第十一話 聖ヴァース
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「う……っく」
目をさますと見知らぬ天井があった。天井には数えるようなシミもなく真っ白だ。っていうか……どこだここ、サフラノ?カスタ? 体を起こすと、全身にものすごい疲労感がある、気づけば体中に手当の跡がある。誰がしてくれたかはわからないけど、なんにせよ助かったのか……つくづく運が無いのかあるのかわからないな。
「あ、目覚められたのですね」
部屋に入ってきた女性がそう言って近づいてくる。白い修道服だ……シスター?
「大変お世話になったようで、手当とかも」
話をすると看護をしてくれていたのは数人のシスターの持ち回りだったそうで、俺はこの教会の中庭で発見されたらしい。何故中庭……?誰かに飛ばされたんだろうか?常識的に考えてそれ以外ありえないよな…… 礼を言いながらも外に出たい事を伝えると服も洗濯してもらっていたようだ、所々裂けているのを縫ってもらってる、ありがたやありがたや…… 体の色んな所に包帯がまかれていたのもシスターたちのお世話だろう。右腕、左足、左手、腹……そんなに色んな所に怪我してたのか、まぁ死ななくてよかった。ソフィは無事に逃げれたんだろうか……心配だ。
着替えをすませてシスターに質問すると、ここは聖ヴァースという都市で、サフラノとはだいぶ離れていること、連絡手段としてはギルドに行くのがいいだろうと言うこと、ある程度の手伝いをしてくれればしばらくは教会に泊まっても構わないということを教えてもらった。
ヴァースという街は大きな壁で中央区と外区に分けられていた、街並みは白いレンガ造りで統一されていて美しいのだが、それも街の中心の方は……だ、教会は中央区の方にあり、壁を超えると一気に街の様相はランクが落ちる。ギルドの位置はシスターによると、教会の南西の方向の壁の辺りに位置している、というか建物が通りぬけ出来るようになっていて中と外の両方の人間が利用できるのがギルドだ。壁は所々行き来は出来るのだが、通り抜けできるところにはどこも大きな門付いていて、有事にはが外敵の侵入を阻むのだろう。それだけに壁の中と外では住める人間に差が生まれてしまうのだった。壁の中には裕福層が、外には貧困層が、去年まで戦争をしていたという都市ヴァース、無論戦争の被害を受けたのは壁の外、弱い人間たちの済む街だけだった。
中のほうからもギルドにはたどり着けると聞いてたが、中と外の違いを見てみたいと思い、一度外の方に出てからギルドを探すことにした。戦争が終結してから約1年がたった今でも、損壊した建物の2割が修復できたかどうかというところらしい、街のはずれの方では修復に奔走する人々が沢山いたが、町の中央にいけば行くほど服装が豪華になり、歩みもゆったりとしている人ばかりだったもんな。こんなに貧富の差がはっきりしている所は日本じゃ見られなかったが外国にはよくあるだろう。こういう格差のある所って言えば……と考えを巡らせているとギルドはこちらという案内板を見つけた。しかし更にその向こうから怒鳴り声がする、嫌な予感はしたがヴァースの現状を見ておきたいとも思ったので、ギルドより先に声のする方へと歩いた。
通りに出ると人だかりが出来ている、その中心には馬車があり……よく見ると馬じゃない何かだったが。まぁ馬車でいいだろう、そしてその前にうずくまる人と、それを蹴る男……
「誰がお通りなのかわかってねぇからこうなるんだよ。あァ?」
「ヒッ……」
なんというゴロツキ……あんなのを引き連れてるあたりで馬車の中身もたかが知れるな……にしてもなんとも気分の悪い光景だ、それを眺める人たちも手を出せないでいる……流石に何もしないで引き返すのは気が引ける、それをなんとか助けようと思うが、手の出し方を間違えると俺がああなりそうだ。とりあえず何とか……と腰に手をやると……
「うわっ!カバンが無い!?」
思ったよりでかい声が出てしまったみたいだ、野次馬をしていた人たちが一斉にこっちを向く、それにゴロツキもこっちを見てるじゃねぇか……それに気づくと蹴られていた人は隙を付いて逃げ出した。
「あっ、オイコラァ!待て!!」
ゴロツキが叫ぶも野次馬に紛れて見えなくなってしまった。まぁ無事逃げれたんならなんでもいいや、それよりカバンが無いことの方がヤバい。俺もすぐに馬車に背を向けて教会に向かって走りだした。後ろでゴロツキがまた何か叫んでいるようだったがそれをゆっくり聞いてあげるほどの余裕は既になかった。
