急いで帰宅
父の言葉を思い出し、熟練度はなくても意志の力で奴隷契約に干渉を試みた。
結果は上々、奴隷解放は出来なかったものの奴隷契約の所有者の変更を強制執行出来た。
熟練度か意志の力かはたまたこの世界での摂理なのか。
奴隷解放までは出来なかったが、これで契約が原因で死ぬなんてことは起きないだろう。
これでひとまずは安心だ。
とりあえず、目の前で何が起きているのか分からず混乱しているアイリスに笑顔で伝えておく。
「よし、これで大丈夫だよ!」
アイリスは状況を理解出来ていないだろうが、俺に釣られて笑顔で応えてくれた。
これで一旦、目の前の早急に対応しなければならない事案は解決した。
あとは帰ってからゆっくり対応するとしよう。
というより、早く帰らないとまずい。
なんやかんやとしていたおかげでもう陽は完全に落ちている。
今から走っても夕食には間に合いそうにない。
そうなると、父はともかく母がカンカンになる。
母は兄弟全員を溺愛している。
前に兄が母に聞いた事がある。
そしたら母はこう答えた。
「親が可愛い子供を溺愛するのは当然よ。子供はすぐに成長して親元から旅立っていくものなの。だから、子供の間くらい溺愛するのは当たり前だし、もっと甘えていいのよ」
そう言う母の顔はマジだった、と兄に言われ兄弟は皆諦めれ愛でられている。
そんな心配性の母が森に行って、夕飯までに帰って来ない俺を心配しない訳が無い。
そして、心配した母が何をしでかすか分かったもんじゃない。
以前、街で遊ぶのに夢中になって、夕飯までに帰れなかったウィルム兄さんが1週間、朝から寝るまで母がつきっきりで生活をするなんて事態になっていた。
普通に走ったんじゃ間に合わないが、自前の魔力制御と支配スキルがあればなんとかなるかもしれない。
魔力制御は自分の魔力を制御するもの。
魔力制御で身体能力を底上げしていくが、それだけだと魔力切れを起こしてしまう。
なので支配スキルで空気中の魔力を自分の魔力として制御し、身に纏い外と内から身体能力を上げていけば、きっと間に合わせられるはずだ。
「ちょっと急いでて全力で走るからごめんね」
そう言って、アイリスを膝からすくいお姫様抱っこにして、走り始める。
アイリスは訳も分からず、お姫様抱っこされ照れて縮こまってしまっていたが、「走る」が想像以上だったようで目を回していた。
実際、「走る」と言うより「翔け抜ける」感じだった。
急ぐ事しか考えてなかった為、支配が甘く曲がるのも止まるのも一苦労だった。
これはスキルの訓練が必須だな。
熟練度は大事だ。
夕飯にはギリギリ間に合ったものの、アイリスを連れ帰った事で、結局何があったのかバレた。
(頑張り損だ)
父と母に問い詰められ、何があったかを話した。
「そうか、ではその子はお前の奴隷になったと言う事だな?」
「はい、解放は出来ず契約内容も分からなかった為、所有者を変えるのが限界でした」
「ならば、使用人としてお前が面倒を見るんだ。保護した者として責任を持つんだ」
こうして、アイリスは俺の専属使用人となった。