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かみ合わない男女のあれこれ

ノスタルジア

作者: 美玲

これって、運命なのかな?

ねえ神様、この出会いを信じてもいい?


**************************************


「おはようございますっ」


「「「おはようございます」」」


今日も一日が始まる。

私、篠田せいらは地方の国立大学工学部に通う大学4年生。私の学科では4年から研究室に配属になる。配属されて間もない4月は落ち着かなかったが、5月も終わりかけになった今、花見やBBQなどのイベントを通して先輩たちや研究室の雰囲気にもようやくなじんできた。


私の研究室はイベントも多いし、先生3人、生徒25人の大所帯なのでいろいろな人がいてとても楽しい。そのせいか研究室配属される前から評判がよく、希望する人が多かった。研究室を決めるときは、うちの研究室の先生が就職に強いこともあって競争率が激しかった。一応、規定の人数をオーバーしたら話し合いということになっているけど、そこで譲る子なんてそうそういない。たかが1年かもしれないけど、されど1年。院にまで進む子なんて3年、ましてや譲れないものだ。

私の研究室は定員が12人に対して20人も希望し、ぎりぎりまで誰も動かなかったので結局話し合いもなく成績順で決めた。…この時ほど勉強頑張ってよかったと思ったことはなかった。勉強しておいて損はない、その言葉は嘘ではなかった。


研究室に配属になってやっぱりここでよかったと思った。

同じ4年の子は話したことがない人が多かったけど、気さくで面白い人たちばかりでとても話しやすいし、会話も盛り上がる。先輩たちも優しいし、わからないところがあると丁寧に教えてくれる人たちばかりだ。他の研究室の子に聞いたら、先輩が怖いとか雰囲気が悪いとか先生がひどい、など結構不満が多いみたいだった。それを聞いて改めて自分の運の良さを感じたものだ。


そう運がいいと言えば、私は4月末に就職が決まったのだ。しかも1社目で大企業に。

院にまで行っても就職が厳しいと言われているそこに入れたのは運としか言いようがない。

そんなわけで私は早々と就職活動を終わらせ、研究に集中出来る今に至っている。


研究も本格的に始まってきてそろそろ忙しくなった。朝から夕方まで今は研究室にいるが、秋ごろからは帰宅するのは深夜に近いらしい…。でも、そんな時間も楽しみであったりする。


そう。私は研究室がとても楽しいと言ったが、それにはもう一つの理由がある。


「おはよう、篠田ちゃん。今日も早いね。うちの研究室は遅刻魔が多いから、定時で来る人が本当少ないよ。まったく…。まぁ先生も何にも言わないからいいけどさ。」


「あはは、確かにお寝坊さんが多いかも…。しかも4年が特に。なんかすみませんっ」


「篠田ちゃんがそこ謝っちゃう?…でもまぁ可愛いから許す!!」


「なにを許すって?多田?」


「「わっ」」


「ちょっ、お前驚かせんなよ!!ったく。あいさつしろよな…。」


「いや、したけど多田の声が大きいからかき消されたんだよ。」


「んな大きくねえよ!!」


「で、何話してた?」


「うちは遅刻するやつが多いなってことだよ。って進藤、今日早いな。というか最近早くないか?」


「…そうでもないよ。」


「そうかぁ?まぁいいか。…篠田ちゃん?」


「へっ?!」


「おはよう、篠田。」


「あっ、お、おはよう!!進藤くん。」


「篠田ちゃんと進藤同級生のせいか、やっぱ俺らより仲いいよなぁ。俺らと同じ学年なんだからタメ口でいいのに、遠慮してか、進藤が無理やり変えさせたのかはわからないけど、結局進藤だけタメ口だしなぁ」