急いで協会に戻り、シスターに話をするとそれらしきものを保管してあると言われ胸を撫で下ろす。持ってきてもらうと確かに自分の鞄だった。
「よ……よかった……」
中身を確認するとバトルピッケル意外はちゃんと揃っているようだった。カラーも……あるな、とりあえず餓死にってことは無さそうだ。いいよといってくれてもやはり代価を払わずにお世話になるのは嫌だ。シスターにお礼を言って再びギルドへ向かう、にしてもヴァースは広い……多分全体で見ればサフラノの4倍はあるのではなかろうか
ギルドに着くとサフラノとは比べ物にならないくらい人がいて賑わっていた。カウンターへ向かうと白地に黄色いラインで縁取られた衣装の女性が対応してくれた。どこのギルドも制服に気合が入ってるなぁ……
「こんにちは、冒険者の方ですか?」
「はい、サフラノのギルドに連絡を取りたいんですが……」
「わかりました、ご利用は初めてですか?」
「はい」
「連絡方法には2種類あります。手紙や言伝を冒険者に依頼するか、通信魔法を使うかですね」
「通信魔法なんてあるんですか」
「ええ、ただこれはかなり緊急であるか、高額の代金を支払っていただく必要があります……一度使用すると魔具が壊れてしまうので」
便利なものは簡単には使えない訳だ……
「ちなみに手紙や伝言だとどのくらい時間がかかりますか?」
「そうですね……早くて8日程度でしょうか」
「8日か……えーと、ちなみに自力で行くとしたら何がどのくらいかかるものでしょうか?」
「うーん、そうですね。こちらを御覧ください」
そう言いながらお姉さんはカウンターに簡略化された地図を広げて説明してくれた。
「まずここがヴァース、そしてここがサフラノです」
そう言って2点を指さす、方位の概念が一緒だとしたらサフラノはヴァースの南に位置していることになる……が、わからないものは聞いといたほうがいいかな、下手すると迷子から富士の樹海コースだ。
「あの、すみません。この地図ってどちらがどの方角なんでしょうか……何分学がないもので」
そう言うとお姉さんはそれも踏まえて説明をしてくれた。ギルドの人は総じて優しくて本当に助かる。
「地図は貴方から見て上の方が北になります、ですのでサフラノはヴァースの南ですね。そして移動の手段ですが……」
まとめると話はこうだ。
・サフラノへ行くためにはグランラックを経由してグランツ山を迂回して行く
・もしくはヴァースの南東にある洞窟を抜けて大亀裂を超えてから平原を西に行く
・前者は馬車っぽい物で集団移動、旅費は一人4500カラー。8日の旅
・後者は徒歩その他で何もなければ4日ほどの旅、旅費は各人それぞれ
・手紙やらを出すなら大体500カラーほど出せば馬車に乗せて行くが事故その他による紛失は保証できない
「うーん、なかなかどうしてどれもこれもって感じだな……」
街を歩きながらひとりごちる、カバンに残ってた金が700カラーほど、自力で見知らぬ道を行くのはキツいし、4500カラーなんて見ての通り無い。とりあえずは手紙を出せばいいか……どうにか金を作って帰ろう。ソフィもフランも心配……してるだろうなぁ。とりあえずは宿だな、教会でお手伝いでもしながら泊めてもらうしか無いか…… と考えながら歩いていると、不意に声をかけられた。
「あの……あの、すいません」
「はい?なんでしょう」
声をかけてきたのは自分より二回り小さいくらいの少年だった。
「さっきはありがとうございました。本当に助かりました」
「さっき……?すいません、人違いじゃ?」
「いえ、確かに貴方でした。カバン、見つかりましたか?」
「あーっ、なるほどキミか」
あの時は顔も見えなかったのでこちらからは誰かわからなかったが、この子からは俺を確認するだけの余裕があったらしい、あの時ゴロツキに蹴られていたのは彼だったようだ。
「いやぁ、助けてはあげたかったんだけど。カバンが無いことに想像以上に驚いちゃって。君のために何かをしてあげたわけじゃないから……」
「でも助けようとはしてくれたんですね、結果として助けられましたし、やっぱりありがとうございます」
「ハハハ……いえいえ、助かってよかった」
「よければ私達の家に来ていただけませんか。先生が是非お礼をしたいと言っ……おっしゃっていました」
少年からお誘いを受ける、こちらとしては自分に焦っただけなので恐縮なのだが……断ろうとすると悲しそうな顔をするのでとりあえず招待を受けることにした。
少年に付いて行くと辿り着いたのはヴァースの外街部の孤児院だった、そこでは沢山の子供たちが駆け回っていた。
「ここで少々お待ちください」
