エレベーター
●夜・六階建てのマンション
若い男、スマートフォンで通話をしながらマンションのエントランスに入ってくる。
男、楽しそうに話している。
男「部屋、何階だっけ? ああ、四階。オッケー、すぐ行くわ。待ってて」
通話を切った男、エレベーターに乗り込む。
六階のボタンを押すと、エレベーターのアナウンスが発せられる。
アナウンス「ドアが閉まります」
エレベーターが上昇し始める。
男、スマートフォンを操作して到着を待つ。
男、しばらくスマートフォンを触る。
やがて違和感を覚えて顔を上げる。
男、怪訝そうにエレベーターの階数表示を見る。
デジタル表示が乱れて、文字が読めなくなっている。
男「え?」
男、六階のボタンを何度か押す。
エレベーターは反応せず、上昇し続ける。
男「遅すぎるだろ。どうなってんだ?」
男、怪訝そうに他の階のボタンも押す。
しかしエレベーターは何も反応しない。
男、不安そうにスマートフォンで電話をかけて耳に当てる。
男「あっ、もしもし。ごめん、なんかエレベーターが六階に着かなくて……」
謎の声「だいじょうぶですよぉ」
スマートフォンから歪んだ野太い声が聞こえてくる。
声に驚いた男、ぎょっとしてスマートフォンを落とす。
男「うわっ!?」
スマホが床にぶつかり、画面に亀裂が走る。
男、恐る恐るスマートフォンを拾う。
画面が黒いまま、何を押しても反応しなくなる。
男、精神的に疲弊した様子になる。
男「嘘だろ……」
男、落ち着きない様子でエレベーター内を歩き回る。
やがて扉を叩きながら大声を出す。
男「あのー! すみませーん! 誰かいませんかー?」
何の反応もなく、男は非常用ボタンを連打する。
しかし何も起こらない。
その時、エレベーターが止まり、扉が開く。
音声アナウンスがノイズ混じりの声を発する。
アナウンス「××階です」
男、すぐさま外に出ようとする。
しかし同じ格好のサラリーマンが何人も乗り込んでくる。
男、奥に押しやられて動けなくなってしまう。
重量超過のブザーが響く中、男は慌てて抵抗しながら叫ぶ。
男「ちょっ、おい! 降ります! 降りまーす!!」
ブザーを鳴らしたまま、エレベーターの扉が閉まり、上昇を再開する。
ブザーが鳴り止んだ途端、サラリーマンたちが棒読みのような口調で一斉に喋り始める。
サラリーマンA「探したのは彼の御身を尊び誉れ……」
サラリーマンB「真夏の鱈に三脚の照りを重視されているということは……」
サラリーマンC「あなたです。明るい狭間の憂いと罵詈雑言の穢れが……」
男「は? え? 何言ってんの」
戸惑う男。
きょろきょろして落ち着きがない。
その間にサラリーマンたちは次々と意味不明な言葉を発する。
サラリーマンD「虐げた荒げたもげた生まれたはにかんだ選んだ我々の良くする討議の宛てに……」
サラリーマンE「歌わせないと誓った学びの濁り、遠き心象を削り舐め、ひまわりの指は目玉を嗅ぎましたもの」
サラリーマンF「ソムラ、カワニエ、エグダ、ハムラ、ゲンネ、ハザミ、オウラノボ、ゲマ、キビエ……」
男「ふざけんなって! うるせぇよ! 黙れって!」
恐怖を覚えた男、怒鳴り散らして紛らわせようとする。
しかしサラリーマンたちは意味不明な言葉を繰り返す。
男、我慢できず叫び出す。
男「本当にやめろって! 本当うざいから! こういうドッキリとか面白くねえんだよ!」
男がパニックになる寸前、エレベーターの扉が唐突に開く。
男、サラリーマンたちを突き飛ばして強引に外へ出る。
男、勢いをつけすぎて床に倒れ込む。
そこは何の異変もない、マンション三階の廊下だった。
男「はぁ、はぁ、はぁ……」
男、振り返る。
エレベーターの扉は閉まっており、「故障中」の貼り紙が貼られている。
直前まで存在した起動中のエレベーターやサラリーマンは消えている。
男、困惑気味に呟く。
男「夢……か……?」
男のスマートフォンに着信がかかってくる。
先ほどの落とした傷も消えている。
男、通話に出る。
スマートフォンから女の声が聞こえてくる。
女「遅いよ。もう一時間経ってるんだけど。今どこにいるの?」
男「え? ……あー、ごめん、すぐ行くよ」
男、戸惑いつつ、通話をしながら歩き出す。
男、階段を上がり始める。
男「悪い悪い。なんかさ、ぼーっとしてたら時間経ってたわ。別に寄り道とかはしてないって」
男、安堵した様子で通話をしている。
その間も階段を上がり続ける。
男「今度の休み、どっか行く? いいよ、ユカに合わせるから。夕食もどっか予約してさ、たまには贅沢しようぜ」
男、階段を上がり続ける。
やがて足を止めて、怪訝そうな顔をする。
男「あのさ……ごめん。このマンションって何階建て? 全然出口がないんだけど……」
謎の声「気にしないでぇ」
通話相手の声が歪んだ野太いものになり、男はぎょっとする。
男の背後で妙な息遣いが聞こえてくる。
男、恐る恐る振り返る。
階段の踊り場から、顔面が真っ白の女が笑顔で男を見上げている。
女、通話と同じ声で挨拶する。
女「こんにちはぁ」
女、猛烈な勢いで階段を駆け上がってくる。




