターとか長く生きたモンスターならそれだけ強い物に変化するらしいよ」

「そうなんだ……しかしやったね、これはどういう武器?」

「それは武器屋とかに持っていけば詳しく調べてくれるよ、そういうのを調べる魔法もあるらしいんだけど、私は使えないから」

「なかなかカッコイイ剣だねー」

ブレイドウルフが変化した剣は一本が片刃の剣で、逆立つ毛並みのように細かく湾曲している、長さとしては1m程で、青龍刀に似た形状の剣だ。もう一本はその半分くらいの小刀みたいな剣だ、こちらも似たようなデザインだが長剣の方ほど湾曲はしておらず、扱いやすそうな剣だ。

「私こっちの小さいのがいいな」

「ん?これはルカのじゃないの?」

「え?二人で倒したモンスターの武器で、しかもちょうど2本なんだから半分こでしょ?」

「いいの?精錬の水だってやs」

「あー、お金ならいいの。そういうもんなの!」

ごちゃごちゃうるせえなと言わんばかりに遮られた。そこまでいいというのなら貰っておくしか無いな、実際カッコイイしちょっと欲しい。

「ありがとう、ルカ」

「へへ、どういたしまして」

その後は少しだけ周囲を警戒し、おそらく安全だろうと踏んだ所で少しだけ寝ることにした。

 帰ったら二本の剣を調べてもらわなきゃな、それに魔力の回復薬も…… 目を閉じるとすぐに夢の世界へと旅立った。


 興奮していたのか思いのほか早く目が冷め、朝日が登る頃には目が覚めた。

「おはよう」

「ん、もう起きたの?」

「なんか目が覚めちゃってね」

伸びをすると腕や腰がパキパキと小気味良く鳴る、体には悪いらしいがやはりこの感覚はたまらないと思ってしまう。

「お腹空いてる?」

「んー、まだ空腹ではないけどそのうち減るかな?」

「ま、先に食事してから戻ろうか、ちょっと疲れちゃったし今日も狩りしてからだと何が起こるかわからないしね」

「そうだね、そうしよ」

そうして食事の準備をする。鍋を火にかけ、沸騰したら鳥の肉を入れる。更に名前は忘れたが丸ネギ(玉ねぎではなく丸いネギ)とゴボウのような根菜を笹掻きした物を入れ、岩塩を適量入れて煮る。こっちに来てからはこういった料理は全てトーチの魔石で行えるため、煮こむ時間も思いのままだし、ガス代を気にする必要もない。料理好きとしては捗ってしょうがない。 あとは煮えるのを待つだけだ、パンをスライスしたものを炙ったら、美味しそうな匂いで煮上がりが待てず、二人でパンをつまみながら待機した。


「はー、美味しかった」

「ルカって結構いろいろ材料持ち歩いてるんだねー」

「まぁこういう風に料理して食べるのが当たり前だからね、冒険者カバンが無い時はその場で取れるものだけで作ってたけど」

「本当に便利だよなぁ、魔法バンザイだよ」

 片付けを終えてテントもしまうと、空は明るくなっていた。

「さ、帰ろう」

「おう」

結局デカいキノコには出会わなかったなぁ、キノコ鍋も久々に食べたいんだけど……

今日も帰りは何とも遭遇することなくヴァースへ辿り着いた。



 今回の報酬は二人合わせて3200カラー、前回よりも多めに狩れたのが効いている。

「お疲れ様でした、お二人とも少しお時間よろしいですか?」

そうギルドのお姉さんに持ちかけられる。

「はい、どうかしましたか?」

「ええ、最近ヴァース周辺に賊が現れて貴族が襲撃を受けるという事件がちょくちょく起きるようになっています」

「らしいですね」

「それで、賊には懸賞金が付けられることになりましたので、冒険者の皆様にはフリーのクエストとして開放されることになりました」

「フリーのクエスト?」

なんとなく語感で意味はわかるが一応疑問形で返しておく。すると隣のルカから答えが帰ってきた。

「誰でも達成できて、早い者勝ちで達成した人が報酬をもらえるクエストのことだよ、目的が達成されればいいから受注とかも必要ないの」

「へぇー、そんなんあるんだ」

「ええ、その通りです」

そのアナウンスって事か、まぁ対人戦とか危ないし怖いしでやる気はないんだけど。

「現在の情報では、賊は剣士、魔法使い、拳闘士の三人が目撃されています、それぞれ顔を覆っているため人物の特定には至っていません、もし戦闘になった場合は気をつけてください、素顔を確認し特定すれば賊を捉えなくても報酬が出ますので可能ならご協力ください」

