第24話 中央の敵
視察団が辺境に滞在して二日目の夜。
王都では、別の会議が開かれていた。
場所は、オルデン侯爵家の私邸。
重厚な扉の奥、円卓を囲むのは保守派貴族たちだ。
「馬鹿な話だ」
低く響いた声の主は、ルーファス・オルデン侯爵。
灰色の髪を撫でつけ、鋭い目を持つ男だ。
「地方の一領地が、制度を設計した? 中央が追随する?」
嘲りではない。警戒だ。
「財務局が一部導入を検討しているとの噂も」
「噂であってほしいものだな」
ルーファスは、指先で机を叩いた。
「中央の権威は、均一性で保たれている」
地方に裁量を与えれば、差が生まれる。
差は、やがて不満を呼ぶ。
「しかも、あの男は元王太子補佐だ」
そこが厄介だった。
単なる地方官なら、切り捨てればいい。
だが彼は、王都の仕組みを知っている。
「王太子殿下は、揺らいでおられる」
若い貴族が言う。
「視察で評価が固まれば、制度導入は現実味を帯びる」
沈黙。
ルーファスは、ゆっくりと立ち上がった。
「ならば、評価を揺らせばいい」
「揺らす?」
「成功を、成功に見せなければいい」
静かな言葉だが、冷たい。
「隣領ヴァルデンとは、以前から通じている」
数人が顔を上げる。
「交易を締めても止まらなかったのだろう?」
「はい」
「ならば、別の形で揺らす」
その視線は、遠く北方を見ている。
「軍需だ」
同じ頃。
辺境の役場では、セシリアがアレクシスと向かい合っていた。
「侯爵が動きます」
唐突な言葉だった。
「オルデン侯爵ですか」
「ええ」
彼女は、視線を逸らさない。
「彼は、中央集権の象徴です」
「理解しています」
「あなたの制度は、彼にとって“危険思想”です」
危険思想。
アレクシスは、わずかに苦笑した。
「透明化が、ですか」
「透明化は、特権を削ります」
それが本質だ。
王都は、例外で回っている。
例外があるから、権威がある。
「兄は、完全に敵に回すつもりはありません」
「ですが」
「侯爵は、別です」
沈黙。
アレクシスは、ゆっくりと答えた。
「圧力は、想定内です」
「本当に?」
「はい」
彼は、視線を窓の外へ向けた。
「制度は、反発を生みます」
だが、止めない。
「止めれば、元に戻るだけです」
セシリアは、静かに頷いた。
彼は怒っていない。
復讐していない。
ただ、整えている。
「一つ、聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「あなたは、王都を壊すつもりはありますか」
真っ直ぐな問いだった。
アレクシスは、即答しなかった。
やがて言う。
「壊す必要はありません」
静かな声。
「歪みを減らせば、壊れません」
セシリアは、目を細める。
その答えは、野心ではない。
設計者の答えだ。
だが同時に、宣言でもある。
歪みを減らす。
それは、誰かの利益を削るということ。
翌朝。
王都から急報が届いた。
国境付近で、小規模な衝突。
軍需の補給に遅れ。
会議室に、緊張が走る。
カイルが、報告書を握りしめた。
「……始まったな」
小競り合いは偶然か。
それとも。
誰も断言できない。
だが一つだけ、はっきりしている。
辺境の成功は、
王都内部に敵を生んだ。
制度は、数字を整える。
だが同時に、力関係も整えてしまう。
そして今――
中央の敵が、動き始めていた。
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