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第二章:この世界の魔術は低レベルすぎるわ。――三属性首席レイナの高飛車魔導録  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十八話:Cランク討伐依頼へ、孤独な選択

 午後の授業が終わり、夕刻前の学院には生徒たちのざわめきが満ちていた。だが、その喧騒の中でひとりだけ、まるで音のない世界に立っているような少女がいた。

 レイナ・フォン・エーデルシュタイン。闇と土と風――三つの属性の才能を持ちながらも、いまだ協調性に難があるとされる問題児。もっとも、本人にとっては「仲間を巻き込む方が問題」なのだが。


 彼女は依頼掲示板の前に立ち、その視線をはるか上段――一般生徒がほとんど触れないCランク枠へ向けていた。そこには、数日前から貼られている討伐依頼があった。


――南森みなみもり「壊れた塔」周辺のゴブリン巣の討伐

 ランク:C

 特記:ホブゴブリンの目撃情報あり。熟練パーティ推奨。


(Cランク……あの時と同じ)


 脳裏に蘇るのは、協調性育成試験――飛び級試験で行われた、あのCランク討伐。

 彼女の闇魔術の暴走、仲間の全滅寸前、試験失敗。そして、最後にシエラから突きつけられた厳しい言葉。


『――お前はまだ弱えよ』


 その一言は、レイナの胸の奥に未だ刺さったままだ。

 だが、彼女はあの後、痛みによって闇を抑える術を学び、恐怖を抱えたまま核心へ取り込むという、危うい進化を遂げた。


(私は強くなった。あの時よりも、ずっと)


 その強さが正しい形かどうかは分からない。本来なら誰かに支えてもらい、助言されながら歩むべき道。だが、レイナは「弱さを見せてはいけない」と思い込んでいた。


(自分の問題は、自分で解決するしかない)


 それは信念ではなく、孤独が作り上げた呪いに近かった。


 彼女は掲示板の紙を静かに剥がす。紙が乾いた破れ方をして「ビリ」と鳴った。生徒たちが驚いて振り返ったが、レイナの視線は一点だけを見据えて揺るがなかった。


 その足で学院併設ギルドの受付へ向かうと、事務員の女性が青ざめた。


「え、エーデルシュタイン様……? こちらのCランク依頼を、単独で受注されるんですか?」


「はい。問題?」


「い、いえ……成人されていますから、規則上の問題はありません。ただ、この依頼、最近ホブゴブリンが二体確認されていまして……生徒だけのパーティでも危険で……」


 遠回しな「やめてほしい」という懸念だった。

 だが、レイナは微動だにせず、冷ややかに告げる。


「私には関係ありません。私の実力を確かめるための依頼です。誰かと組んでも意味がない」


「で、ですが――」


「仲間は必要ありません」


 その声音には、かすかな震えがあった。だが、それは怒りでも不安でもなく、ただ一つの感情が沈んでいた。


 ――二度と、仲間を危険に晒したくない。


 それを言葉にすることは決してない。レイナは自分の弱さを誰よりも嫌っていた。

 事務員は結局、彼女の意志を覆すことができず、書類を提出した。


「……どうか、ご無事で」


「心配ありません。完遂します」


 署名を終えたレイナが立ち上がると、窓口の周囲にいた生徒たちがざわつき、何人かは息を呑んだ。


「Cランクを……一人で?」


「無謀すぎるよ……」


「でも、レイナなら……」


 さまざまな声が飛び交う中、レイナはまるで何も聞こえていないかのように出口へ向かった。


 


――夕刻。


 学院の大門を抜け、南森へ続く街道に踏み出す。

 風が頬をかすめ、夕日が長く影を伸ばす。

 彼女の背に揺れるのは最低限の装備と、過剰なほどに圧縮された魔力。


 その様子は、学院の観測魔術を通して教師棟にも伝わっていた。


「やはり……一人で向かったか」


「Cランク依頼に単独挑戦……危険すぎる。彼女が失敗したら――」


「いや、成功しても危険だ」

 一人の教師が低い声で言い、学院長も頷いた。


「孤独な強さを正しいと確信してしまうからだな」


「観察班を急ぎ向かわせろ。ただし、絶対に手を出すな。彼女がどう動くかを見極めないと、彼女の未来を誤る」


 教師たちの焦燥は深刻だった。

 しかし、彼らの準備が整うよりも早く、レイナは森の入口に到達する。


 陽が完全に沈む前の薄闇。

 木々の間から吹く風には、魔物の匂いが混ざる。


(ここからは……私の領域)


 闇属性の感覚が研ぎ澄まされ、森の中に潜む気配が手に取るように分かる。

 それでも――彼女はまだ知らない。


 今回の巣には、

 ホブゴブリンが二体。

 さらに、その奥には――ゴブリンキングがいるという事実を。


 依頼書に書かれた情報は、すでに古かった。


 森の奥へ一歩踏み出すたびに、闇が濃くなる。

 レイナは胸の内で短く呟く。


「私の問題は……私が、一人で決着をつける」


 孤独を武器にする少女は、そのまま南森の闇へと歩みを進めていった。


 ――その先で、自分がどれほど危険な相手に挑もうとしているのかを知らぬまま。

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