「いや、やっぱり同じ年とはいえ、先輩なので…。」


「多田もしつこい。篠田も困ってるから、それ以上言わない。…気にしないで。な、篠田?」


「う、うん。ありがとう進藤くん」


「じゃあ、俺3号館にSEM撮りに行って来るから。」


「い、行ってらっしゃい!!」


「「行ってらー」」


私が研究室に来るのが楽しみな理由それは進藤旬くんがいるからだ。

進藤くんは私の同級生で今年院に進学したためマスター1年。なぜ4年の私とマスターの進藤くんが同級生かというと、それは単純な話。国立大学しか行ってはいけないという親の方針なのに私が国立大学を落ちてしまって、浪人したためだ。なのでひとつ学年が上の人たちと私は同じ年なのだ。と言っても、私の地元からうちの大学に来る人が少ないので同級生が同じ大学にいるとは、ましてや同じ研究室にいるとは思わなかった。


しかも、私の好きだった人だとは。


進藤君は、私の中学の時の同級生だ。

3年間ずっと同じクラスで仲のいい友達でもあった。私は友達になってからずっと好きだったけど、進藤くんはその間彼女もいて、私はそういう対象として見られていないのがわかっていたから、自分の思いを告げることは出来なかった。伝えて断られて気まずくなるのが嫌だったからだ。それくらい進藤くんは私にとって大事な人だった。でも後になってから思いを伝えればよかったと後悔した。進藤くんとは高校が別になってしまって、そこからなんとなく連絡を取らないようになってしまったからだ。


高校に入って好きな人が出来て彼氏も出来た。みんながすることを私も同じようにしてみたけど、なにかが違った。思っていたほど楽しくなかったし、自分の求めているものと違ったのだ。そこに気付いた時、おもちゃを欲しがる子供のように彼氏を好きな人を作ることはやめようと思った。高校卒業のときに中学のときの友達からクラス会をしないかとメールをもらったけど、自分が受験に失敗したということを言いたくなくて行かなかったのだ。もし受かっていれば行っていたと思う。そうしたら進藤くんにも会えていただろうか。そう考えたこともあった。


大学に入って男の子の友達はたくさん出来ても、異性として好きになる人は出来なかった。何人かには好きだと言われたけど、心が動かされることはなくて私はもう恋をすることが出来なくなってしまったのかと思ったほどだ。友達にもそのうち好きになるかもしれないからとりあえず付き合ってみたら、と言われたけどそんな風に付き合うのは嫌だった。


恋をしないまま大学卒業するのかな、そう思っていた。


でも違った。

研究室に配属されて、初日の顔合わせで奇跡は起こった。


「マスター1年の進藤旬です。―出身です。よろしくお願いします。」


どうせ知り合いなんていないと思ってちゃんと聞いていなかった私の耳に飛び込んできた声、言葉。すとん、と入ってきた。

え、そう思う間もなくわかった。進藤くん、と。自分では気づいていなかったけど、声に出していたみたいだった。


「え、篠田?」


そう言われたから。その瞬間、私の中でさまざまな感情が湧きあがった。懐かしい、背が伸びたね、大人っぽくなったね、かっこよくなったね、院に進んだんだ。

忘れていた気持ちが一気に溢れ出た。ある意味一目ぼれ、かもしれない。何年も会っていなかったのだから。


―好き―


理由なんてない。

ただ単純にそう思ったんだ。止まっていた時が一気に動き出して私の周りは輝きだした、そんな気がした。


**************************************


「じゃあ、お先に失礼します。篠田ちゃん、まだ帰らないの?」


「はい、もうちょっとやってから帰ります。多田さんも遅くまでお疲れ様です。」


「そっか頑張れ。あと気をつけてな、夜遅いし。それじゃあ」


「はい、お疲れ様です」


―パタン


「ふあー。疲れた…。まだ実験終わらないしなぁ。どうしようかな…。なんか眠いし、この計算式の導き方わかんないし。うーん…人いなくなったらなんか余計眠くなったよ…う…な。ちょっと、だ…け」