そう言われ、とりあえずベンチに腰を下ろす。なかなか広くて大きい屋敷と庭だなぁ……孤児院として建てられたものじゃないな、明らかに豪邸だしいろいろな細工が上等なものだと見て取れる。
「お待たせしました」
そう声をかけられて立ち上がると、少年の父親らしき人が立っていて微笑んでいた。
「この度はライオを助けていただいたそうで本当に有難うございます」
そう言って頭を下げる
「いえいえ、偶然居合わせた場所で失態に気づいて大声を出してしまいまして、その隙に彼が逃げることが出来た、というだけで助けて差し上げるために行動をしたわけではないのです」
「はは、ご謙遜を。申し遅れました、私はこの孤児院を経営しておりますノーリス・ブラッドと申します」
「この孤児院のライオです、この度は本当にありがとうございました」
ノーリスさんとライオ君ね、この人の礼儀正しさと言うかなんというかがきっちりしててそれに釣られてしまう。
「私は冒険者のカイです、ライオ君が助かってよかった。それにしてもなんであんなことに?」
ライオ君に聞いてみると俯いてしまった、地雷だったかな
「それは私からお話します」
ノーリスさんが割って入る
「カイさんはヴァースについてお詳しいですか?」
「いえ、昨日流れ着いたばかりで全くわからないですね。去年まで戦争をしていたんでしたっけ?」
「ええ、ここにいる子供たちのほとんどがその戦争で親や家族を奪われた子供たちです」
「それをノーリスさんが引き取って育てている、と」
「ええ、私は没落貴族でね、前々回の戦争で財産意外の全てを失ったのです。そこでここに屋敷を建てて哀れな子供たちを育てています」
「素晴らしい行動力ですね、なかなか出来る事じゃない。子供たちも楽しそうに遊んでますし……」
そう言いながら庭園を眺める、座っている時はちらちらと視線を感じてはいたが、ノーリスさんの客らしいとわかると警戒を解いたのか興味を失ったのか、駆けまわり遊具で遊んでいる。
「なに、私も突然全てを失ったショックで子供たちを集めたに等しいのです、子供たちのためとは言い切れませんな」
そう言いながらどこか悲しげに笑うノーリスさん。
「それで、ライオが蹴られていたという話ですが……私をよく思っていない貴族がヴァースに幾つかおりましてな、目の敵にされているのです」
没落貴族と言っていたっけ、やっぱり貴族といえば選民意識ってのは本当にどこでもある話なんだな……
「私も歯がゆく思っているのですが没落した身では子供たちを守り切る事もできません……、カイさんのように事情を知らない人が助けてくれる事もあるにはあるのですが、どうしても貴族どもに目を付けられやすくなってしまいます」
「そんな……」
「ですからカイさん、本日は助けていただいたお礼をさせて頂きます、ですが明日からは関わりあいにならないほうが懸命です」
「目を付けられる、って実際何をされてしまうんでしょうか?」
「基本的には嫌がらせのたぐいを、それもだんだんエスカレートして行くと実力行使になっていくようです。嫌がらせの結果嫌気が差してヴァースを去られるのならいいのです。それで命を失われるようなことがあっては困ります」
なるほどね……そこまで露骨に嫌がらせをしてくる割にここが潰れないのは潰すとそれはそれで問題なのか嫌がらせをしたいだけなのか……何にしても胸糞の悪い話だな。
「ひとまずは感謝を、大したものはお出しできませんが精一杯おもてなしさせて頂きます。準備ができましたら声をかけさせて頂きますので、それまではライオが案内しますので孤児院をご覧になって下さい」
「ありがとうございます」
「それではカイさん、ご案内します」
ライオ君に連れられてその場を離れ、屋敷の中へ入る。中に入るとそれなりに綺麗にしてあっていい屋敷だった、2階建てで部屋数はかなりのものだ。数人が掃除用具を持って部屋から出てくるところを見かけたので子供たちがそれぞれ役割分担をしながら家事をこなしているんだろうな。中庭に出ると一角では木剣を降っている20人くらいの集団がいた。その戦闘には同い年くらいの青年が指導をしているようだった。
「ライオ君、あれは?」
「戦闘術の指導ですね、戦えるようにならないと僕らは生きていけませんから……」
なるほどね、戦闘術か……子供たちは皆中学生くらいだろうか、けっこう様になっているように見える。 そうして屋敷内をウロウロしていると小さな女の子がライオ君を呼びに来た。
「らいおー、せんせいがごはんできたよって」
「ああ、分かった。ありがとう」
そう言ってライオ君は女の子の頭を撫でると、嬉しそうに走り去っていった。
「カイさん、それではこちらに」
