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第二章:この世界の魔術は低レベルすぎるわ。――三属性首席レイナの高飛車魔導録  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三話 協調性育成のための飛び級試験

 教授会が開かれてから数日後、王立アルケイン魔導学院は、全生徒に向けて一つの重大な告知を発表した。


 学院正門前にそびえる大掲示板。朝の光を受けて輝くその中央には、封蝋が押された羊皮紙が掲げられていた。早くも多くの生徒が詰めかけ、紙の前はざわつきっぱなしだった。


「今年の特別実戦試験の公示だって!」 「え、もうそんな時期かよ」 「うわ……名前ある。レイナ様の名前、でっかく書いてある!」


 生徒たちの視線の先、ひときわ目立つ位置に記されているのはレイナ・フォン・エーデルシュタイン。その下には同級生であるイオ、リリス、ガゼルの三名が並んでいる。


 紙の中心に記された試験名は「宮廷魔道士候補育成プログラム:特別実戦試験」。学院でも限られた者しか挑むことを許されない、名誉ある選抜試験だ。合格者は高等魔導研究院に移る事ができ、早くより高等技術を学ぶ権利が与えられる。


 表向きの理由は、宮廷魔道士候補を育成するために早期戦闘経験を積ませるというもの。内容は「Cランク・ゴブリン巣の殲滅」。四名一組で挑む前提の中級任務であり、生半可な実力では突破が難しい。


「レイナ様が筆頭か……当然だよな」 「他の三人も、まあ優秀だし不思議じゃないか」 「てか、レイナ様ってほんと別格だよな……同年代であの魔力量だぜ?」


 そんな囁きを背に受けながら、レイナ本人は淡々と掲示板を見つめるだけだった。


(特別実戦試験……ちょうどいいわ。私の実力を示すには、これ以上ない舞台)


 彼女の胸に宿るのは不安ではなく揺るぎない自信。完璧な魔導士として学院に、そして宮廷に実力を証明する。それが彼女を突き動かす唯一の原動力だった。


 一方その頃、学院長室では静かな議論が交わされていた。


「レイナ嬢の魔術技量は、すでに卒業生と遜色ありません」 「ただ……協調性に難があります。あれでは実戦で仲間を危険に晒しかねません」 「だからこそ四人編成での課題にしたのです。彼女が自分一人で全てを抱える状況を改めさせなければならない」


 教師たちは皆、レイナを心から評価していた。しかし、その光の強さゆえに抱えてしまった“孤高さ”こそ、今の彼女の最大の弱点だと考えていた。


 だが当然ながら、レイナはその本音を知る由もない。


 掲示板の前で立ち尽くしていると、近くの休憩室から漏れ出る小さな声が耳に届いた。


 いつもなら気にしない距離。しかしその瞬間、彼女はほとんど無意識に風属性魔力を集中させ、音を拾い上げてしまった。


「……このままでは学院にいても、本人のためにならない」 「才能は本物だが、あの姿勢では宮廷でも浮くだろう」 「何とか導かねば、最悪、魔導士として孤立してしまう」


 レイナは、息を呑んだ。


 頭に上がっていた血が一瞬にして引いていく。言葉の一つ一つが、胸の奥に突き刺さる。


(学院にいても……意味がない?)


(私を認めながら、それでも“いらない”ってこと?)


 全くの誤解だった。教師たちの言葉は“導くための懸念”に過ぎない。しかしレイナにはそれが前世の記憶と重なり、拒絶として響いた。


(また……だ)


(どれほど努力しても、強くなっても……必要とされない)


 その思考は、瞬く間にレイナの中で形を成してしまう。


(だったら証明する。誰にも頼らず、全部一人でやれるって)


(単独で巣を殲滅して、学院の評価を覆してみせる)


 危険な決意が、胸に静かに沈んだ時――


「レイナさん! 一緒の班だね!」


 背後から明るい声が響いた。


 振り返ると、イオ、リリス、ガゼルの三人がぱたぱたと駆け寄ってくる。


「よ、よろしくお願いします! レイナさんがいれば心強いです」

リリスが柔らかく微笑む。


「オレは肉体強化と前衛やるから、任せてくれって!」

ガゼルは屈託のない笑顔を向けてくる。


「四人なら絶対成功するよ、一緒に頑張ろ?」

イオはまっすぐな眼差しで見つめてきた。


「……別に、あなたたちと組む必要はないわ」


 レイナはいつもの調子で距離を取ろうとする。だが三人は慣れたように笑うだけだ。


「でもさ、四人の方が安全でしょ?」

「支援もできるし、分担したほうが効率的ですよ」

「まあまあ、一緒にやろうぜ!」


 純粋な声。疑うことを知らない信頼。


 胸の奥が、ひどく締め付けられた。


(どうして……そんな顔で見ないでよ)


 拒絶しなければいけないのに。距離を置かなければいけないのに。

 レイナはそのまま、三人に背を向けて足早に去ってしまった。


「……レイナさん、大丈夫かな」

イオが不安そうに呟く。


「気難しいだけで、悪い人じゃないと思います」

リリスの言葉はどこまでも優しい。


「まあ、仲良くなれるさ。まずは試験、頑張ろうぜ!」

ガゼルは明るく笑った。


 三人はまだ知らない。


 レイナが“拒もうとしている理由”を。

 そしてその誤解が、次の実戦で危険な方向へ転がることを――。


 こうして、特別実戦試験の幕が静かに上がるのだった。

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