―――あれ、なんだろう。なんかふわふわ気持ちいい。あったかいし。もっとして。


「んん…。ぅん…」


―――え、もう終わりなの?いやだ。もっと


「ゃだ…。もっと…たりなぃ」


―ガタンガタンッ


その音にまどろみがなくなって目が覚めた。

少しの間寝ていたみたいでつい周りを見渡したら、少し後ろに驚いた顔をした進藤くんがいた。


「え、進藤くん…?どしたの?」


寝ていたこともあってか、いつものようにはっきりした話し方をすることは出来なかった。どうして進藤くんが驚いているのかもわからずにいた。


「あ、いや。…それよりここで寝ると風邪ひくから、帰らないか?篠田もこのまま実験続けても集中出来ないだろ。」


「そうだね。帰ろうかな。」


「送って行くから準備して。」


「え!いいよ!一人で帰れるし」


「何時だと思ってるんだ。危ないよ女の子一人じゃ。ほら、早く?こういう時は甘えて。」


「ね、せいら?」


「せ、せいらって!!わ、わかった!!ちょっと待ってて」


急にせいらって…しかもなんであんな声出すの?!

自分を知っててあんなことするんだから。

本当困る…。顔も声も好きで、好きな人にあんなこと言われたら…。

余計好きになっちゃうよ。


「お、お待たせ!!」


「ん。じゃあ帰ろうか。」


進藤くんが目の前にいる…。

切れ長な目、高くはないけど綺麗な鼻、薄めの唇、白い肌、本当綺麗な顔をしてる。

人にわかるようにしない優しさや小さいことでは怒らないところ、努力家なところそんな性格を好きになったんだけど、顔もかっこいいからなぁ。いつ見てもほれぼれする。

それに背も高くて確か180cmあるって言ってた。進藤くんの背中を見てると後ろから抱きついてしまいたくなる。どこも好きなんだ…。


「…。篠田?どうかした?」


「ううん…!!なんでもないよっ」


「じゃあ帰ろう」


「うんっ」


**************************************


「「「かんぱーい」」」


「お疲れーみんな!!今日は普段頑張ってる分、はしゃいじゃって!!」


「「「はーーーい」」」


「前から思ってたんだけど、篠田ってあんま酒強くない?」


「ん…?そうかも。眠くなっちゃうんだよね」


「えー!!違うよ、せいらは甘えるんだよ。眠い時とお酒飲んだ時は。弱いしね。」


「そうかなぁ。違うよぉ」


「…あんま飲みすぎるなよ?」


「ふふぅ。うんっ。」


「…まあこんなんだから、進藤先輩よろしくお願いしますね。」


「あぁ、わかった」







「せいら?どっか行くの?」


「ん、ちょっとお手洗いに行く」


「大丈夫?一緒行こうか?」


「んん、いい。行けるよぉ」


「…大丈夫かね。本当に」







「あ、可愛い子ちゃんみっけ!なあにふらふらしてんの?大丈夫~?」


ん、なにこのひと。なれなれしいんだから。


「だいじょうぶです。へいきです」


「ええ、平気じゃないでしょ~?俺が連れてってあげるよ?」


「いいですってばぁ」


腕つかまないでよ。もどらなきゃいけないのに。


「せいら?」


「へ?」


「ん…?しんどうくん?」


「こっちだろ、せいらが来るところは?」


「おい、ちょっと!」


「なんか用ですか?」


「い、いや別に」


「ったく。しっかりしろよ、篠田。危なすぎるだろ…」


「っふふ。しんどうくん!!」


「ちょおいっ!」


なんか気分いいし、抱きついちゃえ。ふふ、背中大きい。背が高いから首に腕回すと足が浮いちゃうなぁ。


「し、しのだ?!」


「もうちょっとこのまま…。」


だって気持ちいいし、進藤くんあったかいんだもん。






ん、なんかまたふわふわしてる。今度は体がふわふわしてる。

なんだろう。


「ん…」


「起きたか?篠田?」


「え?あれ、進藤くん…」


「もうちょっとで着くから待ってな。っと。」


「へ…ここどこ。」


「ん?俺んち。さ、着いた。靴脱いで部屋入れるか?」


「…」


「あれ、脱げない?じゃ、俺が」


「あっ大丈夫!!ごめん、脱げる!!」


なにがなんだかわからなくなって、ついぼうっとしてしまった。

それにしても進藤くんの家ってどういうこと?


