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Beautiful WorldLife  作者: 天路周東
第一章 誇り高き血脈
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第十三話 ノエルの魔薬

 ゆすり起こされるとまだ日が昇りかけるころだった。

「お……おはぁぁぁぁぁよう」

「あくびしながら挨拶とか失礼ねー」

「あふぅ……ごめん、おはよ」

「ん、おはよ」

「まだ暗いね、もう動く?」

「うん、軽くご飯食べたらもう狩ろう。動物とか魔物とかももうそろそろ起きだして草食べたりする頃だからね」

「そこを狙うと」

「そ、ただそういう草食の獣を狩りに来るのは人間だけじゃないから気をつけないとね」

「肉食系の朝は早い……」

カバンから水筒を取り出してタオルに染み込ませ顔を拭く。冷たさのおかげで意識がはっきりしてくる。日がまだ登り切っていないため日当たりの良いこの広場も肌寒い。

「うーさむ」

思わず口に出してしまう。ルカが用意してくれたパンをあぶったものとスープを頂く。

「今日はどのくらい狩る?」

「んー、とりあえず日が暮れる前に切り上げたほうがいいかなぁ」

「了解、今日は頑張るよ」

「昨日だってちゃんと仕事してたよ、思った通りじゃないってだけで」

フォローされてしまった。まぁ魔力はちょくちょく使ってみて痛まないやり方を探そう……


「そっちいったよ!」

ウサギを追い立てる、普通に追いかけると早くて絶対追いつけないがどうにか広場に追い出すとルカが遮蔽物を気にすること無く射抜くことが出来る。これはつくづく一人で狩りは無理だな。茂みの向こうから飛来する矢が的確に獲物を射抜く。かっこいいなぁ…… 獲物を処理して次へ。

「またいたよ、今日はあのユニトンやって終わりにしよ」

「了解」

ルカが射抜く準備を初め、また俺が回りこむ。出来るなら一発で角を折れれば楽なんだろうけど、砕波が使えるかわからない今となっては怪しいところだ……。 このユニトンは何かを警戒しているのかやたらとキョロキョロしている、木の陰に隠れながらゆっくり近づいているが10m程度の距離から詰められる気はしない。そろそろ飛び出して襲い掛かるか?

 ユニトンがいるのは茂みの手前で、弓の遮蔽物になる木が多い、ルカには遮蔽物が関係ない距離まで近づいた方が楽なのでは?と提案してみたものの、一定以上の距離を保たないと逆に当てづらいし、逃げるのが下手だと笑っていた。 それならばしょうがない、杖を構えて息を整え、角を狙うことを意識して飛び出す、8m程度の距離でユニトンはこちらを向いて俺に気づいた。一瞬戸惑うように体を震わせたものの、即座に姿勢を低くした後こちらへ向かって突進を開始した。走るのをやめ、回避するために右にあった木の陰に避難する、その直後にユニトンが木に突進しぶつかった衝撃で凄まじい音がなり驚いた。木の上から小さな木の実や虫や葉っぱがわんさか降ってくる。

「ひぃぃぃっ!気持ち悪い!!」

突然降ってくる小虫はいかん。必死で頭を振り髪の毛に付いた違和感を振り払う、一瞬で鳥肌が立った…… しかしそのままではもちろんいられない、杖を握り直し木から離れてユニトンを見ると、木に角が突き刺さったままで蠢いていた。

「モノブ◯スかよ……」

本当に角が突き刺さって隙だらけなんてことあるんだな、このチャンスを活かさない理由がない。ルカの方を見て矢が射れるか確認した所丁度ユニトンとルカの間に太めの木が生えていた。これは無理だな…… そう判断して杖を振り上げ全力で角の根元に叩きつける、すると思いの外簡単に悲鳴を上げてポッキリと折れた。


……杖が


「嘘ぉ!?」

まさか一撃で粉砕されてしまうとは思いもよらなかった。さすがは180カラーである…… しかもその上、角が木から抜けかかっている。

(どうしよう、このまま戦う?ルカのところまで行くか? いや、でも下手にルカに近づいたらルカを危険に晒しちゃうな……となると、しょうがないか)

長さが3分の2ほどになってしまった杖に魔力を込める、今のところ左手は大丈夫だ。ユニトンが木から開放されこっちを見据える。マズい、イメージを固めないと、どうしよう 頭とは裏腹に体は突進を警戒してバックステップで若干の距離を取る。 ユニトンがそれを見て突進してきた。

