私の物を欲しがる妹との結末
自分の物を欲しがる妹との話を自分なりに書くとどうなるのかってメモとして書いたら、小説が書けました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
私は、レティンシア・ドルンフェス伯爵令嬢。
ドルンフェス伯爵家の長女で一人娘だった。
けれど私が10歳の時、母が病気で亡くなり、その一年後にあまり家に寄り付かなかった父が平民の女性と再婚した。
驚いたのは連れ子だと思われていた妹が、父と血の繋がりのある娘だったことだ。
つまり父は母が生きている頃からその女性と不倫をし、子までなしたことになる。
その義妹の名はアリスミア。
再婚相手と同じ柔らかく波打つ蜂蜜のような金髪に、父の琥珀と同じ大きな瞳を持つ。
逆に私は母と同じ水色の髪とエメラルドグリーンの瞳で、容姿も母似で父にはまったく似ていない。
そのせいなのか、父はアリスミアだけをことのほか溺愛した。
両親に愛情いっぱいに育てられているアリスミアは、なぜか私の物だけを欲しがった。
大きな瞳をクリクリと動かし、いつもこう言うのだ。
「レティお姉さま。それ欲しいの。リリにちょうだい?」
父の前でそう言えば、私がどんなに大切にしていた物であっても、父は無言のまま力づくで奪い取り、その奪った物を与えられて喜ぶ義妹。
再婚相手は微笑みを浮かべ、そんな様子を見守っている。
この家で、私だけが異端だった。
ある日、服の下に隠していた母の形見のペンダントのチェーンが、襟から少し出ていたようで、それに気づいたアリスミアがどんなペンダントかわからないままいつものセリフを言った。
「レティお姉さまのつけているネックレスが欲しいの。リリにちょうだい?」
その言葉に、アリスミアのそばにいた父は無表情になって私に近づくと、襟から出ていたチェーンを引っ張り、無理やりそのまま引きちぎる。
ちぎれたチェーンのペンダントを、父が優しい笑顔でアリスミアの手の上に置いて与えてしまう。
一連の流れに呆然としていた私は、すぐに我に返り、ペンダントを取り戻そうと「返して!」と言ってアリスミアに近づいたが、次の瞬間、視界が真っ白になり、背中に激痛が走る。
アリスミアの小さな悲鳴が聞こえ、冷たく私を見下ろす父の瞳が視界に入って、私は父に強い力で振り払われ、壁に叩きつけられたのだとわかった。
「私の娘に近づくな」
父の低く、冷たく、暗い声が聞こえる。
いくら政略結婚で私が父に似ていなくても私も娘だ。
それなのに父は私を娘とは認めず、アリスミアだけが娘だと告げた。
ここで私の心が折れた。
アリスミアに自分の物を奪われても、新しい家族と必死に家族になろうと努力していたのに、父は私を娘だと認めていなかった。
私の中で家族の情が消え、虚無が広がる。
私が床に倒れていることに気づいた私の専属のメイドが、慌てて近づいてくるのが視界の端に見え、私は右肩と背中に痛みを感じつつ立ち上がると、そのまま無言で自分の部屋へと歩き出す。
途中、メイドが心配そうに手を差し出してきた。
似ていなくても、父と私に血の繋がりがあることは生誕祝いの儀式で証明されているので間違いはない。
それでも父は私を娘だと認めないというのなら、それを受け入れるだけだ。
もう父もアリスミアも私の家族ではない。
私は成人するまで一人で生きていくのだ。
それから私は父たちとは一緒に食事を摂るのをやめ、自室で食べるようになった。
アリスミアがいつものセリフで私の物を欲しがると、私は欲しがった物からすぐに手を放し、それが床に落ちようとも気にせず、そのまま自室に戻る。
本当に大切な物は、誰にも見つからない場所に隠して表には出さなかった。
それから三年後の15歳の年。
社交界にデビューするデビュータントの日に、同じ伯爵家の三男、ウェスカール・ブランから婚約を申し込まれそれを受けた。
たとえ父に娘と認められていなくても、私はドルンフェス伯爵家の長女だ。
私が婿を取って家を継ぐことは生まれた時から決まっている。
