ロクでもない人生からの転機
自分に何が起きたか分からなかった…
思い起こせば、物心付いた頃にはもうすでに忌子のように扱われていた。
私はエルフ族の集落で普通のエルフ族長夫婦の間に生まれた子であり本来であれば、元々出生の少ないエルフ族としてはとても歓迎されていたであろう。
しかし私は普通ではなかったようだ。
この世界の一般的なエルフは生まれた時から金髪で瞳は青いのが普通であった。
それなのに私の髪は銀髪で瞳は赤かった。
人と子を成したハーフエルフでさえ、見た目は普通のエルフと同じというのに私は違った。
だから忌子、悪魔の子などと言われ蔑まれてきた。
ある時、エルフの集落が盗賊と呼ばれる人族に襲撃された。
一対一で普通に戦えばエルフはほぼ負けることはない。
しかし、盗賊達は集団で襲ってくる。
そして一人捕えては、その一人を人質にして脅しをかけてくる。
仲間意識の高いエルフとしては仲間は見過ごせない。
そうして、エルフは捕えられ奴隷商へ売られていく。
そうなるとエルフ側としては、一人でも捕まったら終わりに等しくなる為、常に人族には警戒を怠らない。
しかし、絶対安全という保証はない訳で、襲われた私の集落も半数以上が捕えられ売られていった。
そんな中、私は普通のエルフと容姿が違った為、中々売れなかった。
そこで私の見た目が普通のエルフと違う理由も多分分かった。
私の見た目のエルフを奴隷商はハイエルフと言っていた。
父も母も普通のエルフだったはずなので理由は分からないが、どうやら私はただのエルフでは無かったらしい。
しかし、エルフと違いハイエルフは人族の歴史として残ってはいるが、生存は確認されていないらしく奴隷オークションでは商人の思惑は外れウケが良くなかったようだ。
ほとんどの人族はエルフを好む傾向にあるらしいが見た目が普通のエルフでないため、縁起が悪いと全く落札しなかった。
愛玩用の奴隷として売れそうにないと商人は諦め、労働用の奴隷として売られようとしていた。
愛玩用と労働用は別のオークション会場らしく、馬車に詰め込まれ輸送されていた。
そして向かう道中で魔物に襲われた。
奴隷商人は普段から護衛を連れていた。
職業柄、人から恨まれることもあるため大抵、腕ききの専門の護衛を雇っている商人が普通である。
奴隷の輸送中に襲われる事もしばしばあったが、そういう時は輸送用にも護衛を雇う為、よく返り討ちにしていたが、今回は想定外だったようだ。
大きい狼の見た目をした魔物で一匹じゃなく群れで現れたようだった。
馬車は3台に護衛は7人、しかし魔物は少なくとも10頭は越えていた。
奴隷商人はもちろんだが、護衛も想定外だったようで慌てていた。
魔物一匹一匹が護衛と同じくらいの強さのようで数で負けている以上、不利を悟った数人の護衛の腰が引けている。
奴隷の入れられている馬車は逃走防止の為、荷台が檻で囲まれている。
そのためすぐに襲われる事もないだろうと眺めてみていた。
しかし、数的不利な以上余った魔物が出てくるわけで、魔物が檻の中にいる私達も標的に入れたようで檻に体当たりを始めてきた。
次第に檻が壊れていく。
奴隷商は護衛を連れて逃げていった。
檻が壊れ奴隷達も散り散りに逃げていく。
私も逃げた。
奴隷の数よりは狼は少ない。
だから運が良ければ逃げられる。
しかし、魔物は頭がいいようで帝国領土側から大森林と呼ばれる魔物の森側へ追い立てるように回り込まれ襲ってきた。
森に入らず逃げようとしていくものから襲われていってる。
(森に入るしかない)
状況をみてすぐに森へ逃げ込む。
あとは必死に走った。
転んでもすぐに立ち上がり、無我夢中に走った。
目の前に大きい木がある。
(どっちに避けよう…)
考えてる暇はない。
直感で大木を避ける。
すると、目の前に少年が現れた。
走っている勢いでぶつかる…と思ったが、その少年が身体を逸らし腕を伸ばして私を囲うようにして回りながら受け止めてくれた。
少年は私を解放すると私が来た方へ警戒を始めるとそれに呼応するように魔物が現れる。
私と変わらないどころか年下に見える子が私と魔物の間に立ち、魔物と対峙し始めた。
必死で逃げていて気付かなかったが魔物にはほとんど追いつかれていたようで背筋が凍る。
しかも、追いかけてきていたのは襲ってきた魔物の中で一番大きかったやつだ。
まずい。
(こんなの子供二人でどうにかできる訳ない)
そう思ったが、少年はあっさりと魔物を討伐してしまった。
その後、魔物を討伐したとはいえ森の中は危険に変わりない為、森から出る事になった。
森から出て一息つくと自己紹介をしてくれたので、私も自己紹介を返す。
少年は貴族の子ようで、警戒心から奴隷であることは隠したかったが、見てくれからして隠しようがないので諦めて白状しておく。
これ以上悪い事にならないように祈りつつ、少年の反応を待つ。
すると、奴隷の契約内容を聞かれた。
しかし、私は知らない、売られてきたから。
そして、少年は目の前にきて、首元の奴隷紋に手をかざし何かしているようだ。
奴隷紋は奴隷商や所有者にしか変更することは出来ないとされている。
何をしているのか分からないが、唸りながらも必死になっている姿に自然と応援をしたい気持ちが出てくるが、そもそも何をしているのか分からないので応援するのが正しいのかも分からない。
少年がそのまましばらく唸っていると驚くべき事が起きた。
目の前に奴隷契約時に見た奴隷契約画面が現れた。
奴隷契約譲渡
所有者がヴィル・ベイツよりフェイル・ドミネ・スカーレットへ変更されます。
契約内容が現契約主より新契約主へ引き継がれます。
(!?!?!?)
何が起きているか分からなかった。
目の前のものを理解しようとするに、奴隷契約の所有者が奴隷商から目の前の少年に移されたのであろう。
だが何故?
どうして?
奴隷譲渡は奴隷と現所有者と新所有者の3人が立ち会って行われるものであるはずだ。
奴隷紋の魔力書き換え等など様々な制約があるらしく、そうしなければ譲渡は出来ない。
そう聞いてきたし、今まで売られていった奴隷達を見てきたから間違いない。
だからこそ、何が起きているのか分からなかった。
「よし、これで大丈夫だよ!」
少年は満足そうに笑顔で笑いかけてきた。
混乱していたけれど、なんでか私もつられて笑い返してしまった。
生まれてから初めてちゃんと笑った気がした。