第20話 視察という名の査定
王都の動きは早かった。
視察団の編成が決定した翌日には、日程が組まれ、随行者の名簿が作成されていた。
名目は――
「北方旧鉱山領の復興状況確認」。
だが実態は、査定だ。
王太子カイル・フォン・レーヴェンは、執務室で報告を受けていた。
「財務局より二名、軍需局より一名、王宮書記官が一名」
「宰相は?」
「今回は同行されません」
カイルは頷いた。
老宰相が来れば、余計な評価が固まる。まずは自分の目で見るべきだ。
「そして――」
報告官が一瞬ためらう。
「第一王女殿下が、同行を希望されています」
カイルの眉が動いた。
「なぜだ」
「復興政策の検証と、他領への展開可能性の確認を、と」
理屈は通っている。
通りすぎている、とも言える。
「……好きにさせろ」
不機嫌を隠さず、カイルは言った。
第一王女セシリア・レーヴェンは、王都で“観察者”と呼ばれている。
派手な権力争いに参加せず、しかし常に全体を見ている。
彼女が動く時は、必ず理由がある。
それが、カイルには少しだけ不愉快だった。
「殿下」
財務官が声を落とす。
「一つ、懸念があります」
「何だ」
「もし、報告が事実であり、制度が再現可能であった場合――」
言い淀む。
「中央の権限が、弱まります」
部屋が静まる。
カイルは、ゆっくりと立ち上がった。
「それは、ない」
短く言い切る。
「制度は、中央が作るものだ」
地方が設計し、中央が追従する。
そんな前例は、作らせない。
だが、心の奥では理解している。
アレクシス・フォン・グランツは、
命令で動く人間ではない。
設計する側の人間だ。
その事実が、今さらながら重くのしかかる。
同じ頃。
高塔の私室で、セシリアは侍女に言った。
「視察は三日。会議は二回」
「短すぎませんか?」
「十分です」
彼女は微笑む。
「重要なのは、制度そのものではありません」
「では?」
「それを、誰が回しているか」
帳簿は嘘をつかない。
だが、帳簿を回す人間がいなければ意味がない。
「……兄上は、何を恐れているのでしょう」
小さく呟く。
恐れているのは、失敗ではない。
再現されることだ。
北方の辺境が自立すれば、
他領も真似をする。
そうなれば、
中央の“管理”は緩む。
「面白いですね」
セシリアは窓を開け、風を受けた。
「左遷されたはずの男が、国の構造を揺らしている」
視察団は、三日後に出発する。
王都はまだ静かだ。
だが、この視察は単なる確認ではない。
それは――
王都が、辺境を“査定”する場であり、
同時に、辺境が王都を“査定”する場でもあった。