父の婚外子として生まれたアリスミアにはドルンフェス伯爵家を継ぐ権利はなく、もし私が何かしらの理由で亡くなることがあればその権利は親族に譲渡されるのだ。
だから毒殺や暗殺の心配はない。
後継ぎの私が亡くなった時点で、親族がドルンフェス伯爵家に入って来るのだから。
家で父に会っても、私も父もお互い目も合わせない関係だった。
後継ぎの仕事は別に父に教わらなくても、学院でしっかりと学べるし、サポートしてくれる執事達もいる。
会話しなくてもまったく問題はなかった。
「レティお姉さま!その髪につけているリボンが欲しいの。リリにちょうだい!」
そうそう、アリスミアも相変わらず私の物を欲しがり続けている。
私は髪につけていたリボンを片手でスルリと外すと、そのまま手を放す。
当然リボンは重力に従って床へと落ちていく。
そのリボンをアリスミアの手が追うのを確認して歩き出した。
私には母の残した個人財産がある。
リボンの1つや2つ、アリスミアにあげたとしても問題はない。
歩き出した先に父が立っていた。
父は私の背後で床に落ちたリボンを拾うアリスミアを見て、すぐに怒りの炎を宿した瞳を私に向ける。
「アリスミアにわざと拾わせるとはなんて意地が悪いのだ!」
「……わざわざ人の物を欲しがるのは、意地が悪くはないのですか? 自分の娘なんだからきちんと躾けてください」
「なんだと!」
カッとした父の手が飛んでくるが、一度受けたのだ。
私はその手の動きをよく見て避ける。
ブン!と音を立てて父の手が空振った。
避けられるとは思わなかったのだろう。
ほんの少し目が見開いている。
自分より弱い者に手加減のない暴力を振るおうとした父を、私は冷たい視線で見つめた。
「一度暴力を振った男はまた暴力を振るうと祖母が言ってましたが、本当のことでしたのね」
それだけ言い残して自室へと戻る。
父との何年ぶりかの会話はこうして終わった。
アリスミアは私の物を欲しがる以外にはあまり関わってこようとはしない。
再婚相手の義母はいつも微笑んでいるだけで何も言わない。
何もしない人だった。
つまり戸籍上家族の誰も私に興味がないのだ。
それでも食事も着る服も、教育も問題なくきちんとした生活が送れている。
後継ぎとして、伯爵家からの予算が出ているのだから当然なのだが。
私の生活を虐げたりすれば、親戚が乗り込んで来るからなのだろうけど。
そんなふうに、ほとんど関わることのない家族のまま、私は生活を送っていた。
「すまない……」
私の向かいに座っている婚約者のウェスカール様がすまなそうに頭を下げた。
その横ではアリスミアが嬉しそうにウェスカール様の腕に自分の腕を絡ませている。
「婚約破棄はお受けしますわ。ですがウェスカール様に1つ確認させてよろしいでしょうか?」
「はい」
「アリスミアは認知も養子縁組もされていません。つまり、アリスミアと結婚なさると貴族ではなく、平民になるのですが、それは承知の上ということなのですよね?」
「レティお姉さまってば、何を当たり前のことをおっしゃってるの? リリは貴族じゃないのだから、当然後継ぎじゃないウェスカール様も平民になるに決まっているじゃないですか」
「……そこは理解できてたのね」
嬉しそうに笑うアリスミアにほんの少し脱力してしまう。
父がアリスミアを認知しなかったのは、認知すれば母に知られてしまうからだ。
養子縁組についても、平民との結婚は許したが、その連れ子まで貴族として迎え入れることを親族たちが許さなかったのだ。
「もちろん承知の上でアリスミアと一緒になりたいのです」
なんでも欲しがるアリスミアに婚約者を奪われてしまうのではないかという懸念はあったものの、まさか平民になることがわかっていても結婚したいと思うほど、ウェスカール様がアリスミアを愛するとは思わなかった。
この2人が結婚して平民になったとしても、父の溺愛具合から考えて、当然2人に色々と援助するだろう。
きっと2人の生活はそれほど厳しいものにはならないはずだ。
私の物を欲しがるアリスミアに、不幸になってほしいと思うほど憎んではいない。
