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婚約破棄?結構です。では国家運営は自己責任で ~辺境が黒字化したら王都が困り始めました~  作者: 雪乃フィオナ


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第18話 辺境は、もう死んでいない

 月末。


 役場の大机に、整然と並べられた帳簿があった。


 食料在庫一覧。

 労役記録。

 現物納税換算表。

 交易収支。


 どれも、リーゼロッテ・ハインツの筆で再編されたものだ。


「……出ました」


 彼女が、最後の数字を書き込み、顔を上げる。


「収支、黒字です」


 部屋の空気が、一瞬止まった。


 マルティナ・ヴォルフが、低く口笛を吹く。


「本当にやりやがったな」


 アレクシス・フォン・グランツは、ゆっくりと帳簿を手に取った。


 数字は、誇張しない。


 補助金を除いた実質収支。

 無理な売却なし。

 在庫は安定。

 人口は微増。


 奇跡ではない。


 だが、間違いなく――再建だ。


「問題は解決していません」


 アレクシスは言う。


「鉱山は戻らない。外貨も十分ではない」


「でも」


 リーゼロッテが続ける。


「崩壊は、回避されました」


 その言葉に、誰も異論を挟まなかった。


 夕方。


 町の広場で、簡単な報告会が開かれた。


 豪華な式典ではない。ただ、数字を示し、現状を共有する場だ。


「現在の在庫は、三か月分を確保しています」


 ざわめきが広がる。


「税は変わりません。ただし、支払い方法は継続します」


 不満は、上がらない。


「次月より、労役報酬の一部を貨幣で支給します」


 小さな歓声が上がる。


 かつて、この町では数字は隠されていた。


 今は、見える。


 見える数字は、安心を生む。


 報告会が終わった後、マルティナが呟いた。


「……顔が違うな」


 広場を行き交う住民たちの表情。


 警戒は残っているが、絶望はない。


「死に領地、か」


 彼女は苦笑する。


「もう、そうは呼べんな」


 アレクシスは、何も言わなかった。


 成功は、終点ではない。


 成功は、次の段階への扉だ。


 その夜。


 役場で、正式な報告書が作成された。


 王都宛。


 簡潔な文面。


『北方旧鉱山領、財政状況改善報告』

『補助金削減の可能性あり』


 リーゼロッテが、最後の封蝋を押す。


「……これ、王都が読んだら、どうなりますか」


「無視はできません」


 アレクシスは答えた。


「ですが、すぐには動かないでしょう」


「なぜ?」


「都合が悪いからです」


 王都は、辺境が“補助を必要とする存在”である方が扱いやすい。


 自立し始めた領地は、計算を狂わせる。


「ですが」


 アレクシスは、窓の外を見た。


「いずれ、無視できなくなります」


 町の灯りが、以前より多い。


 倉庫は機能し、道には人がいる。


 死にかけていた土地は、確かに息を吹き返した。


 それは、小さな奇跡ではない。


 設計の結果だ。


 翌朝。


 報告書を載せた馬が、王都へ向けて走り出した。


 辺境は、もう死んでいない。


 だからこそ――


 次に動くのは、王都だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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