そうして大きなホールに着くとそこには5歳くらいから20歳くらいまでの少年少女が……ひぃふぅ……ざっと見て70人くらいはいるだろうか、こんなにも多くの子供たちを養ってたのか……ノーリスさんってとんでもない人かもしれないな。
「大変お待たせしました、こちらに」
ノーリスさんがエプロン姿でやってきて案内してくれた。細長いテーブル一つに6人くらいが座り、それが12個位ある。その一番端のほうに招かれた。子供たち全員が座ったのを確認するとノーリスさんがよく通る声で言った。
「今日は私たちの家族ライオが困ったところをこちらのカイさんに助けていただいた。皆で感謝を」
そう言うと全員が立ち上がり一礼しながら口々にありがとうと感謝の言葉をくれた。 ふんぞり返っているようで急に恥ずかしくなり、立ち上がってぺこぺこと頭を下げる。小市民に突然こんなことされたら誰だってこうなる、多分
「さぁ、それでは食べよう」
ノーリスさんの一言で全員が座りだしたので自分も座る。
『今日の命あることをこの血に感謝し、明日への誓いを』
そう言って全員が右手を胸に当てて瞳を閉じた。なんだかよくわからないが宗教チックな食事の挨拶だろうか。ひとまず自分も手を胸に当てておく。 10秒位たったらホールは食事を始める音と声で一気に賑やかになった。
「お待たせしました、どうぞ召し上がってください、御口にあうかはわかりませんが」
そうノーリスさんが言う、ありがたく頂くことにした。 形の不揃いなパンとコンソメスープのようなものに、レモン見たいな風味の水がメニューだった。この人数で食べるとなるとこのくらいでも用意するのは大変だろうなぁ……
「とても美味しいです、ありがとうございますノーリスさん」
「ハハ、不味くないのならよかった。孤児院をご覧になってどうでしたか?あまりおもしろいものではなかったかと思いますが」
「いえ、面白い……と言うと語弊があるかと思いますが、私にとっては新鮮でした」
「あまり孤児院の中に入ることもないでしょうしね」
「なんて言うんでしょう、確かにここにいる皆は家族を失ってしまったのかもしれないけど、それでも今の仲間に囲まれた生活がとても幸せそうに見えました。とても、とても素晴らしいことだと思います」
「そう言っていただけると私としても嬉しい限りですな」
「それだけに他の貴族の妨害というか……ちょっと理解に苦しみますね」
「それに関しては罪のない子供たちに私のせいで被害があるのが心苦しいばかりです……」
「中庭で戦闘指導をされているのも見せて頂きましたが、かと言って子供たちに貴族と戦わせるわけにも行かないでしょうしね」
目の上のたんこぶは取れないから困るってのがよく分かるな。
「ええ、子供たちが強くなってくれれば冒険者として独り立ちも出来ますから、そこからここの存続資金を出しているというのもあります」
「冒険者をやっている子もいるんですか」
「ええ、そうですね。 ルカ!ケイン!シース!アイン!ネル!」
ノーリスさんが少し大きめの声で5人の名前を呼ぶと年長らしき5人の男女がやってきた。
「なんでしょうか先生」
「カイさん、紹介します。この5人が今孤児院を支えてくれている冒険者の、左から順に ケイン、ルカ、ネル、アイン、シースです」
呼ばれた順に頭を下げる5人、ルカとネルが女の子、ケイン、アイン、シースの3人が男の子だ。
「冒険者のカイです、よろしく」
立ち上がってからそう言って自己紹介をする。ケインを始めとして5人がそれぞれ名乗りながら握手をしてくれる。
「もしかしたらカイさんと誰かが組んで依頼をこなすことがあるかもしれませんからな、その時はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ是非よろしくお願いします」
そこからは冒険者組での会話となった。
「俺達は冒険者と言っても本当に簡単な依頼をこなすだけなんですけどね」
「あんまり強いわけでもないしね」
「カイさんはどうしてヴァースに?」
「あ、パンもっと食べます?」
順にアイン、シース、ネル、ルカが発言する。
「俺はもともとサフラノで冒険者をしてたんですけど、事故で仲間とはぐれちゃって、気づいたら何故かヴァースの教会にいた感じですね」
そう答える、パンは断っておいた。ここでモリモリ食える奴がいたら見てみたいもんだ。
「へぇ、じゃあすぐにサフラノに帰るんですか?」
ケインが質問してくる
「いや、当面は資金稼ぎをしないと帰れないみたいで。とりあえずサフラノの仲間に手紙を出したら冒険者として働こうかなと」
「あ、なら私達と一緒に仕事しませんか?」
この提案はルカだ、いいんだろうか?