「まずいッ!」

もうすれ違いざまになんとかするしか無い、一瞬の判断で杖を腰の位置に構え、体をひねるようにして居合のように(かわ)しながら杖を振りぬいた。その瞬間体から急激に魔力が杖に流れ、左手に激痛が走って倒れこむ。

「ぐぁぁぁぁ」

倒れこみながらもユニトンを確認しようと地面を転がり、ユニトンの走り抜けた方を見ると、丁度ユニトンも崩れ落ちるように地面に倒れた。

「よかった……」

激痛は昨日よりもひどいし頭も痛くなってきた、平衡感覚が狂っている感じまでする。地面に手をついて起き上がろうとした時、頭上でバキバキという枝を折るような音を立てながら木がゆっくりと倒れ、地面に激しく叩きつけられた。

「は……?」

何が起こったのか全然わからない。運良く木の下敷きになることはなかったが、何故突然木が、それも2本も倒れてきたのだろうか。

「カイー!」

ルカが駆け寄ってくる、いったいなにが起こったのか聞いてみると

「カイが倒れる直前に何か薄い魔力みたいなものが杖から出て木とかまとめて薙ぎ払ってたように見えたけど……」

「杖から……?魔力で剣でも作って切ったのかなぁ、確かにあの時の動きは居合斬りによく似てたけど……」

「イアイギリ?」

「ああ、俺が前にいた所の剣術の一つかな。なんかそれがイメージで出たのかもしれない」

そう言い終えると同時に視界が揺らぐ、何かが一気に体から抜け落ちたように四肢が力を失いその場に膝をついた。その上頭が揺れて気持ち悪い…… 平衡感覚を失い、そのまま地面に倒れ伏す

「ちょっとカイ!?大丈夫?カイ!」

あまりの突然の体調の変化に思考がついていけず、目を瞑って体を丸めて耐える。この感覚は昔怪我をした時の失血症状に似てるな……などと考えるが口は動かないし体も動かなかった。




 突然カイがふらついたと思ったら倒れてしまった。顔色が物凄く悪い、突然の事で頭が付いて行かない。

「カイ!大丈夫??」

必死に声をかけるが反応がない。どうしたんだろう、どうすればいいんだろう。 今までこんな風に仲間が突然倒れこんでしまうことなんてなかった。モンスターの毒を受けた時だってこんなふうにはならなかったはずだ。とりあえずカイの状態を確認しなくては、そう思いカイのカバンに手を入れる

「カイ、ギルドカード見るね。ごめんね」

勝手に他人のギルドカードを見るのはマナー違反だが、状態異常を正確に把握する時によく使われるのがギルドカードである。ステータスの魔法はそのカードの主の現在の状況をかなり正確に知らせてくれる。カードをカバンから取り出し、すがるように『ステータス』を唱えた。


『ステータス』

名前:カイ 『発芽』『飾り石』

筋力 85

体力 90

知力 104

精神 120

魔力 3/68906

生命力118/53084


エクステンド

緑の加護

黒の魔手



「えっ……」

見たこともないような魔力と生命力だ…… こんなの見たことがない。

「そ、そうだ状態……」

ざっと見た感じステータスの数値意外は正常に見える。少なくともステータス魔法ではギルドで確認している状態異常なら表示してくれる。 となると考えられるのは魔力の不足による体調不良だろう。

「なら……!」

カバンから魔力回復用の丸薬を取り出す。以前ケインやネルと一緒に依頼をこなしていた時にネル用に用意していたものだ、無論ネル本人がしっかりしていたため使う機会はなかったが、今となってはそれがカイを助けることになるなんて。備えはいつ助けになるか本当にわからないものだなぁと思う。いざというときのために用意していた丸薬だから、一般的な魔法使いでもそれなりに回復できるはず。 カイの頭の下に右の太ももを差し込んで飲み込みやすい体制をとる。

「カイ、口開けて」

声をかけるとかろうじてながら口を開けてくれる。反応も出来ないほどになる前でよかった。

「苦いかもしれないけど頑張って飲み込んで」

カイに水筒で水を少し飲ませる。口からこぼれた水が太ももを少し濡らす。 脚を抜き、代わりにカバンを枕にしておいた。すこし休ませておけば多少は魔力も回復するだろう。

「さて、今のうちにユニトン解体しておこうかな」

周囲に気を配り、横になっているカイが襲われないかを確認しながらの作業は思ったよりも神経をすり減らした。 いつもより時間をかけて解体し、全てを鞄にしまった頃には結構な時間が経っていた。




