第21話 道中の対話
視察団は、予定通り王都を出発した。
街道は整備され、護衛も十分。形式としては、何の問題もない旅路だ。
だが馬車の中の空気は、静かに張り詰めていた。
王太子カイル・フォン・レーヴェンと、第一王女セシリア・レーヴェンは、向かい合って座っている。
沈黙を破ったのは、セシリアだった。
「兄上は、彼をどう評価されていますか」
唐突な問いだった。
「誰のことだ」
「分かっているでしょう」
カイルは、視線を外した。
「優秀だとは思っている」
「思って“いた”、ではなく?」
わずかな間。
「……今もだ」
不承不承の答え。
「ならば、なぜ遠ざけたのですか」
カイルは、眉をひそめる。
「遠ざけたのではない。整理しただけだ」
「何を?」
「役割をだ」
声に、わずかな苛立ちが滲む。
「一人の人間が、多くを握りすぎていた。あれは健全ではない」
正論だった。
セシリアは、静かに頷く。
「確かに」
だが、続ける。
「では、代替は用意しましたか」
答えはない。
カイルは、窓の外を見た。
流れていく景色。
王都から離れれば離れるほど、整備は甘くなる。
「……制度は、人で回る」
セシリアが言う。
「兄上は、制度を守ろうとした。彼は、制度を作った」
それが違いだ。
カイルは、苦く笑った。
「姉上は、彼を買いすぎだ」
「いいえ」
セシリアは首を振る。
「評価しているだけです」
しばらく沈黙が続く。
やがて、カイルが低く言った。
「もし、報告が誇張でなかった場合」
「ええ」
「どうするべきだと思う」
それは、王太子としてではなく、一人の統治者としての問いだった。
セシリアは、迷わず答える。
「取り込むべきです」
「……」
「敵にするには、惜しい」
率直だった。
「ただし」
彼女は視線を細める。
「彼は、従属するタイプではありません」
そこが問題だ。
使える駒ではない。
自分で盤面を見る。
「兄上は、彼をどうしたいのですか」
再び問われる。
カイルは、すぐには答えなかった。
王都を出る時よりも、今の方が迷いは大きい。
「……確認する」
結局、それだけだった。
制度か、偶然か。
持続可能か、一時的か。
だが、本当に確認すべきなのは、
数字ではない。
その男の覚悟だ。
馬車は、徐々に舗装の荒れた道へと入る。
北方旧鉱山領が近づいていた。
王都はまだ、自分たちが“査定する側”だと思っている。
だが。
この旅の終わりに、
どちらが、どちらを評価するのか。
それは、まだ分からない。
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