「それは俺としては願ってもない話ですけど……いいんですか?」
「報酬の取り分でしたらちゃんと分けますよ?」
いや、そういう話では……あるのか、いやでもノーリスさんはあんまり関わるなって言ってなかったか
「話を聞く分にはあまりヴァースに詳しくないみたいですし、私達としてもなるべく依頼は数をこなしたいので仲間が増えるのは歓迎なんですよ」
ケインがそう追撃してくる。
「ただ一緒に活動するのは冒険者として、だけになっちゃいますけどね。ずっと一緒だとご迷惑をかけますから」
ルカがちょっとトーンを落としながら言う。気持ちとしてはサフラノに帰れなくなりさえしなければ嫌がらせくらいどうってこと無い。
「俺も帰るための資金作りをするのに一人じゃ不安だったんですよ、もし良ければ組んでください」
「やったー!」
ルカが喜ぶ、ケインを除く3人も微笑んでいた……
「あ、でも皆さんが満場一致で俺と組んでも構わない、という条件でですけど」
条件って言うのは言葉が悪かったかな、何かを言われる前に付け足す。
「ほら、やっぱり俺はよそ者ですから、足を引っ張る事も多いでしょうし。迷惑はかけたくないので」
それに対してはケインが答えた。
「5人、と言っても普段は二人づつで依頼を受けているんですよ。基本的にはカイさんはルカと組んでもらうことになると思います。だからルカが良ければ俺達は構いませんよ」
「そうそう、この孤児院に恩返しするために働いてはいるけど、5人が同じチームってわけじゃないんだよね」
アインが付け足す、そういうもんなのか
「普段は二人と三人で別れて依頼を受けてたんですけど、どうせもらえる報酬は変わらないのでなるべく多いチームで受けたいと思って、それで」
ルカが理由を話す。なるほどね、そりゃ確かにもう一人いたほうが効率がいい。俺一人加入して依頼をこなせれば2件分だったのが2.5件分の報酬を得られることになるもんな。
「そういうことだったら喜んで。よろしく、ルカさん」
「よろしく!あ、ルカでいいよ」
「じゃあ俺もカイでいいよ、皆さんも良ければカイって呼んでください」
「それなら俺たちも全員名前でいいぜ。ルカをよろしくな、あんちゃん」
そう言ったのはシースだ、ありがたく全員を呼び捨てにさせてもらう。 そんな所で食事会はお開きとなった。
「それじゃあ明日から早速だけど依頼受けに行きたいんだけどいいかな?」
ルカが言う、外はもう薄暗くなっていた。
「いいよ、集合とかどうしようか?」
「じゃあお昼くらいに迎えに行く、どこに宿取ってるの?」
あ、そうだ完全に忘れてた。
「流れ着いただけだから教会にお世話になってるんだよね」
「ああ、なるほどね。じゃあ教会で落ち合おう」
そんな流れで明日の予定は決まった。手紙いつ書こう…… ノーリスさんにお礼を言って孤児院を後にする。不安も沢山あるが、明日からの生活がちゃんと出来そうな事が嬉しかった。一人じゃないってのは本当にありがたいことだ……
教会に帰り、今朝のシスターに明日から冒険者として働くことを伝える、手伝いはできないのでせめて寄付金だけでも、と話をするとそれで納得してくれた。明日は手紙をどうにかして出さないと、ひとまずは教会の一室を借りて眠ることにした。
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