Mobilis in Mobili
渾身のタイトル(当社比)
ボツ案は「水面下で動く者」です
社が神様の力を授かっていると聞いてから3日後。
この3日間、とくに副所長派に動きはなかったらしい。学校に何かを仕掛けるでもなく、傍観の姿勢を貫いてくれたら楽なのだが...まぁ、そう簡単にはいかないだろう。金山さんをこのクラスに送ってきた割に、動きがないのが不気味だ。
そして件の金山さんだが...この3日間で、登校している姿は見られなかった。
単純に副所長派の策が変わった、であればまだ良いのだが...これが水面下でなにかしている場合、こちらが遅れを取りかねない。とはいえ、研究所から何も通達がない以上、勝手に動くのも憚られる。
「...組織って、面倒だな...」
「あぁ、まぁそうだな...」
僕と武尊は双方に思い当たる節があるため、重々しく意見に賛同した。
「はぁ...席着いて〜」
そうこうしていると、何やら疲れた様子の七邸先生が教室に入ってくる。
「えー昨日の夜、学校の教室の窓が何箇所か割れていました。だから、一部教室が使えなくなってるので気をつけてねぇ」
どうやら発生した問題のために対処を迫られていたようだ。まぁこの学校には優秀な先生しか居ないため、結構早く解決した問題ではあったのだろう。
…ん?今、七邸先生がこっちを見た?
「...それと、別件で望門くん、武尊くんにお話がありまーす。あとで廊下に来てねぇ〜」
その言葉に、僕と武尊は顔を見合わせる。その様子は端から見れば悪いことをしたか不安に思う男子だっただろうが、ここでは別の意味を持つ。
すなわち、研究所からの連絡だ。
「ごめんねぇ〜、なんか呼び出しみたいな感じにしちゃって」
「そこはいいんですが...どんな要件ですか?」
ホームルーム終了後、僕達は賑やかな廊下に出て囁くように話していた。
「研究所から。さっき話したことに金山が関わってるから、それの調査をしてほしいらしいよ」
「!」
七邸先生は一呼吸置き、一段と小さな声でそう言った。
確かにここ数日は来ていなかったから何かしてるんじゃ、とは思っていたけど...結構早い段階で尻尾を出してきたな。
「となると僕と忍...社も居たほうがいいですかね」
「忍は隠れて動くの得意だからな...そうしたほうがいいと思う」
昨日の夜に起きたことらしいため、夜の学校に潜入することになるだろう。そう思い、僕はそう先生に提案した。
「じゃあそうしよっか。研究所には私から伝えとくから...あそうだ、今回の件は私も動くからそこんとこよろしく〜」
「いやさらっと重要なこと言わないでくださいよ...」
今回の件では先生も同行するようだ...嫌な予感しかしないが、帰りまでに情報をまとめたりしておこう。
「あはっ、じゃあそういうことで〜私は授業やってくる〜」
「...七邸先生って授業持ってたっけ」
「...持ってないはずだぞ」
僕達は微妙な空気感の中、おもむろに授業の準備に取り掛かるのであった。
「やっほー澪さん、あの話伝えてきたよ」
「彩斗か、ご苦労」
先程の学校とは打って変わり、いつもの所長室の中で二人がそう話す。
だが、本来そんなことはありえない。
研究所から学校まで、直線距離でも20kmは離れている。普通なら、授業の準備をしている時間などに来ることは不可能だ。だが...
「また「走って」来たのか?」
「いやぁ?面倒だったから「飛んで」来たよ」
この女は普通ではない。それはひとえに、彼女の持つ適性と、それを扱う技量から来ている。
「やはり何度聞いても興味深いな、「虹」という適性は」
「まぁね〜」
虹とは光の屈折からなる七色の自然現象。
それと同様に、虹の適性は様々な力を発揮できるのだ。
「そうだ、「アテナ」のメンバーにも伝えてはくれないだろうか」
「ん?もしかして望門くんと社ちゃんも入れるの?」
「あぁ、察しが良いな。名実ともに飛び抜けてる君がそう通達すれば、反対する者は居ないだろう?」
アテナとは戦の女神の名前だが、それはここにおいて別の意味を持つ。
アテナとは、主に戦闘や陽動を行ういわば「魔法戦特化部隊」のことだ。研究所が創立し、しばらく経ってから出来た組織のため、ある意味極秘の情報とも言える。
設立したのは澪、そして...
「おっけ〜、この副隊長に任せなさーい」
それを陰ながら支えている、日本において最強の副隊長がこの女だ。
ちなみに「Mobilis in Mobili」とは「変化を持って変化する」という意味のラテン語なんですが、私の読んだ「海底二万マイル」という小説では「動くものの中で動く者」という意味で使われていたので採用しました。
海底二万マイルめっちゃ面白いので読んでみてください




