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結末

 沈黙が場を支配していた。


 レオンは未だ僕の手を握って顔を紅潮させている。彼の視線が僕を見つめ続けている。


 三人の顔を見た。


 カタリナの表情は困惑に染まっている。ノエルの目には何か複雑な感情が宿っている。リリアナに至っては初めて見る怒りの色すら浮かんでいる。


 結局こうなってしまうのか。ここまで上手くやっていたと思ったのに。


 進化してしまった。そしてレオンが僕に惚れてしまった。原作と同じだ。三人に嫌われてしまった。これから原作のあのシーンが現実になる。


 目の奥が熱を持つ。


 三人が動いた。


 カタリナ、リリアナ、ノエルがその場から一歩踏み出す。僕とレオンの方に歩み寄ってくる。


 僕の脳裏に最後の結末が浮かび上がる。


 三人が僕を取り囲んで罵倒するシーン。畜生、クソネコ、アバズレ。そんな言葉を投げつけられる進化後のミーニャの姿。


 原作よりも好かれていた分、反転した感情は大きいかもしれない。罵倒じゃすまないかもしれない。

 

 僕の目じりから涙が零れ落ちる。


 絶望の未来を想像してただ何もしないのも恐ろしくなり、レオンの手を振り払って三人に向き直る。


「あ、あの、嫌わないで……」


 声が震えている。でも言わずにいられなかった。


 三人が近づいてくる。


 終わりだ。これで全部終わる。


 しかし予想外のことが起きた。


 三人は僕を取り囲むのではなく、レオンに向かって移動する。


 カタリナが前に立ちはだかる。ノエルが僕の横に立つ。リリアナが僕をかばうように抱きしめる。


 レオンと僕の間に入り込むように三人が位置取る。


 僕は呆然とした。


 え……?


 何が起きているんだ……?


 三人がレオンの方を向いた。










「レオン、いきなり何をしている」


 カタリナの声には怒りが滲んでいる。レオンに向けて放たれる鋭い視線。


「カタリナの言う通りだよ。アンタ、何してんのさ」


 ノエルも同調する。


「ミーニャは……ダメです」


 リリアナが僕を抱きしめたまま静かに言う。その腕にはしっかりとした力が込められている。


 三人の表情には明確な怒りがあった。


 レオンが困惑している。


「いや、俺は——」


 そこまで口に出してレオンは昨日の宿での会話を思い出したようで、焦ったように言葉を続ける。


「す、すまん。答えを出すと言ったのに……」


 昨日の宿屋での会話。ノエルがレオンに迫った時のこと。『誰にするのか決めて』という要求に、レオンは『魔王を倒したら、決める』と答えた。


 レオンの顔に後悔の色が浮かぶ。


「……すまない。約束を破ってしまった。しかもみんなの前で——」


「そういうことじゃない」


 カタリナがきっぱりと言い切る。


「アタシらが怒ってんのは、そこじゃないよ。まぁそれに怒っていないって訳じゃないけど」


 ノエルが続ける。その声には苛立ちと心配が混ざっている。


「ミーニャは進化したばかりで混乱している。そんな時にいきなり告白まがいの態度をとるなど……」


 カタリナが言葉を切る。そして強い口調で続けた。


「ミーニャの気持ちを考えろ」


「アンタがどう思ってようと、この子を困らせる権利はないんだよ」


 ノエルの目にも怒りと心配が宿っている。


 リリアナが僕を抱きしめる腕に力を込めた。


「ミーニャはあげません」


 静かだが、確固たる意志が込められた声。


 レオンが予想外の展開に言葉を失っている。三人の表情を見る。


 そこにあったのは、ミーニャへの心配と愛情だった。


 僕も理解し始めていた。


 三人は僕を嫌っていない。


 むしろ僕を守ろうとしてくれている。


 原作と違う。


 涙が止まらなくなった。でも今度は恐怖の涙じゃない。安堵の涙だ。


「なんで……」


 小さくつぶやいた声を、リリアナが聞き取り静かに話し始める。


「……ミーニャ、覚えていますか?あなたが私の呪いを治してくれたこと」


 リリアナが優しく僕を抱きしめる。


 呪いで苦しんでいたリリアナを、僕が持ってきた薬草が救った事。


「私も命を救われた」


 カタリナが言う。


 隠れていた狙撃モンスターの矢から、カタリナを守ったこと。


「アタシの大切な幼馴染を助けてくれたんだ。忘れるわけないだろ」


 ノエルが言う。


 スラム街で薬師を救ったこと。


「お前は大切な仲間だ」


 カタリナが宣言する。


「嫌う訳ないじゃん」


 ノエルが言う。


「私の大切なミーニャです」


 リリアナが強調する。


 三人がレオンに咎めるように視線を向ける。


 レオンはどうすればいいかわからない表情で立っている。










 しばらく沈黙が流れた。


 レオンが口を開く。


「……すまない」


 謝罪の言葉だった。


「つい、舞い上がって……気持ちを抑えられなかった」


 レオンの顔には後悔の色が浮かんでいる。


 場に沈黙が流れる。しばらくして、ノエルが僕の方を向いて口を開いた。


「……一応、確認しとくけど」


 前置きしてから、ノエルが聞く。


「ミーニャ、アンタはレオンの気持ち……受け入れたかったりするの?そうだったらアタシ達邪魔しちゃった訳だけど」


 勿論レオンのことは好きだ。拾ってくれた恩人だから。パーティに加えてくれたから。……でも恋愛感情かと聞かれたら、違う。


「レオンのことは好きだよ。拾ってくれたし。でも……そういう好きじゃない」


 迷いのない声で答えた。


 レオンの表情が複雑に歪み、やがて落胆の表情を浮かべた。


 カタリナが納得したように頷いた。リリアナが安堵の表情を浮かべる。ノエルも頷いている。


 場に気まずい沈黙が流れた。


「……とりあえず城を出よう」


 カタリナが提案する。


 五人で玉座の間を出て、城の出口へ向かった。


 普段は先頭を歩くレオンが少し後ろを歩いている。気まずい雰囲気が彼を包んでいる。


 三人が僕を囲むように先を歩いている。リリアナが僕の手を優しく握っている。


 城を出ると、外は晴天だった。


 明るい陽射しが五人を包む。魔王の居城の重苦しさとは対照的な、柔らかな光。


 僕は振り返った。


 レオンと目が合う。


 僕は小さく会釈した。


 レオンも頷き返す。複雑な表情だけれど、僕を責めるような目ではなかった。


 僕は前を向いた。


 三人が僕を囲むように歩いている。カタリナの凛とした横顔。リリアナの優しい笑顔。ノエルの少しスレた、けれど温かい表情。


 原作では得られなかった未来。


 自己保身のつもりで行動した。レベル抑制のために動いた。でもその行動が原作を超える絆を生んだ。


 レオンには悪い事をしちゃったけど……。


 これから、どんな日々が待っているんだろう。


 


 ——魔王を撃破した勇者パーティは王都に凱旋するべく、道を戻る。


 来たときには居なかった獣耳の生えた少女を連れて。

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