表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界愛の劇場〜とある王家の日常〜  作者: 悠木 源基


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6章 末娘の決断




「コルトン卿にとってリシェル殿下は特別な女性のはずです。

 だからこそ殿下のお役に立てるようにと精進した結果、現在のような完璧と呼ばれる貴人になられたのです。

 普通あれほど自分を律し、努力し続けることはできません。あの強靭な精神力には頭が下がります」


(あの方にならこの国を任せられると国王陛下、王妃殿下もお考えなのは間違いないし。畏れ多くて口にはできないけれど)


「でも、マーシャル卿はそんなことひと言も言っていないわ。というか、そんな素振りも無かった」


 リシェルは信じたいけれど信じられない、という顔をして呟いた後で俯いた。


「殿下はマーシャル卿に助けていただいたのがきっかけでお好きになったのでしょう?

 けれど、普通まだ十五歳くらいの少年があんなに簡単に魔物を倒すことなんて不可能なのですよ。

 彼は殿下を守りたいとわざわざ魔物討伐隊に仮入隊して、ずっと厳しい訓練を受けていたからこその結果なのです」


「私のためだったの?」


「はい。国内外のあらゆる競技大会で優秀な成績をあげられたのは、殿下のために日頃から厳しい鍛錬を続けた結果です。

 学園を首席で卒業したのも、外交使節団との交渉において上手くフォローなさっていたのも、殿下のお役に立てればと勉学に励まれていた成果です。

 決してご自分のステータスを上げるためでも、手柄を立てるためでもありません」


(そう。彼自身はそんなものは望んでいなかったでしょう。彼は純粋にリシェル殿下を思って邁進してきただけだわ。

 でも、マーシャル卿を王配にするには、彼ならば王配に相応しいと誰からも異議を申し立てられないように、そのポテンシャルを上げなければならなかった。

 まったく、キャスリィー様ときたら、人を手のひらの上で転がすのが本当にお上手だわ。怖いわ)


 マデリンは心の中で深いため息をついた。

 今ごろご自分の理想の夫を手に入れた親友は、あざとい笑顔で甘えつつ、上手に操縦して、表には出ないで国政を動かしているのだろう。より良い国にするために。


 リシェル殿下の見た目は姉君にあまり似ていないが、頭の良さは良く似ている。

 まあ、策略家にはなれないと思うけれど、近ごろ少しはただ可愛い素直なだけの少女ではなくなった。

 兄に騙されていたことが分かって、自分の甘さにも気付いたことだろう。却って良かったのかもしれないとマデリンは思った。


「でも、マーシャル卿は昔のように私に笑顔を見せてくれないの。きっと、嫌いになったのだわ」


「マーシャル卿は必死に表情筋を抑えていらっしゃるのですよ。

 私の夫も学生時代から私を思ってくれていたらしいのですが、いつも無表情だったので全く気付かなかったのです。

 彼が言うには、私への思いが強過ぎたので、油断すると顔が緩んでしまうからですって。

 私と対等でありたかったのに二つ年下だから、無理にクールな振りをしていたのですって」


「まあ!」


 これまでほとんど私的な話をしてこなかった、厳格なマデリン。そんな彼女の思いがけない思い出話に、難しい顔していたリシェルがパッと目を輝かせた。


「他の後輩は甘えた振りをして私に仕事を押し付けようとしていたので、同類に思われたくなかったようです」


「素敵ですね、フォレスター卿」


「ありがとうございます。

 マーシャル卿も主人と同じ思いだったと思いますよ」


「でも、マーシャル卿は私よりも五歳も年上ですよ?」


「だからこそです。夫は年下の矜持、マーシャル卿は年上の矜持があるのでしょう。

 婚約している間柄ならともかく、成人した男性がまだ学園にも入っていない令嬢相手に笑顔を振りまいていたら、ロリコンだと揶揄されます。

 しかも相手が王女殿下ではどんな噂が撒き散らされるかわかりません。近衛騎士としては耐え難いでしょう」


 その話を聞いて、やっぱりこっそり聞いた騎士達の話の通り、自分は彼の迷惑になっていたのだと、浮上しかけていたリシェルの気持ちが再び落ちかけた。

 すると、マデリンはにっこりと笑った。


「殿下ももう幼いというお年ではありません。来年は十六になって成人ですし、婚約者ができてもおかしくはありません。

 陛下は殿下を政略結婚させるおつもりはなさそうですから、マーシャル卿をお好きで婚約なさりたいのならば、ご自分でよくお考えになって行動をしないといけませんよ」


「えっ? 私から動くの? お姉様もマデリンも旦那様から告白されたのに?」


 ずるいと口を少し尖らせたリシェルを見て、確かに自分はずるいかも知らないとマデリンも思った。

 夫になったレンダンのことは学園時代から好きだった。しかし自分の方が二つも年上で、しかも面倒な家の娘だったので、結婚なんて考えていなかった。いや、考えないようにしていた。

