アウトオブあーかい部! 53話 喧嘩
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、保健室。
「……。」
まだ午前中、生徒たちは1限目の授業の時間。お昼ご飯後で眠いわけでもないのに、白ちゃんは仕事が手についていないご様子。
「……はぁ。」
保健室で1人、パソコンのキーボードを叩く。調子が出ないときはあーかい部の部室へ……と場所を変えるのが普段のルーティンになっていたが、
「……部室には、行けないわね。」
白ちゃんは気まずさに苛まれていた。
「嫌われちゃったかな……。」
「誰にですか?」
「え?」
呆けていたところに不意を突かれ、驚いて振り向くと、声の主はあさぎだった。
「あさぎちゃんっ!?……今、授業中じゃ
「すみません、ちょっと熱っぽくて。」
「え、ええっと……と、とりあえず冷感シートを
「あ、待って自分で貼れます!?」
あさぎがとっさに白ちゃんの手を払いのけた。
「あ……ごめんなさい。」
「いや!?白ちゃん先生に触られるのが嫌とかじゃないですから!?」
「いいのよ、気を遣わなくても。……嫌われてるのは知ってるから。」
「嫌ってませんって!」
「嫌うでしょ!『教育に良くない』なんて言って、人の好きなものにあれこれ指図する大人なんて……!」
「白ちゃん先生、やっぱり昨日のPINE……気にしてたんですね。」
昨日のPINE……あーかい部のトークルームで、白ちゃんと、あさぎの皮を被ったモーラが口論になった。
発端は白ちゃんがモーラに対して、あさぎに変なことを吹き込むなと言ったこと。
口論の末、モーラの『立場を盾に自分の良識押し付けるのは、2人の親と同じことをしている』という発言を最後に、白ちゃんはトークルームに現れなかった。
「私がこの世で1番嫌いな大人とおんなじことしたのに、嫌いにならない子がいるわけないでしょ!?」
「……。」
「…………ごめんなさい。声、荒げちゃって。熱が下がるまで、横になってて?」
「嫌です。」
「私に言うこと聞けなんて言う資格がないのはわかってるけど、あさぎちゃんの身体のため…………ダメね。やっぱりおんなじことしか言えな
「ああもう……!」
業を煮やしたあさぎは白ちゃんの手を引っ捕らえて自分のおでこに押しつけた。
「あさぎちゃん……!?」
「これでわかりませんか……!?」
「わかるって、何を?」
「だから、熱!」
「熱?……あれ?熱くない。」
「嘘なんです、熱が出たっていうの。」
「じゃあ、あさぎちゃん……授業サボって来たの?」
「はい♪」
「なんでそんなこと……サボるにしても、私がいない場所なんていくらでも
「だ、か、ら!会いに来たんですよ!白ちゃん先生に……!」
「私に……!?」
「ここまで言ってもわかりませんか?今日の白ちゃん先生ほんっっとうにダメダメですね……!」
「……。」
「いいですか!白ちゃん先生のこと嫌ってたら他の場所でサボるし、そもそも私は真面目だからよっぽどの理由がないとサボりません!っていうか今日が初サボりです……ッ!」
「そ、そうなの……。」
「つまり私は白ちゃん先生に会いたくて初めて授業サボっちゃうくらい、白ちゃん先生が大好きなんです!そんな私が誰を嫌ってるんですか……!?」
「そんな……なん、で……、
白ちゃん先生の声は今にも泣き出しそうなそれだった。
「『なんで』?……白ちゃん先生はあーかい部っていう私達の居場所をくれたし、ふざけてもいちいち最後まで付き合ってくれるし……ちょくちょく会いに来てくれるの、結構嬉しいんです!普段言葉に出さないけど……!」
「あさぎちゃ……
白ちゃんはもう言葉も満足に発せられないくらい、感極まっていた。
「……だから、黙っていなくなったりしません。」
「…………モーラから聞いたの?」
「さあ?何をでしょう。」
「いじわる……。」
「……私は1人っ子だから分かりませんけど、大好きな妹が突然家出して何年も音信不通になったら……私が置いていかれる立場だったら、絶対トラウマになります。」
「……。」
「モーラさんも心配してましたよ。言い過ぎたって。」
「そんなこと……悪いのは私なのに。」
「昨日は隣から『あんよがジョーズ』が聞こえて来ませんでした。モーラさん、毎日アレかけて寝てるのに。」
「……。」
「モーラさんにも昨日、仲直りするよう言っておきました。これで喧嘩も勘違いも終わり……ってことでいいですね?」
「……、」
・・・・・・。
「うわぁぁぁああん!!」
タガが外れたかのように、白ちゃん先生は年甲斐もない声をあげて泣きじゃくった。
「はぁ……。ほんっっとうにダメダメなんですから……♪」
「うるさい……っ!///」
口では反抗していたが、白ちゃんはあさぎの胸を借りて泣いていた。
しばらくして、
「…………あ、ありがとう///」
「落ち着きました?」
「ええ……///」
「ええっと……そしたら、離れてもらっても?」
「もう少しだけ、だめ……?」
「私は別にいいんですけど……その……あちらに……、
あさぎが歯切れ悪く、上目遣いで甘える白ちゃんに離れるよう促した。
「『あちら』?」
白ちゃんはあさぎが向く方を追って入り口方向に目を向けると、
「あら、私も一向に構わないわよ♪」
教頭先生が生暖かい眼差しでこちらを見守っていた。
「きょ……え、いつから!!??」
「えっと、『あさぎちゃんっ!?……今、授業中じゃ』の辺りからかしら?」
「最初からじゃねえかっ!!??あさぎちゃんなんで教えてくれなかったの!?//////」
「そ、それは……
「途中から私が止めてたの。こうやって人差し指を立てて、しーって♪」
「な……!?///」
「それに……一緒に入って来たのにあさぎちゃんにしか気づかなかったのは白久先生でしょう?あさぎちゃんの言うとおり、今日はダメダメなのねぇ♪」
「 」
「生徒と仲が良いのは喜ばしいことだけれど……授業中に泣きじゃくって拘束するのは……ねえ?」
「す…………すみませんでしたぁぁぁぁああ!!!」
「なんて綺麗な土下座……。」
「あさぎちゃんは真似しちゃダメよ?」
「え……あ、はい。」
「さて、と。白久先生?」
「はいぃっ!?」
「この落とし前はどうつけてもらいましょうか♪」
「はひぃっ!?すみませんもう2度と生徒相手に年甲斐もなく泣きじゃくったり
「じゃなくて♪」
「「え……?」」
「今朝ね?ひいちゃんが目の下にすんごい隈を作って、今にも泣きそうな顔で私のところに駆け込んで来たの。『白ちゃんが心配だ』って♪」
「う"っ……、」
「『ひいちゃん』……。」
「……『私の』『可愛い』ひいちゃんに心配をかけた罪は重いわよ♪」
教頭先生から見たらひいちゃん……ひいろは姉の孫に当たる。
(1人娘通り越して初孫みたいなもんだから、そりゃ可愛いだろうなぁ……。)
「白ちゃん先生、ご愁傷様。」
「え?あさぎちゃん?今『ご愁傷様』って
「私授業にもどりまーーす!」
教頭先生の笑顔の後ろから発せられる圧倒的な威圧感に耐えかねたあさぎは、我先にと保健室から逃亡した。
「じゃあ私もお仕ご
「白久先生?」
「ひいぃぃぃっ!!??」
この日、白ちゃん先生は2度泣きじゃくった……。