「う……ん」

目覚めると、焼けた肉の良い香りがした。

「あ、起きた?体調どう?大丈夫?」

ルカが火で肉を炙っていたからか、日はまだ落ちていないが空は赤い。

「ごめん、また迷惑かけた」

「ううん、命に別状無いみたいでよかった。いきなり倒れてびっくりしたよ」

ルカがそんなことになったら俺だってとんでもなく驚くだろう、それにユニトンの解体もまたルカがやったようだし、不甲斐無いな…… 起き上がって体を動かす、あの気だるさはほとんど無く体に異常も見られない。

「もう大丈夫みたい、ほんと心配かけてごめん」

「あ、そうそう。何が起こったのかわからなくて勝手にだけどステータス見せてもらったよ」

え、あー。 あの変な数値見られたのか……まぁ別に隠しているわけじゃないけどなんとなく異端感があって気後れするんだよなぁ。

「うん、おかげで助かったんだと思うし何も問題ないよ」

「なんかすごかったね、魔力と生命力」

「ああ……うん、この間までそんなことはなかったんだけどね。ヴァースで目覚めてからあんなことなってた」

「黒の魔手ってその手だよね、なんかよくわかんない事いっぱいだね」

「そうだねぇ……」

「ま、とりあえずは魔力が切れないように回復しまくればいいんじゃないかな、凄い量の最大値だったし」

「確かに、回復さえできれば使い放題って感じかもしれないね」

ルカから肉を受け取って頬張る、塩が聞いてて美味い。 食べ始めてから自分の空腹具合に気づいた、納品する予定だった肉をもう少し焼いて食べることにした。


 それからは特に魔物に合うこともなくヴァースに帰ることが出来た。ギルドに着いた頃には日付がもうじき変わろうかという頃だった。 二人で報告し、ギルドからの報酬で得た金額が2080カラー、丸二日……といっても大分ルカの脚を引っ張ってしまったが…… 丸二日かけてこの報酬は美味しいのかそうでないのかよくわからないな。

「はい、カイの分の1040カラー」

ちょうど半分をルカが渡してくる。

「そういえば、俺に飲ませてくれた薬?か何かっていくらかな。それの分引いてくれないかな?」

「あー、いいんだよそんなの。元々はネルとかに何かあった時のために用意したものなんだけど、使う機会がなさすぎて腐る直前だったんだから」

「く……腐るタイプの薬なのか」

「流石に言葉の綾だけどさ。それでも何かあった時に私が後悔しないために用意した物だから、その役目を私のために果たしたようなものよ」

「うーむ、でも結構高かったんじゃないの?」

帰る前にもう一度ステータスを確認した所、魔力が400程度まで回復していた。 少なくとも120位だったころで考えても3回は全回復するくらいの薬だったってことだ。どう考えても安くはない。

「いーのいーの、そんなことにお金使う前にカイは買わなきゃいけないものいっぱいあるでしょー」

「う……まぁ確かに……」

買わなきゃいけないものは確かに沢山ある、武器もそうだし、やはり戦うのに魔力を使わないわけにも行かない、となれば魔力を回復する薬が体力以上に生命線になる。どのくらい魔力を食うのかは今後実験してみないとわからないが下手するとがぶ飲みミルクティーなんてものじゃ済まないかもしれない。

