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3.初恋は寝取られました

放課後の図書室は、静寂に包まれていました。

窓から差し込む西日が、埃のダンスを黄金色に染め上げています。


俺、エドワードは、そこで信じられない光景を目にしました。

いえ、ある意味ではこの世界の『日常』なのかもしれませんが、

俺の心は穏やかではいられません。


「……おい、マリア。何をしているんだ」


思わず低い声が出ました。

視線の先では、マリアが図書室の豪華な椅子に深く腰掛け、

幸せそうに目を閉じてスースーと寝息を立てています。

だが、問題はその『位置』です。


マリアのピンクゴールドの頭頂部。

そこには、ふかふかの羽毛を膨らませ、

一本足で器用にバランスを取りながら、

完全に熟睡しているパトリシアの姿がありました。


「……パ、パトリシア……。

 俺の頭の上以外には乗らないんじゃなかったのか……」


俺は膝から崩れ落ちそうになりました。

パトリシアは、俺が必死に最高級の麻の実の匂いを髪に纏わせている時にしか、

俺の頭を『止まり木』として認めなかったはず。

なのに今、彼女は出会って間もないマリアの頭上で、

まるで自分の巣であるかのようにくつろぎ、

クチバシを『ジョリジョリ』と鳴らして、

(インコがリラックスしている時の音だ)寝入っているのです。


「俺は初恋を寝取られ……同時にパトリシアも寝取られた。」


「……あ、ああ……。なんてことだ……」


図書室の片隅で、俺は自らの無力さを噛み締めていた。

マリアの頭上で『ジョリジョリ』と至福の音を奏でるパトリシア。

そして、パトリシアを乗せている喜びに顔をほころばせるマリア。


俺が憧れたヒロインと、俺が惹かれ始めていた婚約者。

その二人が、俺という存在を介さず、

完璧な『相利共生』の関係を築いている。


「(マリア……! 君は俺と恋に落ちるはずじゃなかったのか!

  なぜ俺の髪の匂い(麻の実)ではなく、

  そのインコ……パトリシアの体臭(お日様の匂い)を、

  恍惚とした表情で嗅いでいるんだ!)」


「(そして、パトリシア!

  俺がどんなに指を酷使して首筋を解そうとも、

  あんなに無防備に一本足で寝入る姿は見せてくれなかったじゃないか!

  『パティ』と呼んでいいのは、

  俺が最高級の麻の実シャンプーを三度洗いした時だけだったはずだ……!)


「くっ……! 二人とも、俺を見ろ! 俺こそがこの国の第一王子だぞ!」


心の中の叫びは、二人の静かな寝息にかき消された。

嫉妬。そう、これは猛烈な嫉妬だ。

マリアの柔らかそうな膝に嫉妬し、

パトリシアのあの『もふっ』とした胸毛を、

受け止めているマリアの頭皮に嫉妬する。


「……情けない。俺は何を……鳥と、

 転校生を相手に、何をムキになっているんだ」


俺はフラフラと立ち上がり、図書室の窓に映る自分の姿を見た。

整った容姿、高貴な血筋。

だが、今の俺には『殻なし・大粒ひまわりの種』のような圧倒的な誘惑も、

マリアのような『迷いなき愛』も欠けている。


自分なりに麻の実シャンプーをするなど努力はしたつもりだが、

一部のパトリシア信者からはその匂いせいで、

マ〇ファナクソ野郎と陰で呼ばれ出してるのに……。


「(このままではその汚名だけが残ってしまい、

  更にはパトリシア……パティは、

  本当にマリアの所有物になってしまう)」


パトリシアは、ルチノー公爵家の至宝。

そして俺の婚約者だ。

あんなに傲慢で、わがままで、

それでいて時折見せる「ピヨッ」という愛らしい鳴き声……。

あれを他人に独占させるわけにはいかない。


俺は拳を握りしめた。

「……父上……いや、国王陛下に頼み込もう」


今の俺に必要なのは、甘っちょろい王子の教育ではない。

パトリシアを惹きつけ、マリアから奪い返し、

そしてこの不可解な世界(インコが美女扱いされる世界)で、

頂点に立つための『覇気』と『飼育スキル』だ!


「父上。お願いがございます」


「ほう、エドワードか。どうした、改まって。

 パトリシア様との婚約の儀について、何か要望でもあるのか?

 それとも、彼女に贈る新しい黄金の止まり木でも新調したいのか?」


「いえ。……俺は、己の未熟さを痛感いたしました。

 パトリシア……パティを支えるに相応しい男となるため、

 俺を鍛え直していただきたい。

 ついては、国内で最も厳しいとされる『指南役』を付けてください!」


国王は驚いたように目を見開いた。

「……ほう? あのパトリシア様の横暴……もとい、

 高貴な振る舞いに、ようやく本気で応える気になったか。

 よかろう。彼女のような『絶世の美女』を繋ぎ止めるには、

 並大抵の器では足りぬからな。……おい、彼を呼べ」


重厚な扉が開き、一人の男が入ってきた。

全身から猛烈な威圧感を放ち、

その肩には……鋭い眼光を放つ『ハヤブサ』が止まっている。


「紹介しよう。我が国の鷹狩りの最高責任者にして、

 あらゆる鳥類の心理を掌握する男。シュタイナー伯爵だ」


「エドワード殿下。お噂はかねがね。

 ……失礼ながら、今の殿下からは

 『餌をくれるだけの便利な柱』程度の覇気しか感じられませんな」


シュタイナーの言葉が突き刺さる。 俺は一歩も引かずに宣言した。


「ああ、その通りだ。今の俺は、

 マリアという新参者にパティの関心を全て奪われる程度の男だ。

 だが、俺は変わりたい。パティが自分から俺の指に乗りたがり、

 俺の腕の中でしか眠れなくなるような、究極の『あるじ』に……!」


「……いい目だ。よろしい、地獄の特訓を始めましょう。

 まずは、殿下のその『甘え』を捨てるため……

 今日から大好物の鶏肉を断っていただきます」


「……えっ!? 鶏肉チキンを……!?」


「鳥を愛する者が、鳥を喰らってどうします!

 さあ、殿下。まずはひまわりの種の『殻剥き一万回』から始めますぞ。

 指先の感覚を研ぎ澄まし、パトリシア様の羽毛の隙間を完璧に捉えるために!」


俺の『王子のプライド』と『食生活』を懸けた、

過酷な修行が幕を開けた。 待っていろ、パティ。

次にお前の前に立つ時、俺はマリアの指など霞んで見えるほどの、

世界一安定した『至高の止まり木』になってみせる!

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