内村 扇
普通に更新です
チャイムが鳴り響き、一日の終わりが告げられる。
窓の外を見れば日は傾き、生徒達の間には軽い笑い声が満ちていた。
そんな中、僕と武尊は荷物の支度すらせず、まだ席に座っていた。
今朝の話、そして金山の話。
その二つは、今後起こるであろう不穏な出来事を暗示しているようだった。
「結局、内村ってやつは何が目的なんだろうな」
武尊の呟きが聞こえたのか、隣に座っている金山も会話に加わる。
「現状、手出しはしないほうがいいと思うよ。あの人は特殊な術を操るって聞いたし...」
「術?魔法じゃないのか?」
「いや、普通の魔法は回路を介さなきゃいけないんだけど...内村先輩は、回路を使わずになにか不思議なことができるって噂があって...」
確かに、魔法は相応の「回路」がないと発動はできない。
なんでも魔力が活性化?するために回路が必要らしく...いや、この話は考えても仕方ない。
金山の話だと、要するに内村は、魔法以外の何らかの力があるか、回路なしで魔力を扱えているかのどっちかになる。
「...つまり、内村ってやつは異質なんだな」
武尊は腕を組み、眉を寄せる。
金山はそれに頷いたが、その様子はどこか怯えているようでもあった。
「あの人に目を向けられると、思考を覗かれてる感じがして...体がうまく動かなくなるんだ」
「思考を、覗かれる...?」
僕は思わずそう問い返し、金山が苦笑する。
だがその頬には、冷や汗が湧いていた。
瞬間、空気が重くなる。
まるで、その場だけ重力が強くなったかのような圧がかかり...思わず教室の入口に視線が向く。
コン、コン。
突然、教室のドアが軽く叩かれる音が響いた。
僕達に遅れて、生徒たちも一斉にそちらへ視線を向ける。
「......誰だ?」
生徒の一人が、ぽつりと呟いた。
扉が、ゆっくりと開かれる。
普段は賑やかな学校が、その少年のために静まり返っているようだ。
朝と同じく、完璧に整った制服、背筋の伸びた立ち姿。そして...微笑の奥にある冷ややかな光。
「失礼、望門君はこのクラスかな?」
内村 扇。
問題の元凶が、僕達の方へ乗り込んできた。
「...ここに居ますよ」
「じゃあ、少し場所を変えて話そうか」
緊張の糸が張り巡らされ、僅かな静寂が訪れる。
僕と武尊はその言葉に従い、動かない...いや、動けない生徒達をかき分けながら扉の前へと立つ。
(おそらく催眠の類なんだろうけど...この人数を動けなくするなんて...)
すでに内村は背を向けて歩き出している。
僕達はそれに続くようにゆっくりと、だがしっかりとその後ろをついていく。
「静かに話をしたいから、屋上に行こう」
背を向け続けながら、内村はそう言う。
表面上は丁寧だが、言葉の一つ一つには圧がこめられている。
了承以外の選択肢は...なんとなく、頭に浮かばなかった。
僕達はそれぞれの返事を行い、内村はそれに満足したかのように頷く。
屋上への扉を開けると、秋らしい冷たい風が吹き抜ける。
日はすでに落ちかけており、鮮やかな橙色の光が街を照らし出す。
そんな屋上に一人、人目を引くような美形の少女が、屋上から街を眺めていた。
「...おっと、絡夜先輩じゃないですか。こんなところでどうしました?」
まさに紳士的、という装いで、内村は少女...絡夜、という人物に話しかける。
「...ん、誰かと思えば...内村か。それと、後ろの二人は...」
絡夜さんは一度内村に目を留め、次に僕達へと視線を投げかける。
僕は、その目が少し見開かれたのを目で捉えた気がした。
だが、それもほんの一瞬。
すぐに絡夜さんは、視線を内村へと戻す。
「ちょっとした後輩ですよ、少し話したいことがありまして」
「ふぅん?なら、邪魔はしないでおくよ...」
そう言って絡夜さんは内村へと歩を進め、何かを耳打ちすると、僕達が入ってきた扉を開けて屋上から出ていった。
「...成る程、興味深い...」
絡夜さんから気になる言葉を聞いたのだろうか、しばらく内村は黙っていたが、その後、初めて僕達の方へと体を向ける。
「さぁ、改めて話の続きをしようか──劣等種」
途端に、僕の体に異変が生じる。
体を動かせない。まるで──強い意思に押さえつけられているように。
「おい望門!?大丈夫か!?」
隣から武尊の声。肩を掴まれる感覚はあるのに、視線すら動かせない。
その様子を見た内村は、感情のこもっていない笑みを浮かべていた。
「絡夜先輩に「気をつけろ」と言われた時は興味が湧いたが...」
声色は柔らかい。だが、その奥には冷たく濁ったニュアンスが含まれていた。
「なんだ、その程度か」
従わざるを得ないような気持ちの悪い感情が、心の奥底で湧き上がる。
どうやら、敵であることを隠すつもりは毛頭ないらしい。
一歩、また一歩、やけに足音が耳に響く。
「や...めろ......!」
かろうじて声を絞り出すも、すでに内村は目と鼻の先。
けれど、体はびくとも動かない。
このまま意識が途切れるかもしれない...そう思った瞬間。
「──望門さん!」
聞き覚えのある強い声が、僕の名前を叫んだ。
同時に屋上の扉が開かれ、社と忍がなだれ込む。
さらに僕の真横を何かが横切り...内村の足元ギリギリで止まって消える。
「内村 扇...そこまでにしてもらおうか」
影の斬撃を飛ばした忍の声は、静かではあったが、明確な怒気を帯びていた。
今日から不定期更新になると思われます
おそらく土日にいっぱい話を投稿する、という形になるかと