「ね、だから薬代なんていいから。しっかり準備して、これからの依頼で楽させてくれれば私はそれでいいよ」

そう言ってウインクするルカ、くっ ここにも天使が……

「ところで、明日からどうする?すぐは厳しいだろうし休みにしようか?」

ルカが話題を変えた、俺としては次回以降に差支えのない準備の時間をもらおうと思っていたので話が早い。

「そうしてくれると助かる。武器も新調して、明日は魔力を節約して戦う方法とか、どういうことをするとどのくらい魔力を使うのかとか調べておきたかったんだ」

「そうした方がいいね、じゃあ明日は休みってことでいいかな?」

「うん、ルカもゆっくり休んでよ、次は楽させるからさ」

「あはは、期待してるよ」

その後ルカを孤児院まで送り、教会へ戻った。 借りている部屋に戻る前に中庭で一息つく、空を見あげれば雲の隙間に一つまばゆく輝く星が一つあった。

「こっちで見る星はなんか綺麗な気がするな……」

明日も明日で色々とやらないといけない。なかなかサフラノに戻る金、貯まるめどが立たないな……大丈夫なのかな……

こっちでの生活は楽しい、だが分からないことだらけの不安だらけでもある。ソフィにもルカにも頼りっぱなしだ……

「ま!頑張って強くなろう!気合でなんとか!」

そう声に出して気合を入れなおす。 今日は寝よう、考えが暗くなる時はなにもしないのが一番だ。 上着を脱いでベッドに潜り込む、明日のことは起きてから考えよう……



 翌朝、シスターに起こされて目が覚めた。寝ぼけた頭で聞いた話を要約すれば、部屋の掃除をするからどっか行け。だそうだ あくびが止まらない、顔を洗って朝食を頂いた頃には頭もスッキリしていた。 食べ終わった食器を片づけ、廊下に出るとシスターが歩いてきた。

「あ、シスター。ちょっとご相談が」

「はい?どうしました?」

「えーと、何か魔力を回復させるのにいい方法ってありませんかね?」

「魔力ですか……?すみません、ちょっと詳しくないのでわかりません」

「そうですか、ありがとうございます」

別にシスターが知ってるとは思ってなかったから反応もある程度予想通りだ、次はどこにあたってみようかな。

「あ、もしかしたら私の知り合いが詳しいかもしれないので、お急ぎでなければ聞いておきますよ」

おお、ありがたい申し出だ。

「本当ですか?ありがとうございます。すみませんがよろしくお願いします」

「はい、今日はこれからお出かけですか?」

「ええ、装備の新調と戦い方の研究を」

「そうですか、怪我には気をつけてくださいね」

「はい、じゃあ行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

今日も笑顔でお見送りだ、全く魅力的だぜ。


 さて、とりあえず武器屋にやってきた。今度は依頼前じゃないからある程度ゆっくり見ることが出来る。店に飾られている品はどれも威圧感がある……

「お、アンタこの前杖買ってった……」

店主が近づいてくる、この前は興味が全く無さそうだったのに今日も声をかけてくるとは仕事自体は熱心なのかもしれない。

「どうも、いろいろ見せてもらってます」

「ああ、かまわねぇがそこら辺は200カラーじゃ買えねえぞ」

「それはそうでしょうね、まぁどんな武器があるのか知ってると知らないとじゃ全然違いますから」

「ほう、それなりにわかってるじゃねぇか。いい心がけだ、好きに見てけ」

「ありがとうございます」

「ただ触るんじゃねーぞ、傷とか付けられたらお前さんじゃ買い取れねえだろ」

ぶっきらぼうだけど根は優しいのかもしれない。それにきっと武器が好きなんだろうな。

「この店の武器は店長さんが作ったんですか?」

「ん?ああ、そういうものもあるがほとんどは国で量産してる奴だな」

「でも作ったものもあるんですね、どれですか?」

「ああ、基本的に俺が作ったものは全部このカウンターの後ろに飾ってある」

「これが……」

この親父さんが作ったという武器は片刃の長剣と装飾の鮮やかな杖だ。特に杖の方は不思議な文様と宝石で彩られている。

「凄いですね」

純粋に思ったことを伝えると

「褒めても値引きはしてやらんぞ?」

と若干ニヤつきながら返された、嬉しいんじゃねぇかおっちゃん。

「そういうつもりはないですよ、ある程度稼げたらここで武器を作ってもらうのもいいなって思っただけです」

「そうかそうか、そんときゃ気合入れて作ってやるよ」


 会話もほどほどに自分の次の武器を探す。結局はこの前のおもちゃコーナーみたいなところから選ぶんだけどな。

「うーん……やっぱ杖は戦闘用じゃなかったな」

そもそも角を折るのに杖を使うってのが常識的に考えて間違いだ。杖だから魔力に強いってのも当たってたのかどうか分からなかったしな。 わからないことは知ってそうな人に聞いたほうがいい、そう思って振り返ると思ったより近くにおっちゃんが立ってて驚いた。