「ここ座って。お茶入れるから」


「うん…おじゃまします」


「なんで俺んちいるのかって思ってるよな?」


「うん」


「どこまで記憶ある?」


「えっと。変な人に腕つかまれたところまで…?」


「そっか…。…まぁその後篠田寝ちゃって。他のやつらは3次会とか行くってことになって、3次会に行かないし俺は安全ということで女子から篠田を預かったのさ。んでとりあえずここまで運んできたというわけ。何かしようとかないから、安心しな?」


「そ、そうだったの!!ごめんーーー!!進藤くんに迷惑かけっぱなしだね私。わざわざ運んでもらって重かったよね。しかも3次会も…」


「いや軽かったよ。むしろもっと篠田は食っていいよ。…3次会ももともと行くつもりなかったし、気にすんな。な?」


「ん、ありがとう。やっぱり進藤くんは優しいね。昔から変わってない。」


「そうか?篠田は変わったな…」


「え…」


私も何か変わったかな


「昔は旬くん、って呼んでくれたじゃん。なんか今は距離を感じる。」


「そっそれは…。だってかなり前の話だし、なかなか…」


「俺は寂しいんだけどな篠田がそう呼ぶのを聞いて。」


「うっ…」


「昔みたいにもっと…」


「え…?」


「いや…昔と一緒じゃ困るか」


「しゅ、旬くん?」


「…ありがとう。…そうだよな。昔と一緒じゃ困るんだ。篠田さ、俺のことどう思ってた?」


「え…?それって昔のこと?」


「そう」


どうして昔のことなんか…

でも今なんかすごくクリアな気持ち。

素直に言える


「…私ずっと、旬くんのこと好きだったよ。でも旬くんは私のことなんとも思ってなさそうだったから、伝えられなかったけど…」


「そうだったか…。いや、俺も好きだったよ。臆病だから、気持ちを伝えられなくて、好きだと言ってくれたやつと付き合ってしまったけど。今は後悔してる。言えばよかったって。篠田とは卒業したら連絡とらなくなったし…クラス会で来るかな、って期待したら来ないし。もう一生会えないかなって思ったら、7年ぶりに会うんだもんな。…運命かもしれないって思った。」


旬くんも、おんなじ気持ちだったんだ…。

気付かなかった。

それだけ私たちは若かったのかな…。不器用すぎたんだね。


「卒業しても消えない思いがあったから、お前を見たとき、今度こそ伝えたいと思った。」


「好きだよ、せいら。…今でも好きだ。」


運命ってあるんだね…。私もそう思うよ。

この再会には意味があったんだね。

時間が経ったからこそ、よかったのかもしれない。

そう思えるよ、今なら。たくさんの人を見てきたから。

結局、あなたは私の中から消えることなんてなかったから。


「私も好きだよ。旬くんのそばにずっといたい」


「せいら…ありがとう」


「うわっ」


「ふふ。旬くん、だいすきっ!!」


やっと抱きつける。やっと旬くんの体温を感じれる。

恋い焦がれた愛しい人。


「せいらって大胆だな結構…」


「うんっ。だって好きな人には触れていたいでしょ。ずっと旬くんに触れたいって思ってた。」


「…。そう…。」


「あ、照れてる?」


「あのさ、照れるでしょ。好きな子から愛情表現を全身で受け止めてるんだから…。まぁ、でも触れていたいっていうのはわかるけどな」


「え?」


「別に?」


そう言って旬くんは私の頭を愛しそうに撫で始めた。

もしかして、この感じって…。


「ふふっ」


「ん?どうかした?」


「ううん、なんでもない!!新しい思い出もたくさん作るのもいいけど、とりあえず、昔の思い出話を久しぶりにしたいな」


あの頃の私に戻って言ってあげたい。


今を思いっきり楽しんで、思い出をたくさん作って。

大丈夫、将来の私は幸せだから。


過去も未来もその人のそばにいるから。

赤い糸は必ずあるんだよって。







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