父も婚約者もアリスミアを愛し、私は愛されない。
その事実に自虐的に小さく笑ってしまう。
「えへへ。リリね、初めてレティお姉さまと会ってからレティお姉さまの選んだ人と結婚しようと思ってたの!」
「……え? 伯爵家に来た日から?」
「うん。そう! だってリリ、お隣のケティがうらやましかったんだもの! ケティには四人もお姉さまがいて、ケティの持ち物はみんなお姉さまの物ばかりだったのよ? リリもお姉さまの物に囲まれて過ごしたかったのに!」
頬を膨らませ、不満気な顔をするアリスミアに思考が止まる。
話の内容からケティさんは、再婚する前に住んでいた所のお隣さんの娘さんなのだろう。
つまり平民。
姉妹の多いケティさんには姉のおさがりしか貰えなかったに違いない。
それがうらやましかった?
「せっかくお姉さまと会えたのに、ほんの数年でレティお姉さまは結婚して、リリはこの家から追い出されちゃうんでしょ? だからレティお姉さまからもらったたくさんの物を持っていこうって決めたの!」
「……それと私が選んだ婚約者との結婚がどうつながるのかしら?」
「レティお姉さまが選んだ人ならリリ、絶対大事に出来るもの!」
アリスミアの得意げな言葉に、頭痛がし始める。
つまりアリスミアは私のおさがりが欲しかっただけ?
私の選んだ婚約者だから、ウェスカール様まで欲しくなったということ?
それに私がアリスミアを追い出す?
「ちょっと待ちなさい。アリスミア。私が結婚してもあなた達を追い出したりはしないわよ?」
「それでもリリが結婚したら、やっぱりリリは家を出るでしょ?」
「相手の婚家に妻として入るのですもの当たり前でしょう?」
「そうしたら家から持って行かないと、レティお姉さまの物が新しい家になくなっちゃうわ」
「私の物を持っていくのは、いくつかの物だけでよいのではなくて?」
「ケティはたくさん持ってた」
「それはお下がりだから……」
どう説明すればいいのか困惑していると、アリスミアの横に座っていた元婚約者になったウェスカール様が苦笑する。
「アリスミアは幼い頃から自分には姉がいると聞いていたらしい。ただ、その姉は父親の別の家庭にいて会えず、父親からは君の悪口ばかり聞かされて育った。それなのに初めて君と会った時、お姫様のように綺麗で優しく愛情深そうで、ひとめで大好きになってしまったと話してくれたよ。アリスミアは真っすぐなのにちょっとだけ頭が足りてない子で、その愛情表現がちょっとおかしいけれどね。君のことを大好きなことは本当なんだ」
突然話し出した私の元婚約者は、若干貶しているような言葉が混じっているのが気になるけれど、二人がとても親しいことがわかった。
「本当は仲の良い姉妹になりたかったのだけど、父親の君に対する態度を見て諦めたんだって。けど、大好きな姉の物に囲まれて生活することが夢だったアリスミアは、どうしても諦めきれず君の物を何でも欲しがった。ある日、いつものように君の物を欲しがり父親がそれを奪った。いつもはすぐに諦めていた君がそれだけは取り返そうとしたが、父親が君に暴力を振るったんだって? アリスミアはその日の夜、悲しくて怖くてたくさん泣いたらしい。それ以後、欲しがって返してほしそうにした時はちゃんと返そうと決めてたらしいんだが、でも君はそれ以後、何も取り戻そうとはしなかった」
母の形見を奪われた日の話だろう。
実は、あのネックレスだけは切れたチェーンが元通りになって戻ってきたのだ。
私の宝石箱の中に、ある日突然戻ってきた形見。
奪われた物の中で唯一取り戻そうとして、唯一戻ってきた物だった。
「アリスミアはそのせいで君に嫌われたと思っている」
「……」
「リリはあまり頭が良くないから、もうこれ以上レティお姉さまに関わっちゃいけないって思ったのだけど、でもどうしてもレティお姉さまの物が欲しくて……」
あの日から欲しがる以外に私に近づこうとしなかったアリスミア。
まさかそんなことを考えているとは思わなかった。
それってつまり、本当に私のことが好きだったってこと?