「うわ、びっくりした」

「この前の杖どうしたんだ?もうぶっ壊したのか?」

「え、ええ……実は」

魔力を注ぎ込んで戦おうと思ったことと、杖だから魔力には多分強いだろうと思ったこと、実際ユニトンの角を折るのに使ったらへし折れてしまったことを話した。

「はぁ、アンタ何も知らねえんだな」

「す、すいません……」

武器好きに話していい内容じゃなかったかもしれない

「しょうがねぇな、全部は長くなるから無理としても、少しなら武器のことおしえてやるよ」

また見かねられた、ありがたいんだけど皆毎回このしょうがねぇな感あふれる目で俺を見る。新しい興奮に目覚めたらどうしてくれるんだ。

「いいか?まず武器と魔力を合わせるってのにはいくつかやり方があるんだ、一つは武器の外側をイメージした魔力の形で覆うやり方」

そう言ってカウンターの方から取り出してきた木の棒3本のうち1本を俺に持たせた。

「それを両手で水平に持っててくれ」

言われたとおりに棒を水平に保つ、おっちゃんも木剣を持って正面に立ち、棒に向けて軽く木剣を振り下ろすと、乾いた音を立てて木剣は跳ね返された。

「普通に叩けばこのとおりだ、じゃあこの剣を鋭い剣のイメージで覆って振り下ろすと……」

先程と同じくらいの軽さで振り下ろされた木剣は軽々と木の棒を両断した。

「おおー、凄い!」

「別にすごかねぇよ、割と初歩の技法だからな」

魔力を用いた剣技というのもあるのか、魔力ってのはホント主流の力なんだな。

「次に武器の内側、芯に当たる所に魔力を通すやり方」

これもイメージだ、と付け加えられたが何が違うんだろうか。そんな思いが顔に出たらしい

「それじゃあ試してみるか、俺が棒を持つからお前さんはその剣で打ってみろ、ただし全力は出すなよ、一応売り物だからな」

目の前に掲げられた棒に軽く一撃を入れる、再び乾いた音が鳴り響いただけだ、棒も木剣も何も起こっていない。

「今のが何もしていない状態だ、今から棒の芯に魔力を通す。 さぁ打ってみな、さっきよりも強めでいい」

もう少し力を入れて一撃を入れる、ぶつかった瞬間に打った俺の手のほうが痺れるほどの衝撃が帰ってきた、まるで鉄の壁に向かって振り下ろしたみたいだ。

「分かるか?魔力を芯に通すことでそのものの強度を上げる事ができるんだ。こっちはちゃんとコントロールすればほとんど魔力を消費せずに戦えるだろうな」

「なるほど、勉強になります」

「逆にイメージで武器を覆う方は魔力の消費が激しい上にコントロールが難しい、武器本体の耐久力がないとすぐにぶっ壊れちまう」

なるほど、ってことは両方併用すれば高火力を出しながら武器を壊さないで戦えるんだな。

「今、両方使えばいいって思っただろう?」

「ええ、そうすれば武器を壊さないで威力も上げられますよね」

「まぁ正解だな、だが両方使って戦うのはお前さんが思っている以上に難しい、芯に魔力を通すためのコントロールと、武器を覆うイメージの両立が必要だからな」

「いざって時に武器を覆うのが効率がいいってことですかね」

「そういう考え方もあるな、ただ危なくなった時に武器を覆って敵を倒したとしても、それで武器が壊れちまったら次がないということも忘れるんじゃねぇぞ。ちなみに芯に魔力を通す方も武器を覆う方も、過剰に魔力を注ぎすぎれば武器をぶっ壊しちまうし、少なすぎれば効果は見込めない」

「なるほど、かなり難しそうです」

でも魔力をあまり消費しないで戦う方法は見えた、おっちゃん様様だ。

「ま、簡単に説明すりゃ魔力の扱い方は以上だな、あとはそういう戦い方に適した武器だが……」

おっちゃんが言葉を濁す、なんだろう?

