可憐な侵入者
アース・スターノベル大賞に応募する作品です。まだまだ文章構成能力は未熟ですが、応募期間の最終日まで頑張って更新していきます。
男が歩いていた。
恐ろしいほどに何もなく、気が狂うほどに白い空間を、さも標でもあるかのように進む。
その男はただひたすらに、道のない空間を歩んでいる。
歩き、進み、時に道を失い彷徨って、また歩む。
幾度と繰り返したもわからないその動作に飽きが回り始めた直後、男は視界に”それ”の存在を収めた。
“それ”は男とは比べるまでもない程に脆弱である。
“それ”は目的を持ってこの空間にいる男と違い意思を持たない。
“それ”は...ただひたすらに純真無垢で、天真爛漫で、清廉潔白であった。
何もかもが男と違い、その男のことすら理解していない存在。
だが、”それ”を見つけた男はそんなことは関係ないとばかりにこう言い放った。
「...やっと...見つけた...」
20XX年、突如として日本人は『魔力』に覚醒した。
魔力には人によって様々な性質があり、実に100種以上の『適性』とでも言うべき括りがあることが今では広く知られているが、当時の日本は大混乱だった。それから10年間、魔力の研究が進み、日本は「魔帝国家」として世界中で見てもあらゆる面で引けを取らない大国へと発展を遂げることとなる。
「はぁ...なんで僕はどの魔法もうまく扱う事ができないんだ」
少年はそう言いながら、他のクラスメートが各々の友と帰る中、一人寂しい帰路に就く。
彼の名は鏡面 望門といい、十年前「反射」の適性を発現させた唯一の家庭...その生き残りだ。
「...こういう時、父さん達ならどうしたかな?」
彼は5年前、研究の進んだ魔力を犯罪に悪用する集団「ルシフェル」に家庭を襲撃された。理由は5年経った今でも分かっていないが、その出来事により父、母、妹を失ってしまった。
当時11歳であった彼は適性の分かっていない自分以外の、愛する家族が必死に望門を守り、戦い...そして屍に転ずる様を目の前に突きつけられた。その後のことは不自然なほどに覚えていないのだが、近所の人がそれを見て通報し、魔力によって強化された警官が現れるまで、既に息絶えた集団をひたすらに殴りつけていたらしい。
「嫌なことを思い出したな」
自身にとってトラウマとも言える記憶を思い出しつつも、今では家族の墓標とも言える、親から引き継いだ空虚な家に辿り着く。敷居を跨げば、かつて家族全員で暮らしていたという空気の残るからっぽの玄関が彼を迎えた。
「無いものをねだっても仕方ない、また一から自分の適性を探さないとな...って、ん?」
先程まで暗いことを考えていたからだろうか、自然と下向きになっていた自分の視線が明らかな違和感を目の焦点が捉える。
この家には生き残った望門以外住んでおらず、また近所といえる人達も勝手に家に上がるような性格はしていないはずだ。だというのに、玄関には靴が一足置いてあった。
「なんで玄関に靴があるんだ?」
反射的に先刻の考えがもう一度望門の脳裏を掠める。まさか、あのときの事件の関係者が調査をしに来たのだろうか?もしくは、事件から生き延びた自分を始末しに来たのか。
「...用心に越したことはないな」
彼は気を引き締め、靴を脱ぎつつ玄関から繋がっているリビングに一歩ずつ慎重に、されど確実に歩を進めていく。そのまま体を壁で隠しつつ、リビングの中を覗き込むと
そこにはボロボロの服を着たとんでもない美少女が、テレビを見るためのソファに横たわり、目を閉じて眠っていた。
一応4作目です。




