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第二章:この世界の魔術は低レベルすぎるわ。――三属性首席レイナの高飛車魔導録  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十三話:孤立する天才と、友の決意

 闇魔術の制御に挑み始めたレイナは、ここ数日、自室に籠もりきりだった。


 暴走のたびに蘇る過去の影。胸を掴むような恐怖が、魔力に火をつける。その暴れ狂う闇を、風属性で削り、散らす訓練を何度も繰り返す。


 額には汗。胸には痛み。それでも、レイナは誰にも弱みを見せなかった。


(こんなの……弱さじゃない。強くなるための……通過点よ)


 だが、彼女が孤立しているなどと気づく余裕は、まだなかった。


 


 一方その頃、イオ、リリス、ガゼルの三人は学院長室にいた。


 重厚な木の扉が閉じられた瞬間、室内の空気が静まり返る。学院長は三人に向き合い、深く頭を下げた。


「今回の特別実戦試験……よく生きて戻った。まずは、それに感謝したい。そして……すまなかった」


 学院長ほどの人物が、迷いなく頭を下げたことに、三人はわずかに驚く。


「いえ、学園長」

 イオは静かに言った。

「僕たちも、レイナさんの暴走を止められませんでした。あれは、僕たち全員の責任です」


 責任。自分たちが足りなかったと認める言葉に、学院長は目を細めた。


「君たちの宮廷魔道士への道は、閉ざされたわけではない。来年の選抜に再挑戦すればよい」


 三人は互いに視線を交わす。そしてイオが代表して口を開いた。


「……僕たちは、この学院に残ります。ですが、これまでのように授業を受けているだけでは、何も変わらないと気づきました」


 ガゼルが腕を組んだまま、力強く頷く。


「座学だけじゃ足りねぇ。俺は放課後全部、実戦訓練に回す。魔力量はあっても、応用力がなきゃ意味ねぇって分かったからな」


 リリスもまた、震える手を握りしめて口を開いた。


「……私も、前に進みます。レイナさんを助けたい。でも、そのためには……私自身が実戦で使えるだけの力をつけないと。中途半端なまま近くにいることが、逆にレイナさんを孤独にしてしまうと分かりました」


 その言葉には嘘がなかった。三人とも、自分たちの弱さを直視した結果だった。


「うむ……立派な覚悟だ。では高等魔導研究院への進学を視野に入れているのか?」


「はい。レイナを支えられるだけの力をつける為にも、基礎を固め、もしその先レイナが進学したとしても、共に学び続けたいと思っています」


 学院長はゆっくりと頷き、穏やかな笑みを見せた。

「ならば、私からも協力しよう。実戦形式の特別補講を許可する。教員の中には、独自訓練を行う者もいる。私の名で彼らに話をつけておこう」


 三人は驚き、そして同時に深く頭を下げた。


「ありがとうございます、学園長!」


 こうして、三人はそれぞれの道を歩み出すことを決意した。


 


 その日の夕方、三人はレイナの部屋を訪れた。


 コンコン、と控えめなノック。返事はない。だが、ガゼルが気配を感じ取り、遠慮なく扉を開いた。


「よぉ、いるのは分かってんだぞ」


「……勝手に開けないでよ」


 レイナは机の前に座り、魔力制御の練習をしていた。疲れと苛立ちが表情に滲んでいる。


「何の用なの?」

 声は冷たく、壁のように硬い。


 イオが一歩前へ出た。


「レイナさん。僕たちは学院に残って鍛え直します。来年の選抜も諦めません」


 予想外の言葉に、レイナの瞳がかすかに揺れた。彼女はてっきり、三人が自分から離れていくと思っていたのだ。


「……だから何よ。勝手にすれば?」


 レイナは目をそらし、強い口調で返す。だがイオは、前を向いたままだった。


「レイナさん。今回は、僕たち全員の失敗です。誰か一人のせいじゃありません」


「違うわ。私のせいよ」

 レイナは噛みつくように言った。

「力が足りなかった。だから暴走した。……ただそれだけ。あなたたちの問題じゃない」


 ガゼルが低い声で言う。


「それが“認めようとしない”って言うんだよ」


「何ですって?」


「暴走した原因は、力不足じゃねぇ。お前の心の問題だ。シエラさんが言ってたろ」


「……シエラの名前を出すな!」


 レイナが怒鳴り、机の上の羽ペンが揺れた。胸の奥の傷がふたたび疼く。“弱い”。そう告げられた瞬間の痛みが、蘇る。


 リリスが小さく首を振り、涙を浮かべて言う。


「レイナさん……強さだけじゃ、人は助けられません。あなたは、私たちにそれを教えてくれました。だから、私たちはあなたを支えられるくらい強くなりたいんです」


「……支える?」

 レイナは嘲るように笑った。

「いらないわよ、そんなの。私は、自分の力で強くなる。それで十分。協調性なんて、絶対的な強さの前では無意味よ!」


 その言葉は強い。けれど、その強さはどこか叫びのようだった。


 リリスは静かに目を伏せた。


「……分かりました。今のレイナさんには、私たちの言葉は届かないんだと思います」


 イオは深く息を吸い、真っ直ぐに告げた。


「僕たちは、あなたを待っています。レイナさん。あなたが……本当の意味で“強さ”を理解するまで」


 三人は扉の前に立ち、振り返らずに去っていく。


 レイナは、その背中が消えるまで、ただ立ち尽くしていた。


 扉が閉まり、完全な静寂が訪れた瞬間、レイナはその場に崩れ落ちた。


「協調性なんて……そんなの……弱さを見せたら終わりって……私は……」


 誰に向けた言葉でもない。だが、その震えはレイナ自身の魂が発していた。


(私は……何を怖がってるの……?)


 闇魔術を使うたび、胸の奥で疼く“恐怖”。それが暴走を招き、人を傷つけるかもしれない恐怖。そして──誰かに弱みを見せれば捨てられるという、前世から続く絶望。


 レイナは、孤独の中心で震えていた。


 だが、その震えを観察した瞬間、闇魔力がこれまでにない“静かな脈動”を見せた。


(……もしかして……)


 恐怖を完全に否定するのではなく、“理解する”ことで闇魔術は変質する。そのことに、レイナは薄く気づき始めていた。


(……制御できる。絶対に)


 レイナは震える指先を握りしめ、再び立ち上がる。


 孤独でも構わない。心が弱くてもいい。その弱さこそが、闇魔術を形づくる核なのだ。


(この力は……私のもの。誰にも奪わせない)


 レイナは机に手を置き、闇魔力の流れに集中した。


 ──闇魔術は、恐怖を理解するほど鮮明になる。


 そう気づいた彼女は、次の段階へ進む。震えながらも“恐怖を制御する訓練”を始めるのだ。


 そしてその訓練は、レイナの闇魔力を“異様なほど精密な力”へと変えていく。


 これは、彼女が闇魔術を再構築していく物語の始まりだった。

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