「何か問題でも……?」

「ああ、お前さんじゃそんな武器買えないって大問題だ」

「ああ、そりゃ問題外ですわ」

顔を見合わせて笑う、そりゃあそうだろうな。

「一応説明しとくと、武器を作るときの素材でどんな戦い方が適しているかってのは変わってくる、木材にも石材にも金属にもそれぞれ種類ごとに魔力の通しやすさや耐久度が違うからな」

「よくわかりました、魔力を芯に通すやり方、練習してみます」

「ああ、まずはそっちからのほうがいいだろうな。それならお前さんにやるものがある、ちょっと待ってな」

そう言っておっちゃんが店の奥に入っていった、ガチャガチャと音がした後おっちゃんが何か持って来た。

「これをやろう、俺の息子が昔練習用に使ってたものだ」

「いいんですか?大事なものなんじゃ?」

「いや、もう使う奴もいないし倉庫の肥やしだったからな、こうやって説明したのも久々だったから懐かしくなってよ、お前さんも立派に育ってくれや」

「も、ってことは息子さんは?」

「ああ、今やヴァースの護国剣士だ。国を守るために剣を持つような男に育ったよ」

「へぇ……凄いですね、自慢の息子さんって感じですか」

「ああ、跳ねっ返りでよく喧嘩はしたもんだがな、立派になったもんよ」

いつかあってみたいもんだな、俺はありがたくおっちゃんから剣を受け取った。剣は木剣でありながらも固く、鋭さがあった。刻まれた文様がなかなか美しい。

「ありがとうございます師匠」

「ハッ、誰が師匠だ誰が、そのかわりしっかり稼いで大物になってバンバンウチで装備そろえてくれよな」

お礼を言いまくったら照れたおっちゃんにさっさと練習してこいと追いだされた、結局1カラーも支出なしで武器を手に入れてしまった……、稼いでお礼をするためにもさっさと魔力の使い方をモノにしないとな。


 それからすぐに街の外にある林で魔力を通す練習を行った。特訓の開始時点で魔力値は462、これをなるべく減らさないようにしないとな…… 魔力のコントロールは思ったよりも難しい、気を抜くとすぐに手元で弾けてしまう。だが多少魔力を使ったくらいでは魔手は痛まなくなっていた。もしかしたら手の痛みは魔力の枯渇のサインだったのかもしれないな、そんな事を考えながら魔力を通し木に打突を繰り返す。

 やっていてわかったのだが、魔力がしっかり通っていると武器の強度だけが上がるのではなく、武器がそこにある(・・)強さを強めてくれる気がする。簡単にいえば何かにぶつかった時に邪魔されなくなる、とでも言えば分かりやすいだろうか。木の幹を殴っても手に反動は帰ってこないのに衝撃を伝えた感じはあるし、実際に木が凹むほどしっかりと威力が伝わっている。これをしっかり鍛錬すれば剣で切りかかった時に引っかかったり肉に挟まって持ってかれたりすること無く切り落とすことが出来るんだと思う。

 疲れてくると集中力が薄れるのか手元で魔力が弾けることが多い、ステータスを確認しながら練習を行なっていると、魔力を通すとだいたい5~10ほど消費し、やめると3~6ほど戻ってくる。魔力が弾けると15ほど消費してしまっていた。魔力が弾けなければ相当なコストパフォーマンスだな……


 気がつくともう日が傾いてきていた。相当集中していたらしい、帰りに道具屋で魔力の回復薬を買っておかなくてはいけないんだった。店が閉まる前に行かないと。最初は460ほどだった魔力も今では170に減っている、そのうち手も痛み出す気がする……とにかく街に戻ろう。


 街に戻り道具屋が片付けをしている所に飛び込んで魔力の回復薬であるノエルの魔薬というものを8つほど買った、これで640カラーだというから出費は痛い……。試しに一つ飲んでみるとこれがまたマズイのなんの、ノエルって人は味覚障害か何かだったのではないのかと思うほどだ。別にノエルの大好きだった薬ってわけではないと思うが…… 半分くらい飲んだ所でステータスを確認すると勢い良く1づつカウントアップするように回復していた。回復感があって見ていて面白い、その上一滴でも飲むと飲まないとでは回復量が変わるようだ、少しも無駄には出来ないな…… 結局、ビン1本で75ほど魔力が回復した。 400ほど回復するには5本ちょいか、だとルカの飲ませてくれた薬は単純に考えても400カラー、携帯のしやすさとか何個も使わなくても回復できる事を考えると500~600カラーってところかな……? うーん、がんばろう。


 その夜、寝る前に時間をかけてノエルの魔薬を3つ飲んだ。地獄のような時間だったがそのおかげか眠りにつくのは一瞬だった。 別に気絶したわけではない。


投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

最低でも週に一話、前回投稿から七日以上開けないことを目標としていましたが

リアル都合により早くも皆勤賞ならずです……


今のところ失踪はしておりません。ゆるやかにお付き合いください。

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