 卒業したらさっさと家を出て独立し、一生一人で生きていくのだと頑なに思い込もうとしていた。

 彼の方から申し込まれなかったら、おそらく自分から思いを伝えることはしなかったはずだ。

 しかし現実的な話をすれば、ずるいと言われようとも、立場の強くて高い者の方から動かないと事は進展しないとマデリンは思った。

 だから正直にその考えを述べた。


「伯爵令息で、しかも嫡男ではないマーシャル卿から、リシェル殿下に婚約を求めることなんてできません。

 あの方でしたら陞爵される可能性が高いとはいえ、現時点では婿入りでもしない限り、将来は平民になるのですから。

 ですから、上のお立場にいる殿下から動かないといけないと思いますよ」


「私、マーシャル様が好きだから平民になってもいいとずっと思っていたの。でもそれは自分の思い上がりで、彼にとってはいい迷惑なのかもしれないと、一年前に思い知ったわ。

 だから追いかけることを止めたのだけれど、本当は男の方を好きだという噂を含めて、本当はあの方がどう思っているのかを、フォレスター卿のように直接お聞きするべきだったのですね?」


 リシェルの問いにマデリンは優しく首肯したのだった。



 その二日後、両親と約束した時間に、リシェルは父親の執務室へ向かった。

 彼女としては応接間で十分だったのだが、なぜ気密性の高いその部屋が選ばれたのか、話を聞き終わった後で納得した。


「お父様、お母様。私は近衛騎士マーシャル=コルトン伯爵令息様が好きなのです」


 リシェルは酷く緊張しながらも単刀直入にそう言った。しかし両親は一切驚くこともなく頷いたので、彼女は拍子抜けした。


「王宮でお前達二人の仲を知らぬ者はいないよ。

 不器用なお前が指を血だらけにして刺繍をしたり、火傷をしながらクッキーを焼いたりする姿を見て、ああ恋しているのだなと思ったよ。

 コルトン伯爵令息が魔物を倒してお前を助けた姿を見たとき、彼ならお前を任せられると確信したし」


「反対なされないのですか? 彼は次男で爵位を継げないのですよ」


「いやあ。むしろ嫡男でなくて良かったよ。もし嫡男だったら、お前を嫁がせなければならないだろう?」


 父親の言葉にリシェルは瞠目した。

 嫁がせないとは、もしやマーシャル様を婿に来てもらおうとでもいうのだろうか。兄が二人もいるというのに。


「キャスリィーを嫁がせざるを得なかったことを今でも悔しいと思っている。

 あの子の活躍をお前も耳にしているだろう?

 国内外から自ら掌中の珠を手放したと揶揄されている有様だ。

 王太子とは仲睦まじくしているようだし、跡取りの王子と王女もすでに産み、その地位は安泰だ。

 父親としては喜ばしいと思っているが、この国の王としての胸中は複雑だ。

 元老院の年寄り達の顔を目にすると、苦々しくて堪らない」


 普段温厚で穏やかな物言いをする国王が、珍しく忌々しそうにそう言ったので、リシェルは一瞬驚いたが、彼女も同じ思いだったので、思わず頷いてしまった。

 ただし、ふとあることを思い出してコテッと頭を傾げた。


「でもお父様、近ごろ元老院の長老方が静かになったとか、引退されそうだという噂を耳にしたのですが、それは本当のことでしょうか?」


「さすがだな、リシェル。その通りだよ」


「お父様が何かなさったのですか?」


「いや。ただ長老方のご子息達に、我が国の法について改めて説明してやっただけだよ。以前私自ら教えてやったのに忘れているようだったからね。

 これまではたまたま世襲が続いてきたが、元老院の資格は決して世襲制でも永久不滅な権利でもないとね。

 これまではその古い歴史と財力に物を言わせて聞く耳を持たなかったが、ここ数年、あの者達の家の勢力は徐々に衰えてきた。

 そのせいでこれまで力で抑え込んできた一族達からも批判する声が上がってきているらしくて、ようやく老人達を排除しようと動き出したみたいだよ。

 かなり遅い反抗期だよね。成人した子供がいる年だというのに」


「名ばかりの当主だった方々は、いずれ自分が実権を握るまで大人しく耐えようと思っていらしたようですが、実のお子様達に足元を掬われそうになって、慌てているみたいですよ。

 本当に情けないわ」


 王妃が恨めしそうにそう言った。

 前国王が早世したので、現国王は二十歳そこそこで王位に就いた。

 国王は側近達に期待していたが、彼らは父親や祖父の顔色ばかり伺って、自分達の意見を言わず、親達の指示にばかり従っていた。

 そのため、新しい政策を試みようとしても、前列がないとか、慣習に反するとか口出しをして、協力するどころか足を引っ張ることばかりしてきた。

 

 そんな孤立無援状態だった国王を支えたのが、王妃となった元公爵令嬢だった。

 彼女の献身と公爵家の後ろ盾がなかったら、国王は何一つあたらしい政策を行えなかっただろう。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