「ええ、分かりました」

「はーい」

賊ねー、何者なんだろうなぁ。なるべくなら関わりたくないなとか思ってしまうな、正義感も無いでもないが命を危険に晒せるほど実力に余裕はない。

「誰なんだろうね?」

ルカが聞いてくるがもちろんわからない。知り合いだって数えるほどしかいないのに犯人を知ってるわけがない。


 武器屋にやってきた、ブレイドウルフの武器を鑑定してもらうためだ。

「こんにちわー」

「はいはいいらっしゃい、ん?おお、アンタか。どうした?もう木剣へし折ったのか?」

「はは、流石にそんなことはないです、おかげさまで無事に狩りが出来ましたし、予定外の獲物も狩れました」

「ほう、予定外の獲物ねぇ?それで、今日はどんな要件だ?」

おっちゃんがそう聞くとルカがカバンから小刀を取り出してカウンターに置いた。俺もカバンから剣を取り出してカウンターに置く。

「ほう?これは?」

「ブレイドウルフを精錬して出来た剣が二本、鑑定を頼みにきたの」

「ほうほう、なるほどね。よしわかった、少しかかるがいいか?」

「お願いします」

「あいよ」

そう言うとおっちゃんは剣を掲げたりなぞったり、とにかくなんか色々していた。 ルカと二人で武器を眺めてしばらく待った。


 だいたい40分くらいだろうか、ルカがうろうろするのにも飽きてきた頃に鑑定は終了した。

「待たせたなお二人さんよ、早速説明するぜ」

「お願いします」

「ブレイドウルフの剣は魔力剣の補助があるな、属性は風だ」

「魔力剣?」

「ああ、こういう魔物から出来る武器にはよくあるんだが、まぁ簡単にいえば剣であり、魔具であるって感じか、ちょっとこの棒を持ってそこら辺に立て」

またこの棒にお世話になるとは、おっちゃんから3mは離れた所に立ち、棒を持つ

「魔力を必要な分通すと……」

そう言いながら刀身がよく見えるように掲げられる、すると剣にある模様が薄く緑色に光り出した。

「この状態で魔力を打ち出すようにすると」

剣先を棒に向けると、剣が一瞬ブレたように見えた。それに注目していると足元に切り落とされた棒が落ちて音を立てた。

「おおー!」

ルカが喜ぶ、確かにこれは凄い。

「なかなか良い物を手に入れたな、ただしコイツだって無茶すればぶっ壊れるからな」

早々に釘を差されてしまった、完全にブレイカー扱いだ。

「短刀の方は?」

ルカがうきうきしながら聞く、特殊効果付きの武器はテンションが上がるのはわかる、俺もかなり嬉しかった。

「こっちの方も風の属性があるが攻撃向けではないな」

「なーんだ……」

「何ガッカリしてんだ?実演してやるから見てろ、おいあんちゃん、こっち来い」

今度はなんだろうか、攻撃向けじゃないってことは補助系? そう考えながら近づくと、おっちゃんは短刀を胸の高さに掲げてこちらに向かって立てた、刃は向けていない。

「あんちゃん、踏ん張れよ」

「へ?」

短刀の刀身が光ったかと思った次の瞬間、全身を持ち上げられたかのような感覚に包まれて体が後ろに飛んだ。距離にして60センチもない距離ではあったが、突然の事だったので反応しきれずに尻餅をついた。

「わぁぁぁ!」

ルカの目が輝いている、俺の心配はしてくれないのか……まぁ怪我もないけど。

「はは、悪いなあんちゃん、この短刀は魔力を風属性に変えて相手を押し出す力がある。敵に近づかれると困る時は便利だろう」

つまり弓を扱うルカにはうってつけの短刀だ、かなり運が良いと言える。

「やったー!」

おっちゃんから短刀を受け取ってニヤニヤしている。今回の狩りは実入りが多くて大成功だった訳だ。

「じゃあ悪いが鑑定料として150カラー頂くぞ」

相場は分からないが報酬があるので支払いは全く問題ない、そこそこいい値段がするんだなとは思うが。ルカがカバンから支払いを済ませる

「まいど、またよろしくな」

「はい、こちらこそ」

 武器屋を後にする、明日はまたオフにすることになった。


「それじゃあね、カイ」

「ああ、また明後日協会で」

「ん、分かった」

こうしてやってみると狩りというのもなかなか楽しいものだ。ちょっとハマってしまいそうになる、自力で取った肉も食い放題だし。 明日は何をして過ごそう、そんなことを考えながら協会へ戻った。



次の話が終わったら一旦視点を変え、カスタ以降のソフィの話を書きたいと思っています。

現状ルカさんマジヒロイン状態なので。


最近小説を読もうに投稿されている作品を読ませていただいているのですが

比較すると私の作品は一話がちょっと長いように感じます。

呼んでくださっている皆様はどう感じますでしょうか?

よろしければご意見をお聞かせください。

読みづらかったり、読んでいると疲れる量だという場合は一回の量を考え直したいと思ってます。

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