「……アリスミア、貴女って本当にお馬鹿なのね」
「レティお姉さまごめんなさい……」
「私にちゃんと話してくれたら、お父様の目が届かないところで姉妹仲良く出来たのに……」
「え?」
大きな瞳をさらに大きく見開いたアリスミアの琥珀の瞳から、次の瞬間、ポロポロと大粒の涙がこぼれだす。
「……レティ……、レティお姉さまは、リリと……リリと……仲良く、してくれたの?」
「そうよ。私にちゃんと説明してくれたら、頼まれたら物もあげたし、仲良くしたのよ」
「そんな……そんな……」
「アリスミア、だからちゃんとレティンシアに話してごらんって言っただろう? レティンシアは本当に優しい人なんだから、ちゃんとわかってくれるんだよ」
ウェスカール様が泣いているアリスミアの背中を優しくさすっている。
私にはしなかった親密な行動に少しだけ胸の奥がちくりと痛む。
「レティお姉さまごめんなさいぃいい! リリ……と、リリと仲良くして……欲しいぃですぅー」
大泣きするアリスミアにほんの少し愛おしさが湧き上がる。
ちょっとお馬鹿さんだけど、真っすぐな性格だった妹。
私の物を欲しがるけど、手に入れた物はちゃんと大切にしているらしい。
奪った髪のリボンくらいは使いなさいと言っておいたけど、色褪せるのが嫌だからケースの中で保存を続けるんだとか。
元婚約者のウェスカール様は、奪ったからこそアリスミアが自分を一生大切にしてくれると信じて一緒に平民になると決めたと話してくれた。
それって私が選ばなかったらウェスカール様は、大切にされないってことなのだけど、それはいいのかしら?
それから、ドルンフェス伯爵家の敷地は広いので、屋敷の正面からはわからない場所に結婚祝いとして、二人の家を建ててあげた。
アリスミアを溺愛している父からは何も言われなかったし、父も二人の家に出入りしているらしい。
アリスミアは時々、そこから屋敷に入り、今でも私の物を欲しがっている。
私がこれはダメだと言うと、じゃあどれならいいの?と返すようになった。
父との会話はないけれど、義母との会話もないけれど、義妹には相変わらず私の物を欲しがられるけれど。
義妹は今日も幸せいっぱいの笑顔で、
「レティお姉さま。それ欲しいの。リリにちょうだい?」
と言ってくるようになった……。
【END】
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感想がなくても、ブックマやちょっとポイントを入れてくださっても励みになりますので、読んで良かったと思ったら足跡残していただけると幸いです。
父親がなぜレティに対し娘だと認めないか書こうと思いましたが、現実で考えると些末な理由だったりすることが多いので、小説でも書くのはやめました。
他にもいくつか書こうと思ったのだけど、匂わせはしているのであえて書かないことにしたところもいくつかあります。
私事ですが、ずっと書きたくても小説が書けずに苦しんでいましたが、やっと自分らしい小説を書くことができました。
それがただ嬉しくて、これをきっかけにまた小説を書けるようになると嬉しいのですが。
なぜ急に小説をかけなくなったのか知りたい方は活動報告を読んで下さい。
あまりいい話じゃないので読まない方がいいのですが、ずっと連載待ってたのに!理由を知りたいって思ってる方のために書こうと思ってます。




